とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

101 / 144
<注意!>
当該SS、とある魔術の仮想世界[4]をお読み下さっている読者の皆様、いつもありがとうございます。作者の小仏トンネルです。
今回投稿させていただいている話には、原作である『とある魔術の禁書目録』の上条当麻、及び『神浄の討魔』に関わる重大なネタバレが含まれています。
当該SSの『このSSを読むにあたって』でも最初に説明させていただいている通り、作者なりの解釈で少し変えている部分もあり、原作でもまだ全てが明らかになっているわけではありませんが、とある魔術の禁書目録の物語の核心に迫るネタバレです。既に作品タグの中に「ネタバレ注意」のタグはありますが、今一度ご注意、ご了承の上でお読み下さい。
長々と失礼致しました。今後も何とぞ当該SSをよろしくお願い致します。


第43話 明かされる真実

 

「まぁ、コレでも不完全なんだがな。現実で使う分には人様に見せられたモンじゃない。だがこの仮想世界における、イメージの力がそのまま現れるというシステムを利用して、なんとか実用レベルまで調整した。まぁその気になれば更に高い段階に調整することも可能だったんだろうが、生憎と時間もなかった上に、俺様自身この右手の『完成』を見たことがない以上、イメージで何とかなるのはそこまでってことだ」

 

「・・・その右手の完成のために、俺の魂が必要ってことか」

 

「つまりはそういうことだな。自分の魂の価値すら推し量れないお前に、その『力』はもはや不要だ」

 

 

フィアンマが言うと、上条は彼の背後で空中に浮かぶ第三の腕をもう一度忌々しげな視線で睨んだ。それから自分の右手の平に視線を落とすと、一つ息を吐きながらフィアンマに言った

 

 

「なんで俺の右手が必要なんだ。そんな便利な魔術があるんなら、わざわざ完璧にしなくたって十分だろ」

 

「いいや、それがそうもいかない。現時点でこの術式で出来ることなんざ、せいぜい世界とそこに根ざす人間を含めたあらゆる生物を白紙にすることくらいだ。それは俺様が求める『平等な救済』とは呼べない。いくら悪意の捉え方が捻じ曲がっていると言われている俺様でも、万物の死が救いになるとは流石に思ってもないさ。だから俺様の目的の為にはお前の右手である幻想殺し、ひいては『お前の魂』の本質が大きく関わってくる」

 

「・・・俺の魂の、性質…?」

 

「以前テッラに言われてから、一体『自分が何なのか』気になって仕方がないんだろう?いいだろう。アフターケアとは言わんが、とりあえず教えておいてやろう。『神浄の討魔』」

 

 

その言葉に、上条は思わず生唾を飲み込んだ。自分にとっては、知らなくてもいいと割り切った話だった。しかし、それでも。修剣学院で起きたあの事件から、見えない不安が靄となって残っていた。その靄がついに晴れるのかと思えば、それを拒む理由を見つける方が難しかった

 

 

「『ガイア仮説』という理論がある」

 

「ガイア仮説?」

 

「端的に言えば、地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げていることを鑑みて、俺様たちが住む地球そのものを、ある種で『巨大な生命体』であると見なす理論だ。まぁ俺様はこれが仮説でなく、確定だと睨んでいるがな」

 

「・・・その理論が、一体俺とどう関係あるってんだ?」

 

「分からないか?俺様たち人間はもちろん生命体だ。それと地球が同質の物として考えるだけさ。生物なんだから体調が良い時もあれば、悪い時もある。寝起きならさぞ気だるいだろう。風邪ならばなおさら体は不整を訴える。病気にもなれば、手の施しようがないケースだってある」

 

「そうなった時のために、俺たち生命体には免疫力や、命の危険に抵抗する力…いわゆる『防衛機能』が備わっている。風邪をひいて発熱するのは、体内に侵入した菌やウイルスを駆除するのが目的だ。傷や怪我を負ったならば、痛覚を麻痺させるために、脳内麻薬やアドレナリンが超特価タイムセールだ。そういう風に、俺たちの生命は出来ている」

 

「コイツを地球という生命体に置き換えて考えてみようじゃないか。今日まで地球を脅かしてきた人間達による環境汚染や、莫大な放射能を撒き散らす核実験。神様とやらが全て正しく回るように歯車を配したはずなのに、それが今となっちゃ見る影もない。この世界は間違いなく歪んでいる。結果として、世界そのものが老朽化してガタがきてしまっているのさ。他でもない、俺たち人間の『悪意』が原因でな」

 

「さて、これは困った。この人間の悪意というものは、地球という生命体にとってはタチの悪い病原体、歪みを生み出すウイルスだ。どうにかして体調を整える、あるいは病気を治すしかない。ではここで一つ、問題だ。地球にとっての免疫力、つまるところ防衛機能は、一体どこに存在するのか」

 

「・・・まさか…」

 

 

突拍子のない話だった。そんな生物学界の中でもキワモノ扱いされるだろう理論は、大学で文系科目を学ぶ自分にとっては、縁もゆかりもない話のはずだった。それでも、直感できた。『幻想殺し』。『神浄の討魔』。幾重にも絡まっていた糸が、段々と解けていく爽快感。本来であれば心地よいハズのその感覚は、今の上条当麻にとって不快でしかなかった

 

 

「噴火?落雷?地震?津波?台風?自然の猛威?まぁそれも結構だろう。実際それで解決できていた時代もあった。だが、もう手遅れだ。そんな地球にとっては咳やくしゃみでしかない、病原体を体外に出す程度の防衛機能じゃあ、巨大な生命体を蝕む悪意は消せはしない。この世界はいささか歪みすぎた。病原体を根絶させる為の抗生物質が必要だ。そう、薬だよ。歪んだ世界を元に戻すための、地球に救いをもたらす文字通りの『神の薬』だ」

 

「だから俺様がその薬を処方して、世界を本来あるべき姿に…限界を迎えた神の歯車を交換し、元に戻してやるのさ。必要に応じて気候を変え、汚れを洗い、悪意を取り除き、その後改めて十字教という潤滑油を差して元の軽快な動きを取り戻す。そして世界中の人間が知るのさ。俺様に従いさえすれば、他でもない俺様の手によって世界中の人間が救われる瞬間を、その目で見られるのだということに」

 

「まぁ大方察しているとは思うが、コイツはほとんど、実際に『神の薬』の力を有していた、左方のテッラの受け売りだ。なんせお前がここに来るまで四年だ。語らう時間なんざいくらでもあった。それこそ、ワイングラス片手に丸5日話し込むぐらいにな。おかげで全てを十字教の尺度でしか考えていなかった俺様も、随分と博識になったもんだ」

 

「・・・だからお前は、この右手を…『世界の基準点』って性質を持っている幻想殺しを必要としている…ってことか?」

 

「違うな」

 

「え?」

 

 

上条にとってフィアンマの短い返答は、予想の斜め上をいくものだった。ここでてっきり、彼は首を縦に振るものだと思っていた。しかしそんな彼の密かな期待にも似た感情は、より深い、底の見えない謎の前に散った

 

 

「言ったはずだ。俺様の目的はお前のフラクトライト、つまりは『お前の魂』だと。その輝きに惹かれた幻想殺しが目標だと言ったが、その魂自体に用がないとは一言も言っていない」

 

「『神の薬』を司る、左方のテッラという男は、今思えばお前という存在の正解に限りなく近かった。だが、それだけでは俺様たち神の右席が目指す場所には到達できない。ヤツはそれが分かっていたから、右手しか求めなかった。だが、俺様は違う。貴様の魂の正体を知覚し『神の如き者』を司る俺様なら、至ることが出来る」

 

「『La Persona superiore a Dio』…すなわち『神上』にな」

 

「・・・神上?」

 

 

流暢なイタリア語の後に続いたのが、自分の名前であったことに、上条は疑問を抱いた。そもそもそれは、自分の真名と同じ呼び方なのか、それすら定かではないが、フィアンマがそれに答えることはなかった

 

 

「『神の子』を人の手で処刑するという力関係の矛盾を基にした魔術理論…『光の処刑』。その効果は『優先順位の変更』。つまり、人が神の上に立つ。人こそが全能の神にも似た真なる意思に目覚め、世界の歪みを裁定する。それこそが、お前の内側で脈動し続けていた力。その魂の正体……」

 

「『神浄の討魔』。その言葉の意味は、もういちいち俺様が説明しなくたって分かるだろう?」

 

「・・・世界の良くない部分を、『優しく癒す(じょうかする)』か…あるいは、『冷たく切り取る(うちほろぼす)』ための…力……?」

 

 

右手の奥底に眠る…『竜』。それは財宝の番人にして、善悪の二元論を丸ごと横断する存在。すなわち、それこそが、世界を癒す薬。『召喚失敗の際に退却せぬ者を魔法陣の向こうへ追い返す右手』ではなく、少年自身に付けられた名前

 

 

「つまり、アレイスターが学園都市で…SAOで育てたかった力は……」

 

 

同時に、そういう話だったのだ。少年が能力を操っているのか、能力が少年を定義づけているのか。あの変わり者の魔術師は、彼なりの方法で、全ての位相を切り取ろうとした。かつて自分の娘を、誰かを不幸にする魔術をなくしたいと思って、全てを背負った。その為の『計画』を練った。それなのに、目の前で崩れていった。それをどう受け止めて良いのか分からなかったから、悪ぶって冷淡に振る舞うしかなかったのか

 

 

「『幻想殺し』でも、『竜王の顎』でも…なかった……?」

 

 

本当はあの『剣の世界』で、完成するはずだったのだ。スキルという見えやすい形にしてまで、夏に記憶を失った自分に気付かせようとした。それなのに、あの力は別の形になってしまった。『天叢雲剣』という、鋼鉄の城に囚われた10000人の願いの集積体。それこそがおそらく、最大の弊害。たった10000人の願いが、世界が望んでいたシステムを何かの因果で上回ってしまった

 

 

「テッラが言っていた…記憶を失う前の俺は、ちゃんと右手の運用方法を分かってたって…」

 

 

人間は環境を観察することで意図して確率を変動させて様々な能力を生み出し、操る。そのために見える世界を歪めて『自分だけの現実』と呼ばれるまでに成長させていく。これが学園都市製の、科学的な超能力の基本ロジックだ。そう。自分のイメージで、見える世界を、『歪める』

 

 

「つまり…高一までの俺は、分かっていて学園都市にいたってのか…!?俺の魂に眠る力をいつか形にする必要があるって…大なり小なり理解していて……!?」

 

 

では、能力の方が人間をじっと見ていたとしたら?世界の観測者として、そこで確率を操る力があったのだとしたら?仮にそうだとして、その未知なる力に上条当麻本人のみならず、人類全体の誰であっても思考する存在の内外を操ることも出来たのではないか。他ならぬ、世界の基準点である右手と、その世界を裁定する自分の魂があれば

 

 

「だから、何度もそう言っている」

 

「ッ!?」

 

 

呆れたような口調で、唇に不敵な笑みを浮かべながら、フィアンマは言った。そして自分のこめかみを、指先で軽く二度叩いてから続けた

 

 

「『魔術的記憶』という概念がある。魔術的とは言っても、魔術を使うわけじゃない。人間の記憶ってものは、脳に記憶されている分だけでなく、魂そのものにも記憶されいる…つまり、例え脳細胞が破壊されて記憶を失い、本人がある知識や出来事を思い出せなくなったとしても、その人間の持つ魂は全てを記憶しているとする考えだ」

 

「だから俺様たちがいるべきだったアンダーワールドで、あの事件が起きた日の夜。『アレ』はお前の右手の肩口から出てきた。フラクトライトに直接情報を書き込むSTLで、お前の魂に直に干渉していたから。右手と、その奥の力の運用方法を知っている魂が、その顔を覗かせた」

 

「そして、全てを貪り尽くそうとした。こんな作り物の世界は、自分のいるべき場所ではない。歪んだ世界だと。所詮は仮想でしかない世界をぶち壊して、現実に戻ろうとした。その結果、こちらのアンダーワールドと同化しかけていた、お前のいたアンダーワールドに変調が起こった」

 

 

そこから先は、言われなくても分かった。本来は決して交わるはずのない二つの世界が、一つになった理由。それは元々、安易に異世界の技術を持ち出した自分のせいだという自負はあった。しかし、そうではなかった。否、それだけではなかったのだ。

 

 

「・・・そうか…そうだったのか…俺がカセドラルの頂点で行使した記憶解放の力が、それを最悪な形で後押ししたんだ。10000人の願いの結晶だったはずの天叢雲剣に『神浄の討魔』の…世界を元に戻そうとする力、悪いモノを切り取ろうとする力の記憶が、カーディナルが星空の剣に俺の記憶を書き込んだ時に紛れ込んだんだ…だから、俺がいたアンダーワールドは……!?」

 

「さて、もういいか」

 

 

言って、フィアンマはゴキンッ!と右手を当てながら首の関節を鳴らした。同時に吹き荒れるようにして伝わってくる、第三の腕を現出させる彼の心意の凄まじさに、上条当麻は息を呑んだ

 

 

「もはや成長の見込みがない貴様では、その右手と魂は宝の持ち腐れだ。だから俺様がその役を変わってやるよ。さぁ、この『神の右手』を取れ。そうすれば、後に待っているのは理想郷だ。お前一人の犠牲で、全ての悪意は打倒される。悪い話じゃないだろう?自己犠牲は、元よりお前の専売特許じゃないか、『ヒーロー』」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。