とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第11話 青薔薇の剣

 

「はあっ!疲れたぁ……」

 

「お、おい!大丈夫かユージオ!?」

 

「ま、まぁそれなりにはね…」

 

 

上条がまず午後の斧打ち50回を行なっている間に、ユージオは森の手前にある物置き小屋に戻って細長い何かを担いで戻ってきた。ユージオの担いできたそれは地面に置けばドスン!と音が響くほどの重量で、肩で息をするユージオがどれほど苦労したかは聞かずとも分かった

 

 

「あ、開けていいのか…?」

 

「あ…あぁ。でも気をつけ…なよ。足の上に落っことしたら、かすり傷じゃ…すまないよ…」

 

「・・・ふぅ〜〜っ…よっ!重っ!?」

 

 

息も切れ切れに答えるユージオは、水筒の水を喉に流し込んだ。対する上条はゴクリと喉を鳴らしながら布に包まれた何かを懸命に持ち上げ、包まれている布の結び目を開いた

 

 

「こ、これは……」

 

 

剥ぎ取られた革布の中から顔を覗かせたのは、見事な青だった。鞘に収まっているその剣の刃がどれほど鋭利なのかは、想像に難くなかった。柄の上に咲いている青い薔薇に吸い込まれるように、上条の視線はユージオの持ってきた剣に釘付けになった

 

 

「『青薔薇の剣』って言うんだ。本物の銘かどうかは分からないけど、お伽話じゃそう呼ばれてる」

 

「お、お伽話?」

 

「ルーリッド村の子どもなら…いや、大人もみんな知ってる話さ。300年前、果ての山脈に探検に出た『ベルクーリ』という剣士が人界の守護者である白竜の元で、一振りの剣を見つけた。それが青薔薇の剣」

 

「へぇ……」

 

「どこにでもあるような、他愛のないお伽話さ。もし、それを確かめに行こうなんて子どもさえいなければ……」

 

「・・・・・」

 

 

深い後悔が見て取れるその表情を見て、上条はその子どもがユージオ自身と、アリスであることを悟った。かける言葉もなく黙りこんでいると、ユージオは息を整えて話を続けた

 

 

「6年前、僕とアリスは果ての山脈まで白竜を探しに行ったんだ。でも、竜は骨になっていて、山のような金銀財宝と、お伽話に出てきた青薔薇の剣があったんだ。もちろん、あの頃の僕じゃ重たすぎて持ち帰れなかったけどね。そしてその後、アリスはダークテリトリーに入って…後は昨日話した通りさ」

 

「・・・そうだったのか」

 

「あぁ、ごめん。剣の話だったね。一昨年の夏、どうにも気になってもう一度北の洞窟まで行って持ってきたんだ。でもやっぱり重くてね。ちょっとずつ運んだんだけど、持って帰るのに三ヶ月もかかっちゃった」

 

「さ、三ヶ月!?」

 

「まぁそれくらいの重さだと思って、取り敢えず剣を抜いてみなよ。じゃないと僕も持ってきた甲斐がない」

 

「そ、そうだな…よしっ」

 

 

上条の口から思わず嘆息が出た。天職の内容といい、このユージオという少年はよほど我慢強いというか、根気のある少年なのだろうと改めて実感した。そしてその根気に敬意を払いつつ、その鞘から剣を引き抜いた

 

 

「おおっ!?ととっ!?」

 

「あはは、やっぱりカミやんでも重いみたいだね」

 

 

鞘からその姿を現した剣は、その刀身が燦然と差し込む太陽の光を反射しており、氷のような澄んだ青が輝いていた。その剣を嗜めるように眺めると、上条はユージオに問いかけた

 

 

「・・・これ、素材は?」

 

「もちろん普通の鋼じゃない。銀でも竜の骨でもない。察するに『神器』じゃないかと僕は思う」

 

「神器?」

 

「神様の力を借りて、強力な神聖術士が形にしたか、それとも神様が手ずから生み出したか…そういう器物のことを総称して神器って言うんだ。多分この青薔薇の剣も、一種の神器だと思う」

 

「なるほど…それが本当なら骨なんかに負けるわけないわな」

 

 

そう言いながら上条は、手元の青薔薇の剣と、ギガスシダーに刻まれた溝を交互に見比べた。そして何かを思いついたようにほくそ笑むと、右手の肩をぐるぐると回し始めた

 

 

「なぁユージオ、さっき見たコイツの天命は23万2315で合ってるよな?」

 

「え?う、うん…ってまさかカミやん、さっき聞かれた時から、なんとなくそんな気はしてたけど…その剣でこの杉を打とうなんて言うんじゃないだろうね?」

 

「もちろん言うさ。それとも何か?例の禁忌目録とやらには剣で木を切ったらダメ、なんて書いてあんのか?」

 

「そ、そりゃあないけど…」

 

「じゃ、決まりだな。モノは試しだ!」

 

「ははっ、なんだかこんなことが前にもあった気がするなぁ」

 

 

肩のウォームアップを終えると、上条は青薔薇の剣の柄を両手でしっかりと握り、巨樹に刻まれた溝の前に立った。そして腰をしっかり落とし、自分の身体の体重のバランスに意識を傾けた

 

 

(えーっと…まぁまたしても斧と同じで覚えてる範囲での技になるわけだが…まぁこの溝に切り込むんだから縦斬りの『バーチカル』は論外だな。昨日と同じ水平斬りの『ホリゾンタル』でいくか)

 

 

上条は頭の中で繰り出すソードスキルのイメージを決めると、その予備動作を脳裏に残っている限りで再現した

 

 

「どおりゃあああっ!!!」

 

(ーーーッ!?)

 

 

我ながら完璧だ、と上条は青薔薇の剣を振りながら自分に感心した。しかし、そこで集中力が完全に途切れてしまった。あろうことかソードスキルの動きをなぞらえた青薔薇の剣の刀身は、青ではなく鮮やかな翠に光り輝いていた。その有り得ない現象に気を取られた上条は、振るっていた手元を狂わせ、剣の切っ先を切れ目から遠く離れた樹皮に激突させた

 

 

「どわあっ!?」

 

「わぁ!?ほら言わんこっちゃない!」

 

(ど、どうなってんだ…?今のは間違いなくソードスキルの『ライトエフェクト』…SAOで使ってた『ホリゾンタル』そのものだ。ここはアンダー・ワールドじゃなくて、アインクラッドの中なのか…!?)

 

 

上条は感じているはずの痛みを、半ば感じていないも同然だった。目の前で起こった現象に動揺するばかりで、思考がぐるぐると頭の中を駆け巡っていた

 

 

「だから僕たちには無理なんだって。そもそも青薔薇の剣が重すぎるんだ。あの剣を使うにはそれこそ……ッ!?!?」

 

「ん?どしたユージ……ゥオッ!?」

 

「う、嘘だろ?たったの一撃だぞ…!たったの一撃で…こんなに…!?」

 

 

ユージオはただただ驚愕していた。自分まで六代かけて刻んでいた鋼鉄よりも遥かな固さを誇っていたギガスシダーに、青薔薇の剣は刀身の半分ほどを食い込ませて空中で静止していた

 

 

「は、刃が欠けたんじゃない…本当にギガスシダーに食い込んでる…!」

 

「な、なぁユージオ、これならギガスシダーの天命だって…!」

 

「う、うん……」

 

 

上条に諭されるがまま、ユージオはギガスシダーの前でS字をなぞった。そして表示された天命の数値を、2人で食い入るように見つめた

 

 

「23万…2314…」

 

「なっ!?たった1減っただけ!?こんなに食い込んでるのに!?やっぱ斧じゃないとダメってことか……」

 

「いや、多分そうじゃないよ。そもそも一発でこの樹の天命を1でも減らすなんて、竜骨の斧じゃ絶対できない」

 

 

上条があまりにも酷い結果にがっくりと肩を落としていると、彼の呟いた考察をユージオは首を振りながら否定した

 

 

「剣が悪いとか斧が良いとかじゃない。切り込んだ場所が悪かったんだ。皮じゃなくて、ちゃんと切り込みの中心に当たれば、天命はもっと減ったと思うよ。たしかに、この剣を使えば今よりずっと早く木を切り進められるかもしれない。それこそ僕の代でこの天職が終わるくらいには……」

 

「よ、よし!なら…!」

 

「話を最後まで聞きなよ。ちゃんと剣を使いこなせれば、ね」

 

「ぐっ!?」

 

 

一番の難題を突きつけられた上条は、見るからに渋い顔をした。それを見たユージオは呆れたように息を吐いて首を振った

 

 

「ほら、そんな顔をするほどにはあの剣を使いこなす自信がないんだろう?」

 

「ぎっくぅ!?」

 

「一度振っただけであんなに吹っ飛ばされて、ロクに狙ったところに当てられないんじゃあ、かえって斧で仕事するより効率が悪いんじゃない?」

 

「じゃ、じゃあほら!コイツよりもっと振りやすい鉄とかでできた剣で…!」

 

「カミやん…僕の言ったこと覚えてる?中途半端な鉄で出来たモノじゃ、この木が硬すぎて…」

 

「い、一発で刃こぼれする…クソッ…」

 

 

二度目の論破。もはや上条に反論の余地はなかった。しかし目の前に打開策があるというのに、そのままお預けを食らうのも癪に触る。そう思いつつ上条はなんとか新しくアイデアを捻り出した

 

 

「じゃあ俺は駄目でも、ユージオが振ればどうだ?こと当てることに関しちゃ俺は斧でも下手くそだが、ずっとコイツと付き合ってきたお前なら多少は狙いが定まるはずだ」

 

「あ、あのねぇ…たしかに僕は7年ずっとこの樹を刻んできたけど、それは斧での話であって剣なんて一度も振ったことが……」

 

「それこそさっきも言ったろ?モノは試し!なっ!?」

 

「・・・じゃあ、一回だけだからね?」

 

 

上条のゴリ押しに負けたのか、はたまた自分自身の興味からなのかは分からないが、ユージオは剣を取る決意を固めると、巨樹に突き立てられた剣の柄を握り、思いっきり引き抜いた。しかし、途端にユージオの身体が剣の重さに負けてフラつき、たまらず剣先が地面に落ちた

 

 

「わぁっ!?ととっ…やっぱり重すぎるよ。これは僕にはとても出来そうにないよカミやん」

 

「いやいや、ロクに剣振ったことない俺にだって食い込ますくらいには振れたんだ、ユージオにも出来るさ。そうだな…斧も剣も要領は大して変わらないんだ。斧を使う時よりももっと体重移動に気を配って、腕の力だけじゃなくて全身で重さの釣り合いを取って振り抜くんだ」

 

「ふぅん、なるほどね…こんな感じかな…」

 

 

少しばかり具体性に欠けていたと上条は言った後で思ったが、そこは普段から斧を1日2000回振っているユージオの努力の賜物とでも言うべきか、上条の言わんとすることをすぐに理解して、いくらか剣の構えがサマになっていた

 

 

「はあああっ!!」

 

「うっ!?」

 

 

ゆっくりと後ろに剣を引き、僅かに力を溜め込んだあと、上条にも風圧が伝わるほどの猛烈なスピードで、ユージオは青薔薇の剣をフルスイングした。そして長年の勘とも取れるほどの正確性でユージオの剣は巨樹の溝へと吸い込まれていくかに見えた、が

 

 

「う、うわあっ!?」

 

「お、おい!平気か!?」

 

 

やはり最後は剣の圧倒的な重さに負けて左足が滑り、ユージオはたまらず体勢を崩してずっこけた。剣先は切れ込みの上側を叩いて鈍い金属音を発し、弾かれた青薔薇の剣は宙を舞い、やがて重力に従って地面へと剣先が突き刺さった

 

 

「いててて…やっぱりこれは無理だよカミやん。ギガスシダーの天命より先に僕たちの天命が底を突いちゃうよ」

 

「う、う〜ん…俺なんかよりよっぽどいい線行ってたと思うんだけどなぁ…」

 

 

その後、未練がましく思う上条とは裏腹に、ユージオはあっさり諦めると元の骨斧でギガスシダーを黙々と刻み始めた。一方の上条はどうにも諦めがつかず、青薔薇の剣を睨み続けていた

 

 

「さんじゅう…きゅうっ!」

 

(いや、俺は諦めないぞ。一番最初に俺を助けてくれた恩人が、こんな一生の理不尽に囚われてるんだ。黙って見過ごして俺だけ央都に行けるわけあるか。絶対にコイツを切り倒して、ユージオも央都に連れてってアリスって子に会わせてやりてぇ。だけど…そのためにはまずコイツを……)

 

 

そこまで考えて、上条は何かに気づいた。そういえばまだ自分は、この剣のステイシアの窓を見ていない。そんな本能の赴くままに、鞘に収まったままの青薔薇の剣の上でステイシアの窓を開いた

 

 

(えっと…この剣の天命は…197698/320867か。最大値が多い割にはそれなりに減ってるんだな。ってなんじゃこりゃ?『Class 45 Object』?要するにコイツを使うにはなんかの階級が45必要ってか?んなもんどうやっ……て………)

 

「バカか俺は!自分のステイシアの窓を開けばいいんじゃねぇか!」

 

「わあっ!?きゅ、急にどうしたのさカミやん。ステイシアの窓がどうとかって…」

 

「あっ。わ、悪いなんでもない」

 

 

自分の愚鈍さに気づくと、上条はつい自分を思いっきり罵倒して立ち上がった。それに驚いたユージオをどうにか宥めると、すぐさま巨樹の根元に座り込み、自分の掌の上にS字を描いた

 

 

(や、やっぱりだ!俺自身にもステイシアの窓がある!Durability…天命が3280/3289。ちょっと減ってんな。まぁそれはこの際置いとけ。他には『Object Control Autholity』が『38』ねぇ……)

 

「Autholity…オブジェクトコントロール権限?」

 

 

上条は大学受験時に小萌に徹底して叩き込まれた英単語の海の中から、どうにかしてその意味を探り当てると、自らの口で発した

 

 

(ははぁ、なるほど。青薔薇の剣のクラス…まぁレベルみたいなモンが45。そんで俺の扱えるオブジェクトのクラス上限が38。つまるところ俺のこの数字が、45を超えればコイツをマトモに扱えるようになるって寸法か)

 

 

合点がいくと、上条は口から思わず笑顔がこぼれた。しかし、その笑顔はすぐに苦虫をすり潰したような顔へと変わった

 

 

(いや待て待て、足りてないんじゃそもそもお話にならんでしょうが。この数字を上げる方法は?この世界で経験値くれそうなモンスターなんてざっと見たとこいそうにねぇし、人でも殺せってか?だけどそれだと多分、禁忌目録とかいうのに違反するか…)

 

「ごっ…じゅう!!」

 

「うーむ、平行線だなこりゃあ…ま、コイツを使う手段は分かったんだ。方法はこれから模索していくか。おーいユージオー!替わるぞー!」

 

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