「・・・ステイル…?」
その男、イギリス清教『必要悪の教会』に所属する魔術師、『ステイル=マグヌス』の姿を見た上条当麻は、自分は幻でも見せられているのかと疑うように、両眼を何度も瞬かせた
「・・・なんだ、気色の悪い。そんな今にも泣きそうな目で僕を見るんじゃない。忘れたのか?僕は君が嫌いなんだ」
「だ、だってお前…なんで、こんなところに…」
「あなたを助太刀に来たのですよ。上条当麻」
「・・・・・か、神裂!?」
次に上条の横に立ったのは、腰よりも下に伸びた長い黒髪を頭の後ろで一本に結び、物干し竿ほどはあろうかという長大な霊装『七天七刀』を据えた美女、『神裂火織』だった。ステイルに続いて、再びの驚愕に見舞われた上条だったが、更に畳みかけるように新たな声が彼の耳に届いた
「す、助太刀って…それは……」
「やっほー!カーミやん!こんな見るからに面倒な状況に陥ってるのを鑑みるに、持ち前の不幸は相変わらずだにゃ〜」
「土、御門……」
彼は、神裂の背後からひょっこりと姿を見せた。逆立った金髪に、トレードマークとも言えるアロハシャツとサングラスの魔術師らしからぬ姿の彼、『土御門元春』は極めて明るい口調で上条に言った。しかしもう驚く声を出すのすら疲れたのか、上条は困惑したような声と視線を彼に向ける事でしか反応できなかったが、次の人物を見た瞬間はそうはならなかった
「もう、とうまってば…いつからそんな簡単に諦めちゃうようになったのかな?」
「インデックス!?!?」
今ではもう記憶にない、出会った時と同じ姿。白い修道服にして最高位の防御霊装『歩く教会』を纏った、その頭脳に10万3000冊の魔導書を記憶した『禁書目録』と呼ばれた少女を見た時、上条はいよいよ理解が追いつかなくなって彼女に訊ねた
「え、ええっ!?いや、だって…お前っ!お前らっ!?こ、ここっ、アンダーワー……ええっ!?」
しかし、インデックスに訊ねようとした上条の声は、動揺と驚愕に塗れた、聞き取りたくとも聞き取れないものだった。そんな彼の様子に、白い修道服の少女は呆れたように溜め息を吐いてから言った
「もう、少し落ち着いてよとうま。はい、深呼吸!すぅ〜っ、はぁ〜〜〜」
「す、すぅ〜っはぁ〜〜〜〜〜………」
「うん、よし。でも、相変わらずのおバカだねとうまは。またこんなボロボロになるまで無茶して。言ったでしょ?私たちは、とうまを助ける為に来たんだよ」
そう言ってインデックスは、上条の両肩に手を置いて深呼吸を促した。そして、上条が言われるがままに呼吸を整えると、腰に手を当てながら、自分は心底怒っていると言わんばかりに白い頬を膨らませた
「そ、その助けに来たってのは…神の右席がここにいるから、なのか…?イギリス清教とローマ正教が、何かの理由で対立してるとか…それで……」
「いいえ、違いますよ。まぁ魔術側の人間としてはこうなってしまった以上、ローマ正教と対立しているとは言えなくもないですが…少なくとも私たちがここに来たのは、そのような理由ではありません」
「・・・・・?」
上条の疑問に答えたのは、神裂だった。しかし彼は、小さく首を左右に振りながら言った彼女の言葉の意味が分からず、やはりこれは幻覚と幻聴なのではないかと思いながらもう一度訊ねた
「そ…そんなこと言われても、俺にはどういう意味か分かんねぇよ。俺を助けに来たって言われても、インデックスと一緒に暮らしてもない今となっちゃ、必要悪の教会が俺の所に来る理由なんて、なにも……」
「だから俺たちは、他でもない『カミやん』のために来たんだって言ってるにゃー」
「・・・俺の、ため…?」
「だあああぁっ!相変わらず物分かりの悪いヤツだな…こう言えば分かるだろう。ここに来たのは、僕たち必要悪の教会だけじゃないってことだ」
「必要悪の教会だけじゃ、ない…?」
「ほら、見て。とうま」
ガシガシと後ろ頭を掻きながらステイルが言った後に、インデックスは自分の真上を指差しながら言った。上条は彼女に言われるがまま、赤黒く染まっているダークテリトリーの空を見上げた…その瞬間。一ヶ所に固められた人界守備軍と日本人プレイヤー、その周囲を取り囲む中国、韓国人プレイヤーの狭間を縫うように、次々と青く澄んだ色のコードラインが降り注いでいった
「えっ、え…?えええぇぇぇっっっ!?」
その色合いの意味を、上条当麻は既に理解していた。しかし今度の青いラインの数は、日本人プレイヤーがログインしてきた、前回の比ではなかった。もはや目で追いきれない程の量とスピードで増えていくライン群から最初に飛び出してきたのは、修道服を身に纏ったシスター達だった
「ローマ正教改め、イギリス清教所属!『アニェーゼ・サンクティス』!ここに参戦だってんです!」
カァンッ!という音と共に『蓮の杖』を地面に突き立て、総勢252名のシスターを集めた『アニェーゼ部隊』の先頭に立っていたのは、部隊名にもあるその人、『シスター・アニェーゼ』だった
「まぁ、あたしらもたまには本職のシスターらしい働きもしてやるんで、感謝しやがれってんですよ」
そして彼女の周りから『シスター・ルチア』や『シスター・アンジェレネ』を始め、続々と青いラインを飛び出してきた修道女たちは、負傷した日本人プレイヤーの前に次々と跪いて、祈るように両手を組むと、治癒の神聖術とは似て非なる、回復魔術を唱え始めた。途端、暖かな光が彼らの体を包み、どんなに深い傷をも癒していき、その身に纏う傷ついた武具までもが、元通りに修復されていった
「おぉ…どうもありがと、ござます…い、いや…せんきゅう?」
「いいえ。これが私どものお勤めですから」
背中に刺さっていた剣を抜き、治療を施してくれた、見るからに異国の女性にクラインは少し戸惑いながら礼を言ったが、その女性、『オルソラ・アクィナス』は流暢な日本語と優しい笑顔で言った。するとクラインは、言語が通じるや良しと見たのか、乱れた髪型を整えて額にバンダナを巻き直し、少し声のトーンを変えてからオルソラに言った
「いえいえ。そういうわけにはいきません、見目麗しいシスターのお嬢さん。不肖、このクライン。此度の窮地を脱した際には、一晩の食事をご馳走させていただきたく…是非よろしければ、あなたのお名前を……」
「あらあらまぁまぁ」
「こぉらクライン!アンタ隙あらばナンパしてんじゃないわよ!」
「げぇっ!?す、少しくらいはいいだろうがリズ!このボンキュッボンのおねーちゃ…ゲフンゲフン。こちらのシスターのお嬢さんは!本当に俺の命の恩人なんだぞ!?」
「んなこと言って、そもそもが下心丸出し……うぇえ!?何これ、ゴーレム!?」
オルソラの右手をそっと自分の両手で包み、口説こうとしているクラインを見たリズが怒鳴っていると、そのすぐ傍に、彼女達の倍以上の体躯を誇る巨岩のゴーレムが現れた。ズシン、ズシンと、重低音を響かせながら歩く『ゴーレム=エリス』の掌の上に乗っているのは、荒れた金色の髪と褐色肌に、くたびれて生地が薄くなったゴシックロリータのドレスを着た魔術師『シェリー・クロムウェル』だった
「おいオルソラ、お前戦えねぇだろ。あんまりちょこちょこ動き回るんじゃねぇ」
「まぁ、シェリーさん。わたくし、仮想世界に来るのはこれが初めてなのですが、歩けば歩くほど楽しそうな場所に見えてしまって、つい」
「これが楽しそうに見えるってんなら、アンタもう帰った方がいいね。つーか、とっとと帰ってさっき図書館に溢したマフィン掃除しろオラァ!」
「・・・えっと…エギルさん。この人は、エギルさんのお友達…ですか?」
「・・・いや、違ぇけど。ところでそりゃ、黒人って意味でか?それともゴーレムみてぇな図体って意味でか?」
「の、ノーコメントで……」
自分達の傍に現れるなり、即座に治療を施してくれたかと思えば、急に口喧嘩を始めたオルソラとシェリーに、エギルとシリカは互いに顔を見合わせながら首を傾げていた
「こ、これ…!本当にイギリス清教揃い踏みじゃねぇか!?」
「おおっと、俺たちの事も忘れてもらっちゃ困るのよな」
「私たちもお供します!『女教皇』!」
次々と姿を見せ、どこか懐かしさすら感じさせるイギリス清教の面々に上条が驚いていると、次の瞬間には神裂の周りに、教皇代理の『建宮斎字』や『五和』といった、総勢52人全員が日本人の、多角宗教融合型十字教『天草式十字凄教』のメンバーが並び立っていた。そして、彼らの影に隠れて、土御門元春はとある二人の男女に声をかけていた
「いや〜、仕事でもないのにわざわざ呼び出して悪かったにゃ〜。結標、海原」
「本当よ。突然こんな縁も何もない仮想世界に飛ばして…報酬は後でキッチリ請求させてもらうからね」
「まぁまぁ結標さん。偶にはサービス営業もいいではありませんか」
「嫌よ。私はあなたと違って、この場に好きな子がいるわけでもないし、知人と呼べる知人だっていないんだから」
「まぁ、それはこの際ですから置いておいて。報酬と言うのであれば、ブラック企業ばりの休日出勤とサービス営業を求めてきた土御門さんに、一つ貸しを作れるということで納得しましょう」
今や霧ヶ丘女学院を卒業し、華の女子大生となった『結標淡希』は、自身が保有する『座標移動』の能力に付随する軍用ライトをその手に光らせていた。突然の出来事に苛立ちを露わにする彼女を、海原光貴の素顔を被ったアステカの魔術師『エツァリ』は、礼儀正しい口調で宥め続けていた
「どうやらここには、性根の腐ったヤツらが山ほどいるみてぇだな。たかだか雁首揃えただけじゃあ、絶対に消せねぇ根性があるってことを、この俺が熱い根性と一緒に叩き込んでやるぜ!!」
気合の迸る叫び声に揺れるハチマキと、ジャージの下に着た燃えるような旭日旗のTシャツの少年、『削板軍覇』。またの名を『第七位』と称される彼は、根性を愛し、根性に愛されたその心情を、異世界人である闇の軍勢にも堂々と見せつけていた
「さぁ〜て。私の教え子に手ぇ出したヤツ、潔く名乗り出てもらおうか。一人残らずボコボコにしてからしょっ引いてやるじゃん!」
「ちょ、ちょっと黄泉川先生!流石にここにいる全員は無理ですよ〜〜〜!」
そして。いわゆる学園都市の人間である彼らが参戦したのを合図に飛び込んできたのは、三又の矛を象ったシンボルマークを群青色の制服に刻み、学園都市製の強化プラスチックで製造された盾を装備した『警備員』の職員達だった。『黄泉川愛穂』を先頭に、御坂美琴にとっては顔見知りの『鉄装綴里』を含め、小隊規模で参戦した彼らは、ドンドンッ!ドンドンッ!と、赤い兵士達を威嚇するように盾で地面を叩きつけながら、守備軍の一角を陣取った
「よ、黄泉川先生!?警備員の人達までいるってのかよ!?」
「申し訳ありません。病院内の設備による助力は不可能になったので、直接こちらに助力に来ました。と、ミサカはあなたに報告します」
「え…?あーっ!御坂妹じゃねぇか!?」
不意に上条当麻に声を掛けたのは、電子ゴーグルをその額に乗せていることと、首に上条が送ったネックレスを付けていること以外には見分けが付かないほど、DNAマップの素体である御坂美琴と瓜二つな軍用クローンの一人にして、彼女達の中では一番製造番号の若い『ミサカ10032号』だった
「・・・おい、待て。いやまさかとは思うけど、この『足音』…お前ら……!?」
「はい。恐らくはあなたの想像通りです。と、ミサカはミサカ10032号からミサカ20000号まで計9968人、全員のミサカで助力に来たことを続けて報告します」
ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!と、本物の軍隊かと疑わしくなるほどに規律された歩行による足音で、隊列を組みながら青のコードラインを破ってくるのは、ミサカ10032号と同じく電子ゴーグルを被り、銃火器『オモチャの兵隊』を両手に引っ提げた『妹達』だった
「あ、あの子達…これじゃ私の立場がないじゃないのよ…!」
「ちょ、ちょっとミコトさん!これ一体どうなってるの!?み、ミコトさんにそっくりな人が、あんなに沢山…!!」
「あ〜えっと…まぁ、それについてはまた今度。とりあえずあの子達は全員、私の妹よ」
「・・・い、妹っ!?全員っ!?」
その光景に驚愕していたのは、上条当麻だけでなく、御坂美琴とアスナも同様だった。誰も予想だにしなかった大軍勢の参戦に乗じて、PoHの魔の手から逃れた美琴を、アスナが懸命に神聖術で治療していると、突如、バサッ!という扇子の広がる音が美琴の耳に入った
「真打登場…とでも、申し上げましょうか。この私、婚后光子が来たからには!一切の悪逆無道は許しませんわ!!」
「まぁ!流石は婚后さん!」
「この大勢を前にしての見事な見得切り、大覇星祭を彷彿とさせられましたわ!」
「婚后さん!?どうしてここに…って言うか、湾内さんに泡浮さんも!?」
御坂美琴の前に立ったのは、彼女の在学する常盤台高校の制服に身を包んだ、『婚后光子』、『湾内絹保』、『泡浮万彬』の三人だった。あまりにも突然な彼女達の登場に、美琴が動揺を隠せずに目を見開いていると、その開き切った瞳孔に、またしても同じ制服を着た集団が映った
「そぉねぇ〜。いわゆる私の助っ人力ってヤツ?それを御坂さんに見せるのはぁ、ちょっと勿体ない気もするんだけどぉ…上条さんもいるって聞いたしぃ、来ちゃった以上は遠慮なんてしないから、あなた達も覚悟してほしいんだゾ☆」
常盤台の女王。そして、ゆうに100人を超える女生徒の属する女王派閥。その女王として君臨するのは、艶めかしい金髪と輝かしい瞳を持つ少女、『食蜂操祈』だ。なんの前触れもなく現れ、自分達と同じ仮想世界にいるとは到底思えない身なりをした自分達に戸惑っている赤い兵士たちに向けて、彼女はいっそ清々しいまでのウインクをピースと一緒にして言った
「しょ、食蜂まで……!?」
常盤台高校においては自分と双璧を成す、ある意味では犬猿の仲とすら思っていた、もう一人の超能力者の少女の参戦に、御坂美琴は呼吸をすることすら忘れかけていた。しかしそんな彼女の意識をあっさりと引き戻し、更なる驚愕で塗り潰したのは、新たに中空から届いてきた少年の声だった
「御坂美琴さん、お久しぶりです。SAO75層での最終決戦以来になりますね。『未元物質』を操る学園都市第2位の超能力者『垣根帝督』です」
「か、垣根さん!?」
「初春さんが一年ぶりに私のプログラムを起動なさった時は、一体何事かと思い焦りましたが…よくぞここまで持ち堪えて下さいました。私を含め『彼女達』も皆、あなたを助けに来ましたよ」
「・・・彼女、達…?ってまさか!?」
身も心も純真無垢で、白銀に輝くその少年、『垣根帝督』は六枚の白翼を背負い、美琴の背丈一つ分の上空に佇んでいた。そんな彼が不意に口にした『彼女達』という言葉に美琴が何かを悟った、次の瞬間。美琴にとってはもはや聴き慣れた、ヒュンッ!という『空間移動』の音が空間を裂いて、目の前にツインテールの少女が現れた
「お姉様、遅れてしまい申し訳ありませんですの。お姉様の露払いとして、面目次第もございませんわ」
「黒子!アンタも来てくれたの!?」
「もちろん私達も一緒ですよ!御坂さん!」
「元はと言えば、アリスの都市伝説を見つけたのは私なんですからね!」
「う、初春さん…佐天さんも…みんな、ありがとう…ありがとう……!」
『白井黒子』と共に美琴の傍に駆けつけたのは、学園都市の『駆動鎧』の肩に乗り、タブレット端末でそれを操作する『初春飾利』と、金属バットを肩に担いでヘルメットを被った『佐天涙子』だった。その三人の顔を見た瞬間、御坂美琴は感動のあまり、涙腺が決壊したようにボロボロと涙を零し始めた
「さて、そちらの方々。わたくしのお姉様とそのご友人…ご・ゆ・う・じ・ん!ここ重要ですわよ!くれぐれもお忘れなきよう!」
「し、白井さん……」
「折角カッコ良かったのに……」
それから黒子は、ザッと赤い兵士達を鋭い視線で睨みながら言うと、その途中で視界の端に憎きツンツン頭の少年を見つけ、彼を何度も指差しながら語気を強めた。相変わらずどこか頭のネジが外れている彼女に、初春と佐天が頭を抱えて呆れていると、黒子は一つ咳払いを置いてからもう一度口を開いた
「こほん。もとい…わたくしのお姉様とそのご友人が、随分とお世話になったようですわね。これより先は、今季より『風紀委員長』の任を拝命したわたくし白井黒子と、以下1000名の風紀委員が、謹んでお相手して差し上げますわ!!!」
「「「風紀委員ですの!!!」」」
気づけば彼女達の周りには、青いコードラインから姿を現した、各々の制服の右袖に緑色の盾が刻まれた腕章を付けた『風紀委員』の生徒が立ち並んでいた。そして彼らは、その腕章を見せつけるように白井黒子の常套句を声高に叫んだ
「す、すげぇ…ってか、凄すぎる。一体誰が、どうやってこんな人数を……」
「どうだい上条ちゃん。驚いたろう、俺たちからのプレゼントは」
「トール!?」
次々と現れてくる仲間の顔ぶれとその人数に、上条はすっかり呆気にとられていた。そして、最初は数え切れなかったほど伸びていた青いコードラインも、ついに最後の一本を残すのみとなった。そのラインの内側から、焦れったいほどの間を置いてその姿を見せたのは、中性的な出で立ちをした『グレムリン』の魔術師、『雷神トール』だった
「珍しくな、オティヌスが都合つけてくれたんだよ。今回の件は上条ちゃんにも非はあるけど、二つの世界を安易に繋げちまった自分にも非があるってな。んで、後はご覧の通り。こっちの世界を色々と弄った時の魔神様の力の応用で、仮想世界の壁も、異世界の垣根もあっさり超えて、全員集合したって訳だ。簡単だろ?」
「オティヌスが、そんな…ことを……」
「だけど、別にここにいる全員を強引に連れ込んだ訳じゃねぇんだぜ?俺たちはただ声を掛けただけさ。『上条ちゃんとかミコっちゃんとか、そのお仲間がピンチだ。助けに行きたきゃ連れてくけど、嫌なら別に来なくていいぞ』ってな具合にな。言ってみりゃ有志だったんだよ。だけど声掛けた全員どころか、声掛けてねぇヤツまで付いてきた次第さ」
「・・・え?で、でも…そんなことしてくれても、俺には……」
トールの言っている意味が、上条にはよく分からなかった。言ってみればこれは、完全なる私事のハズだ。仮想世界が歩んできた軌跡の結晶であるアリスを、敵の魔の手から護る為の戦い。友人であるキリトを、何とかして助けるための戦い。そして、自分が元の現実に帰る為の戦い。そのどれに手助けをしてくれても、自分は彼らに何の見返りも用意できない。そう言おうとした時、ため息を吐きながらインデックスが言った
「もう、とうまは難しく考えすぎ。ここにいる皆は、見返りが欲しくて来てるんじゃないんだよ。強いて言うなら、とうまの背負ってるいるものを軽くしてあげて、とうまが涙を堪え切れなくなった時は、優しく抱きしめて、とうまが少しでも笑顔になってくれることが、私たちの見返りなんだよ」
「・・・俺の涙と、笑顔……」
「それに…やっぱり寂しいんだよ。例え住んでる場所が離れてても、世界のどこかに、自分が好きな人がいてくれないんだと思うと、寂しいし、悲しい。だから、みんなここに来たんだよ。さぁ…立って、とうま。みんなと一緒に帰ろう?」
とある学生寮の一室で、一緒に暮らしていたあの頃から、何一つ変わっていない優しい声で、インデックスは言って、へたり込んでいる上条当麻に手を差し伸べた。上条は、その手を取ろうと、傷だらけの右手を伸ばした。しかし、その右手がインデックスの手に触れそうになった直前、何かに迷ったように右手を止め、やがて首を振りながらもう一度頭を垂れた
「・・・あぁ。嬉しい、嬉しいよインデックス。だけど俺には、みんなの気持ちは受け取れねぇよ。だって…どう考えたって、今の俺にはソレを受け取る資格がない……」
「・・・どうして、そう思うの?」
呟くような声で言った上条に、インデックスは訊ねた。すると上条は、彼女の手に伸ばし掛け、空中で静止していた右手を拳に変えて、ゴシャッ!と強く地面に叩きつけたまま、喚き散らすように声を吐き出した
「俺には…俺には無理だったんだよ!俺の方法は、俺の右手の使い方は間違ってたんだよっ!この世界で俺はっ…誰も守れなかった!誰も救えなかったんだ!みんな死ぬほど痛い思いをして…傷ついて…悲しんで…泣いてたのに…どれだけ足掻いてもっ!俺の右手は届かなかった!もう…もう俺には耐えきれないんだよっ!!」
「折角助けに来てくれたのに、何の力もない今の俺じゃあ、またみんなを守れなくなるのが分かるんだよ!みんなが俺の為に戦って傷ついても、俺には誰も救えないんだよ!ただ闇雲に、誰かの為になるんだと思って、また暴力に訴えて、大切な誰かを傷つけるだけなんだよ!だったら…だったら俺は、このまま……!!」
「いい加減にしろこの素人が!!!」
いっそ死んだ方が良かった。上条当麻がそう言おうとした瞬間に、ステイルの鋭い叱責が彼の口を止めた。そして、咥えタバコを吐き捨てながら、自分の叱責に驚いて顔を上げた上条に向かって叫んだ
「ここにいる誰が!いつ!どこで!君に守ってくれ、救ってくれなんて頼んだんだ!?君はいつだってそうだっただろう!大した関わりも知識もないくせに、誰に頼まれた訳でもないのに、自分の利得も構わず人の事情に遠慮なく踏み込んでボロボロになった癖に、ヘラヘラと何もなかったように笑ってきただろうが!僕らは今、それと同じことをしようとしているだけだ!君が今まで繰り返してきたことを、僕らがやって何が悪い!?」
「!!!!!!!!!」
ステイルの言葉に、上条は雷に打たれような衝撃を全身に感じた。自分は何も分かっていなかったことが、今ようやく上条にも分かった。そして、もう一度。一番最初に、どこにでもいる平凡な少年に救われた少女は、笑顔を向けながら言った
「・・・そうだよ、とうま。ここにいるみんなは、とうまが守ってくれるから戦いに来たんじゃないんだよ。ここにいるみんなは、とうまが今日まで示してくれた道が、絶対に間違いじゃなかったから、今度は私たちが助けてあげたいって…そう思えたから集まったんだよ」
自分が守りたかったのは、決して雲ってほしくない、誰かの笑顔だ。自分が救いたかったのは、どうしようもない絶望に陥った誰かの、悲しい顔だ。その答えは、目の前にあった。手を差し伸べた、過去に自分が守り続けてきた少女は、曇りのない笑顔でいてくれた
「だから私も、必要悪の教会も、学園都市も、仮想世界も、みんな…みんながとうまの味方だよ」
だからこそ、上条当麻は今この時をもって、救われた。他でもない、始まりの少女の笑顔に。今ここに集まった、全ての人が笑っていた。自分が今日という日までに出会ってきたみんなの笑顔に、上条当麻は救われたのだ
「・・・は、はは…あはははっ……」
笑顔と涙は、自然に溢れた。その言葉一つで、充分だった。こんなにも素晴らしいものだったのだと、心が満たされていくのを上条は感じた。誰かを救い、救われることに、世界や個人なんて関係ない。なぜなら、救った人間も、救われた人間も、自分は正しかったのだと、そう思えるだけで、こんなにも迷うことなく笑えるのだから
「・・・・・・・・・いくぞ、みんな」
差し伸べられた少女の手を取り、どこにでもいる平凡な少年は立ち上がって、呟いた。科学と魔術。仮想と現実。二つの世界。全ての境界を超えて人々が集結した、その中心で。上条当麻は、流れ出た涙を右手で拭い、もう一度強く、硬く、その拳を握り締めた。胸いっぱいに大きく息を吸い込んで、力強く笑って、そして。今、高らかにーーーーー
「いいいぃぃぃくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
「「「うううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」
ーーーーー勝利の鬨が、響き渡った