とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第73話 形勢逆転

「『魔女狩りの王(イノケンティウス)』!!!」

 

「『七閃』!!!」

 

 

ステイルの周囲では、耐えず爆炎が巻き上がっていた。炎の雄牛が吼え猛る度に、赤い兵士たちが次々に燃え尽きていく。そしてその横では、絶大な威力を誇る金属製のワイヤーが神裂の七天七刀を基点にして暴れ回り、これもまた片端から敵兵をコマ切れにした

 

 

五行の黒(よおヤンキー)水龍ノウネリヲ以テ障壁ヲ取リ除ク可(寝ボケてねぇで仕事をしやがれ)!!!」

 

「『蓮の杖(ロータスワンド)』!!!」

 

 

龍を象った折り紙を空中に放り投げ、土御門が詠唱らしからぬ口調で叫んだ瞬間に、彼の右手の指先から飛び出したのは、直線上にいる敵の土手っ腹を纏めてぶち抜くほどに凄絶な威力を誇る鉄砲水だった。そして、アニェーゼが低身長を誤魔化す為の厚底の靴と共に蓮の杖を地面を突くと、その術式によって杖に与えられた衝撃が、赤い兵士たちの体内へと移動し、軒並み彼らの体を吹き飛ばした

 

 

「薙ぎ払え!『ゴーレム:エリス』!」

 

「さぁさぁ、治療が必要な方はこちらに一列でお並び下さい。私たち修道女は、主の御名の下に、皆様をお導き致します」

 

 

今もまだ傷が癒えていない日本人プレイヤーや、人界守備軍の衛士達の治療に当たるシスター達を、率先して取りまとめているのはオルソラ・アクィナスだ。そして、その彼女達の邪魔はさせまいと、シェリー・クロムウェルの操るゴーレム=エリスの巨岩の腕が、周囲に群がる真紅の兵士たちを根こそぎ薙ぎ払っていた

 

 

「天草式十字凄教!気合入れていくぞ!コイツらをさっさと片付けて、上条当麻と五和のイチャラブお食事会をセッティングするのよな!」

 

「「「おおおおおーーーっっっ!!!」」」

 

「た、建宮さん!お願いですから、こんな不特定多数の人がいる前で恥をかかせないで下さい!」

 

 

ここが戦場であることを忘れさせるほどのノリと斜め上の発言で中国・韓国人プレイヤー達に突撃していくのは、天草式十字凄教のメンバー達だった。そんな建宮を始めとした彼らに混じって、三叉の槍を振るい続ける五和は、敵を倒すことよりも顔を紅潮させて叫ぶことに夢中になっていた

 

 

「最初は文句を言っていた割には、もうかなりの数を手に掛けたんじゃないですか?結標さん」

 

「まぁ、そりゃね。私はとっとと帰りたいのよ。どれだけ文句を連ねようが帰れないんなら、こんな仕事は変に目立とうとせずに、流れ作業で終わらせるくらいが丁度いいわ」

 

 

『原典』。海原が懐から取り出した巻物のような光帯は、蛇のように宙を渦巻き、シェルター状の光の壁となって、敵の攻撃を弾き続けていた。その絶対的な安全圏の中に、海原と共に内包されている結標が軍用ライトを振るう度に、赤い兵士たちの持つ剣や槍が瞬く間に消えたかと思えば、次の瞬間には彼らの喉や心臓を貫いていた

 

 

「ハイパーエキセントリックウルトラグレートギガエクストリームもっかいハイパー…すごいパーーーーーンチッ!!!」

 

 

理屈の分からない爆発と、もはや理屈すらない技名が、そこにはあった。世界最高の『原石』、削板軍覇が放った拳は、ただ真っ直ぐに振り抜いただけで尋常でない規模の大爆発を引き起こすと、一瞬で無尽蔵の中国・韓国プレイヤー達を蒸発させた

 

 

「総員、前進!地の果てまで敵を押し戻せ!この場にいる風紀委員の生徒たちに、治安維持の手本を見せてやるじゃんよ!」

 

 

黄泉川愛穂が叫ぶと、警備員達は透明な盾に全体重を乗せ、鉄よりも硬い動く壁となって、敵軍の隊列を力づくで押し退けた。その圧力にたまらず真紅の兵士たちが転倒すると、警備員の後方に控えていた黒子が牽引してきた風紀委員の生徒達が、各々の保有する能力を叩き込んでいった

 

 

「ミサカ達は、大元を辿れば軍事用に製造されたクローンです。故に、どれだけの頭数を揃えようとも、一切の統率力がないあなた達とミサカ達とでは、天と地ほどの差があるのですよ。と、ミサカは忠告します」

 

 

開戦当初の人界守備軍の総員数、5000人と比較しておよそ二倍の人数で救援に駆けつけた妹達は、オモチャの兵隊による銃撃と銃弾の装填時間を考慮した隊列を組んでいた。入れ替わり立ち替わりで、間髪入れずに射撃を繰り返す戦法に、彼女達のそのまた倍以上の数がいるはずの異国人プレイヤー達は、立ち向かうどころか口々に悲鳴をあげて逃げ出す始末だった

 

 

「さぁさぁ!今宵、この婚后光子がお見せいたしますのは、電波塔を成層圏まで打ち上げることも可能な『大能力者』の『空力使い』!刮目してご照覧あれ!」

 

 

どこか歌舞伎を彷彿とさせる口調で赤い兵士に言い放った婚后は、バッ!と扇子を広げる動作と同時に、地面に設置したいくつもの空気の噴射点を爆発させた。刹那、その噴射点の真上にいた赤い兵士達は、逆バンジーが如く上空へと打ち上げられた

 

 

「システム・コール!ジェネレート・アクウィアス・エレメント!」

 

「ありがとうございます、レンリ様。そちらのお水、借用させていただきますね」

 

 

若き整合騎士レンリと肩を並べるのは、ウェーブのかかった亜麻色の少女、湾内絹保だった。彼女はレンリが神聖術で生成した四つの水素に触れると、自らの能力『水流操作』を用いて水球へと変化させ、その視界に捉えた敵兵目掛けて次々にぶつけていった

 

 

「システム・コール!ジェネレート・メタリック・エレメント!キューブ・シェイプ!」

 

「お手数お掛けします、ソルティリーナ様」

 

 

ソルティリーナ・セルルト衛士長は、黒髪のロングヘアの少女、泡浮万彬に言われるがまま、神聖術で立方体の鉄塊を生成した。しかしソルティリーナは、かなりの重量を誇るものの、まったくもって武器としての側面を有していないソレを必要とした泡浮の意図を読めないでいた

 

 

「いえ、それは構わないのですが…このような鉄の塊をどう使うのです?ご所望であれば、多少粗雑にはなりますが、剣や槍を造ることも出来ましたの、に……にいいいいいいぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「え、ええっとそれは…私、見た目に反して力持ちさんなので…その、えいっ!!」

 

 

その疑問のままに訊ねたソルティリーナは、見せた方が早いと言わんばかりに『流体反発』の能力によって浮力を操作し、軽々と巨大な鉄塊を持ち上げた泡浮に驚愕した。それから泡浮は頬を染めて恥ずかしがりながら鉄の立方体を赤い兵士に投げつけ、有無を言わさず彼らを圧し潰した

 

 

「はぁい。皆の衆、横一列に整列しなさぁい。そしたらぁ、私の統率力に敬礼。それでぇ…私はもう飽きちゃったから、退場なんだゾ☆」

 

 

学園都市序列第五位に位置する、学園都市最高の精神系能力『心理掌握』と、それに付随するリモコンのピッ!という音を前に、食蜂操祈の前に立っていた真紅の兵士たちは、成す術なく従わされ、美しい姿勢で敬礼した。そして彼らは、まるで名誉の敗北だと言わんばかりに、女王派閥の女子生徒達が次々に放ってくる能力を、敬礼の姿勢を崩さぬまま一身に受け続けた

 

 

「私の能力である『未元物質』は、この世界には本来存在しない、常識の通用しない物質を操る能力です。無論、あなた方のいる世界にも私の未元物質が存在しないことは、分かり切っていることですがね」

 

 

戦場の遥か上空で、垣根帝督は呟いていた。彼がその体よりも白く輝く六枚の翼をはためかせた瞬間、百を超える白光の槍が闇の軍勢へと五月雨の如く降り注ぎ、常人には到底届かぬであろう広範囲の敵を纏めて殲滅した

 

 

「・・・おいおい、おいおい。なんだぁこりゃ?」

 

 

劇的な速度で減少していく中国・韓国プレイヤー達の中で。SAOでは殺人ギルド、ラフィン・コフィンを統率し、悪魔と揶揄された男、PoHはゆらゆらと影のように揺れながら囁いていた

 

 

「一体なんの茶番なんだこれはよおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!?」

 

 

しかして亡霊の囁きは、やがて狂乱的な叫び声へと変わった。次々に積み重なっていく死によって溢れ出す空間神聖力は、今も彼の友切包丁の元へと這い寄り、濃い闇となって彼を覆っている。しかしそれを手にしているPoHは、それすらも気に食わないように、目下まで被っていたフードの中に手を突っ込んで頭を掻き回した

 

 

「確かに俺ぁ、テメエら猿どもの殺し合いが見てえとは言ったさ。けどこれはよぉ…これはなんか違ぇだろうがあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

日本人プレイヤーを殲滅したまでは、何もかもが死神の思惑通りに事が進んでいた。彼らを使って目一杯楽しんだ後、PoHは自らが煽動し焚きつけた中国・韓国人プレイヤーを仲違いさせ、更なる殺し合いを実現させるハズだった。しかし結果は、見事なまでに覆された。もはや殺し合いにすらなっていない戦いを見れば見るほど、PoHの内側に潜む憎悪は膨らみ続けていった

 

 

「よう上条ちゃん、楽しんでるな」

 

「まぁな。例えるなら、少し早い夏フェスに唆されたような感じだ」

 

 

一方で、完全回復して戦線へと復帰した上条当麻は、その右手でもって赤い兵士達を次々に殴り倒していた。その彼と共に、右手の五指に超高熱の溶断ブレードを噴出させ、文字通り暴れ回って敵兵を分断し続ける雷神トールは、上条と背中を合わせたまま話しかけた

 

 

「ところで、良いニュースと悪いニュースがあるんだが…どっちから聞く?」

 

「・・・日頃から不幸だ不幸だって自分で言ってるけど、別に不幸なのが好きなわけじゃない」

 

「んじゃ、良いニュースから。見りゃあ分かると思うが、俺達はこの仮想世界でも、魔術と能力を使える。これはオティヌスがわざわざ手間暇かけて、アンダーワールドを制御してるザ・シードのカーディナル・システムに、あたかも俺たちがSTLを使ってダイブしてると誤認するように仕込んだお陰さ。だから俺たちは、STLが織りなすイマジネーションの力…心意による恩恵を受けられてる訳だ」

 

「なるほど…で、悪いニュースは?」

 

「まぁ上条ちゃんなら言わんでも分かると思うが、俺たちは着の身着のままこの世界にダイブしてる。つまり、上条ちゃんのお仲間の日本人プレイヤー達みたく、VRMMOのアバターデータをコンバートしてるわけでもなけりゃ、スーパーアカウントみてぇなSTLの既存アカウントを使ってるわけでもねぇ。早い話が、俺たちはフルダイブ機能を持ったインターフェースも何も介さず、他人が見ればただ昼寝してるようにしか見えない状態でここにいるわけだ」

 

「・・・チートだな」

 

「その通り。こいつぁもう歴としたチート、あるいは反則だ。だからオティヌスが踏ん張っている間…つまり、アンダーワールドに組み込まれたカーディナルの自律制御システムを誤魔化せてる時間しか、俺たちはここにいられない」

 

「・・・・・」

 

「おまけにこんだけの人数が、上条ちゃん達から見れば異世界の仮想世界にダイブしてんだ。流石の魔神様も、長い時間この状態を維持してるのは難しいらしい。カーディナルがエラー検知した瞬間に、俺たちは現実に強制送還だ」

 

「分かった。それで、みんなは具体的にはどれくらいの時間こっちにいられるんだ?」

 

「そうさな…五分もいれりゃあ、良い方だ」

 

 

深いため息を置いた後に、トールは言った。その時間を、長いと感じるか、短いと感じるかは人それぞれだろう。しかし上条は、フッと軽く鼻で笑ってから、口許を緩ませた

 

 

「充分すぎるな。それだけあれば、俺たちは勝てる。絶対にな」

 

「そいつぁ結構。だが、だからこそ急げよ。俺たちにしか出来ないことがあるなら、早めに片付けとくのが吉だぜ」

 

「・・・そうか、だったら……悪いトール!後は任せた!」

 

 

それだけ言い残して、上条当麻は前線から抜け出した。それから彼が足を向けたのは、後方部隊にて怪我人の治療を行うイギリス清教のシスターに混ざり、彼女らとは違い一度聞いただけで暗記した神聖術で治療を行う、完全記憶能力を持つ白い修道女、インデックスのいる場所だった

 

 

「インデックス!聞きたい事がある!」

 

「と、とうま!どうしたの!?」

 

「お前が記憶してる10万3000冊の魔導書の中に、人の魂を扱うことの出来る魔術はないか!?」

 

「た、魂を扱う…?具体的には、どんな?」

 

「詳しい理屈とか過程は俺にも分からないんだが、過去に負った心の傷か何かが原因で、俺の友達がほとんど寝たきりになっちまってるんだ。ソイツの目をどうにかして覚まさせてやりたい!」

 

「・・・それなら、うん。あるべき場所を見失ってしまった魂を、元の場所に戻すことなら、私でも出来るよ。迷える仔羊を導くのは、いつの時代もシスターの大切な務めだから」

 

 

捲し立てるような口調で問い掛ける上条に対し、インデックスは冷静だった。上条が訊ねてきた内容に、僅かな時間ながらも考えを巡らせるように目を瞑ると、やがてゆっくりと頷きながら真っ直ぐな瞳で言った

 

 

「で、出来るんだな!?よしっ…!ロニエ!アスナ!どこだ!?いたら返事を…!」

 

「か、カミやん先輩!こっちです!!」

 

「ッ!インデックス!こっちだ!俺に付いて来てくれ!」

 

 

上条の呼びかけに片手を振り上げながら答えたのは、同化する前のアンダーワールドで彼の傍付きだった少女練士、ロニエ・アラベルだった。最前線よりも少しだけ手前にいる彼女の姿を視界に捉えた上条は、インデックスの手を引いて、ロニエの元へと駆けつけた

 

 

「ロニエ!キリトは今どこに!?」

 

「は、はい!こちらに!」

 

 

ロニエが掌を差し向けた先には、アスナの膝の上で眠るキリトの姿があった。ロニエから見て彼らの向こうには、ティーゼが長剣を抜いて立っている。PoHによって車椅子を壊され、容易に移動できなくなった彼を、ロニエとティーゼが二人で守っていたのだと上条は理解した

 

 

「二人とも、ずっとキリトを守ってくれてたんだな。ありがとう、助かった。それでアスナ、キリトの様子は?」

 

「そ、それが…ずっと声を出しながら、左手を泳がせてるの。まるで、何かが欲しくて泣いてる…赤ん坊みたいに……」

 

「あ、あーーー…あーーー………」

 

「・・・これが、ずっとか」

 

 

アスナが言った通り、キリトは掠れた声を発しながら、虚な瞳のまま伸ばした左手を宙で彷徨わせていた。そんな彼の悲痛な姿を、改めて目の当たりにした上条は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた

 

 

「ごめんなさい。そのせいで、キリト君を後方に運びたくても運べなくて…」

 

「あぁ…でも、もう大丈夫だ。今俺が頼りになるヤツを連れて来……」

 

「か、カミやん君!後ろーーーっ!!!」

 

「なっ…!?」

 

 

瞬間。アスナの声は、悲鳴染みた絶叫へと移り変わった。上条がその叫びに後ろを振り向いた時には、眼前まで赤い兵士が振り下ろした剣が迫っていた。しかし、その剣が上条に到達する寸前に、凄まじい稲光を纏った超高速の弾丸が彼の前を通過し、赤い兵士を撃ち抜いた。気づけば上条は、そんな芸当が出来る唯一の人物の名前を叫んでいた

 

 

「美琴!!!」

 

「こいつらの相手は私達に任せて!アスナさん達は、早くキリトさんを!」

 

「ここより先に立ち入ろうとする狼藉者は、一人残らず拘束…いえ!串刺しにして差し上げますわ!」

 

「私たちにもお手伝いさせて下さい!」

 

「さぁ!どこからでもかかって来い!」

 

 

御坂美琴に続き、白井黒子、初春飾利、佐天涙子までもがその場に駆けつけた。そして彼女たちは、四方に分かれて上条達を護るように取り囲むと、向かってくる赤い兵士達を次々に仮想世界から追い出していった

 

 

「・・・なんか…やっぱりいいわね、こういうの。昔を思い出すわ」

 

「あらあらお姉様。あまり昔と比べられても困りますの。演算速度、射程距離、最大質量、その全てにおいて、このわたくしは成長し続けておりましてよ?お姉様は随分と長い期間を仮想世界で過ごしておいでだったようですが…そのお姉様が今のわたくしに付いて来られるのか、甚だ疑問ですわね」

 

「上等ッ!!!」

 

 

身体中に電撃を迸らせながら、御坂美琴は強く笑った。常盤台の超電磁砲と、風紀委員の腹黒テレポーター。かつて学園都市で起きた多くの事件を収束に導いたコンビは、もう一度肩を並べて戦えることに、懐かしさと嬉しさを感じながら、己が有する能力を余すことなく解放した

 

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