「ったくよォ、俺は基本的には昼まで惰眠を謳歌するタイプなンだっつの。どうにもイラ立ちが抑えられそうもねェから、ストレス発散にお前をサンドバッグにさせてもらうが、最終的には死刑か処刑、あるいは極刑しかあり得ねェからそのつもりでなァ」
「・・・・・・・・・・」
世界の果てへと続く山岳地帯の一角で、学園都市最強の能力を保有する一方通行は、元闇の皇帝ベクタにして、A.L.I.C.Eを狙う魂の簒奪者、サトライザーと相対していた
「一方通行さん!ソイツは…!」
「いちいちテメエに言われなくても分かってるっつゥの。大人しくそこで見てろ、ブス」
「・・・ぶ、ブス!?」
その一方通行に対し、先にサトライザーと対決して敗北を喫したシノンは、彼の恐ろしさを一方通行に伝えようとしたが、白い怪物は彼女の方を一瞥もすることなく、彼女にとっては心外にも程がある言葉を最後に言った。それから一方通行は、その赤い瞳でサトライザーを睨みながら口を開いた
「おい、そこのインテリ気取った軍人さン。JKを痛ぶるってのはそんなに楽しかったンですかァ?400字詰めの原稿用紙くれてやるから、後で感想文でも書いてくンねェか。俺が添削してやるからよォ」
彼なりの気遣いなのか、GGO事件で一先ずは顔見知りになったシノンのことを仄めかす文言を交えながら、サトライザーの神経を逆撫でするように煽った。今も有翼生物に乗って中空に佇む彼は、虹彩のほとんどが黒く濁った眼球で一方通行を見下ろし、一つ息を吐いてから言った
「君は、少なくとも人工フラクトライトではないな。JSDFの人間なのか?」
「自衛隊ねェ…もう昔のことすぎて忘れちまったが、それと似たような名前の軍隊を間違えてぶっ潰しちまったことはあるなァ」
「では君が、話に聞く『カミジョウトウマ』なのかな?」
「バカか。俺をあんなヒーローなンかと一緒にしてんじゃねェよ。俺は根っからの悪党だ。付け加えるなら、オマエじゃ比較にならねェ、とびっきりのだけどな」
「・・・・・よかろう。もういい、不毛だ。おそらくこれ以上の会話は、なんの意味も成さない」
雲を掴むような会話だった。一方通行は蔑むような態度と口調を決して崩そうとせず、サトライザーの質問に明確な解答を提示しようとしない。サトライザーはそんな一方通行との会話に呆れ果てた…かに見えたが、次の瞬間には不気味な笑みを唇に貼り付けていた
「だが、語らずとも分かる。君の魂は、きっと私が今まで口にしたどんな酒、どんな食事でも味わったことのない極上の味がするのだろう。さぁ、味わわせてくれ。君の感情を、精神を、業を、罪を、魂を、その全てを、私が根こそぎ奪ってみせよう」
「・・・結構いい値するぜ、俺の魂は。まァそれ相応の対価を払うってンなら、くれてやってもいいけどな」
「その対価とは、何か。参考までに教えてもらえるかな?」
「テメェの死体」
「では、君のソレを担保にしよう」
明確なゴングはなかった。サトライザーが吐き捨てるように言った直後、彼の腕に抱かれたバレットXM500が火と銃弾を放った。空薬莢を一人でに吐き出し終わる頃には、標的を撃ち抜いていることもままある、目で追うことはそもそも不可能な速度で迫る弾丸に対し、一方通行は避けることすら叶わなかっ…否。そもそも避けようとしなかった
「あァ、言い忘れてた。デフォじゃ『反射』だから気ィつけなァ!!」
弾丸が一方通行の肌に触れた瞬間、煙を引く鉛弾は時を巻き戻されたように、有翼生物の上で銃を構えるサトライザーの手元へと還っていった。しかし、ソレがサトライザーの体に突き刺さるかに思われた時には、闇を覗かせるその瞳に吸い込まれるように弾丸が消えていった
「あン?」
「これは驚いた。なんと強固な心意だろうか。これはますます味わうのが楽しみになったよ、最強」
「・・・チッ。試してみるか」
バレットの銃弾が跳ね返されるや、サトライザーはスコープから視線を外して言った。その仕草と口調に、一方通行は軽い舌打ちをしてから右足で地面を踏み抜いた。バキバキバキッ!と、ダークテリトリーの焦土に亀裂が走ると、力の向きを彼の能力によって変換された、幾片もの荒れた肌を持つ岩石がサトライザーへと襲いかかった。しかし……
「・・・なるほどなァ…」
嘆息を吐くように、最強の能力者は呟いた。その時には既に、サトライザーと、彼の足場になっている有翼生物へと降り注いだはずの岩片は、彼らに傷一つ負わせることなく、ブラックホールが如くあらゆる物質を吸い込む暗い瞳の中へと収納されていった
「魂を食うとかなンとか、最初は頭の沸いた痛ェ野郎かと思ったが、認識が甘かったな。正確には能力に目覚め立てで、天狗になってハシャいでるガキだったか」
「ようやく理解してくれたようだ。では、まず味見程度に頂こうか」
サトライザーが言った瞬間、彼の眼がギラリと青黒く怪しげに瞬いた。死神に魅入られたかのようなその視線に、一方通行の全身が強張り、石像のように固まった
「な、にッ……!?」
「ーーーッ!?一方通行さん!!」
そして、身動きの効かなくなった一方通行の白い額から、虹色に輝く鱗粉が吹き出すのを見て、他でもない彼自身が驚愕した。その輝く粉がゆるゆると中空にオーロラを描くように、サトライザーの胸元へと誘われていくのを見たシノンが反射的に叫ぶ。そして、サトライザーが一方通行の魂の煌めきを胸いっぱいに吸い込んだ……かに、思えた
「・・・・・む?」
「あァ、悪りィ悪りィ。また言い忘れてた」
瞳を閉じて、その味を堪能しようとした時、サトライザーは違和感を感じた。味が、まったくと言っていいほどしないのだ。その違和感に彼が目を開けると、虹の鱗粉は消え、意識と体が固まっていたはずの一方通行が、何かを喋りながら荒野を歩いているのが見えた。そして白い怪物は、地面に散乱しているバレットの薬莢を、ヒョイと一つ拾い上げると、余裕たっぷりの笑みを顔に貼り付けてから続けた
「今のは気ィ利かせた演出で、もうとっくに逆算と解析終わってっから」
ビンッ!!と、それこそ銃弾のような速さで、一方通行が親指で弾き飛ばした薬莢がサトライザーの左頬を打ち抜いた。じんわりと後から伝わってくる痛みと、その穴を通り抜けてくる風の冷たさを感じられるのが、傷を負った証拠だった。他者のフラクトライトに干渉し得るイマジネーションの力、サトライザーの心意が、嘘のように失せていた
「お前、見た目の割にバカだよなァ。バカ正直に片っ端から俺の攻撃を吸収したり、挙げ句の果ては俺にその力を『向け』ちまった時点で、テメェの手品はすっかりネタが割ちまってンだよ」
一方通行が話しているその間に、サトライザーの心意によって生み出されたバレットXM500は、空気に溶けるように消え去っていった。万物を吸い込む暗い瞳が、次第にただの白と青い瞳に戻っていく。やがてサトライザーの瞳は、本人も意図せぬまま、本来の人間らしい虹彩を取り戻してしまった
「貴様、何を……!?」
「で、少し遅めの添削だ。テメェの魂の食事つったか?アレには、まるで美学が足りてねェ。目の前の魂をただ喰ってるだけじゃ、テメェはその辺の野良犬と同じなンだよ。そんな美学どころか、テーブルマナーも弁えずに俺に噛み付いてる時点で、テメェは三下…いや、四下だ」
有翼生物の上で膝を突き、左手で頬の風穴を覆って狼狽しているサトライザーを、その赤い瞳で見上げながら、一方通行は言った。そして彼は、サトライザーの不気味な笑みとは比較にならないほどの、凶悪で、獰猛な微笑みを口にしながら、その背中に羽根を連想させる四つの竜巻を巻き起こしていた
「生憎とコッチは、演算補助のバッテリーよりも短ェ時間制限付きでよ。潔くテメェに飯奢ってやってる暇はねェンだよ四下ァ!!」
既に砕けた地面を更に踏み砕き、一方通行は背中に接続させた四つの竜巻を唸らせて跳躍した。そして、音速を軽々と超えたその動きをまるで捉えられていないサトライザーの顔面目掛けて、一方通行は容赦なく右ストレートを振り抜いた
「ーーーッ!??!?!?!?!」
脳漿が顔にある穴という穴から飛び出そうになるほどの衝撃に、サトライザーは為す術なく吹っ飛ばされ、同じく暴風に煽られた有翼生物と共に地面へと叩きつけられた。そして今度は、竜巻の羽根で空中に佇んでいる一方通行が、地へと堕ちたサトライザーを見下しながら言った
「さて、取り立ての時間が来たぜ。テメェがここで愉快な死体になることに変わりはねェが…出血大サービスで死に方くらいは選ばせてやろうか。ミンチか挽き肉、お前が好きな方選ンでいいぜ」
(つ、強い…これが、学園都市第一位の能力者…!)
初めて一方通行の戦いぶりを目の当たりにしたシノンは、その胸の内で驚愕の声を漏らしていた。あまりにも圧倒的な実力差に、彼女は既に一方通行の勝利を確信しきっていた
「なる、ほど…これは興味深い……」
呻き声のように言って、サトライザーは膝に手を突きながら体を起こした。それから、切れた唇の端に滴っている血を拭き取りながら、一方通行の竜巻の羽根を一瞥した。そして彼は、現実のガブリエル・ミラーが所有するアカウント『サトライザー』が装備していた飛行用ジェットパックが、コンバート時にこの世界に沿う形で変換された有翼生物に、右腰から引き抜いた長剣を突き刺した
「ようやく私にも『ソレ』の使い方が分かった」
背中を串刺しにされた怪物は、ギイッと短い悲鳴を上げただけで、たちまち虚無に吸い込まれた。ガブリエルは、剣を通して右腕に流入してきたデータを背中に移動させ、意思を集中させた
「あァ?」
そこで一方通行は、微かな疑問を抱いた。サトライザーが使っていたイマジネーションによる力は、既にその力の向きを演算し尽くした自分の、ひいては能力の制御下にあるハズだった。故に、サトライザーはもうそのイメージを具現化させることは出来ないはずだというのに、彼の瞳はまたしても邪悪な闇を内包し始めていた
「・・・・・変わったな」
直感する。サトライザーは驚異的な速度で、侵食するように一方通行に制御されたイマジネーションの力を、他でもない自分の新たなイマジネーションによって書き換え始めている。それほどまでに強く、底のない闇を覗かせる虚無。文字通り、イメージの法則を更に超越するイマジネーションによる『事象の上書き』。それが最初に形にしたのは、一対の黒い翼だった
「・・・何、なのよ…あの『黒い翼』は……!?」
形容し難いほど禍々しいその姿に戦慄したシノンが、密かに呟いた。バサッ!という音がして、一方通行のソレと同じく、サトライザーの肩甲骨のあたりから黒い翼が伸びていた。しかし、彼の翼は暴風の竜巻ではなく、鋭い羽毛を重ねた猛禽の両翼だ。『ガブリエル』という天使の名に相応しい黒翼を羽ばたかせて地上に浮かび上がると、サトライザーは右手の長剣を一方通行に向けながら言った
「どうかな最強。一つ、盗んだぞ」
「おいおい。そりゃ盗ンだじゃなくて、パクったって言うんだぜ軍人さン。使うなら使うで俺に特許料払えよ」
「分かっているとも。だからこれを機に、更に盗ませてもらうぞ」
そう、サトライザーは分かっていた。今でこそまた心意を行使できるようになったが、戦いが長引けばまた一方通行の能力によってそれを封じられるであろうことが。だからこそ、彼の変化はその黒翼だけでは留まるところを見せなかった
「ハハハ、ハハハハハ……」
サトライザーの口から漏れる笑い声は、しかし笑いではなかった。唇は吊り上がっていても、目許はまるで動かず、硝子玉のような虚無なる瞳には、さらなる飢えだけが渦巻いている。サトライザーは両腕をゆっくり体の前で交差させると、力を溜めるような仕草を見せた。途端、闇色のオーラが重々しく震え、炎のように揺れ動き、厚みを増していった
「ハーーーーーッッッ!!!」
「ーーーーーッ!?!?」
強烈な気合とともに、サトライザーの腕が大きく開かれ、シノンは鋭く息を呑んだ。ズッ、と新たな黒翼が二枚、すでにある翼の上から伸び、大きく広がった。さらに下側からももう一対。計六枚になった巨大な翼を上から順に羽ばたかせ、徐々に高度を増していく。その頭上には漆黒のリングまでも出現し、迷彩服が形を失い、蠢く闇色の薄布に変わる。いつしか両眼も、人のモノではなくなっていた
「私の名はガブリエル・ミラー…否。『ガブリエル』だ」
「・・・・・う、そ……」
即ち、死の天使。人の魂を狩り、奪い去る、人知を超えた頂上の存在。それを自ら名乗ることの出来る、セルフイメージのみでそれを生み出す事のできるガブリエルという存在に対して、いったいどんな攻撃が有効だというのか、それをただ見て言葉を失うことしか出来ないシノンには、まるで思い付かなかった
「君のお陰だよ、最強」
自分の全身を駆け巡るパワーの強烈さに、ガブリエルは三度目の哄笑を口にした。これがこの世界に於けるイマジネーション、壮年の剣士の言葉を借りれば『心意』の力というものだったのだ。時間を遡ってガブリエルを斬ったあの剣士や、竜巻の巨人に変身した暗黒将軍と同じ……否。それ以上の力をついに手に入れたのだと、ガブリエルは確信した
「要は、いかに強く己の力を確信できるかだったということだ。そうと気づけたのも、君が私の眼前であれこれ実演してくれたお陰だ」
今までは彼らの技を、未知のシステムコマンドによるものと思っていたが、そうではなかった。イマジネーションを裏付ける、確信。それを今、彼は得た。今や漆黒の天使と化したガブリエルは、どんな事象すらも覆し、いかな超常も引き起こし得る心意を、その身体と精神に宿していた
「感謝の意味も込めて、痛みを感じぬよう一瞬で葬った後に、君の魂を心ゆくまで堪能させていただくとしよう」
ガブリエルは六枚の黒翼を大きく広げ、その全てを脈動させた。青紫色のスパークを全身に纏いながら、ドアッ!という轟音を伴って空気を打ち震わせた直後に、六枚の翼が全てを容易に貫き得る鋭い暗黒の槍へと変化した。やがて六本の槍は空間を圧搾し、ブラックホールのように吸い込みながら、一方通行の全身を串刺しにし、その全てを呑み込んだ
「だからテメェは四下なンだっつの」
しかし、しかしだ。巨大な闇に呑まれてなお、最強の能力者は己が健在であることを示すように言った。気づけばガブリエルの暗黒の槍と化した翼は、高く弾き上げられていた。最初にバレットXM500の銃弾を跳ね除けた『反射』とは違う。正確にはガブリエルの翼は、一方通行の肌に届いてすらいなかった
「『黒い翼』なンざ、もう時代遅れなンだよ」
あらゆる闇を晴らす、純白の輝き。それは一方通行の背中にあった。先ほどまで彼の背中に接続されていた四つの竜巻は消え、代わりに純白の羽根が周囲に舞う一対の『白い翼』が顕現している。そしてその頭上には、ガブリエルの暗黒のリングとは違う、眩いばかりの光を放つ天使の光輪が浮かびーーー
「最後に、一つ説教だ。こと『翼』の扱い方に関しちゃ、俺の方が先輩なンだよ。口の利き方に気を付けろや後輩がァァァ!!!」
そして、音は置き去りにされた。一方通行が、ガブリエルの黒翼を遥かに上回る力を秘めた、白い翼を強く打ち鳴らした。刹那、光の速さで飛翔した一方通行の、真っ直ぐに伸ばされた足の靴底が、ガブリエルの顔面を捉えた。ゴリゴリゴリッッ!!というガブリエルの端麗な顔の骨がいくつも折れていく音がしたのと、彼の全身が地面に叩きつけられた瞬間は、ほとんど同時だった
「ぶうおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」
バゴッ!ズドッ!ゴオッ!!と、ガブリエルは岩肌を削りながら、何度も地面を跳ねるように転がり飛んだ。もう既に何メートル吹っ飛んだのかも、自分の身にどんな一撃が襲い掛かったのかも満足に理解できないまま、やがて彼の身体が動きを止めて横たわった。そして、その身体を起こそうとした時、コツコツと足音を立てながら歩み寄って来た一方通行が、ガブリエルの前で止まって言った
「さて、どうするガブリエルくン?傷が治るまで待ってやろォか?もっとも、それが全力ならどンだけ回復しようが、俺がテメェをひねり潰すのに一秒もかからねェけどな」
地に伏したガブリエルをどこまでも嘲るように、一方通行は笑った。もう既に、この勝負の結果はどうあっても覆らないことをガブリエルは知覚していた。だからこそ彼は、既に人の理を外れたその顔に、悔しさと……ほんの微かな笑みを浮かべた
「・・・やむを得ない、か。あぁ…私の負けだよ、最強。だが、この戦争の勝ちまで譲る訳にはいかないな」
そう言ったガブリエルの全身から、地面を這うように粘着質の影が伸びた。直後、その影は大口を開けたように拡散し、ガブリエルの全身を呑み込んだ。それに伴って、ズズズッと、影と一体になったガブリエルの体が地面に沈んでいくと、その姿が影も形も残さずに消失した
「私の心意には、まだまだ力の余地がある。『あの者』の魂を喰らい、それを証明してみせよう」
「・・・き、消えた…?」
一方通行とシノンだけが残った岩山に、どこからともなく声が響いた。シノンがその現象に戸惑いながら呟いている間にも、どんなに離れていても分かるほど邪悪なガブリエルの心意が、驚異的なスピードで彼らから離れていった。ところがそれは、アリスを追って南に行くのではなく、まったく逆方向の北へと進んで行っていた
「・・・まァ、俺の仕事つったらこンなとこだろ。おい、終わったぞブス」
「ど、どういうことなの一方通行さん?アイツ、なんでアリスを追わずに北の方に…」
ガブリエルの気配がこの岩山から完全に消え去ったのを特に気にする様子もなく、一方通行は戦闘開始時点から両足を失っており、最初に会った位置から一歩も移動していないシノンの方に歩み寄った。するとシノンは、彼女からすれば当然の疑問を一方通行に訊ねたが、彼は軽い舌打ちを打って心底面倒そうに答えた
「ンなの俺が知るかよ。そンなにアイツが気になンならテメェで見に行け」
言って一方通行が片足で軽く地面をトン、と踏むと、千切れ飛んだハズのシノンの両足が、瞬く間に生え変わった。突然すぎる足の回復にシノンが驚いているのも束の間、一方通行がもう一度その場で足踏みすると、彼女の体がバネのように起き上がった
「わあああぁぁぁ!?あ、あのねぇ!起こしてくれるなら、普通に手を引っ張って起こすとかないワケ!?他にも私のこと『ブス』呼ばわりしたり、あなた少しは女の子に優しく出来ないの!?」
「男女差別撤廃条約って知ってるかァ?」
「こ、この…!もういい!さっさと行くわよ!」
激昂して次々に問答するシノンに、一方通行はケタケタと笑いながら答えた。そんな彼の飄々とした態度にシノンはわなわなと拳を握りながらも、納得いかないのを承知で空へと飛び上がったが、それに続いて飛んでくる一方通行の姿はなかった
「だから言ってンだろ。そンなにアイツが気になるなら自分で見に行けってな。それに、俺ァどの道もうタイムリミットだ。だからテメェは俺なンか気にせずに行けよ」
「えっ!?そ、そんな…一方通行さんがいないと…私、あんなヤツに敵いっこない……」
シノンがその声に不安の色を滲ませ、地に足を付けている一方通行を見下ろしながら言ったが、彼はポケットに手を突っ込んだままその場を動こうとしなかった。しかし、深いため息の後にガシガシと白い髪を掻き毟った後に、いくらか柔らかい物腰で上空に佇んでいるシノンに言った
「しなくてもいい心配してンじゃねェ。誰もテメェがアイツに勝てるなンざ思ってねェよ。別に俺がいなかろうが、あの三下が…『ヒーロー』が負けるワケねェだろうが」
「・・・ヒーロー…?」
「あのバカにとっちゃ、オマエがそこにいりゃ充分なンだよ。まぁ、俺が言いてェのはそンくらいだ。あばよ。俺は帰ってコーヒーでもかっ食らうわァ」
起き抜けの欠伸を一つして言い残した一方通行の体を、天から伸びてきた青いラインコードが囲った。そしてシノンの眼前を通過しながら、一方通行の体は高速で青いコードラインを遡っていき、段々と細くなっていった青いラインが、僅かな青い粒子を残してアンダーワールドの空の、更に奥へと消えていった
「・・・分かった。ありがとう、一方通行さん」
既にいなくなった一方通行に礼を言って、シノンは北の大地へと視線を戻し、ソルス・アカウントの保有する無限飛行能力を使って飛んだ。彼の言う『ヒーロー』が手にする勝利の瞬間を、その目と、魂と、記憶に、永遠に焼き付ける為に