とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第80話 二人の英雄

「終わったよ、アスナ」

 

 

蓄積した空間神聖力を使い果たした夜空の剣と青薔薇の剣を、キリトはそっと背中の鞘に落とし込んだ。そして、真っ先に最愛の少女の方に振り向くと、口許に微笑みを浮かべながら歩み寄った

 

 

「キリト、くん…キリト君だ。私の大好きな…暖かくて、優しい声だ……!」

 

 

感涙を瞳から溢れさせたアスナは、一思いにキリトの胸元へと飛び込んだ。キリトは彼女の身体を正面から受け止めると、その背中に左手を回して、右手で優しくその髪を撫でた

 

 

「お、終わった途端にコレかよ…まったく、この場をアリスが見たら何を言いますことやら…」

 

「・・・あ、あああーーーーーっ!!!」

 

 

深く、そして熱く抱き合うキリトとアスナを見た上条が後ろ頭を掻きつつ、呆れたように呟いた。すると、それを耳にしたキリトが突然にアスナを抱いていた両手を離して、彼女の身体を自分から引き剥がし、その両肩に手を置いて、アスナの両目を左右に泳ぎまくる視線で見つめて、切羽詰まったように叫んだ

 

 

「ち、ちちち、違うんだアスナ!リーナ先輩やアリスやロニエとは、まったく何にもなかった!ステイシア神に誓って、な~んにもなかったんだ!!」

 

「今やそのステイシア神はアスナさんだけどね」

 

「てか、今挙げた三名のうち二名ここにいるぞ」

 

 

失われた魂も体も完全復活し、二年半に渡るアンダーワールドの記憶も同じく蘇ってきたのか、この仮想世界で密接に関わってきた女性達に関して、キリトは必死の弁明を試みた。そんな彼の物言いに、美琴と上条が言及すると、キリトはたまらず頬を痙攣らせたが、しかしアスナの顔は、ほにゃ、と綻んでいた。ほっそりとした両手で俺の頰を挟み、どこか呆れたような、懐かしむような声で彼女は言った

 

 

「変わってないね、キリトくん。こっちで二年も頑張ってたって言うから、少しは大人になったのかなって、思ったけど………」

 

「・・・俺は俺だよ、変わるわけない。ほんとに…ありがとう、アスナ。傷だらけになってまで、アンダーワールドの人達を守ってくれて…痛かったろうに……」

 

 

何度も深い傷を負ったアスナの身体を労わるように、キリトはもう一度彼女の身体を優しく包み込んだ。もはや完全に二人の世界に入ってしまった彼らに、周りの全員がため息を吐きそうになっていた時、美琴がハッとして叫んだ

 

 

「ってそーよ!キリトさん達の因縁は片付いたかもしれないけど、アンダーワールドのことはちっとも片付いてないわよ!シノンさんはアリスさんを連れ去ったベクタを追ったままだし、私たちも神の右席の事とか結局なんにも……!」

 

「あ、そうだ言ってなかったな。右方のフィアンマなら、みんなのおかげもあって、さっき倒せたんだよ。ほら、そこに倒れて……」

 

 

そこで上条は、キリトとPoHが戦っている間、すっかり放ったらかしになっていたフィアンマの倒れている場所を指差そうとした。しかしそこには、彼の体が影や形はおろか、何の痕跡も残さずに消えて無くなっていた

 

 

「・・・・・あ、れ……?」

 

 

言いようのない違和感と、悪寒が上条の全感覚を支配した。フィアンマの天命が自然に減少して、アンダーワールドを去ったのだとは、理由こそないが考え難かった。嫌な予感がする。上条がそう思った瞬間、意外な声が割り込んできた

 

 

「お兄ちゃん!アスナさん!」

 

「スグ!!」

 

「リーファちゃん!!」

 

 

息も切れ切れに人界守備軍の北側から駆けてきたリーファこと桐ヶ谷直葉は、再会を願い続けた兄の元気そうな姿と、その恋人であるアスナのを見るなり、柔和な微笑みを浮かべた。そして、走り続けて乱れた息を整えながらゆっくりと口を開いた

 

 

「もぉ…本当にここまで来るの大変だったんだからねお兄ちゃん」

 

「ありがとう、スグ。お前も頑張ってくれたんだな。おかげで俺も目が覚めたよ」

 

「うん。ここに来るまでに見つけたアメリカ人のプレイヤー達は、全員あたしが追い払っておいたから……ってそうだ、カミやん君っていたりする?」

 

「・・・え、俺?」

 

 

拭いきれない不信感の正体を必死に考え込んでいたため、上条は実際に声をかけられるまで、リーファがそこにいることに気が付かなかった。するとリーファは、上条のどこか他の抜けた声を聞くなり彼に歩み寄って、腰に手を当てて何かに納得したように息を吐いて言った

 

 

「やっぱり、カミやん君とミコトさん達もこっちに来てたんだ。あたし、アメリカ人のプレイヤー達と戦ってる時に上里君っていう人に会ったの。理屈はよく分からないけど、右手に不思議な力を持ってるみたいだったから、ひょっとしたらカミやん君達の知り合いなのかも…って思ったんだけど、カミやん君もここにいるのを考えると、あたしの勘は正しかったみたいだね」

 

「え?上里はリーファの方を助けに行ってたのか…あぁ。確かにアイツは俺の知り合いだ。帰ったら礼を言っておくよ」

 

 

苦しい戦いだったことに変わりはないだろうが、どこか笑顔で言うリーファを見て、上条もまたフッと笑いかけながら言った。そんな笑顔で会話を交わす中で、フィアンマにかかる不信感は、やはりいらない心配だったかと、上条はホッと息を吐いて気持ちを切り替えようとしたその時、上空から突然青い流星が降り注いだ

 

 

「みんな!無事だったのね!!」

 

「シノン!」

 

 

ソルス・アカウントに付与された無制限飛行の最大速度で南方から飛んできたシノンは、キリト達のすぐ傍に着地した。そして上条は彼女の姿を見て安堵したように胸を撫で下ろすと、そのまま彼女に訊ねた

 

 

「お前が無事でこっちに来てくれたって事は、アリスとベルクーリのおっさんに追いついて、暗黒神ベクタを退治できたってことなんだな?」

 

「それは、その…ごめんなさい。アリスさんは何とか守り抜いて、今も果ての祭壇を目指して進んでる…けど、私がアリスさんと合流した時には、ベルクーリって人は…もう……」

 

「・・・そうか…」

 

 

シノンはその最期を具体的には口にしなかったが、沈んだトーンで切れ切れに言うその声から、上条はベルクーリはもう既にこの世界にはいないのだと悟った。しかし、アリスが無事だというのは、人界最強の剣士が命を費やす最期まで戦った何よりの証だと、垣間見ることは叶わなかった彼の勇姿に思いを馳せようとした時、打って変わってシノンが急いたように叫んだ

 

 

「で、でもっ!今はもうそれどころじゃないわ!元々はベクタだった奴が再ログインした…サトライザーって奴と、私と一方通行さんで戦ったの!だけど、本当に倒し切る寸前でソイツが急に姿を消して、こっちに向かって行ったのよ!!」

 

「・・・・・え?」

 

 

悪寒がした。氷を襟首に突っ込まれたかのような寒気に背筋が凍る。本来であれば出会うことすら叶わなかったハズの、暗黒神ベクタを動かしていたプレイヤーは、シノンの尋常でない焦り具合から鑑みるに、相当の実力を持つ敵だったのだろう。その認識が、更に上条の不安を煽る。そして彼の予感は、より悪い形となって遂にその姿を見せた

 

 

「もう忘れてしまったのかなシノン?私はサトライザーではなく、ガブリエル。いや…その名前も、もう捨てる時かもしれないな」

 

「「「!?!?!?!?!?」」」

 

 

その声は突然だった。人界守備軍の全員が一斉に振り向いて、その声の主を見やる。その視線の先に立っていたのは、異様な存在感を放ってその姿を認識させる、背中に六枚の黒翼を生やした死の天使だった

 

 

「いささか不本意だが、私とて『コイツの力』は認めている。そして、その魂を喰らえば、私は全ての人間の魂を味わうことが出来るのだ……!!」

 

「ーーーーーッ!?」

 

 

死闘の末に勝利し、今も気を失っている右方のフィアンマが、全身を深い闇で覆っているガブリエルの傍にいるのを、上条はその目で捉えた。フィアンマはガブリエルの右手に両足を掴まれ、半ば宙吊りのような状態で囚われていた。やがて死の天使はゆっくりと異様に伸びた右手を持ち上げると、あろうことか。『神の如き者』に向けて、喉笛を唸らせながら大口を開き、その脳味噌に噛み付いた

 

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

 

その光景を目の当たりにした全員が、呆然と口を開けて絶句していた。ガリ、ガリ、ゴリ、バリ、と。聞く者全てが不快感と吐き気を催す陰湿な咀嚼音と共に、人間が人間の胃袋へ丸ごと落ちていく。これまでの激闘が、全て霞んでいくように思えるほどの悪夢だった。そして、ついに足の爪先までフィアンマを食い尽くしたガブリエルは、もはや人のモノですらない顔を醜く歪ませ、苦しそうに呻いた

 

 

「うごっ!?がげっ、あぎょっ!?ぐぅおおおおおおおおおおお……………!?!?」

 

 

しかしその呻きは、時間が経つほどに不気味な微笑みへと変化した。ぐじゅり、と水気を含んだ音と共に、ガブリエルを覆う闇がぐるぐると全身を這い回った。それに伴って、頭上に光る暗黒の光輪もイカれたレコードのように高速で回転し始める。そして彼の体に、人類の誰もが見たことのない変化が…否。『進化』がその片鱗を見せ始めた

 

 

「ふははははははははっっっ!!!ハーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 

ガブリエルの背中に生えた六枚にして三対の翼が、全て抜け落ちた。即座に、彼の右肩甲から新たな翼のような何かが顔を覗かせた。曰く、フィアンマが誇る術式『聖なる右』の『第三の腕』。しかしてガブリエルの背中に生えた腕はその一本だけでなく、左肩甲から第四の腕、そしてそれに追随するように第四、第五、第六……と、先ほどまで生えていた黒翼と同じく計六本、三対を成す『第三の腕』から『第八の腕』までもが顕現した

 

 

「素晴らしい!なんと素晴らしい極上の魂なのか!これが『神の如き者』の力ということなのか!!」

 

 

鋭利な鉤爪を伸ばすその腕達は、かつてフィアンマに従っていた当時の赤色ではなく、ガブリエルを取り巻く闇に飲まれたかのような漆黒に変色していた。そして、ガブリエル本人を覆い尽くしていた粘着質な暗黒のオーラには、その力が順応するように赤黒いラインが溶け合い、より不気味な色合いの体へと変貌を遂げ、虚な闇を蓄えた瞳の中心にある瞳孔が、深紅の輝きを放って瞬いた

 

 

「これならば、もうA.L.I.C.Eなど必要ない!この私こそが…我こそが未来だ!アンダーワールドだけでなく、双方の世界に根差す全ての人間の感情、記憶、心と魂の全てを…今にでも喰らってやるぞ!」

 

 

もはやアレは、天使でも、人間でも、人工フラクトライトですらもない。かつて神が世界に創り出した、命という枠組みにすら当てはまらない、底抜けに邪悪な何かだ。と、かつて学園都市の超能力や、様々な魔術的事象をその目で見てきた上条ですらも、純然たる恐怖を感じていた

 

 

「・・・まだ拳を握れるヤツはいるか?」

 

 

不意に、人界守備軍の輪の中から、段々と宙に浮かび上りながら笑い続けるガブリエルに向かって、シャキィン!という鞘走る音と共に青と黒の長剣を引き抜きつつ、二刀の少年が一歩前へと出た。これが本当の最後にして最大の戦いであることを理解しているからこそ、彼は少しだけ振り向いて、最も信頼を置ける少年へと視線を送った

 

 

「それどう考えても俺のこと名指しにしてるだろ…元から俺もそのつもりだけどな」

 

 

どこか呆れたようで、しかし嬉しそうなため息を吐きつつ、準備運動だと言わんばかりに右肩をぐるりと回して上条は言うと、一歩前に出た二刀の少年の横に並び立った。そんな彼を横目で見つつ、キリトがフッと笑いを溢していると、二人の背後からほとんど同時に少女達の声が聞こえてきた

 

 

「キリト君!私も……!!」

 

「わ、私だって!まだまだ戦え……!!」

 

 

人界守備軍の集団から飛び出そうとしてきたアスナと美琴に、キリトと上条は顔だけを振り向かせて首を振った。その仕草に、少女達が走り出しかけた足を止めると、二人の少年はお互いのパートナーに向けて諭すように言った

 

 

「大丈夫だよ、アスナ。アイツの相手は、俺とカミやんだけで十分だ」

 

「美琴も、そんなに心配そうな顔すんな。この展開は多分、俺がキリトからアンダーワールドの話を聞いた時から決まってたんだ。だから、俺たち二人にケリを付けさせてくれ」

 

 

二人に言われたアスナと美琴は、最初こそ不安の拭えないような表情をしていたが、キリトと上条の強い目を見ると、やがて彼らと同じく真っ直ぐな光を瞳に灯して、力強く頷いてから後方へ下がった

 

 

「お兄ちゃん!カミやん君!頑張って!!」

 

「少しはいいとこ見せてよね」

 

 

テラリアとソルス。リーファとシノンもまた、キリトと上条に激励の言葉を掛けた。すると彼女達の傍から、シリカ、リズベット、クライン、エギルと、四人の仲間達が飛び出して次々に叫ぶように言った

 

 

「キリトさん、カミやんさん!私、二人のこと信じてますから!!」

 

「絶対に負けんじゃないわよ!!」

 

「おう!男なら男らしく、バシッと決めてきやがれってんだ!!」

 

「行ってこい!俺たちが付いてるぞ!!」

 

 

世界を超えて絆を繋げた仲間達が、口々に檄を飛ばした。周囲から集まってきた日本人プレイヤーたち、ALO領主のサクヤやアリシャ、ユージーン、スリーピングナイツのシウネーやジュン、その他多くのプレイヤー達が二人の少年を見守っていた。そして、二人の少年に等しく剣技を授けた先輩と、この戦争の最中で二人の少年に勇気を貰った整合騎士が口を開いた

 

 

「頑張れ。キリト、カミやん。お前達二人はいつまでも…私の自慢の傍付きだ」

 

「・・・初めてお会いした時から、僕には解っていましたよ。キリトさんの二本の剣と、カミやんさんの右手が、必ずや皆を救ってくれると」

 

 

揃って騎士礼をキリトと上条に向けたソルティリーナとレンリは、その出会いに感謝するように言った。遠巻きに並ぶ人界軍の衛士や修道士たちも、一斉に跪いて右拳を胸に当てながら、深く頭を垂れる。そして彼らの中から、頬に滴を伝わせる、赤色と茶色の髪の少女練士達が、涙ながらに叫んだ

 

 

「キリト先輩!カミやん先輩!私…わたしっ!先輩方お二人に、剣術を、生き方を、教わることが出来て、本当に良かったです!」

 

「私も!先輩達と、ユージオ先輩のことが…大好きです!!」

 

 

ロニエとティーゼの言葉に、キリトの左手に握られた青薔薇の剣が、微かに光って、笑ったような気がした。そして、彼ら、彼女らの全てを背負って、キリトと上条は再び最強の敵に向き直った

 

 

「ところでキリト。お前の服、それどう見てもアンダーワールドの装備じゃないよな?」

 

「ん?あぁ、コレか。カミやんなら分かるだろ?強いイマジネーション…心意の応用だよ。俺にとっては、仮想世界だとこの格好の方がしっくり来るんだ」

 

「・・・なるほどね。それじゃあ俺も、最後くらい俺らしい格好で戦おうかな」

 

 

言って、上条は瞳を閉じて意識を集中させた。途端、彼の身に纏う黒い外套の裾が、みるみる内に縮んでいった。丁度腰のあたりで寸尺の止まった裾の服は、同じく黒だが、前見頃が開き、五つの金色のボタンが光る、いわゆる学ランへと変わった

 

 

「っと、こんな感じかな…」

 

 

そして肌着の黒シャツはオレンジ色が基調のポロシャツになり、黒いズボンが中心に折り目のついた黒いスラックスへと変化すると、それに続いて黒いブーツから白いスニーカーへと靴が変わったのを最後に、上条は閉じていた瞼を持ち上げた

 

 

「な、なんだそれ?制服?それも、見た感じ中学か高校の…?カミやんって確か、今年で大学二年だったよな?」

 

「まぁな。でも、これでいいんだよ。お前が『黒の剣士』にこだわるんなら、俺は『どこにでもいる平凡な高校生』にこだわりたい」

 

「・・・そうか」

 

 

今や高校時代の姿に戻った上条が笑いながら言うと、キリトも続いて口許に微笑を浮かべた。右拳を左掌に打ち付けた『ヒーロー』。左手の青薔薇の剣を前に掲げ、右手の夜空の剣を肩に担いだ『英雄』。数多の人々を救ってきた二人の少年は、その長い冒険の旅路の果てに、お互いの横に並び立ち、最後の戦いの幕開けを声高に宣言した

 

 

「「ーーーーーーーーいくぞっ!!!」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ッ!?雨縁!滝刳!止まって!!」

 

 

暗黒神ベクタの魔の手から逃れ、今もダークテリトリーの最南端にあるという果ての祭壇を目指している途中で、アリスはただならぬ悪寒を肌で感じ取るなり、騎竜である雨縁の手綱を強く引き、また彼女のすぐ横を飛んでいる兄竜の滝刳にも静止を指示した

 

 

「・・・この邪悪な心意は、一体…」

 

 

アリスの全感覚を支配するただならぬ悪寒の正体。北側から迸るように伝わってくるそれは、自分を攫った暗黒神ベクタや、一度対峙した右方のフィアンマをも優に上回る底無しの闇を秘めた強力な心意だった。二頭の飛竜を空中でホバリングさせながら、そちらを見やると、10キロル以上も離れているというのに、今にも襲いかかって来そうな悪意をまざまざと感じ、アリスは生唾を呑んだ

 

 

「しかしこれは、まさか…キリトも……!」

 

 

しかし、世界を覆うような暗闇の心意の中で、煌々とした輝きを放つ二つの心意を、アリスは感じ取った。その内の一つは、記憶の中に眠るもう一つの世界で戦いを共にした少年、上条当麻の心意と似通っていることから、それは間違いなく彼の物だと判断できた。そしてもう一つ、久方振りに感じる心意。半年間に渡って心を閉ざし続けていた少年、キリトの心意だと確信した

 

 

「・・・二人とも、どうか強く戦って。私もまた、私の為すべきところを為します!!」

 

 

さればこそ、アリスは二人の少年に背中を強く押されているのを感じた。そして、広大なアンダーワールド全土を守る為に戦わんとしている彼らの勝利を願って、また確信し、自分の進むべき道へと振り向き直した

 

 

「ーーーーーーーーーーいくぞっ!!!」

 

 

もう一度、強い信念をその瞳に宿して、真なる人工知能であるアリスは、二人の少年と同じ言葉を叫んで、飛竜の手綱を打ち鳴らした。彼女の覚悟に応えるように、兄妹竜もまた強く吠え猛り、翼を広げて加速した。それからアリスは、もう二度と振り返ることなく、世界の果てを目指して飛んだ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・姉さま、カミやん、キリト」

 

 

二人の少年が、その魂から心意を迸らせながら叫んだ瞬間、誰よりも愛する三人が、懸命の戦いを繰り広げていることを、セルカは感じ取った。つまり、キリトは再び目覚めたのだ。ユージオを失った悲しみの淵から、もう一度立ち上がったのだ。そしてその隣には、もう一つの世界でユージオと共に戦った少年が、その拳を握っているのだ。やがてセルカは、短い草の上に跪き、両手を胸の前で組み合わせて、そっと眼を閉じ、呟いた

 

 

「・・・ユージオ、お願い。カミやんとキリトを……アリス姉様を、守ってあげて」

 

 

祈りと共に再び見上げた夜空に、青い星がひとつ、ちかっと瞬いた。不意に周囲を見れば、先刻まで中庭で遊び回っていた子供たちが、無言で地面に膝をつき、小さな手を握り締めていた。教会前の広場では商人や主婦たちが。牧場や麦畑では農夫たちが。村役場の執務室ではアリスの父ガスフトが、森の外れではガリッタ老人が祈った。誰一人、恐れおののく者はいなかった。全ての始まりの村、ルーリッド村から、無数の祈りが捧げられたのだった

 

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