「・・・・・・・・・・ここは…?」
ふと、上条当麻は目蓋を持ち上げた。酷く殺風景な空間に、彼は立っていた。遮蔽物の一切ない、全てが真っ白に塗りつぶされた空間だった。青空や太陽はおろか、夜空や月もない。つまりそこは現実では存在し得ない、本当に目に映るものが白一色しかない場所だった
「中々に絶景だな」
そんな景色を前にして、上条の視線の先に一人佇む『男』は言った。身に纏った白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、上条にその背を向けている。ただ白いだけの景色を前にして、何が絶景なのか。そんな疑問を上条が抱く前に、彼の前を一つの泡玉が通り過ぎた。しかしそれはただ一言、泡玉と表現するよりも、子どもの吹くシャボン玉と呼ぶべき物だった
「・・・お前…」
シャボン玉の中にあった物を、上条当麻は見た。彩り鮮やかな魚たちが泳ぐ深海の世界を、そのシャボン玉は内包していた。まるで誰かの夢、遊び心をそのまま閉じ込めたようなシャボン玉は、気づけば周りに数え切れないほど浮かんでいた。その全てを感慨深く眺めて、絶景だと呟けるような『男』と言えば、もはや上条の記憶には一人しか残されていなかった
「茅場晶彦か?」
そう。殺風景な白い空間の中に浮かぶシャボン玉たちは、紛れもない彼の夢と遊び心…そして、人の織りなす可能性の数々だった。雄大な草原、燃え盛る火山地帯、澄み渡る青い海原、妖精の踊る神話の空、銃弾の飛び交う荒野、そして…数多の剣が生きた鋼鉄の城。即ち、これまでの仮想世界と、これから生まれゆく仮想世界の『種子』。その真ん中で、白衣の男は上条の声に振り向いた
「君にとっては久しぶりなのかな、上条当麻君。もっとも、僕にとっては初めましてだが」
その男、茅場晶彦と呼ばれた男は、含みのある微笑と台詞を口にした。上条はその一言で全てを理解した。剣の世界で出会い、戦い、自分よりも強大な敵を前にしても、自分の矜持を捨てずに立ち向かった男がいた。自分にとっても相手にとっても、忘れるはずがないのに、目の前の茅場晶彦は自分とは初対面だと言う。ならば、彼という存在に残された可能性は……
「・・・そうか。お前は茅場晶彦でも、俺たちの世界のSAOじゃなく、キリト達の世界のSAOを作った……」
「その通り。最もここにいる私は、既に実際の生命を持たず、一つのデジタルデータとして仮想世界やネットの波を彷徨う、いわば亡霊のようなものだ」
上条の推察を肯定した後、茅場は肩を竦めながら自嘲するような口振りで言った。いくらか物腰柔らかな雰囲気こそあるが、自分の知る茅場晶彦とは違う彼という人間が、本当はどういう人間なのか上条には分かっている。だからこそ上条は、声色を強張らせながら茅場に言った
「・・・で?そのネットゾンビが一体俺に何の用事があって呼び止めたんだ?俺は今帰る途中なんだ、邪魔するようならぶん殴ってでもテメェの先へ行くぞ」
上条当麻の世界のSAOにいた、アレイスターの思惑に踊らされつつも、最後には自分の背中を押してくれた茅場晶彦ではない。自分の意思でデスゲームを作り出した開発者。およそ4000人を死に追いやった殺人鬼。例えそこにいかな理由があれど、上条は自分の知る茅場晶彦と、目の前にいる茅場晶彦を同列に見ることは出来なかった
「いや、君が身構えるような物騒な用事があるわけではないよ。ただ一度、君と話がしてみたいと思っていたんだ。そう時間は取らせないよ」
「俺は別に、お前に話すべきことに別段の心当たりがあるわけでもねぇ。むしろ、アンタが呼び止めるべき、話をすべきなのはキリトの方だろ。贖罪か土下座でもしたいってんなら、喜んでその襟首引っ掴んでアイツの前に引きずって行ってやる」
「・・・あぁ、それについては重々承知しているよ。その為の誠意は、きちんとこの後で見せるつもりだ。しかしその前に、私はどうしても、異なる二つの世界から織りなされる仮想世界を歩いてきた君に、聞いてみたいことがある」
しかし、上条は決して今の自分をよく見ていないことを、僅かなやり取りの中で、茅場もまた理解していた。故に彼は、今度は自嘲も含みのある言葉も口にしなかった。デジタルデータとしてではく、仮想世界を真に理解しようとする一人の人間として、茅場晶彦は上条当麻と向かい合い、言った
「・・・分かったよ。最初から何でも決めつけてかかるのは良くねぇよな。まぁ、お前が納得のいく解答を俺が言えるかどうかは保証できねぇけど、それでもいいなら聞けよ」
「ありがとう。恩に着るよ」
そんな茅場の精一杯の誠意を見て、根負けと言うよりかは、自分にも非があったことを省みながら、彼の言葉を深い呼吸と共に飲み下し、後ろ頭を掻きつつ上条は言った。すると茅場は、短いお礼のすぐ後に、周囲に浮かぶ仮想世界達を眺めながら、上条に問い掛けた
「上条君は、仮想世界とはなんだと思う?この世界が存在する理由、この世界を人が求める理由。そしてこの世界はこれから先、何を求められ、どう変わっていき、いかに在るべきなのか。それを君がどう思っているのかについて、私は知りたい」
「・・・仮想世界とは何か…仮想世界はこれからどう在るべきか…か。似たようなことを、いつかキリトにも聞かれたな。そん時ははぐらかしちまったけど」
上条にとって、茅場の投げかけた質問が、酷く抽象的に感じたことは、言うまでもない。それは元より解答の用意されていない問題なのもまた、言うまでもない。現に、上条よりもよっぽど仮想世界に理解のあるキリトや茅場ですらも、同じ疑問を抱えているのだ。しかしそれは、自分が解答を持っていなくていい理由にはならない
「・・・最初に断っておく。俺は俺が関わった茅場も、目の前にいるお前も、やっていいこと、正しいことをしたとは思わない。自分以外の誰かの悪意が関わっていようが、何にも変えられない自分の意志や願い、胸を張れるだけの解答を求めていた、なんて理由があったとしても、誰かの命や魂を弄ぶような真似をしていいワケがない。そこに仮想世界や、現実世界なんて舞台は関係ねぇ」
だから上条当麻は、数多の仮想世界を渡り歩き、様々な人と関わりながら、言葉にできるだけの解答を、自分の心に見つけた。ならば後は、それを突き通すだけだ。きっとその第一歩が、この茅場晶彦との対話なのだと、上条当麻は理解していた
「だけど、それは俺も同じだった。何が正しくて、何が間違ってるかなんて、誰にも分からない。アンダーワールドで戦う中で、考えさせられた。俺のやってきたことは、とても手放しには褒められたモンじゃない。今日までの俺に足りなかったのは、自分の中にある選択肢と、後悔の残らない答えだったんだ」
「今までそんなことも分からないどころか、考えようともしなかった程には、俺はバカだからな。こんな大それた悩みなんか、解消できるわけがなかった」
今度は反対に、上条の方が自嘲するようにため息を吐き出す。そんな彼の様子を見ながら、茅場はただ黙って聞き入っていた。けれどその瞬間、上条の口調は柔らかく変わり、その口元には微笑みが浮かんだ
「だけどそんな俺を助けてくれたのは、今まで出会ってきた皆だった。親しい仲間とか、現実世界だけじゃない。仮想世界で出会ったプレイヤーの皆や、VRMMOのNPC、アンダーワールドの人工フラクトライト達。俺が関わってきた全ての人が、教えてくれた」
白い背景の中に浮かぶいくつもの種子を、上条当麻は仰いだ。限られた視界の中に広がった、無数の可能性の中に、自分の右手を掲げる。その右手が守ってきたものに変わりはないが、とても全てが収まりそうにはない。故に、収まり切らないからこそ、その右手が持つ力では打ち消しきれないからこそ、上条当麻の魂に伝わってくるものがあったのだ
「何も悩むことなんかなかったんだよ。一人で全部背負わなくても、一人で答えを探す必要もなかったんだ。それがたとえ世界にとっては間違いだとしても、自分のため、誰かの為になるなら、立ち上がっていいんだ。答えや結果なんてものは、その後で勝手に付いてくる。それが俺にとっては今日だったってだけでさ」
「答えや選択肢なんて、どれだけあってもいいんだ。現実世界に生きる人としての答え、仮想世界に生きるプレイヤーとしての選択肢、その全てが正解なんだよ。だってそこには、必ず誰かの意志が、誰かと繋がっていられる嬉しさが、きっとあるはずだからな」
「だったら、そんな選択肢や解答、可能性の一つとして、遠く離れた場所、違った世界に生きる人やプレイヤー、アリスみたいな新しい存在を繋ぐ架け橋として、仮想世界っていう場所が、これからも在るべきなんだと、俺は思う」
そして、上条当麻の解答は締め括られた。言ってて少し恥ずかしくなったのか、上条は掲げていた右手を下げて、痒くもない鼻頭を擦った。けれど、恥ずかしいというよりは、照れているようだった。その表情には、晴れやかで暖かな、多くの人の幸せが染み渡っているかのような笑顔があった。今まで不幸だったが故に、そんな顔をするのが慣れていないだけのことだった
「・・・選択肢や解答、可能性の一つ…か」
「ま、お前もそんな小難しいことばっか考えたり、肩肘張ったりせずに、もっと気楽にやった方がいいと思うぜ。VRMMOないし、ゲームは楽しくやらなくっちゃな。下手に命なんか賭けずに、昼飯のおかず、放課後のジュース一本、好きな人にどっちが先に告白するかとか…何かを賭けるってんなら、それくらいが丁度いい」
「ふっ…中々どうして私への皮肉は鋭いな。君という人は」
肩の力を抜き、一つ息を置いて上条が言うと、茅場はまるで彼とは旧知の仲であるかのように、鼻先で笑って呟いた。そんなやり取りがどこか不思議に思えたのか、上条は意識よりも先にもう一度進んで口を開いた
「だけど、奇妙なモンだな。選択肢や可能性なんていくらでもあるなんて言った手前、お前はどっちの世界でも変わらずにSAO作って、プレイヤーだった俺たちの前に出てくるなんて…やっぱキリトの世界にも、どっかに隠れてるだけで、魔術師の暗躍とか、学園都市の建設計画とか、極秘で能力開発とか進んでるんじゃねぇのか?」
「ははっ、いやないよ。君の言葉を借りるなら、そもそも世界なんて幾つでもあって、その中の二つを見てみたら、たまたま私という人間は似通っていただけかもしれない。ひょっとしたら私の生きていた現実にも、右手になんの力も持たない、正真正銘どこにでもいる平凡な少年の君が。そして君の住む現実にも、黒の英雄になることがなかった、普通の少年として過ごしている『鳴坂和人』君がいるかもしれない」
「・・・?鳴坂和人…?誰だそれ?」
「気にしないでくれ。こちらの話だ」
もはや上条には知る由もない誰かの名前を意味深に告げた茅場は、少しだけ面白そうに口許に笑みを浮かべた。そしてその表情が戻った頃に、茅場は白一面の背景に溶けていくように白衣を翻した
「さて、私はもう行くよ。やり残したことがあるのでね。願わくば、上条君の世界に生まれ落ちる仮想世界が、多くの人々で賑わい、アリスのようないずれ生まれゆく新たな存在とを繋ぎ、更なる夢と希望を与え、その未来が色付いていくことを、電子の波を彷徨う亡霊として…影ながら祈っているよ」
「・・・あぁ。俺もそんな世界が実現できるように、これから頑張っていくよ」
言って、上条もまた踵を返した。向かい合ったのは出題者の白衣と、解答者の学ランだけだった。もう二度と出会うことはないであろう二人の視線の先には、それぞれにしか見えない景色と世界が、待っている
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「気分はどうだい?」
「・・・まぁ、ボチボチですかね」
「そう言える程度には元気だと受け取っておくよ」
目覚めた時、上条の意識に最初に潜り込んできたのは、猛烈な倦怠感と、開け放たれた窓から差し込む朝焼け。そして、見慣れた病院の天井だった。もはや昔は常連になりつつあった病室のベッドの横に立っていたのは、2年越しに顔を見るが故に懐かしさすら覚えるカエル顔の医者だった
「えっと…美琴と詩乃はいないんですか?聞くところによると、アイツらもこの病院からアンダーワールドにログインしたって……」
「貴様が彼女たちと一緒に起きれるわけないでしょ。健康体そのもので入ったあの二人と違って、貴様は撃たれた状態でSTLに頭突っ込んでたんだから」
「・・・吹寄…」
その声を聞いてから、上条は冥土帰しの隣に、今自分が病院にいるそもそもの原因を作った少女が座っていたことに気づいた。吹寄は口調こそどこか皮肉めいたものがあったが、その顔は上条に取るべき態度を見失っているかのように暗く、唇の端を絞りながら俯いていた
「・・・ごめんなさい、上条。私は自分のしたことがいかに愚かで最低だったか、もう分かってるわ」
「僕もだ、上条当麻君。どれだけの理由と大義名分があったとしても、君個人の意志を尊重しないにもほどがあったね。最悪の場合、僕の患者の一人でもある君の命を、失ってしまうところだった。全ては僕の浅はかさと、認識の甘さの問題だね。心から謝罪させてほしい」
吹寄が俯いていた顔を、それこそ膝にくっつくほど下げて謝罪の言葉を述べると、続いて冥土帰しも自分の非を口にして深々と頭を下げた。二人からいっぺんに頭を下げられた上条はどうにもいたたまれなくなり、まだ起き抜けで重だるい上体をなんとか起こし、少し震える口をどうにか動かして言った
「や、やめてくれよ…そんな先生まで。事情は大方、美琴あたりから聞いてるんでしょう?結局アリスはこっちには連れて来れなかったし、なんだったら今回の件は、最初にキリトの世界からSTLの技術を学究会でひけらかした俺に責任があるんだ。だから二人が俺に謝ってもらう必要なんてどこにも……」
「だけどっ!!!」
病院内であるにも関わらず、吹寄は声を荒げた。彼女の急な叫び声に上条が思わず肩を浮かせていると、次の瞬間には泣き腫らして目元を真っ赤にした顔を上げた吹寄が、まるで自分の心を締め付けるように、胸元で拳を握りしめたまま上条に言った
「私は御坂さんに、貴様が…上条が、許すまで謝ってくれって言われた。彼女にも言ったけど、そこにどんな経緯があれ、私が上条を撃ったことに変わりはないし、これだけのことをしておいて、今さら許してくれなんて虫のいいことを言うつもりはない。だから、私に出来ることなんて…もう、謝ることくらい…しか……」
「・・・あ〜…まぁ確かに言われてみりゃ、まぁまぁ痛かったなぁ。そりゃあ吹寄さんだって撃ちたくはなかったんでしょうけども?なんせ上条さんは二発も撃たれてるわけで、一発は俺にも責任があるから見逃すとしても、二発目はちょっと考えるよなぁ〜」
「ご、ごめ……」
「だからさ。二発目も帳消しにできるだけの、俺のワガママを聞いてくれねぇかな?」
「・・・ぇ?」
実にしおらしく涙を溢れさせながら謝る吹寄に、上条は何を思ったのか少し間を置いて後頭を掻きながらら少し大きめのため息を吐き出すと、わざとらしい口調で言った。彼の言葉に吹寄が、もはや泣き過ぎてカラカラになった喉をどうにか鳴らしてもう一度謝ろうとすると、その言葉が口から出る前に彼女の頭を優しく撫でながら上条が笑って言った
「色々あってさ、高校の同窓会やりたくなったんだよ。だけど俺、高校生活ほとんど寝たきりだったから、みんなの連絡先とか全然知らなくてさ。だから吹寄が、同窓会の幹事やってくれよ」
「ーーー!!!」
「もちろん、俺の分のお代は吹寄持ちでな」
「・・・うん…うん。ありがと、本当に…ありがとう、上条…!」
へへっ、と。上条は悪戯っぽく笑うと、吹寄の目元の涙を掬って、もう一つだけワガママを付け加えた。そして、あくまでも自分を許そうとしてくれる彼の優しさに、吹寄は胸がいっぱいになってしまった
「それと先生。先生を悩ませてる脳腫瘍ってのが、どんな具合なのか俺には分からない。だけどいくら自分の腕に自信があるからって、自分で手術できないのを理由に諦めるのは良くねぇよ。たまには先生が患者になるのだって悪くない。その後の先生には、助けられる患者が山ほどいると思う」
「・・・・・なっはっは。まさか自分の患者に諭される日が来るとはねぇ。だけどもし、そうすることで君の許しが得られるというのなら、僕も僕なりに、最後まで足掻いてみることにするんだね」
吹寄から視線を移した上条が言うと、微笑みとも苦笑いとも取れる表情を浮かべながら、冥土帰しは件の脳腫瘍がある頭を、数多の患者を救ってきた右手でコツンと叩いた
「はぁ〜…しかし、時間加速したりしなかったりはあっても、アンダーワールドに約二年間いたのが、現実だと一週間とちょっとか。いやぁ、こんなことなら少しくらい向こうで勉強して帰ってくれば良かったなぁ。そしたら今ごろ、大学の課題なんて屁でもないくらい頭良くなって帰ってこれたのかもしれないってのに」
「・・・えっと…その大学の話なんだけどね上条。実はもう一つ、謝らないといけないことがあって……」
自分の思うところを全て吐き出し、現実にして一週間の寝たきり生活ですっかり鈍った体を伸ばすと、最後に現実の記憶がある月日からページの変わっていないカレンダーを見て、上条は少しばかりの愚痴を口にした。しかしそんな彼らしい軽い愚痴を聞いた吹寄は、『大学』という単語にピクリと反応した後に、実にバツが悪そうに口を開いた
「あ?なんだよ、別にもう何が起きてもそんな気にしねぇぜ俺は」
「え、えっとね。その…大学の講義の出席について…私もここ最近はずっとこの病院に缶詰めになってたから、友達とか色んなツテに頼んで、私の分と上条の分の出席を代返してもらってたんだけど…」
「えっ!マジかよ!?やった!そこに関しちゃあアンダーワールドにいる途中で気付いたけど、正直諦めてたんだ!助かったぜ!」
「う、ううん。むしろ代返してたことに問題があって……」
「・・・ん?」
両手の人差し指の先端を合わせ、視線を泳がせながらモジモジと話す吹寄の話す事情に、「大学生の大多数がやっているであろう代返に何の問題があるのか」とでも言うように上条が首を傾げていると、吹寄の表情が明確な苦笑いに変化した
「学究会の発表の後の質問事項って、発表者が多いから後日メールで本人に聞けって対応だったじゃない?それでまぁ、実際に発表した後の出席者の反応を見てる貴様なら言わずもがななんだろうけど、それはもう大量に学生はおろか先生からも質問のメールが届いたのよ。まぁでも、そんなの返信できるワケないわよね。上条はこの一週間、手術して病床につくのを片手間に、アンダーワールドに行ったんであって」
「・・・・・・・・・」
「だけどそれは、私たちが事の顛末を完壁に隠蔽した後のことなのよ。表向きだと上条は今も元気に大学に通ってることになってるわけ…だってのに何日か経っても質問の返事が来ないことについて、続々と関係各所から苦情が来たらしくて…私もこの病院でするべき後片付けが終わって、大学にちゃんと通い始めた昨日、大学が上条の大捜索をしてるって話を聞いたの…」
「・・・・・・うふ」
「それで、そんなの上条が履修してる科目調べて、出席見れば一発で見つかるでしょ?そしたら代返の効果もよろしく、ちゃんと出席した事になってるのに、本人の姿は大学内に影も形もない……」
「うふ、うふふ…うふふふ……!!」
もはや吹寄に言われるまでもなく、その話の展開どころかオチすらも容易に想像できた上条は、唇の端を痙攣させながら、不気味さの中に悲壮感が漂う笑いを漏らしいた。そしてそんな彼の予想したオチの通りに、吹寄の怪談は最高潮を迎えた
「さぁ、これは流石にヤバいと思った私は、内心悪いとは思いながらも、この病院にいる御坂さんの妹さんの協力を仰いで、大学のシステムをハッキングして上条が大学のパソコンで使ってるアドレスのメールBOXを開いたの。するとその先頭には、他校の生徒の質問で使われているであろう見慣れないアドレスではなく、大学のアドレスからのメールがあったの。何でかしらと思ってメールを開いてみると、そこには……」
「『上条君へ。このメッセージを読んだら、すぐに学長室へ来なさい。然るべき弁明をしてもらった後に、然るべき処分が君を待っています』…って…」
「不幸だーーーっ!!!」
こうして。現実世界に戻ってきた上条当麻は、元気いっぱいにお約束の悲鳴を上げた。その後彼は、理事長や学長を始めとした大学の重鎮たちにこってりと絞られるも、大学内で起こった金本敦との悶着を盛りに盛り、冥土帰しに偽造してもらった入院履歴を証拠に、どうにかして事態を誤魔化そうと奔走するのだった