とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第19話 学院最強の男

 

「げっ、コイツもう天命尽きそうじゃねぇか。やっぱ安モンはダメだな……」

 

 

リーナと最後の立ち会いを終え、最高の剣を見せると約束した翌日の昼頃、上条は安息日にもかかわらず学院の中庭で、木剣ではない鉄で作られた両刃の鉄剣を振っていた

 

 

「やっぱ素直にユージオから青薔薇の剣を借りとくんだったかな…でももし仮にここで練習してんのがバレたら、俺に剣を貸したユージオまで怒られそうだからな…それはちょっと後味が悪すぎる」

 

 

上条が手にしているのは、鉄で出来た剣とは言っても、神器ではないかと疑われる青薔薇の剣とは、値段も、要求されるコントロール権限も段違いの、街の武具屋で気軽に買える剣だった。しかし値段が値段故に、中古なのか新品なのか分からないほどステイシアの窓に示されている天命は青薔薇の剣とは比べ物にならないほど低く、自分の貧乏さを愚痴る他なかった

 

 

「俺のオブジェクトコントロール権限だってそれなりに上がったってーのに、肝心の得物がこれじゃあなぁ…」

 

 

上条はため息混じりに呟くと、中庭の芝生にドサッと勢いよく腰を下ろして座り込んだ。そして右手を剣に添えて意識を集中させると、慣れた口調で神聖術の起句に続いて式句を唱えた

 

 

「システム・コール。ジェネレート・メタリック・エレメント」

 

 

それは『素因』を発生させる神聖術の一つだった。上条の唱えた神聖術はアンダーワールドの要所で発生する『空間神聖力』から、鉄と同質の『鋼素』を生成する術だった。それを唱えた上条の右手に白銀の色合いの光が集中すると、ボロボロだった鉄剣の刃毀れや錆がいくらかマシになり、僅かながら光沢を取り戻した

 

 

「これでよし。まぁしばらくの誤魔化しにしかならんけど。『システムコントロール権限』がオブジェクトコントロール権限と同じだったら、もっと高位の術使えんだけどなぁ…まぁどっちにしろ剣を生成するのは無理だろうけど…」

 

 

上条の言うシステムコントロール権限、ステイシアの窓に記載される己のステータスの三段目にある『System Control Autholity』という項目が、扱える神聖樹の範囲を示した値であることに気づいたのは、上条とユージオが衛士隊にいた時の事だった

 

 

「まぁ、魔術やら能力やら、果ては仮想世界の魔法すらも無縁だった俺にとっては、神聖術が使えるだけ儲けモンか。流派につき一つの秘奥義も、俺とユージオのアインクラッド流には6つもある訳だし…まぁ俺が6つしか再現出来てないだけだが…」

 

 

約一年前、衛士隊から学院へ推薦してもらえると知った上条とユージオは、来たる入学試験に向けて二人でもっぱら独自で神聖樹の習得に励んでいた。そこで上条が最も驚いたのは『自分に神聖術が扱える』ということだった。しかし、全てが使えるわけではないと分かるや、このシステムコントロール権限が神聖術に影響する値なのだと分かるのに、そう時間はかからなかった

 

 

「・・・神聖術が異能の力なのか、システム的なものなのかついぞ分からないままだけど、特に恩恵がないのも鑑みるに、多分この右手もただの右手なんだろうなぁ…まぁそうでやきゃ神聖術も使えねぇだろうし。あんだけ疎ましかったのに、なきゃないで少し寂しいモンだ。いっそのこと、ここも『修剣学院』じゃなくて『修拳学院』になんねぇかなぁ…」

 

 

などと下らないダジャレを言いながらため息を吐くと、上条自身のアイデンティティーを失った、正真正銘『ただの右手』をソルスに翳しながら、雲の流れていく蒼穹を仰いだ

 

 

「この世界にも…もう丸2年いんのか。SAOん時より実感わかねぇなぁ…これで最悪FLAが働いてなかったら、俺はまた二年分も歳食ってんのか?頼むからから留年だけは勘弁願いたいぜ……」

 

 

普通であればまた二年間も仮想世界に閉じ込められていれば死にものぐるいで現実に戻る方法を模索するのだろうが、上条はそうしていなかった。最初こそ戻る方法をあれこれ考えていたのだが、このアンダーワールドに自分がログインさせられた目的すらも分からず、プレイヤーの仮想世界の体感時間のみを加速させるフラクトライト・アクセラレーションが機能していることのみを願って現在に至っている

 

 

「いっそのこと、ギガスシダー切り倒したらエンディングで良かったんじゃねぇの運営さんよ?それとも何か?央都に連れてかれて処刑されたはずだったアリスが実は生きてて、ユージオと運命の再会を果たしてやれば幕引き?いっそのことカミやんさんが剣舞大会、果ては四帝国統一大会で優勝して整合騎士とやらになって、ダークテリトリーの魔物を倒せばジ・エンド?剣の才能がイマイチの俺にそんなのは酷だぜ…」

 

 

今思えば、SAOはまだ100層攻略という具体的な目標があるだけマシだったのかもしれないと上条は思い始めていた。何にせよ今自分は出口が本当にあるのか分からない迷路に、丸2年もいるのだ。SAOは安全圏を超えれば常に『死』と隣り合わせだったが、そうではないこの世界でいつの間にやら危機感が薄れていっているのは、上条自身も分かっていた

 

 

「ま、愚痴ってても仕方ねぇわな。今出来ることを精一杯やればいいって結論出したんだ。ひょっとしたらリーナ先輩に四連撃ソードスキル見せたら大団円…ってまぁそりゃないかもしれんが、ここで完成させれば思わぬご利益があるかもしれねぇしな。どれ、もう一踏ん張り…」

 

「ほぅ、安息日まで剣を振るうとは感心なことだな」

 

「はい?げぇっ!?」

 

 

上条は声のする方へ振り向くなり、すぐさま剣を下ろして跪き、頭を下げた。それもそのはず、彼に声をかけたのは、学院に12人しかいない上級修剣士の主席、『ウォロ・リーバンテイン』その人だったからだ

 

 

「も、申し訳ありませんリーバンテイン修剣士殿!我が非礼なる行い、伏して謝罪致します!我が剣の才は凡人の域を出ることがなく、しかしてそれを理由に学院則違反である、安息日に剣を振るという行為は…その!」

 

「お前は確か…セルルトの傍付きだったな?」

 

「は、はい!カミやん初等練士であります!」

 

「そうか…」

 

 

安息日に剣を振るなど、『懲罰権』を持つ上級修剣士にバレれば懲罰は避けられないだろう。上条は頭を伏せながら腹を決め、どんな懲罰を言い渡されるものかとウォロの次の言葉を待った

 

 

「なに、伏して謝罪するほどのものではない」

 

「・・・はい?」

 

 

我ながら間の抜けた声だと上条は自分で思った。しかし、予想していたものとは余りにも異なった内容の台詞が飛び出し、どうしたものかと呆けてしまった

 

 

「安息日にまでひと目に隠れて剣の稽古をするという、その姿勢は嫌いではない。それ自体が学院則違反ではあるが、あれこれ理由をつけて安息日にも剣を握ろうとするのは、お前だけではないということだ」

 

「・・・えと、それはつまり…ウォロ首席殿も?」

 

「だが、ここは私が先に見つけた場所だ。卒業後は私の傍付きに譲る約束をしたのでな。お前は他の場所を探すことだ」

 

 

そう言って唇の端を綻ばせるウォロは、上条の瞳には五割増しでイケメンに映っていた。そんな彼に失礼はすまいと、上条は肩の力を抜いて満面の笑みで顔を上げた

 

 

「は、はい!それはもちろんです!寛大なご処置、ありがとうごz……」

 

「待て、礼を言うのは早いぞカミやん練士」

 

「・・・へ?」

 

「私は安息日に剣を振るうその姿勢は嫌いではない、とは言ったが一言も『不問に付す』とは言っていないぞ」

 

(不幸だ……)

 

 

やっぱりそんな美味い話があるわけないか…と心の中で特大の溜息をつき、改めて懲罰を言い渡される腹を決めるのと同時に、リーナへの約束を果たせない心苦しさを覚えた

 

 

「し、失礼致しました。どんな懲罰でも甘んじて受けると、この心に誓います」

 

「良い心がけだ。ではカミやん初等練士。懲罰は私との立ち合い一本だ。木剣ではなく、その実剣を使うといい。私もこの剣を使う」

 

 

ウォロは地面に置かれた上条の安物の剣を指差すと、続いて自分の腰に刺した長剣の柄を二、三度叩いて言った。その言葉の意味を理解するなり、上条は喉を鳴らして口を開いた

 

 

「わ、分かりました。俺も懲罰を受ける身ですから…一つお手柔らかにお願い致します」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「リーバンテイン殿!これはどういうことだ!」

 

 

夕暮れに差し替かった大修練場に、一際張りのある声が響いた。上条とウォロの立ち合いは、いつの間にやら学院全体に知れ渡り、大修練場は学院生で大賑わい。その事態を聞きつけた上条の指導性であるリーナが、ウォロを凛とした視線で問いただしていた

 

 

「見ての通りだセルルト殿。そなたの傍付きに、ちょっとした逸礼行為があってね。安息日に大仰な懲罰を科すのもどうかと思ったので、立ち合い一本で済ませるつもりだ」

 

 

その台詞にリーナは軽く唇を噛み、周りの院生からどよめきが起こった。そして試合場で未だに現実を直視しきれずにグルグルと観覧席を見上げる上条に、背後からユージオが声をかけた

 

 

「ちょ、ちょっとカミやん!これどういうこと!?一体全体なにやらかしたのさ!?」

 

「あ、あぁ…リーナ先輩に見せる予定だった技の練習してたらウォロ先輩に見つかって…気づいたらこうなってた……」

 

「み、見つかったって…はぁ〜。考えてみれば不幸の伝道師のカミやんが、この一年大事を起こしてなかった方が奇跡か…」

 

「自分でもそう思いますよ、ええ…」

 

 

もはやこの二年間でカミやんの不幸ぶりを知ったユージオは、もはや何の疑問を持つこともなく、二人してこの事態にため息をついていると、未だ血相が優れないリーナが上条へ声をかけた

 

 

「カミやん、立ち合いの『決め』はどうなっている?」

 

「え?そりゃ実剣での立ち合いな訳ですし、当然に寸止めだと…」

 

「あぁ、言い忘れていたな」

 

 

リーナが上条に言った『決め』とは、いわゆる取り決めのことだった。この学院では原則としては寸止めだが、双方が合意すれば初撃決着、打ち込みが一本入れば終了という決まりもある。それを問われた上条は、さも当然のことのように答えたが、それに対してウォロが口を挟んだ

 

 

「私は寸止めの立ち合いはしないのだ。太刀筋を鈍らせるだけだからな。院則で決まっている検定戦は仕方なく寸止めしているが、個人的な試合は全て一本先取を決めにしている」

 

「ええっ!?」

 

「焦るなカミやん。実剣の一本先取は例え懲罰権を持つ上級修剣士でも、双方の合意が必要不可欠だ。お前が断りさえすれば、奴とて無理強いは出来ない」

 

「そうとも。選択は君に委ねよう、カミやん練士」

 

「・・・えっと…じゃあ一つ質問いいですか?」

 

 

最悪の事態を予見した上条だったが、その言葉を聞いて少しだけ安堵した。しかし、そのままあっさりと引き下がっては、今も観覧席で汚い笑いを浮かべているウンベールやライオスといった、坊ちゃん連中に何と言われるか分からない。特に気にしないようにと思ってはいたのだが、流石にこのままではカッコつかなすぎると、意を決して言った

 

 

「許そう。なんなりと申してみるといい」

 

「な、なんでまた俺なんかと立ち合いを?こう言ってはなんですが、首席ほどのお方であれば、俺の剣の腕やら諸々の評判は少なからず耳に入っているのではないかと…懲罰といえど、なぜこのような立ち合いを求めるんですか?それも実剣で…」

 

「なに、単純な興味だよ。上級修剣士の間で、事あるごとリーナがお前の話をすると話題になっていたものでな」

 

「えぇ!?ちょっ!?リーバンテイン殿!」

 

「・・・?リーナ先輩が?俺の話を?」

 

 

ツンツン頭の上にいくつも?マークを浮かべる上条の後ろで、リーナはその顔を真っ赤に紅潮させ、ウォロを睨みつけながらワナワナと震えていた。そして観覧席でその様子を見ていた数人の女子が、ヒソヒソと耳打ちしながらピンク色の空間を発生させていたが、上条本人には知る由もなかった

 

 

「あぁ。寮の食堂で友人達に『私の傍付きは剣の才能はないがすごい。マトモにやれば一本取るのすら難しい』だとか、修練や立ち合いで納得いかなければ、修練場の端の方で『今のはカミやんだったらもっと上手くやれていた。私もまだまだ詰めが甘い…』と呟く程度にはな。私に次ぐ位置に席を置くセルルト殿に、そこまで言わしめる君という剣士の腕を、一度拝見したいと常々思っていた」

 

「ウォロォォォッ!!!」

 

 

羞恥心が限界に達したリーナは最早ウォロを呼び捨てにし、頬どころか首元まで赤くして恥ずかしさと怒りを露わにしていた。観覧席からは女子の黄色い声と、男子の舌打ちとブーイングが入り混じっており、大修練場はもはや混沌に包まれていた。しかし、上条はそんな周りの雑音など耳に入れず、ウォロの目を見据えて答えた

 

 

「・・・分かりました。そういうことであればその立ち合い、慎んでお受け致します。もちろん寸止めではなく、一本先取で」

 

「その言葉を期待していたよ」

 

「か、カミやん!本気なのか!?」

 

「大丈夫ですよ、リーナ先輩。それに、ウォロ先輩はリーナ先輩の評判聞いて俺に立ち合いを挑んで来てるんですから、ここで腰引いてたんじゃ、俺の指導生やってるリーナ先輩のメンツが立ちませんって」

 

「カミやん……」

 

 

心配そうな顔で見つめるリーナに対して上条は笑いながらサムズアップしてみせると、リーナも彼に頷いて不安の表情を取り払い、神妙な面持ちで告げた

 

 

「カミやん、私はお前を信じる。信じるが故に教えておく。帝国騎士団剣術指南役たるリーバンテイン家には、秘めたる家訓があるのだ。『剣を強者の血に塗らせ。されば強さは我が物とならん』…という家訓がな」

 

「・・・そりゃまたなんとも物騒な家訓ですことで」

 

「そうだ。ウォロは入学以前から、私領地で実剣による一本先取勝負を幾度となく行っているはずだ。その経験が、奴の恐るべき剛剣を生み出している。そして奴は…お前の剣力をも血に変えて吸い取り、糧とするつもりだ」

 

「やっぱり強さの鍵は『イメージの力』…ってことか…」

 

「・・・?」

 

 

上条の呟きに対し、リーナは首を傾げていた。上条はこの世界で垣間見れる『強さ』に、ある程度の目星を付けていた。それこそが呟きの中にあった『イメージの力』だった

 

 

(リーナ先輩の強さの理由は、『幼い頃から剣の英才教育を受けてきた負けないという自信』。だけど同時に、技が多彩すぎて公式試合向けじゃないセルルト流は『正統剣術を禁じられた傍流』だ…ってイメージが剣を縛っちまってる。それがウォロ先輩のイメージの場合は『剣に強敵の血を吸わせれば吸わせるほど強くなる』ってことか)

 

(まぁ、成るように成るだろ。こんなことならもっと学園都市で『自分だけの現実』の勉強でもしとくんだったかなぁ…)

 

 

上条はこのアンダーワールドの世界の強さの基準をイメージ、ひいては心の在り方による強さだと予想していた。しかし、それに気づいたところでそれをどう体現すればいいのか分からず、予想するばかりで実践には至っていなかった

 

 

「繰り返すがカミやん、私はお前を信じている。お前は私がこの一年、手塩にかけた後輩だ。あやつに容易く喰われるような生半な剣士に育てた覚えはない、とな」

 

「リーナ先輩…」

 

「それに昨日私にした約束、忘れたとは言わせないぞ」

 

「・・・そうでした。俺の最高の技を先輩に見せると約束しましたからね」

 

「ならば状況は少し変わってしまったが、ここで見せてくれカミやん。お前の持つ全てをここで解き放ち、北セントリア帝立修剣学院現首席、ウォロ・リーバンテインに勝て!」

 

「はいっ!」

 

 

今の事態はその約束によって起こってしまったのも一因ではあるが、一年間世話を焼いてくれたリーナにそこまで言われては、そんな無粋なことを言う気にはなれず、上条はただ深く頷いてその期待に答えると誓った

 

 

「そろそろいいかな、カミやん練士」

 

「すみません、お待たせ致しました」

 

「ではセルルト上級修剣士、立会人を引き受けてもらえないか?」

 

「・・・分かった。リーバンテイン上級修剣士とカミやん初等練士による一本先取の手合わせを、これより始める!」

 

 

リーナが凛とした声で宣言すると、大修練場に集まった院生は盛大な歓声と拍手で、試合場の開始戦へと踏み込んだウォロと上条を出迎えた

 

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