とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第22話 姉妹

 

「あら御坂さん、こんにちは。今日はお一人ですか?」

 

 

その日、御坂は度々世話になっている第七学区の病院を訪れていた。最近ではもっぱら妹達の様子を見に来るか、入院している子どもの遊び相手をしている上条と吹寄にちょっかいを出しに病院に顔を出していた

 

 

「ええ、まぁ。大した用事がある訳じゃないので」

 

「それにしては随分とお早いんですね?まだ受付が始まってから10分と経っていませんが…今日は学校の授業の方は?」

 

 

この病院では防犯上の理由で、患者でない人間は必ず受付で必要書類を記入し、許可証を首から下げなければならない。その受付が始まるのが午前10時からという、学園都市の健全な学生ならば、所属する学校で授業を受けている真っ最中であるのに、この日の御坂美琴は例外であった

 

 

「えっと、それが学校側からのお達しもあって来たんです。ゲコ…じゃなかった。カエル顔の先生にお話があって…」

 

「あぁ、あの先生ね。この時間だと…まだ回診の途中かしら?少し時間がかかるけど、大丈夫?」

 

「はい、大丈夫です。適当にその辺ぶらついてますから」

 

 

美琴はそう言うと書き終えた書類を差し出し、代わりに許可証を受け取って顔見知りだった受付嬢にヒラヒラと手を振って病院の廊下へと向かい、階段で三階へと上がった

 

 

「・・・・・」

 

 

ツカツカと渡り廊下を歩き、中央棟から連絡橋を渡り、入院病棟へと入った美琴の表情は尋常なものではなかった。すれ違う人のほとんどが、彼女の悪鬼羅刹のような表情を見た自分の目を疑ったことだろう。そして彼女の歩いている廊下の向こう側には、自分と瓜二つの顔をした、暗視ゴーグルがトレードマークの少女の姿があった

 

 

「・・・?お姉様?一体なんの御用ですか?と、ミサ……」

 

 

10032号という識別番号を持つ彼女のやたら長い口癖に構うことなく、美琴は彼女の腕を強引に引っ張りながら廊下を通り過ぎ、階段を上がった。そして人気のない屋上手前の踊り場に出ると、美琴は有無を言わさずミサカ10032号の襟首に勢いよく掴みかかり、コンクリートの壁にその身体を押し付けた

 

 

「いい?真剣に答えて。嘘ついたら例えアンタと言えど容赦は出来ない。アイツは今、どこにいるの?」

 

「アイツ…と指示語で呼ばれても誰のことだか。と、ミサカは……」

 

「しらばっくれんな!!!」

 

 

ビシィッ!と床に敷かれた緑色のタイルに紫電が迸った。美琴は悪鬼の表情のまま、自ら妹と認めた彼女にはおよそ向けていいとは思えないほどの強烈な電撃を、抑えきれない感情の昂りと共に吹き出した

 

 

「ふーっ…ふーっ…ふーっ…」

 

「・・・なぜお姉様は、ミサカにあの人の居場所を問い詰めるのですか?と、ミサカは質問します」

 

 

激情のあまり、瞳を潤わせながら肩で呼吸をする美琴とは対照的に、ミサカ10032号は顔色一つ変えず冷静に尋ねた。そんな彼女を見た美琴も次第に落ち着きを取り戻していき、一度深呼吸してから口を開いた

 

 

「・・・私はここ数日、学園都市にも仮想世界にもずっと姿を見せてないアイツのことを探して回ってる」

 

「はい。と、ミサカは相槌を打ちます」

 

「それで昨日、仮想世界の仲間内の人たちにも行方を知らないか聞いてみたんだけど、アイツの今いる場所を知ってる人は誰もいなかった」

 

「はい。と、ミサカは相槌を打ちます」

 

「だから、今日はアンタんとこに聞きに来た。だけど、それは最初っから決めてたことなの。アンタんとこに行くのは、あらゆる可能性を全部潰して、それでも何も手がかりが掴めなかったら……」

 

「はい。と、ミサカは相槌を……」

 

「それ、やめて。鬱陶しいから。今は黙って私の話を聞いて」

 

「・・・分かりました。と、ミサカはお姉様の要望を承諾します」

 

 

あくまでも機械的な態度を崩さない自分のクローンとの温度差に、少なからぬ苛立ちを覚えた美琴が言うと、ミサカ10032号はどこまでも機械的に自分の口を閉ざし、それを見た美琴は屋上の入り口のドアに寄りかかりながら、視線を少し下にずらして話し始めた

 

 

「多分、アイツがいなくなったのは1週間前にアイツの大学で学究会があった日。それ以降からアイツの姿が学園都市は愚か、仮想世界でも見えなくなった。メールも電話も全部シカト」

 

「耐えきれなくなった私はアイツの自宅を訪ねて、ロック外して中に入ってみたけど見事なまでにもぬけの殻。通ってる大学にもずっと行ってないみたいだった」

 

「これは異常だと思った私は、学園都市内に配備されてる監視カメラを初春さんや佐天さん、黒子と一緒に洗いざらい調べた」

 

「だけどその日、学究会が終わって以降のどの時間、どこの監視カメラにも、アイツの姿は映ってなかった。私は多分、アイツは誘拐に遭ったんだろうと目星を付けた」

 

「それからずっと目撃証言とか、外出記録とか色々と調べてみたけど、結局手がかりは見つからなかった」

 

「もう何も見つからないのかと諦めていた時に、初心に戻って監視カメラの映像を洗い直していた時、こんなものが見つかった」

 

 

そこで一度言葉を区切ると、ドアに寄りかかるのをやめると、ポケットから取り出したスマホを操作し、一つの映像データを再生すると、その画面をミサカ10032号に突きつけるようにして見せた

 

 

「・・・これは、学究会があった日の午後7時頃の映像。これを撮影したのは、第七学区の二丁目に設置されてる監視カメラよ」

 

「世間には色んな監視カメラがあるけど、物によっては固定の物から、時間が経つと自動的に台座が上下左右に首を振って、より広範囲を撮影できる物もある。学園都市の監視カメラは、大体がそれを使ってる。ちなみに異常を察知するとそっちに向きを変えるオマケ付き」

 

「初春さんから聞いたところによると、学園都市の監視カメラは、上下左右、そして中央。5つの向きにそれぞれ3分間隔で全部に首を振るように出来てる。まぁ当然っちゃ当然かもね。この街には空飛んだり座標ごと移動する能力者だっているんだから」

 

 

そして美琴はそこから語気を強め、スマホに映し出された映像を指差しながら、自分と同じ顔を睨みつけて核心を迫るように語り始めた

 

 

「ところがこの監視カメラに映っていた7時から7時3分の間の映像は、この監視カメラが前に同じ場所を映していた6時45分から6時48分の間に映されていた映像と全く同じものだった!映っている人、物、何もかもが全く同じだった!」

 

「・・・なぜそんなことに気づいたのです?と、ミサカは質問します」

 

「見つけたのは、私じゃなくて初春さん。アンタも知ってるはずよ、学園都市の監視カメラってのは、書庫から調べようとしてる人のデータ照合させれば後は勝手に割り出してくれるもんだって」

 

「その過程で、初春さんだけがこの一台の異変に気付いた。初春さんだけは私たちと違って『アイツ』をデータで検索するんじゃなくて、学園都市全体に何十万台ある監視カメラに『映っていた全員』をリストアップして、その全てに目を通して調べていた」

 

「・・・その結果、6時45分から6時48分の間と、7時から7時3分の間に映っている人間のリストが全く同じだった…ということですね。と、ミサカは確認を取ります」

 

 

その瞬間、美琴が映像の止まったスマートフォンを握った右手を振り下ろしたのと同時にバアンッ!という音が走り、美琴を中心にもう一度激しい紫電が踊り場全体に迸った。タイルを接着している溶接剤が電熱で融解したのか、何枚かのタイルは宙に浮き上がり、周囲の空気が振動でパリパリと火花が散っていた

 

 

「白々しい能書き垂れてんじゃないわよ」

 

「・・・どういう意味でしょうか。と、ミサカは確認を取ります」

 

「その事実に気づいた私は、その監視カメラを能力使って直接調べた。そして、全く同じアプローチで監視カメラに細工が施されていた残滓に気づいた。電気系の能力者による、ハッキングがかけられていたことにねぇ!」

 

 

ここまで言えばもう十分だろうと言わんばかりに、美琴は口で語るのをやめ、鋭い眼光でミサカ10032号を睨みつけた。しかし、それでも彼女は表情を一切変えずに返答した

 

 

「それだけでは証拠になっていません。この学園都市にはミサカやお姉様を除いても、他に何人もの電気系の能力者がいます。容疑者をミサカに絞るのは早計だと思います。と、ミサカは分析します」

 

「そんなの、私だって知ってるわよ。でもね、ハッキングするまでのアプローチの仕方がどうしようもなく私に似てたのよ。それこそ、私と血でも繋がってるんじゃないかってくらいね。どう?まだ反論ある?」

 

「・・・もし仮に、お姉様の言う監視カメラに細工を施した犯人がミサカ達の内の誰かだとしましょう。けれどこのミサカには、その質問に答える義務がありません。と、ミサカは解答します」

 

「ふざけないで。最初に言ったわよ。嘘ついたら例えアンタと言えど容赦は出来ないって。それに、今のアンタのその台詞なんて自分がやったって言ってるようなもんなんだけど」

 

「お姉様の言葉の意味が分かりません。私は答える義務がないと言っているだけで、嘘はついていません。と、ミサカは認識の違いを指摘します」

 

「アンタね…私のことおちょくんのも大概にしなさいよ!こんだけ証拠も出揃ってんだから、包み隠さず全部話せって言ってんの!ここまで言ってもアンタはまだこの期に及んでシラを切るつもり!?」

 

「はい。と、ミサカは相槌を打ちます」

 

「ッ!?この…!!」

 

「もう十分だよ。その辺にしておきたまえ御坂君」

 

 

業を煮やした美琴が、右の掌で15センチほどの電撃の槍を精製し、それを投げつけようとしたところ、不意に背後から聞こえた声の方へと振り返った

 

 

「いや、この呼び方ではどちらのことか分からなくなってしまうか。お姉さん、もうその辺にしてあげなさい」

 

「せ、先生…?」

 

 

そこに立っていたのは、受付で自分が今日会いに来たと嘘をついたカエルによく似た顔をした医師だった。冥土帰しと呼ばれるその医者は、その立派な鼻で一つ息を吐くと、口を開いた

 

 

「何を不思議そうな顔をしているんだい。君の方から私に会いに来たんじゃないか。さっきロビーにいる受付嬢の職員に聞いたよ」

 

「あ…え、えっと…その、すいません。それは嘘で…」

 

「分かってる分かってる。何より僕自身にそんな覚えがないんだからね。だからこうして探しに来たわけだよ。悪いけど、今の話は全て聞かせてもらったよ」

 

「え?」

 

「先生、よろしいのですか?と、ミサカは先生の考えを察してお尋ねします」

 

 

冥土帰しの言っている意味が分からず、呆けている美琴を余所にミサカ10032号が彼に話しかけると、冥土帰しは優しく頷きながら言った

 

 

「仕方がない。『彼』の交友に君達のお姉さんがいる時点で、いつかこうなることは分かっていたからね。それに、計画したのは私だ。君が責任を感じることはない。むしろ一週間も誤魔化せただけいい方だよ」

 

「や、やっぱりアイツについて何か知ってるんですか!?」

 

「付いて来たまえ、御坂美琴君。君が知りたいと望む全てに、僕は答えよう」

 

 

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