「悪いロニエ!待たせた!」
市場の人垣をかき分けながら、上条は息も切れ切れに北セントリア第七区の街角へとたどり着いた。ロニエと上条の双方が複雑な心境で待ち侘びていた安息日の今日、あろうことか提案者の上条の方が寝坊をかまし、待ち合わせ時間に15分も遅刻した
「いえいえ。全然気にしていませんので」
(・・・やはり距離を感じる…)
(ひゃ〜〜〜っ!!本当に来た〜!?変な顔してないかな!?寝癖残ってないかな!?夢じゃないんだよねこれ!?)
「そ、それじゃあ行くか。迷わないようにな」
ツンツン頭を勢いよく下げて謝罪する上条に、両手を体の前で軽く振ってロニエは言った。そんな彼女の言動に上条はやはり距離を感じたが、当のロニエ本人の心は緊張で今にも爆発しそうなほど早く拍を打っており、なんとも対照的なスタートとなった
「それで、本日は街のどちらまで向かわれるのですか?カミやん上級修剣士殿」
「・・・えっと、ロニエ。今日は安息日だ」
「・・・?はい。存じ上げておりますが…」
「端的に言えば、今日この場において俺たち二人は、ともに修練する指導生と傍付きという立場からも解放されているわけだ」
「と、申しますのは?」
「だから、今日は俺のことを上級修剣士って呼んでくれる必要はないし、敬語も抜き…は流石に厳しいだろうから、丁寧語は使わなくていい。あくまでも、あまり面倒なしがらみのない上級生と下級生…という立場でカミやんさん的には過ごしたいわけなんだが、それでもいいか?」
街行く人の流れに沿って歩きながら、上条は自分の右横を歩くロニエに提案した。その提案にロニエは軽く口を開けてポカンとしていたが、一度軽く咳払いをして言った
「これは大変失礼しました。それじゃあ、今日はどこに行くんですか?カミやん先輩」
微かな笑みを浮かべ、自分の顔を少し覗き込みながら言ったロニエのあどけない仕草に、上条は思わず顔がニヤケそうになるのを必死に堪えると、なんとか平静を装いながら答えた
「き、今日はだな…とりあえず最初に剣を見に行こうと思うんだ。実は俺が前に使ってた剣が、ボッキリ折れちまってな。ここからちょっと行ったとこに馴染みの店があるから、ちょっと付き合ってもらってもいいか?」
「・・・それはつまり、実剣を…ということですよね?確か、鍛冶屋は今進んでいる方向とは全く逆にあった気が…」
「おお、よく知ってるな。たしかにこっちには鍛冶屋はねぇけど、金細工屋が一軒あるんだ。この店の店主さんが物好きでよ、天職は金細工師なんだが、子どもの時の夢が剣を作ることだったもんで、片手間に武具を作ってるんだ。まぁ店主本人が職人気質でめっぽうプライドが高いせいか、中々買う人はいないんだけどな」
「なるほど、金細工屋…それは初めて知りました」
「ところでロニエは、もう実剣は持ってるのか?」
「あ、はい。学院に入学するために実家を出る時に、お父様から剣を一振り譲り受けました。今は寮のベッドの引き出しにしまってあります」
「そうか、大事にしろよ。俺みたいに剣を買いに行く馴染みの店なんかが出来てるようじゃ、剣士としては二流どころか三流だからな」
「そ、そんな!カミやん先輩は決して二流なんかじゃ…」
「お、着いた着いた」
上条は初々しく語るロニエに、自嘲気味に少し笑いながら言った。そんな彼の言葉をロニエが取り繕おうとすると、上条が少し前にある看板を指差した
「アレだよ。あの歪な看板が下がってる店」
「『サードレ金細工店』…ですか?」
「あぁ。その店の名前にあるサードレっておっさんが店主なんだ。初見はおっかない親父さんだと思っちまうだろうけど、まぁすぐ終わらせるから安心してくれ」
そう言って上条は人垣を横切って店の前に立つと、ロニエが後ろにいるのを確認してからカランカラン!という半鐘の音を響かせながら店内へと入り、ハリのある声で挨拶した
「ちわーっす」
「へい!いらっしゃ…ってなんだクソッ、カミやんの小僧か。さてはまた俺の力作をダメにしやがったな?」
強面の顔にいくらか皺の目立つ、白い立派な髭を生やした店主サードレは、店の入り口に立つ上条を見てあからさまにゲンナリとしていた
「お言葉ですがねおやっさん。力作とは言っても俺が買うのなんて業物どころか安物なわけでありまして、別にダメにしたくてダメにしてるわけじゃないんですのことよ?」
「安モンしか買わねーのはお前の経済状況の責任だし、すぐダメにするのはその中でもなまくらしか持っていかねえ手前の目利きの問題だ。俺にゃあ関係ないね」
「あ、あくまでも売り物ではなく俺の責任ですかそうですか…」
「ケッ。それに見たとこ、女連れでウチの敷居を跨ぐたぁ…小僧もついに道を違えたか」
どこか凄みのある濁声と共に、サードレは上条の後ろに立つロニエの顔を細い目で睨んだ。彼の眼力にすっかり萎縮してしまったロニエは、上条に気づかれないよう彼の背後に身を隠した
「失敬な。このロニエ・アラベル初等練士は去年の俺なんかよりも、よっぽど優秀な傍付き練士なんですよ?今の内から媚を売っといても損はないと思いますが?」
「抜かせぇ木っ端が。そこの娘っ子の方が優秀だってんなら手前が威張ってんじゃねぇよ。それに、客に媚売るようじゃ俺は職人として終わりだ」
「いや、せめて客には優しくしないと職人が終わるどころか店が終わると思うんでせうが…」
「そんときゃあ、俺の腕がそれまでだったってことだ。ほれ、お前さんお気に入りの安物コーナーはそっちだ。この前より何本か増えてるから適当に見てこい」
「せめて俺が卒業するまでは店が残っててほしいんですがね…まぁいっか。ロニエ、ちょっと待っててくれ」
「あ、はい!分かりました!」
そう言うと上条は、店の隅にある空き樽に無造作に突っ込まれた、20本ほどの剣を弄り始めた。その間特にやることもないロニエは、店内を見渡しながら当てもなくふらふらと歩いてみると、鮮やかな光沢を放ちながら陳列されている装飾品の一つに、ひどく心を奪われた
「・・・わぁ、すっごい綺麗…」
それはこの人界を生み出したとされる『創世神ステイシア』をモチーフにした、銀の髪飾りだった。無駄のない洗練された造詣とその美しさに、気づけばロニエの視線は釘付けになっていた
「悪いなロニエ。普通はこういう所に来たら剣の一本かアクセサリーの一つくらい買ってやるのが紳士なんだろうけど、あいにくカミやん先輩は常にお金がなくてな…誕生日までソイツは我慢してくれ」
「えっ!?いえいえそんな!その内お小遣いを貯めて自分で買いますので!」
「おお、買おうと思うほどには気に入ったのか。やっぱおやっさんの天職は金細工師が性に合ってんじゃねぇの?」
「うるせぇな…俺が何作ろうが俺の勝手だろうが。それより、手前の目利きに叶うなまくらは見つかったのか?」
「なまくらが前提なのかよ…まぁ、何本かな。いつもみたいにちょっと試し振りしていいか?」
「構わん。ただし毎度言うが、他の売り物は壊すなよ。安モンと言えど手前が振ればそれなりに切れんだからな」
「承知してますとも」
そう言うと、上条は店の少し開けた場所に立ち、樽に突っ込まれた有象無象の剣の中から選び出した5本の内1本をゆるりと握った。隣にいたロニエも上条が剣を構えたのを見ると、彼から距離を取ってカウンターの方へ寄ると、背後からサードレに声をかけられた
「おい、娘っ子。お前さん、そこの小僧の傍付きなんだってな。小僧が実剣振るところを見るのは、コレが初めてか?」
「えっ?は、はい!カミやん上級修剣士殿の傍付き練士を拝命いたしました!ロニエ・アラベル初等練士にありま……」
「あぁ、いーいー。そういう堅苦しいのは。それよりも、アイツが実剣を振るところ、よく見とけよ」
「・・・へ?あっ…はい!分かりました!」
嗄れた声でサードレに言われ、ロニエは型にならって剣を振る上条をまじまじと見つめていた。木剣とは違う、実剣特有の振り方をする上条を見ながら、サードレが声をかけるほどの何かを見出そうと注視していた時、もう一度背後から声がかかった
「微妙だろ。はっきり言って」
「え?い、いえ何もそんなことは…」
「情けなんざ掛けるこたぁねぇよ。剣を作るばかりで、マトモに振ったことのねぇ俺にだって分かるんだ。仮にも剣士のお前さんに分からんハズがねえ」
サードレの言う通り、ロニエは上条が剣を振る姿を見ても、何か特筆すべきものを感じることはなかった。サードレが自分の傍付きとそんなことを話しているとはいざ知らず、上条は選別した次の剣に持ち変え、また同じように試し振りを始めた
「鍛治師っつーのは炉と金床、金槌を使って金属を叩いて剣を作る。対して俺みてぇな細工師ってのは、ノミやキリ、ヤスリを使って金属を削って剣を作る。要は道具と作り方の違いなんだが、同じ鉄を使っても叩いて作る方が圧倒的に重く、天命も多い強い剣ができる。おかげで剣を作り始めた頃は、同じ七区に店を構える鍛冶屋の野郎から『見栄えばかりの紛い物』だと揶揄されたもんだ」
「そ、そうだったんですか…」
「ところがそこの小僧は、お前さんら学院生の実剣を何本も手がけている件の鍛冶屋じゃなく、ウチの店の剣を好んで使いやがる。小僧は毎度のように安物しか買わんが、俺はそれでも自分の剣を使ってくれるのが嬉しくてな。5度目くらいだったか、小僧が店に来た時に何度もウチに来る理由を聞いて『安い剣がいっぱいあるから』と言われた日にゃあ、そりゃ盛大にズッコケたもんだ」
「あ、あははは…カミやん先輩らしいですね…」
ありありと浮かぶその光景を脳裏に思い描きながらロニエが苦笑すると、サードレは上条の背中を見て深くため息をついた
「それだけなら、まだ笑い話だった。さっき5度目だと言ったが、アイツがウチに来る時は必ず手ぶらだ。刃の研磨になんか来た覚えがねぇ。なんでかって、アイツは研磨する間もなく俺が作った剣の天命を使い切っちまうからだ。そんでこの一年間、小僧が何本剣をダメにしたか…お前さん知っちょるか?」
「え?いえ、特に聞き及んでいるわけでは…」
「28本だ。あの小僧はこの一年間で、少なくとも月に二本、酷い時はそれ以上のペースで俺の作った剣の天命を使い切りやがる」
「にじゅっ…!?」
サードレが口にしたその数字に、ロニエは目を見開いて驚愕した。馬鹿げている、とすら思った。しかしそれはサードレとて同じことだったようで、呆れるように首を振っていた
「確かにアイツが買うのはただでさえ天命の少ないウチの剣の中でも、こと更に群を抜いて天命の少ない安モンだが、それだって立派な鉄で作られた剣だ。訓練用の木剣とは頑丈さも天命の総量も比べ物にならん。それを小僧は、たった二週間かそこらで素振りと丸太への打ち込みだけで使い切るってんだから、度肝を抜かれたさ」
「ど、どうしてそんなに…」
「再現できる技がまだまだ足りないとか何とか言ってた気がするが…詳しい理由は俺にも分からん。だが俺は未だかつて、小僧ほど実剣を振る人間を見たことがねぇ。俺も大概頭の固いバカだが、そこにいる俺以上のバカは、きっとこれから先も実剣を振り続けるんだろうよ」
「そして近い将来、この小僧は誰よりも先に剣を抜いて戦える人間になる。闇の軍勢が攻めてくるなんざ俺にゃあ想像もつかんが、もし仮にそうなった時、小僧は自分の命を守る為じゃなく誰かの命を守る為に剣を取れる。まぁ、しがない金細工師の妄想だがな」
「きっとこの先、小僧のような剣士が現れることはそうない。そんな人間が生涯でただ一度だけ任命する傍付きに、お前さんは選ばれたんだ。こっから一年、小僧から学べる限りを学べよ。流派は独自な上に剣術は人並み以下の末席上級修剣士だが、他の誰からも学べないモンがきっとある。そんで気が向いた時に、いつかウチの店で剣なり金細工を買ってくれりゃあ、それでいい。少しくらいはマケてやる」
サードレは相変わらず濁った声でそう締めくくると、最後にフッと微かに笑った。ロニエは自分が尊敬する人間を影で支えていた彼に向かって、姿勢を正して右手を己の心臓に当てて敬礼した
「はい!身に余るありがたきご教示、誠にありがとうございました!」
「・・・カッ。こりゃ小僧には勿体なさすぎるくらい良い傍付きだぁな。おい小僧!ウチは修練場じゃあねぇんだ!いつまでも素振りしてんじゃねぇ!いいのはあったのか!?」
サードレはロニエから視線を外すと、剣の選定を続けていた上条に怒鳴るように声をかけた。彼のがなり声に上条は一瞬肩をビクリと震わせたが、その時試し振りしていた剣を鞘に納めると、それをサードレに差し出しながら言った
「ん〜…そうだな、今回はコイツにするよ。いくらだ?」
「手前…まぁた同じようなヤツ選びやがって。普通なら1000シア…って言うとこだが、今日のところは500シアにマケてやる」
「おおっ!?半額ですか太っ腹ですねえ!しかしおやっさんがマケるとは珍しいな。さてはロニエがいる手前、カッコつけたくなりましたかな?」
「小僧の癖に小生意気な口を聞くんじゃねぇよ!いいからさっさと金を出せぃ!」
「へいへい。おやっさんがまた気を損ねて勘定が戻る前に出しますよ」
上条が財布を取り出そうとポケットを弄っていると、ふとした拍子にカウンターの奥に座るサードレの脇に、丁度今買おうとしている剣と同じくらいのサイズをした、分厚い麻布が掛けられた物体に目がついた
「おやっさん。麻布掛けてるソレ、一体なんだ?見たとこ剣に見えなくもないけど…」
「おぉ、コレか?コイツはなぁ…うむ…」
上条がソレを指差しながら訊ねると、豪快な物言いが自慢のサードレが、急に口渋って後ろ頭をボリボリ掻いた。そして麻布と上条の顔を何度か見比べると、一年の付き合いの上条ですら見たことないほど神妙な面持ちで口を開いた
「・・・小僧。いつだったか、神器と思しき剣を持つダチがいると言ってたな。手前はソイツの剣を、持ったことがあるのか?」
「ユージオの青薔薇の剣を?そりゃまぁ、ギガスシダーを切り倒す時にはユージオと交代で振ってたりしたからな。それがなんだってんだ?」
「・・・コイツぁな、俺が剣を学ぶ為に出た旅の途中で見つけて、珍しかったんで持って帰ってきた水晶を削って作ったモンでな。お前さんも知っとるだろ、果ての山脈の洞窟にある水晶だ」
「えっ!?おやっさんもあの果ての山脈に入ったってことか!?白竜の死骸がある洞穴には行ったのか!?」
「行くわけあるか。そんな何が出るか分からんところに。でだ、仕事の合間にソイツを趣味程度に削り続け、つい先日剣として完成した。だが完成するや否や信じられんくらい重くなりやがって、俺でも1メル持ち上げるのが精々だった。それにウチは金細工屋だ。金属で出来てねぇモンを店に並べていいもんか悩んだ末に、ここにずっと鎮座させてる」
上条の想像通り、麻布の下には一振りの剣が隠れているらしかった。サードレはそれを麻布の上からバシンバシンと乱雑に叩くと、上条の目を見据えて言った
「小僧、手前はコイツを振れると思うか?」
「思うか…って聞かれても、そんなんやってみなけりゃカミやんさんにだって分からん」
「チッ、面白みのねぇ返事だが、言われてみりゃそれもそうだ。そぉっ!らっ!」
サードレは中の剣を麻布ごと抱き上げると、足腰に入る限りの力を入れ、気合の掛け声と共にカウンターに、ゴトゴトッ!という音を響かせながら何とか持ち上げた
「持ってみろ。だが傷はつけるな。ソイツに傷をつけた時は、ここがお前の墓場になる」
「そ、そんなこと言われるなら持ちたくねぇよ。まぁ気になるから試してはみるけど…」
そう言うと上条は、姿の見えない剣の柄と柄頭に手をかけると、この剣のクラスが自分の権限の範囲内であることを祈りつつ、腕に力を込めて持ち上げてみた。すると軽く巻いてあっただけの麻布は剣を立たせただけでずり落ちていき、中の剣が姿を見せた
「わあっ……」
密かに声を漏らしたのはロニエだったが、上条も感嘆の声が出そうになるほど美しいと感じていた。水晶から削り出したと言われたその剣の柄頭は両端が鋭く尖っており、そこから伸びる柄と刀身を収める鞘は、共に翡翠色に輝いていた
「・・・ソイツを振れるか?」
「持てたってことは多分…振れると思う」
そう言った上条は、先ほど試し振りをしていた開けた場所へと移動すると、剣を鞘ごと腰に据えて、腹に力を込めて一気に引き抜いた。キィン!という甲高い音を奏でながら現れた刀身は、柄頭と同じ翡翠色には違いなかったが、向こう側がうっすらと見えるほどに透き通っており、店の窓から差し込んでくる陽の光を反射させ凛と輝いていた
「す、すごい…!」
「まだだ。抜いただけで振っちゃいねぇよ」
「いやほぼ同義だと思うんですがね。まぁ振れってんなら振ります……よっ!!」
口を動かしながら水晶の剣を肩に担ぐと、足を肩幅に開いて腰を捻りこむ勢いに任せて腕を水平に振り抜いた。ゴウッ!というおよそ剣を振ったとは思えない重低音が店の中に反響しながら、一陣の風がサードレの髭とロニエのスカートを巻き上げた
「ひゃあっ!?」
「ぶーーーっ!?」
慌ててスカートを抑え込んだロニエに、上条は思わず吹き出して剣を落としかけた。そして顔を真っ赤にするロニエと、ピクピクと頬を引攣らせる上条に、サードレは頭を抱えてため息をつきながら訊ねた
「・・・かぁ。小僧、一応参考までに聞くが…何色だった?」
「・・・控えめな、白…」
「あ、あははは…すいませんお見苦しいものを…」
「い、いっそキャーとか叫んだり、ビンタしてくれた方が気が楽なんですがね…もしくは噛みつきとか…」
顔を真っ赤にして、半分泣き目になりながらロニエが言った。上条はそんな彼女の健気さに罪悪感を抱いてため息混じりに呟くと、翡翠色の剣を鞘へと納めた
「まぁ、そんだけ器用なマネが出来る程度にゃ、コイツが扱えると見ていいようだな」
「ええっと…水晶って言うからには素材は大雑把に言えば石なわけだよな?でも振った感じは鉄なんかよりよっぽど重く硬い感じがした。これはおやっさんの店に置いても、何の問題もねぇと思う。それどころか、ここにある剣全部が束になっても敵わない名剣だよ」
「ふん、石細工を褒められたって別に嬉しかねぇよ」
腕を組みながらサードレが言うと、上条は確かな重みのある剣を片手に賛辞を述べた。サードレはその賛辞を受け取りつつも、なにやら考え事をしながら顎髭を弄ると、やがて思いっきり膝に手をついて言った
「小僧、ソイツはお前が持っていけ」
「・・・は?」
突拍子もないサードレの言葉に、上条は一瞬意味が分からず放心状態に陥った。面倒なヤツだと言わんばかりにサードレは大きな音で舌打ちすると、翡翠色の剣を指差して言った
「運ぶのすら億劫になる石の剣なんざ、俺にゃあ必要ねえ。金がねぇんなら出世払いでいい。将来お前が就いた天職の給料5ヶ月分に相当する額を払え」
「ちょ!ちょっと待ってくれおやっさん!いくら俺が振れるからって、コイツは本当に俺には勿体ないくらいの代物だ!店に出しときゃその内、話を聞いたどっかの貴族が大金叩きつけてでも買うぞ!」
「俺が丹精込めて育てた剣を、あんな性根まで腐り果てたクソ野郎共に握らせてたまるか!そんなヤツらに買われて児戯や部屋の飾りにされるくらいだったら、俺は手前に預ける!分かったらさっさと持っていけ!」
「ん、んなこと言ったって…俺こんなんもらったらマジでこの店来なくなるぞ?いくら安モンしか買わないったって…それにその出世払いだって、俺が本当にそうする保証なんてどこにも……」
「カミやん先輩。持っていってあげましょうよ。サードレさんもこの剣も、きっとそれを望んでいます」
「ロニエ……」
服の裾を掴みながら言うロニエの視線が『私は、これから先もこの剣を振るカミやん先輩が見たいです』と言っているように上条は感じた。その視線に逡巡しながら手に握る剣をしばらく見つめると、翡翠色の剣をサードレへと見せつけるように突き出した
「おやっさんがそこまで言うなら、俺はありがたくコイツの天命を預かる。きっといい天職について、おやっさんの前に大金を叩きつけてやるよ」
「ケッ、小生意気な。最初からそう言やぁいいってんだ。だが、その剣の天命が尽きる時は、手前の天命が尽きる時だからな!それをよーく肝に命じておけよ坊主!」
サードレはいかにも職人の風格を宿した拳を上条の前に突き出し、上条も右手で作った拳をサードレの拳にぶつけ合わると、気難しい職人はほんの少しだけ口元を緩めた