とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第36話 整合騎士

 

学院に別れを告げた後、上条はその足取りのままセントラル・カセドラルの西側にある門に来ていた。天頂が霞んで見えないほど高い巨塔は自らの四方を、とても登り切れるとは思えない、ダムにも似た巨大な壁で取り囲んでいた

 

 

「おっす」

 

 

上条当麻は最初から考えていた。この巨塔に入るには、小細工もなしに正面突破で入る以外に方法はない。スパイ映画のように物資の運搬に紛れることも考えたが、それは前情報があってこその策だ。いざ積荷に紛れてみて点検でもされようものなら、一瞬で不利に陥ってしまう

 

 

「貴様、何者だ?一体なんの……」

 

「オラァ!」

 

 

だから最初から腹の決まっていた上条は、自分に向けて槍を構えてにじり寄ってくる二人の番兵の内の一人を躊躇なく殴り飛ばすと、悲鳴をあげる間もなく番兵は卒倒した

 

 

「なっ!?」

 

 

突然のことに慌てふためいたもう一人の番兵は、胸から下げている笛のような物を手に取ろうとしたが、焦りのあまりソレがお手玉のように手の平からこぼれ落ちるばかりで、その隙に上条はその男の頭を鷲掴みにし、力任せに地面に叩きつけて気絶させた

 

 

「さて、それではちょっと拝借…」

 

 

上条は呆気なく伸びてしまった番兵が鍵のようなものでも持ってないかと思い、二人の身体を隈なく弄った。しかし二人はそれらしき物は持っておらず、ため息を吐きながら立ち上がった

 

 

「むしろ、鍵なんか用意する必要もねぇよって意味ならありがたいんだけどな…」

 

 

そんな風にボヤきながら周りに目をやると、この巨大な砦に相応しく悠然と佇む二枚扉の傍に、この番兵達が出入りに使っているのであろう小さな一枚扉の出入り口が目に入った

 

 

「まぁそりゃ、見張り入れ替わる度にこのデケエ門開けてたら効率悪いわな」

 

 

ここまでお誂え向きな造りになっているとは思わず、上条は拍子抜け感が否めなかったが、それで怪しんでいてはいつまでも中には入れないと思い、意を決してその小さな石扉に手をかけた

 

 

「・・・よし」

 

 

本来カセドラルの巨塔に入るには、東側の正門から入るのが一番早い。正門はカセドラルに続く一本道の参道しか広がっていないからだ。しかし、それ故に見張りの数も多いだろうと踏んだ上条は、この西門を突入の場所に選んだのだった。だが仮にそうだとしても、この扉の先に衛兵がいないという確証はない。その上で腹をくくる覚悟を決めた上条は、小さな石扉を押し開いた

 

 

「うおおおおっ!…………え?」

 

 

するとそこに広がっていたのは、上条が想像していたような衛兵や、カセドラルに続く道はなく、彼の背丈よりもいくらか高い柵と、その柵に蔦を伸ばす花たちが彼を出迎えた

 

 

「いや、こりゃ確かに綺麗だけど…門開けていきなり庭園は造りとして不便すぎだろ…!」

 

 

その柵に入り口として、人が二人並んで通れるような穴が空いているが、その先は迷路のように入り組んでいるのが見えた。あまりにも予定外の構造に上条は面食らったが、その周りに見張りが誰もいないのは不幸中の幸いだった

 

 

「とりあえず、コイツを進むしかねぇか…」

 

 

そう決心した上条は、花咲く夜の菜園への入場口を潜った。この世界には無線のような通信機器はないが、自分も知らないこの教会だけの連絡手段や神聖術がないとも限らない。つまるところ、この迷路を進む時間との勝負だと悟った上条は、柵に咲いている花には目も暮れず迷路の中を闇雲に走り始めた

 

 

「クソッ!右に行ったり左に行ったりと…これ本当にカセドラルに続いてんのか…!?」

 

 

上条は右へ左へと行く道を変える迷路に舌打ちしながらも、ひたすら前に続く道を進み続けた。すると徐々にではあるが、白い巨塔が近くに見えつつあることに気づいた。これなら塔の手前まで近づいて、後は適当な柵をいくつか乗り越えればいいと考えていた時だった

 

 

「っと…ここは…」

 

 

闇雲に迷路を走り続けると、何やら開けた空間へと上条は躍り出た。そこはまるで貴族の庭園のようで、騎士を形取ったいくつかの石像と、噴水が設置されており、その中央にはベンチを四つほど内蔵したガゼボがあった

 

 

「流石に我が師、アリス様の慧眼であることよ。この聖域への侵入者などという、万に一つどころか億に一つの事態を予見されるのだから」

 

 

するとそのガゼボの奥から、キザな口調でこちらに喋りかけるような声が聞こえてきた。上条はそれをいち早く察知すると、頭の中を戦闘への意識に切り替えた

 

 

「・・・誰だ、アンタ?」

 

 

上条のその問いかけに答えるように、ベンチに腰掛けていた何者かが鎧を鳴らしながら立ち上がった。すらりと伸びた長身を包む鎧とマントは紫に染められており、綺麗に整えられた薄紫の髪を夜風に靡かせながら、その男は上条の前に立った

 

 

「神聖なる此処、セントラル・カセドラルへの侵入罪など前例があるか定かではないが、そこは教会の裁決によるものだ。一先ず君にはすぐに地下牢へ行ってもらうが、脱走なんて愚かな考えを巡らせないよう、少しお仕置きが必要だとは思わないかい?」

 

「ッ…誰だつってんだよ!」

 

 

薄い笑いを浮かべながら喋る紫紺の騎士の態度が癪に障った上条は、語気を荒げながら叫んだ。それに対して騎士は底の見えない笑いを漏らしながら、横広のマントをはためかせて言った

 

 

「ははは!威勢がいいね。その空元気に敬意を表して名乗っておこう。私は整合騎士『エルドリエ・シンセシス・サーティワン』!」

 

「なん…?え、えすかるご?しんせさいざ……だぁーっ!アリスといい、お前といい!どうして整合騎士ってのは揃いも揃ってそんなに名前がなげーんだよ!もうちょっと簡略化できねーのか!?」

 

「心外だな。この名は『最高司祭アドミニストレータ様』にほんのひと月前に『召喚』された際に頂戴した神聖な名だ。君に文句を言われる筋合いはないよ」

 

(さ、最高司祭…?召喚された…?)

 

 

エルドリエが語った話の中に、上条は妙な違和感を覚えた。人物名はさておき、『召喚』ということは目の前の騎士は司祭なる人物に直接この姿で生み出されたということになるのか?ではアリスと名乗ったユージオの幼馴染は?そんな考えが頭の中を巡ったが、一先ずその解答を出すのは後回しにした

 

 

「・・・そうかよ。言っとくが俺はアンタの仕置きを大人しく受けるつもりも、懲罰房に入るつもりもねぇ。アンタをぶっ飛ばして、とっととアンタを召喚したお偉いさんもぶん殴る」

 

「おやおや、これは大きく出られたものだ。まさかたった一人でカセドラルの並み居る整合騎士をなぎ倒し、この巨塔を登りきろうと言うのかい?正気の沙汰とは思えないね」

 

「へっ。アンタは知る由もないだろうけどな、王道RPG『ドラ○ンクエスト』の第1作目は冒険に出てから魔王を倒すまで、ずっと主人公たった1人で戦うんだ。そう考えるなら1人で戦うってのも、別に悪い話じゃない」

 

「・・・どうやら話し合いで解決できる雰囲気ではなさそうだね。であるならばこのエルドリエ、整合騎士の新参者ながらもお相手いたそう。さぁ、その背中の剣を抜くといい」

 

 

エルドリエは、上条の翡翠色の剣の柄を指差しながら言った。上条は一息置くと、指差された剣は抜かず、背負っていた盾を右手で持ち上げて正面に回し、裏側の取っ手を左手で掴んで身構えた

 

 

「・・・それはどういうつもりかな?よもや身を守る盾だけでこの私を倒そうなどという世迷言を口にするのかい?」

 

「まぁな。剣は不得手なんだ。俺はコイツだけでいくが、アンタは別にその立派な剣を抜いたって構わねぇぜ」

 

「ふっ…あっはっは!そうかそうか。では私も、少しは戦いがましい戦いになるよう『こちら』でお相手いたそう」

 

 

するとエルドリエは、腰に据えた剣ではなく、背中の方へ手を回し、純銀のような輝きを帯びた細身の鞭を上条に見せつけた

 

 

「・・・鞭か。生憎だが、俺を指導してた先輩もよく使ってたおかげで、ソイツの対処法は心得てるぜ?」

 

「私と君ではそれでようやく対等というところだよ。それでは、この不可侵である聖域を侵したその罪をあらんとし!不肖この整合騎士エルドリエ!最初から全力でお相手させていただこう!」

 

(来るっ!)

 

 

エルドリエが手にした鞭を振りかぶると、上条はその間合いから逃れようと後ろに飛び退いた。しかし、エルドリエはそれを素早く察知すると、鞭を縦に振りながら信じられない速さで神聖術を唱えた

 

 

「システム・コール!エンハンス・アーマメント!」

 

(ッ!?鞭が…伸びた!?)

 

 

神聖術の恩恵を受けたのか、エルドリエの銀に輝く鞭が更にその輝きを増しながら全長が数倍の長さへと伸びた。上条は咄嗟にそれを見切ると、頭上に盾を掲げて直撃を逃れた

 

 

「・・・驚いたな。我が神器『霜鱗鞭』の一撃を初見で凌ぐとは、並大抵の人間には出来ないよ」

 

「神器か…話には聞いてたけど、確証のある本物を見るのは初めてだよ。けど、ユージオの青薔薇の剣に比べりゃ大したことはねぇな」

 

「言ってくれるね。では、これならどうかな?」

 

 

そう言うとエルドリエは鞭を持たない左手を上条の方へと差し向け、先ほどと同じく目にも留まらぬ速さで神聖術を唱えた

 

 

「システム・コール。ジェネレート・クライオゼニック・エレメント。フォームエレメント・バードシェイプ。ディスチャージ!」

 

「ーーーッ!」

 

 

エルドリエの左手の指先に青白い光が収束していくと、二節目の詠唱でその光が鳥に姿を変え、最後の一節を唱えた瞬間に青い光の鳥が上条めがけて襲いかかった。しかし、上条はそれに臆することなく飛び込んで行った

 

 

「おやおや、血迷ったか。ではそのまま聖なる翼に四肢を引き裂いてもらうといい」

 

「おおおっ!!」

 

 

そして上条は真っ正面から襲ってくる光の鳥に向かって、腹に力をこめるように息を止め、自らの右手を光の鳥へと叩きつけた。するとその瞬間、光の鳥は呆気なく塵のように消えてしまった

 

 

「・・・ん?」

 

「悪いな、こういう『右手』なんだ」

 

 

上条はユージオが学院を去ってから一週間、ティーゼとロニエにひたすら攻撃系の神聖術を撃ってもらい、それをひたすら右手で受けることで、他ならぬイメージの力によって幻想殺しを完全に再現していた

 

 

「おらあああああっ!!!」

 

 

エルドリエが普通ではありえない光景に目を疑った瞬間を見逃さずに、上条は右手を拳に変えて彼に飛びかかった。メシィ!という鈍い音を奏でながら拳が端麗なエルドリエの顔へと埋まっていき、力任せに拳を振り抜いた

 

 

「ぐあああああっ!?ば、馬鹿なっ!神聖術を打ち消した…だと!?そ、そんなの…見たことも聞いたことも…!」

 

「悪りぃけど!今はテメエのお喋りに付き合ってる暇はねぇっ!」

 

 

上条の一撃をモロに喰らい鼻血を出しながら地に転がったエルドリエは、なおも信じられない光景に同様していた。だが、彼一人に時間をかけていられない上条はこの戦いを終わらせるべく、もう一度高々と拳を振りかぶった

 

 

「リリース・リコレクション!」

 

 

しかしてその瞬間、エルドリエは先程と打って変わってかなり短い神聖術を唱えた。すると彼の鞭がまるで生きているかのように動きを変え、その先端が禍々しい白蛇に変化して上条に牙を剥いた

 

 

「ッ!?クソッ!」

 

 

その蛇に噛まれてはマズイと悟った上条はトドメの一撃を諦め、足に力をこめて真後ろへと飛び退いた。白蛇は敵を追い払うとエルドリエを守るようにとぐろを巻き、その内側でゆっくりとエルドリエが立ち上がった

 

 

「・・・なる、ほど…どうりでアリス様が警戒するわけだ。型も何もない攻めだが、それ故に私の予測を上回ってくる。油断していたとはいえ、よもや『記憶解放』の奥義まで使うことになるとは…もう手加減はしない!この霜鱗鞭に隠された秘技は伸びるだけではない!鞭の本数が最大7本に分裂することで…!」

 

「シッ!」

 

 

エルドリエは手甲で鼻血を拭うと、霜鱗鞭を見せつけながら上条にその性能を語ろうとしたが、上条はそれを最後まで聴くことなく左手を弓のように引き、肘を伸ばして遠心力を加えながら盾を投擲した

 

 

「七頭に別れた白蛇が君を…ごふっ!?」

 

 

上条が投擲した盾は、ガアンッ!という音を響かせながらエルドリエの頭部を寸分の狂いもなく捉えた。鋼鉄にも勝る衝撃を直接頭で受けた彼の脳が、間もなく脳震盪を起こすのはもはや自明の理だった

 

 

「た、盾を投げ…この私が…こんな……」

 

 

ガシャン!という音を立てて、エルドリエは受け身も取らず仰向けに倒れて気を失った。上条は彼から跳ね返ってきた盾を左手で受け止めて背中に背負い直すと、倒れた彼の元に近づいた

 

 

「悪いな。アンタの武器自慢はまた今度に聞く」

 

 

地に倒れたエルドリエを見下ろしながら上条が言い、その場から先に進もうとした瞬間、踏み出しかけた彼の足の前に一本の弓矢が突き立てられた。その矢羽から軌跡を辿ると、空に舞う飛竜に跨った真紅の鎧を纏った騎士と兜越しに視線が重なった

 

 

「侵入者よ!騎士サーティワンから離れよ!輝かしき整合騎士を地へと堕とした罪、もはや許せるものではない!」

 

「アレは…また別の整合騎士か?しかもカミやんさんの苦手な遠距離系物理攻撃持ちで飛竜のおまけ付きの…けど盾があればなんとか…」

 

 

弓矢を番えて夜空に佇む剣士を上条が睨みつけながら戦法を考えていると、上条が進んできた迷路から最初にに倒した門番と同じ武装を身につけた衛兵が次々に現れた

 

 

「いたぞ!あそこだ!捕縛しろー!」

 

「げっ!?もう嗅ぎつけて来やがったか!こりゃ流石に分が悪いか…!」

 

 

駆けつけてきた衛兵隊を目にした上条が一目散に庭園の奥へ続く迷路に逃げ出すと、それを追って衛兵達と、飛竜に跨った真紅の騎士が4本の矢を一度に番えて後を追って来た

 

 

「おのれ!敵を目の前にして尻尾を巻くとは臆病者め!この私が逃すと思うか!四肢を射抜いてから牢獄に叩き込んでくれる!」

 

 

ビビビビンッ!という弓の弦を弾く音が聞こえると、迷宮を走る上条の足元に次々と放たれた4本の弓矢が、地面に刺さった瞬間に爆発した。上条はその正確無比な矢を迷路の地形を生かしながら紙一重でかわし続けたが、そんな彼の行く手を阻むようにT字路が現れた

 

 

「別れ道か…一体どっちに…!」

 

『右よ!』

 

「・・・は?右って?」

 

『いいから右よ!右に曲がるの!』

 

「えぇっ!?は、はい!」

 

 

上条は突如聞こえた謎の声に導かれるまま、T字路を右折した。背後からは絶え間なく聞こえる衛兵の足音と、息つく間もない恐るべき精度の矢が降り注いでくる。避け続けた矢が30を超えてきた時、進み続ける迷路の傍に光の扉のようなものが上条の目に入った

 

 

「おい!こっちじゃ!飛び込め!」

 

「ええい!もうどうにでもなりやがれぇっ!」

 

 

光の扉の中から、得体の知れない声とともに手招きする腕が見えると、上条は柵を塗り潰すように開いた扉の中にヤケクソになりながら飛び込み、その姿が光の中へ消えた

 

 

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