とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

4 / 144
第3話 学究会

 

「・・・えー、私の発表は以上になります。ご静聴いただきありがとうございました」

 

「嘘だろ…」「本気で言ってんのか?」「いや無理だろ…」「だけどもし本当ならこれは…」

 

 

1ヶ月後、無事にキリトのSTLの話を元にレポートを書き上げた上条は、その後発表用のカンニングペーパーや配布用の資料を仕上げ、大学内の講堂の舞台に立っていた。そして彼の発表が終わった後の会場全体は、文字通り騒然としていた。多くの生徒は近くの席に座る同じ学校の生徒と物議を醸し、興味半分で聞きに来た数人の学者は、手元に渡された配布資料を自分の目を擦りながら何度も読み返していた

 

 

(ま、こうなるのも無理ねぇよなぁ。論文の内容もさることながら、別に誰に選抜されたわけでもない、開催校の特別枠なんてオマケみたいなヤツがこんな発表するなんて、夢にも思わねぇだろうし…)

 

 

会場を騒然とさせた上条本人は、どこか達観としながらその様子を見ていたが、これで自分の出番は終わりだと言わんばかりに、手元の原稿を持って舞台袖に下がろうとした

 

 

『え、え〜…開催校特別代表、上条当麻様による『フラクトライト干渉のためのソウル・トランスレーション・テクノロジーの開発について』の発表でした。では続きまして…』

 

「し、質問!質問よろしいでしょうか!?」

 

 

舞台袖に下がろうとした上条の様子を見た司会の生徒はハッと我に返り、次のプログラムへと進行しようとした。しかし、そこに割って入るように高校生くらいの女子生徒が椅子から立ち手を挙げた

 

 

『え〜…申し訳ありません。何ぶん発表者が多いもので…質疑応答は後で配布資料に記載されております発表者ご本人のメールアドレスの方に…』

 

「こ、この論文は上条さんの手元に残しておくおつもりでしょうか!?それともどこかの開発会社に提供なさるのでしょうか!?もしも後者であるのならば近い将来、貴殿が提唱するソウル・トランスレーション・テクノロジーは世界中の技術者が躍起になってでも実現に漕ぎ着けます!そうなればその先に待つ仮想世界とその技術は確実に人の手に余ります!場合によっては、かのSAO事件のような悪夢の再来にも繋がるのではないのでしょうか!?そういった可能性についてのご意見をお伺いしたいです!」

 

『え、ええっと…』

 

 

規則通りに学究会を進行しようとする司会の言葉に耳を貸すことなく、少女は捲し立てるように質問を投げかけた。どうしたものかと司会の生徒は視線を泳がせていたため、これはせめてもの責任だと感じた上条が司会の生徒のマイクを借りて口を開いた

 

 

『えー…まぁ時間がないみたいなので今の質問に限って手短に。とりあえず、この論文は自分の手元に残しておくつもりではあります。ただこの技術に特許を取って云々ということは特に考えてません。発表を終えた後で言うのも恐縮ですが、この技術は所詮どこまでいっても実現しない空想上の産物です。フラクトライトについても、医学部の友人にそんなような物があると聞かされただけで、実際にそれが人の心である定義も確証もありません。ですから、どうかそんなに真に受けないで下さい』

 

「で、ですがこの論文はあまりにも筋が通り過ぎています!信じるなという方が無理な話だと私は思います!それに、あなたの所属は文学部だと配布資料に記載されていますが、仮想世界とは縁もゆかりもない文学部であるあなたがなぜここまで仮想世界への深い理解を…!」

 

『単なる趣味の延長線ですよ。まぁ、しがないSAO生還者の端くれの妄想…とでも思って下さい』

 

「・・・SAO生還者!?」

 

『それでは失礼致しました』

 

ざわざわざわざわざわざわ……

 

 

上条はその言葉を最後に一礼すると、使っていたマイクを司会に返し、今度こそ舞台袖の方へと下がった。しかし彼が去った後の会場は静粛さを失い、より一層雑然としていた

 

 

「本来ならここはお勤めご苦労様…とでも言うのだろうが、今この言葉は貴様には相応しくないな。やりすぎだ、この大馬鹿者」

 

「あ、あはは…やっぱ吹寄もそう思うか。いや俺自身も絶対最後のは余計だったと思うんだけど、アレ以上あそこで質疑応答されると俺の方がボロ出しそうだったし、手っ取り早くあの場を収めるにはあれぐらい言うしかなかったんだよ」

 

 

講堂の舞台裏の壁に腕を組みながら寄りかかり、上条に労いの言葉をかけようとしていたのは、彼にとっては顔馴染みの女性だった。彼と同じ大学の医学部に属し、上条がこうなるに至った一因を作ったとも言える女性、吹寄制理だ

 

 

「何がボロが出そうだ、よ。日頃から私にレポートを手伝わせすぎだとあれほど言っていたろうが!きちんと自分で考えてレポートを書いていれば、教授だって間違ってもお前にこの発表を任せたりしなかったわよ!」

 

「ま、間違ってもって酷えな…いやそりゃ最後の生還者うんぬんは俺が悪いと思うけどさ、それでもレポートの内容は中々のもんだったろ?」

 

 

既に出番が終わった身としては講堂に居座る理由もなければ、他校の生徒の発表に興味があるわけでもないので、講堂を出ようと上条と吹寄の二人は出口への順路を並んで歩き始めた

 

 

「まぁそうね。内容は正直さっぱりだったけど、聴いていた人の様子を見ればそれなりのモンだってのは分かったし。急に『脳細胞の中に管みたいなモンあるか?んでそん中になんか入ってないか?』なんて聞かれた時には、とうとうコイツ頭が狂ったのかと思ったけれど、なんだか心配して見に来て損したわ」

 

「え?なんだ、心配してくれてたのか」

 

「へっ!?ち、違うわよ!別に貴様のことが心配だったとかそういうんじゃなくて、この発表のせいで大学の悪評が広がったりするんじゃないかって心配をしてただけよ!分かった!?」

 

「お、おう…でもお前、『レポートが書き終わったら一回私に見せろ』なんて言って、俺がデータ送った後に細かに添削して太鼓判まで押したじゃねぇかよ。そこまでして他に何が心配なんだ?」

 

「それはそれ。これはこれよ。第一、大して内容の分からない私が添削したのなんて、言葉遣いとか文法の言い回しぐらいよ。それだってここまで酷いとは思わなかったけどね。これからは少しは自力でレポート書くようにしなさい。そりゃどうしてもって言うなら手伝うけど、この大学で元がバカなの知ってるのなんて私ぐらいなのよ?」

 

「分かった分かった。反省してますよ」

 

 

そう話している内に、気づけば二人は講堂の出入口までたどり着き、手前まで歩くと自動ドアが開いた。そしてその足で中庭をしばらく歩くと、別れ道に差しかかり吹寄が踵を返した

 

 

「それじゃ、私この後バイトだから。今日はこっちから行くわね」

 

「そっか。今日はわざわざ聞きに来てくれてありがとな。バイト頑張れよ」

 

「・・・ねぇ、上条」

 

「んぁ?」

 

 

てっきりこれで解散だとばかり思っていた上条はもう一度話しかけられるとは思わずに、間の抜けた声を出した。そんな彼とは対照的に、か細い声で話しかけた吹寄は、不安そうな表情で話し始めた

 

 

「・・・実際のところは、どうなの?」

 

「どうって…なにが?」

 

「あの発表の内容よ。そりゃ私は仮想世界はからっきしだから変な用語とかは分からなかったけど、それでも魂とか心がどうたらとか、時間を加速させる云々ってのは聞き取れたし、貴様が提唱した理論がどれだけヤバイ代物なのかは会場の雰囲気と肌で感じ取れる程度には分かった」

 

「・・・・・」

 

「それに、最後に質問してた子だって言ってたじゃない。『人の手に余る』…って。本当に…本当に今度は大丈夫なんでしょうね?私に調べさせたあの『得体の知れない光』は、魂でも心でもなんでもないのよね?貴様の言うように、どこまでいっても実現することのない空想上の産物なのよね?例えそんな代物が実際にあった、出来上がったとしても、そこに上条が関わることはないのよね?」

 

 

吹寄に問われた上条は、しばらく押し黙って考え込んでしまった。自分とて学園都市の科学技術の凄さは分かっているが、それがどの程度のものなのかハッキリとは分かっていない。キリト達の住む世界の技術と、自分の住む世界の技術の発展の仕方が違うのは明白だ。自分達の世界には超能力があって、キリト達の世界には超能力がない。ただ、それをもって目の前の彼女に『ない』と断言することはできなかった。

 

 

「えっと…だな……」

 

 

上条自身も、レポートを仕上げた時から今の彼女と同じ疑問を抱いていた。『これは本当にキリト達の世界だけの物なのだろうか?自分たちの世界では本当に存在しない物なのだろうか?』と。学究会ではその場しのぎで解答を濁したが、目の前にいる吹寄の不安に染まった表情を見ていると、正直に打ち明けるべきなのではないか?という迷いが生まれてしまった

 

 

「すいませぇ〜ん。学究会やってる講堂ってどちらですかね〜?」

 

 

上条がどう答えるべきか必死に悩んで考えていると、黒っぽい服を着たボサボサ頭の痩せこけた男性が、ぺこぺこ頭を下げながら訪ねてきた。それに対し吹寄は自分達が辿ってきた道の方を指差して答えた

 

 

「講堂ですか?この道を真っ直ぐ進んでもらって、そしたら中庭に出るので…」

 

「・・・吹寄、下がってろ」

 

「えっ?ちょ、ちょっと何よ!?」

 

 

口頭で説明していると、不意に上条が吹寄の肩を自分の方に引き寄せた。そのまま彼女を自分の後ろに押しやると、男の方へ鋭い視線を投げた

 

 

「お前、一体どこの誰だ?」

 

「えぇ?い、嫌だなぁ。別に怪しいモンじゃ…」

 

「とぼけてんじゃねぇよ。隠せてると思ってんならお笑いだぜ、その殺気」

 

「・・・ひひっ、なるほどぉ…もう慣れっこってわけですかぁ。これは不意打ちは厳しいかなぁ」

 

 

飄々とした態度を取る男は、口から漏れ出すような息で不気味に笑った。流石の吹寄もこの男は危険だと察知したのか、上条の背中へと隠れこみ、一方の上条も男に対する意識を改め、右の拳を握り締めると男に重ねて問い質した

 

 

「質問に答えろ。お前はどこの誰だ?なんで俺たちのことを狙ってる?」

 

「へへっ…いいねぇその顔〜。『ザザ』がやられるのも納得できるよぉ。ねぇ〜上条当麻さん?いや…『幻想殺し』」

 

(ッ!?ザザ……死銃のSAO時代のアバターネームか!?)

 

 

自分のことを幻想殺しと呼んだ男は、既に聞き知った名前を口に出した。かつてGGOで起こった死銃事件の真犯人、新川昌一と恭二の仲間であると予想するのは、上条にとってそう難しくなかった

 

 

「・・・そういうお前は金本敦…『ジョニー・ブラック』ってことでいいのか?」

 

「なぁんだそこまで知ってるのか〜。まぁそういうことだからさ、俺が根性見せないとじゃん?仇討ちというか、真のラフコフ最後の一人として一矢報いるぐらいはさ?」

 

「言っとけ。どうせこの世界はSAOじゃないし、今のお前は武器を持たないただの人間だ。諦めて自首しろ!」

 

「へいへい、見た目で武装を判断するのはトーシロのやることだぜ?元SAOトッププレイヤーさんよ」

 

 

金本は素早く右手を背中に回すと、ジーパンの尻ポケットから何かを取り出した。一見すれば奇妙な形をした玩具のようなそれを見た上条は、自分の記憶に同じ注射器を見つけ戦慄した

 

 

「それは…!?」

 

「まぁ、いわゆる毒武器ってやつさ。ナイフでないのが残念だけどなぁ!」

 

 

その言葉を最後に、金本は上条に向かって飛びかかった。殺意の衝動が赴くままに注射器を持った右手を上条に向かって伸ばした

 

 

「ッ!?クソッ!」

 

「あれぇ〜!?お姫様がガラ空きだぁ〜!」

 

「へっ!?きゃあっ!」

 

 

自分に向かってくる金本に対し、上条は咄嗟に右に飛んで避けた。しかしそれを見た金本は足の速度を緩めることなく、吹寄の方へ襲いかかった

 

 

「吹寄ッ!?」

 

「おおっとぉ、動くなよぉ〜?声も出すな。少しでも怪しい動きを見せたらこの女の子に、コイツをプシューッ…だぜ?」

 

「テメエッ…!」

 

 

金本は蛇のように吹寄にまとわりつくと、左手を彼女の首元に回して口を塞いだ。そして彼女の胸に注射器が押し付けられたのを見た上条は、自分の不甲斐なさに歯噛みした

 

 

「そいじゃまずはぁ〜、頭の後ろで手を組んで地面に膝をついてもらおうかぁ〜?」

 

「・・・分かった。だから吹寄には手を出すな」

 

「そりゃ〜もちろん。出来ればこんな可愛い子の顔に傷はつけたくないからね〜」

 

(焦るなよ俺。まだチャンスはある。ヤツの武器は所詮あの注射器だけ。アレはその内俺に向けられる。そしたら吹寄から注射器は離れる。その一瞬の隙を突ければ…!)

 

「噴ッ!!!」

 

「おごぉっ!?」

 

 

上条が金本に言われた通りの体勢を取りながら吹寄を助け出す算段を考えていると、金本の腕に囚われていた吹寄が突然膝を折り曲げ、バネのように飛んで金本の顎に頭突きをかました

 

 

「・・・へ?」

 

「覇ッッ!!!」

 

「おうえええぇぇぇっ!?!?」

 

 

金本が頭突きをモロに喰らって怯んでいる隙に、吹寄は彼の腕からするりと抜け出した。そして腰を低く据えると、そのまま振り向きざまに彼の鳩尾に渾身の正拳突きを叩き込んだ

 

 

「ったく。気安く乙女の身体に触れてんじゃないわよ」

 

 

吹寄の正拳突きに堪らず金本の体は吹っ飛び、地面に仰向けになって伸びていた。そんな彼を見下ろしながら吹寄は捨て台詞を吐くと、彼の右手に握られた注射器を蹴飛ばした

 

 

「・・・え、えーっと…吹寄さん?その、お怪我は…?」

 

「別になんともないわよ。今の見てなかったわけ?」

 

「い、いやその…実に見事な一撃だったことは見てとれたんだが…どこでそんな身のこなしを会得したんでせう?」

 

「仮にも医学部で勉強してるんだから、人間の急所ぐらい心得てるわよ。まぁ後は通販で買った健康グッズで身体が鈍らないように鍛えていた努力の賜物かしら?」

 

「あ、あはは…なるほど、そういうこと…」

 

「さっ、警備員に連絡しましょ。こんな危なっかしいやつ放っとけないわ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。