とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第39話 武装完全支配術

 

「ちょ、ちょっと待て!それってつまり、この世界の全員を最初からなかったことにするってことだよな!?そ、そりゃ流石にないだろ!?そうなったら今生きてる皆は……!」

 

「安心せい。その辺りはちゃんと考えておる。お主がワシに助力し、アドミニストレータを排除してワシが全権限を取り戻せたら、この世界を消滅させる前に、限定的ではあるがお主の望みを叶えてやろう」

 

「お、俺の望みを叶える…?どういうことだ?」

 

「助けたいと思う者を指定すれば、その者達のフラクトライトは消去せず凍結させたまま残しておいてやろう。そうじゃの…10個くらいであれば外部世界に脱出した後、彼らのライトキューブを確保することもできよう」

 

「ッ!?俺に選べってのか…?今までこの世界で出会った人の中から…たったの10人ぽっちを…?」

 

 

それは、上条にとって悪魔の誘いだった。ユージオやリーナ、ティーゼ、ロニエといった出会った全ての人達の顔が脳裏をよぎる。その中から10人を選べと言われて、上条はその考えそのものを払拭するようにテーブルに拳を叩きつけて立ち上がった

 

 

「ふざけんな!俺は死んでもそんなことはしねぇ!その為の助力なんかしねぇぞ!一人で何もかも片付けてやるからテメエはそこで見てろ!俺は絶対に諦めねぇからな!アドミニストレータをぶっ飛ばして、全員を救ってみせる!必ずだ!」

 

「分かった分かった。少し落ち着け。あくまで次善の策じゃ。闇の軍勢の侵略が始まるのも、そんなにすぐの事ではない。それからどうするかはそこから考えればいい。ともかく当面の目的は、アドミニストレータの排除。ワシとお前は、一先ず助力し合うだけの価値があると思うが?」

 

「あのなぁっ!……いや、悪かった。カーディナル・システムのサブのアンタは、そういう考え方しか出来ねぇんだよな…200年もそのためだけにここで待ち続けたんだ。その末にたどり着いた策を、一方的に蹴飛ばすのは冷静じゃなかったな」

 

「ワシの方こそ、言い方が悪かった。じゃがお主の言う通りでもある。ワシにとってはアドミニストレータの排除と、世界の正常化という利益と望みが全てじゃ。ワシにとって正常な世界とは、完全なる虚無に還すことでしかもう実現出来んのじゃよ。故にワシは…いや違うか。ワシにもたった一つ欲望がある。この200年でどうしても知りたかったことが」

 

「あ?なんだよ、今自分で全てだって言ったばかりじゃねぇか?どんな望みなんだ?」

 

 

上条がカーディナルにそう訊ねると、カーディナルは急に頬を赤らめてもの寂しげにもじもじと動き始めた。そんな彼女の様子に上条が首を傾げると、カーディナルは諦めたようにため息を吐いてから上条に向き直った

 

 

「・・・カミやん、立て」

 

「え?もう立ってるけど」

 

「そ、そうじゃったの…では、もっと前に」

 

「・・・?ほい」

 

 

どこか気恥ずかしそうに言うカーディナルに、相変わらず首を傾げながら上条はその場から一歩前に出た。そんな彼の態度にカーディナルは心底むしゃくしゃしたように帽子の上から頭を掻き毟ると、自分も椅子の上に立ちながら言った

 

 

「ええいっ!監視しとる時からいつも思っとったが、お主は本当に鈍いやつじゃな!ワシの前に!来いと言っとるんじゃ!」

 

「い、いきなりダメ出しされる意味が分からないんでせうが…分かったよ。ほれ、来てやったぞ」

 

「・・・両手を広げよ」

 

「こうか?」

 

「そんな『Why?』みたいな広げ方なんぞ誰も望んどらんわ!ええいっ、もういいっ!自分でやる!」

 

「うおっ!?」

 

 

そう言ってカーディナルは、一応ガラ空きになった上条の胸の中に飛び込んだ。上条は突然の出来事に心底驚いたが、やっと彼女の両手を広げろという意味を解釈すると、彼女を抱くように背中に手を回した

 

 

「あ、あの…カーディナル…さん?」

 

「・・・あぁ…これが、人間であるということか。温かいな。やっと…やっと、報われたんじゃな。私の200年は…間違いじゃなかった。この温かさを知れただけで、私は満足じゃ…十分に」

 

「そうか…アンタ、寂しかったんだな。そりゃそうだよな…200年もこんな場所で、ずっと一人ぼっちで戦い続けてたんだ。悪かったよ、あんなこと言って。分かった、俺はアンタに協力する。そんで、アンタも笑って帰れる世界を、必ず掴み取ってみせる」

 

 

そう言うと上条は、人の温かみに触れて涙を流すカーディナルを改めてそっと抱きしめ返した。それからしばらくして、カーディナルがするりと彼の胸元から抜け出すと、小さく咳払いして賢者の風格を取り戻して言った

 

 

「で、じゃ。ここからは具体的な作戦に移るが、整合騎士は殺さずに倒そうと思えるほど簡単な相手ではないぞ。その覚悟はお主にはあるか?」

 

「あぁ。ここに乗り込んだ時から、それはもう分かってる。そう言いつつここまでは誰も死なせてないわけだが、いざとなったらそういう覚悟は出来てる」

 

「ならばよい。じゃが、お主の考えておることはお見通しじゃ。アリスと戦うことになった時は、どうにかしてユージオのために記憶を元に戻してやろうと考えておるのじゃろう?」

 

「うっ…そ、それは…」

 

「残念じゃが、一筋縄ではいかんぞ。そうするにはまず、整合騎士の頭から敬神モジュールを引っこ抜くか、破壊せねばならん。そしてその為には、まず相手の過去の記憶を激しく揺さぶってモジュールを露出させねばならん」

 

「え、そんだけか?なぁんだ、案外簡単そうじゃ…」

 

「そしてそこに、本来あった物を戻さねばならん。つまり整合騎士にとって一番大切な記憶の欠片じゃ。それらを抜き取ったアドミニストレータは間違いなく自室、セントラル・カセドラル最上階に保管しておるはずじゃ」

 

「・・・ってことはやっぱり、アドミニストレータを倒さなきゃどうにもならんってことか」

 

「ので、そんな時のためにこれをお主に渡す」

 

 

そう言うと、カーディナルはだぼだぼのローブの袖口から柄頭のある小さなナイフのような物を二本取り出し、上条に手渡した

 

 

「なんだこれ?」

 

「それに刺された者はわしとの間に切断不可能な経路が接続される。つまり、ワシの用いるあらゆる神聖術が必中となるわけじゃ。一本は無論アドミニストレータに、一本は騎士アリスに刺せ。その瞬間にワシの術で深い眠りに誘おう」

 

「分かった。じゃあ、コイツに『右手』は使わねえ方がいいな」

 

「・・・そうじゃ、それも聞こうと思っておった。お主がエルドリエの神聖術を打ち消したカラクリ、アレは一体どうなっておる?」

 

「あぁ。アレはイメージの力…って言って分かるか?」

 

「うむ。『心意』の力じゃな。この世界ではフラクトライトに自分が思い描く力を強く思うと、それを現実に昇華させる力がある」

 

「心意…そう呼ばれてるのか。えっと、俺はそれを使ってるんだ。現実世界の俺の右手は『幻想殺し』って言って、魔術や超能力みたいな異能の力に触れると、たちまちそれを打ち消しちまうんだ。だから、戦う時は『俺の右手は幻想殺しだ』って強く思い描くんだ。それを一週間特訓した末に、ようやく形になった」

 

「なるほど。それで自らが異能の力だと判断した神聖術を、右手が触れた瞬間に打ち消したということか。それはおそらく、お主の中に焼きついた本能のようなものだろう。そういう力の方が、心意には現れやすい」

 

「・・・じゃあ、ウンベールとライオスとの事件があったあの夜、俺の右腕から出てきた『何か』は、つまるところ心意で起こる現象の一つ…ってことになるのか?」

 

「いや、ワシはそうは思わん。その根拠は天命の損害という禁忌目録違反に対して、ユージオだけが連行され、お主は連行されなかった点じゃ。おそらくお主の右腕から出てきた『何か』は、お主の拳による打撃や、ユージオの青薔薇の剣による斬撃、その他の単純な攻撃手段としてライオスの天命を全損させたのではないのじゃろう。無論、神聖術でもなく、そして心意でもなかった」

 

「まぁ所詮は憶測に過ぎんが…あの『何か』は、名実ともにカーディナルであるワシでも、アドミニストレータですら知り得ない、この世界のシステムでは認知、ないし識別できぬ方法でライオスを殺したのじゃ。故に、お主は禁忌目録違反にはならなかった…まぁ、ワシの視点で考えられるのは精々こんなところじゃの」

 

「・・・結局は分からずじまいってことか…まぁ、それはもう気にしないことにする。元からあの力を頼りにしようとは思ってなかったからな。色々と自分でも謎は多いんだけど…とりあえずは安心してくれ。この世界じゃ戦う時以外は普通にしてればただの右手なんだ。このナイフを使う時も、イメージを切るか左手を使えば、何も問題ないと思う」

 

「それで良かろう。では次に、整合騎士と対等な装備を与えてやろう。カミやん、お主の剣を出せ」

 

「え?与えるって言ってる割には俺のを使うのか?」

 

「いいから、剣を鞘から抜いてみよ」

 

 

そう言われた上条は渋々背中の鞘から剣を引き抜くと、カーディナルに差し出した。そしてカーディナルは、大男のサードレでも1メル持ち上げるのが精々だった翡翠色の剣を片手に取り、それを杖で小突くと剣が一瞬で姿を消してしまった

 

 

「なあっ!?お、おい何やって…!」

 

「これで良いのじゃ。『武装完全支配術』の術式を組み上げるには、剣が目の前にあるとかえって不都合なんじゃ」

 

「武装完全支配術…?」

 

「うむ。整合騎士エルドリエの鞭を見たじゃろう?ヤツの神器『霜鱗鞭』は、双頭の白蛇をアドミニストレータが生け捕り、武器に転換したものじゃ。しかし物言わぬ鞭となった後も、双頭の蛇の素早さ、鱗の鋭さ、狙いの正確さといった記憶やパラメータは残存する。武装完全支配術とは、言うなれば『その武器の記憶』を全開放することで、その神器に秘められた本来の超攻撃力を実現するものじゃ」

 

「へぇ、なるほど…でも俺の剣はそんな生き物じゃなくてただの水晶だぜ?解放するような記憶なんてあんのか?」

 

「ある。今からワシが施す術式は、端的に言えば武器の素材に由来する記憶を後天的に植え付けるものじゃ。先ほど渡したワシの短剣が良い例えじゃ。アレは元々ワシの髪であったという記憶すなわち性質を保持しているからこそ、完全支配術と同様のプロセスによって、攻撃が成功した瞬間ワシとの間に経路を開けるのじゃ」

 

「なるほど…まぁ髪を神器にするよりかは剣を神器にしたいわな。つまるところ、剣固有の必殺技みたいな神聖術をアンタが付与してくれるってことだろ?そりゃ大いに有難いこった。どんな技なんだ?」

 

 

上条が笑いながら訊ねると、カーディナルはそれとは比較にならないほどの険しい表情と怒鳴り声で上条に杖を突きつけながら言った

 

 

「馬鹿者!甘えるでない!術式そのものはワシが記述してやるが、どのような攻撃術とするか決めるのはお主自身じゃ!」

 

「え、ええっ!?」

 

「武装完全支配術の精髄、『記憶解放』を行うには術式を唱えるだけでは足りぬ。持ち主が愛器の解き放たれた瞬間を強くイメージ…想起する必要があるのじゃ。むしろ完全支配術よりも、想起のプロセスの方がより核心的な力と言える。なぜならイメージの力…すなわち先も言った心意こそ、世界の根源の理じゃからな」

 

「要するに、剣が持つ真の力を自分でイメージしろってことか…参ったな。右手ならともかく、剣にそんな強い印象持ったことねーぞ俺……」

 

「ないから良いのじゃ。実物や固定観念に囚われてはイメージがそこで止まってしまう。剣に秘められた記憶に触れ、寄り添い、解き放つには心の眼があればそれで足りる」

 

「心の眼…ね。分かった、とりあえずやってみる。イメージの力はこの一週間特訓したから、それなりに形にはなると思う」

 

「うむ。では眼を閉じよ。そして己の剣をイメージして剣の記憶、存在の本質に触れるまで深く、深い記憶の底まで潜るのじゃ。ワシがよいと言うまで辞めてはならんぞ」

 

「あ、あぁ…こうか?」

 

 

そう言って上条は眼を閉じると、先ほどカーディナルによって消されてしまった翡翠色の剣の姿をイメージした。透き通った刃、スラリと輝く柄頭、そしてその柄を自らが握る瞬間に至るまでを強く想起した

 

 

(って言ってもなぁ…この剣が水晶だった頃の記憶なんて俺には分かんねぇし…俺にとってはあの剣はSAOで使ってたイメージ…が……)

 

 

そこまでイメージして、上条の中のイメージが剣の本質の記憶…否、上条にとっての剣の記憶へとすり替わった。その剣は偶然と言うには、あまりにも似通っていた。かつて鋼鉄の城を共に戦い、最後の最後までその手にしていた剣を忘れられるハズがなかった

 

 

「・・・よし、もういいぞ。お主の剣の記憶はワシが確かに……ッ!?」

 

「・・・どうした?」

 

 

上条がカーディナルにそう言われて目を開けると、そこにはいつの間にか翡翠色の剣を手に持ったカーディナルがいた。しかし彼女は、まるで吐き気を催したようによろめいて、信じられない物を見るような目で透き通った剣の刃を見つめていた

 

 

「お、お主…この剣に一体何をイメージした!?」

 

「えっ?な、何って言われても…」

 

「有り得ぬ…これでは素材の記憶どころか、この世界の記憶すら…こんな力を解放したとして、この世界のデータ領域が耐え切れるかどうか……」

 

「お、おい。とりあえず成功したってことでいいんだよな?ちゃんと俺は武装完全…なんとかっての使えるようになったのか?」

 

「・・・よいか?確かに武装完全支配術は完成し、術式も出来た。これによりこの翡翠色の剣は今までよりも強力な武器になった。しかしお主は、この剣を安易に完全支配状態にしてはならん。使っても良いのは、もうどうしようもなく後がなくなった…ここぞ、という瞬間に一度だけじゃ」

 

「え?せ、整合騎士は残り30人もいて、アドミニストレータも倒さなくちゃならねぇのに、使っていいのは一回って…採算合わなすぎでは…」

 

「そうだとしてもじゃ。元より完全支配術はその剣の天命と神聖力を大きく消耗する。時間を置いてこの剣の天命と神聖力が回復するまで、二度は使ってはいかん。もし連続して二度使うようなことがあれば、この剣の天命が全損するのは当然として、その後に何が起こるかワシにも予想がつかん」

 

「・・・本当に役に立つのかそれ?なんだったら使わないに越したことはない…いわゆる諸刃の剣ってことだよな?」

 

「まぁそうとも言えるな。じゃが、こうなってしまっては仕方ない。とりあえず、コレはお主に返す。そしてコレが術式の式句じゃ」

 

「お、おう…げっ!?コレ覚えろと!?俺が今まで習ったどんな神聖術の詠唱より長ぇぞ!?」

 

 

上条はカーディナルから翡翠色の剣を受け取って鞘に収めると、続いて彼女が差し出した羊皮紙に似た手触りの紙を受け取った。するとそこには、軽く10行にも及ぶ神聖術の式句が羅列されていた

 

 

「制限時間は30分。よく覚えるのじゃぞ。ユージオを救いたいのなら、もうあまり時間はないと見ねばならん」

 

「えっ…ゆ、ユージオの身に何かあったのか!?」

 

「つい先ほどな。お主のシャーロットと同じように、彼につけておいた監視と連絡が取れなくなった。おそらく事態は悪い方向へと動き出している。一刻も早くお主がセントラル・カセドラルの100階まで登らねば、手遅れになるやもしれん」

 

「ひゃっ…!?いや、泣きごと言ってる場合じゃねぇな。分かった、じゃあ30分後に俺をここから出してくれ。あ、それとあの花の迷路の地図とかあると有難いんだが……」

 

「馬鹿者。さっきバックドアの通路を消しているところをお主も見ていたろ」

 

「あっ、そうだった…じゃあ俺はどっから出りゃいいんだ?」

 

「ワシの開いたバックドアの中に、カセドラル本体の3階に通じているモノがある。それを使うといい。実質それが100階まで登る最短ルートじゃ」

 

「さ、三階で最短か…まぁ、贅沢は言えないな。分かった、とりあえずはそれで行くぜ」

 

「うむ。ではワシも色々と準備がある。30分経ったらそこの通路を抜けた先に来い」

 

 

そう言ってカーディナルと上条は一旦別れると、上条は30分間ひたすら紙に記された呪文を暗唱しながら、自分の戦う決意をより一層強固なものにした

 

 

「・・・よし、今行くぞ。ユージオ」

 

 

誰に聞かせるわけでもなく強く呟くと、上条は腰掛けていた本棚から腰を上げ、カーディナルに指示された通路を渡った。するとそこには、微かな輝きを放って佇むドアの前に立った世界の管理者がいた

 

 

「・・・支配術の式句は覚えられたか?」

 

「そうだな…深呼吸して気合い入れれば、二回に一回はつっかえずに言えるくらいだ」

 

「よい。では最後にもう一つ大切な術式をお主に教える」

 

「まだあんのかよ…俺もう完全支配術だけでいっぱいいっぱいだぜ…」

 

「元々はお主が覚えられなかったら教えんでもいいと思っていたんじゃが、形にはなったというのなら、お主の完全支配術に必要な残りの一節を教える」

 

「残り一節?アレで完成じゃないのか?」

 

「武装完全支配術には二つの段階がある。『強化』と『解放』じゃ。エルドリエの鞭を例に出すと、強化で鞭が伸び、解放で鞭が蛇へと変化した」

 

「あぁ、そういやなんか言ってたな…」

 

「本来はこの強化の段階だけで十分な威力を発揮するんじゃが、お主の場合は違う。強化だけでは意味がないのじゃ。お主の付与したイメージは記憶の解放を前提として組まれておる」

 

「それはつまり…俺の場合、強化するために神聖術は唱えるけど、その先の解放までしなきゃ真の力は発揮できませんよー…ってことか?め、面倒な…」

 

「じゃからお主の場合、本当にないものとして考えてよいのやもしれん。じゃが本当に必要になった時に、完全支配術で己の剣を強化した時にお主はワシが言わんとしている全てを察するじゃろう。それでも記憶の解放を選ぶのならば、先ほどの術式を全て詠唱し、強化に成功した後にこう唱えるのじゃ」

 

「『リリース・リコレクション』…とな」

 

「リリース・リコレクション…」

 

「これでワシから教えることはもう何もない。それと、これは弁当じゃ。蒸し饅頭が四つほど入っておる。まじないをかけてある故、食えば少しは傷も癒えるし天命も回復するじゃろう。100階まで登るまでに腹が減ったら食え。腹が減っては戦はできん」

 

「おっ、何から何まで悪いな。正直弁当が一番ありがてえや」

 

「ゲンキンなやつじゃの。ワシのナイフの方がよっぽどありがたいじゃろうに。まぁよい」

 

 

最後の教えを呟く上条に、カーディナルは小さな紫色の布で包んだ弁当を手渡した。上条はそれをズボンのベルトに巻きつけると、上着の裾を持ち上げて弁当を懐に隠した

 

 

「それでは…行くのじゃ!カミやん!己の道を信ずるままに!」

 

「・・・あぁ!」

 

 

上条は、カーディナルの開いた扉へ続く階段を一段、もう一段と踏みしめながら登った。そして輝く扉を引くと、その光の先へと進んでいった

 

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