とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第51話 ユージオ

 

「うおおおおおっ!!」

 

「くっ!?」

 

 

ダンッ!という強烈な足音を響かせながら上条は駆け出した。相手はただの素手、自分の方が圧倒的に有利だ。頭ではそう分かっているにも関わらず、ユージオは気づけば上条から一歩後ずさっていた

 

 

「思い出せっ!ユージオ!」

 

「ーーーッ!はああっ!」

 

 

上条が容赦なく拳を繰り出してくる。ユージオはそれをかわしつつ、青薔薇の剣で上条に切りかかるが、上条もまた驚異的な動体視力でユージオの青い刃を視界に捉えると、紙一重でそれをかわした

 

 

「お前には大切な人達がいただろうが!ルーリッド村で俺達の帰りを待っているセルカ!修剣学院で指導してくれたゴルゴロッソ先輩やリーナ先輩!しょっちゅうバカをやった俺たちを叱ってくれたアズリカ先生みたいな、大切な人がいただろうが!」

 

 

ユージオの額には、えも言われぬ脂汗が滲んでいた。自分が少しでも押せば、この男の体は簡単に切り裂けるハズだ。しかし、この男にはそうさせない何かがある。そう考えている内に、上条のアッパーがついにユージオの頬を掠めた

 

 

「チッ!?」

 

「それが今のお前は何だ!?アドミニストレータの言いなりか!?そんな鎧までプレゼントされて、さぞかし気分がいいだろうな!公理教会の在り方を守る、この世界を守る正義の味方を気取るってのは、そんなにも楽しいか!?」

 

「う、うるさいっ!」

 

「右目の封印を破った時のお前はどこに行っちまったんだ!?ロニエも言ってただろうが!ただ守るんじゃなく、何でその法があるのかを、自分の中の正義に照らして考えることが大切なんだって!あの時のお前には、自分の正義があったんじゃねぇのか!?ティーゼを守れない法じゃなく、ティーゼを守りたい自分の正義があったんだろうが!!」

 

「しっ、システム・コール!ジェネレート・エアリアル・エレメント!バースト・エレメント!」

 

 

ユージオは迫り来る上条の拳から後ろに飛んで距離を取ると、左手を掲げ先程と同様に五つの風素を爆発させ烈風を引き起こしたが、それは横薙ぎに振るわれた上条の右手が触れた瞬間にあっという間に崩れ去った

 

 

「お前が守ったティーゼはな!あの日お前を見送った後も、お前のことを誇りに思ってたんだ!お前が示してくれた正義ってやつをな!それをお前は、そんな一時の幻想で台無しにしちまうのかよ!今のお前の姿を見て、ティーゼが本当に喜ぶわけねぇだろうが!」

 

「・・・エンハンス・アーマメント!!」

 

「ぶ、武装完全支配術までっ…!?」

 

 

なおも迫り来る上条に対し、ユージオは青薔薇の剣を床に突き刺して声高に神聖術の式句を叫んだ。アリスがその詠唱の早さに驚愕した刹那、バシイイイッ!!という空気に亀裂が走るような音と共に、水晶のような霜柱を鋭く突き立てながら、青薔薇の剣の記憶から生み出された氷塊が上条に襲いかかった

 

 

「咲け!青薔薇っ!!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

しかしそれでも、上条当麻は止まらなかった。次々に襲いかかる永久氷塊を右手で殴り壊し、絶対零度の海を乗り越えていく。自分に伸びる青薔薇の蔦を払いのけ、ついにユージオの武装完全支配術を凌ぎ切った

 

 

「な、なにっ…!?」

 

「あの人は僕が欲しいものをくれるだぁ?笑わせてくれんじゃねぇ!自分が本当に欲しいものってのはな、自分から掴みにいくもんなんだよ!他人から与えられるのを待ってるんじゃなく、自分の力で必死に足掻いてでも掴み取るモンなんだよ!お前が欲しかった、お前が本当に叶えたかった願いを思い出せ!ユージオ!」

 

「ーーーッ!?」

 

「アリスだろ!他の誰よりも大切だったアリスと、一緒にルーリッド村に帰る事ってことがお前にとっての一番の願いだったんだろうが!!」

 

「アリスっ…僕の…願、い……?」

 

 

上条の必死の叫びが届いたのか、ユージオの視線が自分たちの戦いを見守るアリスへと向けられ、額に逆三角形の紫色の光が浮かび上がった。そして上条が、それを見逃すハズがなかった。彼は今一度右手を硬く握り締め、左足を踏み込んで全身を大きく捻り込んだ

 

 

「歯ぁ食いしばれよユージオ…!アリスの時は違ったが、お前は別だ!遠慮なんか一切しねぇからな!なんたって俺らは親友で!お前は俺の相棒だからだ!!」

 

「あぁ、あああああ…!!」

 

 

ユージオの脳裏に、先ほどまで薄ぼんやりとしていた少年の素顔が浮かぶ。自分を変えてくれた、掛け替えのない友達がすぐそこにいる。自分が間違った道を進もうとすれば、体を張ってでも止めようとしてくれる、どこまでも真っ直ぐな少年

 

 

「これで何もかも全部思い出そうぜ!お前の本当の守りたかった人ってヤツを!そしてもう一度始めようぜ!お前の本当の願いを叶える物語ってヤツを!だから…いい加減戻ってこい!この大バカ野郎ッ!!」

 

 

上条の右拳が、ユージオの額へと吸い込まれていった。ユージオの体がその拳の衝撃に徐々に倒れ床に沈んだ瞬間、額の紫色の光がパリィンッ!という音を立てて消え去った。それから上条はすぐさまユージオの元に駆け寄ると、彼の肩に手を回して膝の上まで抱き起こした

 

 

「ユージオ!大丈夫か!?ユージオッ!」

 

「お前があんなに本気で殴るからでしょう!離れなさい!私の天命をユージオに分けます!システムコール!トランスファー・ヒューマン・ユニット・デュラビリティ!セルフ・トゥ・レフト!」

 

 

放ったらかしになっていた上条の剣と盾を持って駆けつけたアリスがそう叱責すると、上条は一度ユージオを床に寝かせた。そしてアリスがユージオの左手を手に取り、天命移動の神聖術を唱えると、アリスの体とユージオの体が光に包まれ、アリスを包んでいた光が流れるようにユージオへと移動していき、やがてユージオが掠れた声を漏らしながら目を開けた

 

 

「んっ、あぁ……」

 

「ユージオ!?大丈夫か!」

 

「カミ、やん…?アリス…?」

 

「あぁそうだ!分かるか!?」

 

「・・・うっ…ごめんよ、二人とも…僕はあの人の誘惑に負けて、君達を傷付けてしまった…」

 

「んなこたぁ今はどうだっていい!お前はルーリッド村の樵が天職だったんだ!これがとんでもねぇ巨人みたいな木を生涯刻み続けるって、お前まで七代も続いたとんでもねぇ天職でよ!だけど俺とお前は、その怪物じみたギガシスダーって大樹を、出会ってからたったの一週間かそこらで切り倒したんだ!すげぇだろ!?そんで天職からめでたく解放されたお前は、えっと…!」

 

「あはは…そんなに慌てて言わなくても、ちゃんと覚えてるよ。カミやん」

 

 

上条はまるで機関銃のようにこれまで自分達が辿ってきた旅路を、口早にユージオに撃ち続けた。ユージオはそんな上条がおかしく思えたのか、肩を震わせながら笑うと、暖かな表情で言った

 

 

「ほ、本当か!?」

 

「本当に効いたよ…カミやんの一発。もう少し手加減してくれたっていいじゃないか…僕たちの大切な思い出が、全部飛んじゃったらどうするのさ」

 

「あ、あははは…バカ野郎。お前は…ほんとに…人の気も知らねぇで…」

 

 

ユージオが笑いながら言うと、上条も思わず目頭を熱くしながら言った。そんな二人の友情にアリスもまた口元を綻ばせたその時、どこからともなく部屋に何者かの声が響き渡った

 

 

『お誂え向きに『記憶の穴』があったからそこにモジュールを差し込んでみただけじゃダメだったのかしら?やっぱり横着は良くないわね、ちゃんとシンセサイズすべきだったわ。それともそこの坊やの右手のせい?まぁ過ぎた話はもういいわ』

 

「ッ!アドミニストレータか!?」

 

 

突如として聞こえた声に、上条がいち早く反応して周囲を見渡したが、部屋には誰かがいる気配すらなかった。懸命に首を振る上条を笑いながら、謎の声は続けて語りかけてきた

 

 

『ふふっ。この借りは高くつくわよ坊や?ユージオに使ったモジュールは完成したばっかりの改良型なの。アレを使ってシンセサイズすれば、その瞬間から心意の力を使えるようになるわ。それに完全支配術まで教えてあげたのに、ぜ〜んぶ台無しにしてくれちゃって』

 

「テメエッ…!よくもこれまで好き放題やってくれたな!どこだ!姿を見せろ!」

 

『そんなに会いたいのなら、ユージオが降りてきた昇降盤で昇ってくればいいわ。あなたのずっと目指してきた、お待ちかねの100階が待ってるわよ。あは、あはははははは!』

 

 

それを機に、どこからか聞こえていた声はさっぱり聞こえなくなった。静寂に包まれた空間の中で、上条はユージオの乗ってきた昇降盤を一瞥すると、寝そべるユージオに向けて聞いた

 

 

「・・・ユージオ、来れるか?」

 

「今さらそれを聞くのは野暮だよカミやん。お前はここで休んでろ、なんて言われたら、それこそ今度は僕がカミやんのことをぶん殴ってたよ」

 

 

上条の言葉に対して、ユージオは仰向けに寝ていた上体を起こしながら笑って言った。そんな彼に対して上条は心の底から頼もしいと思うと、次は向かい合わせのアリスに訊ねた

 

 

「へっ、頼もしいな。アリスは?」

 

「殴ります」

 

「頼もしすぎて怖えよ!?」

 

「ユージオと同様に聞くなということです。元々私に発破をかけたのはお前なんですから、お前は他人の心配などせずに前だけ見てれば良いのです」

 

「・・・よし、じゃあ行くぞ。二人とも。この世界の命運が、俺たちに懸かってる」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 

ユージオとアリスが上条の言葉に強く頷くと、三人は共に立ち上がった。ユージオは鎧を外して学院の制服に戻り、青薔薇の剣を鞘に納めた。そして上条が盾と剣を結びつけた剣帯のベルトを締め直すと、三人で足並みを揃えて昇降盤の上に乗った。それを合図に昇降盤は再び宙へと浮かび上がると、三人を世界の頂点へと誘っていった

 

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