とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第6話 仮想世界

 

「・・・天職ぅ?」

 

 

と言うと何か?こんな田舎くさい土地の村の衛士なんかが自分の天職だと信じてやまない人間がいて、ソイツが自らそんな役割を買って出ているのか?と上条は疑問に思った。しかし、ユージオはさもそれが当然であるかのように言うので、いざ突っ込もうにも突っ込むことが出来なかった

 

 

「あ…ってそれは僕も同じじゃないか。ごめんカミやん、僕も仕事があるから村に案内するのはすぐには無理かな…」

 

「仕事?」

 

「うん。今は昼休み中なんだ」

 

 

そう言うとユージオは先の巨木の根元を指差した。するとそこには簡易的な包みで覆われた、パンのような物が二つと、革で作られた水筒が鎮座していた

 

 

「あ、メシの邪魔だったか。そりゃ悪りいことしちまったな」

 

「ううん、気にしないで。仕事が終わるまで待っててくれれば、一緒に教会まで行ってシスター・アザリヤに君を泊めてくれるよう頼めるけど…まだ4時間くらいかかるんだよね」

 

「よ、4時間か…」

 

 

時間の感覚はハッキリとしないが、ユージオの言葉と太陽の高さから察するに今は昼で違いないのだろう。しかし、上条としては一刻も早く情報が欲しいのも事実、けれどユージオとの繋がりを断ってしまうのも本意ではない。しばらく頭の中でその二択を天秤にかけた上条だったが、意を決したように頷いて口を開いた

 

 

「大丈夫だ、こっちはむしろお願いしてる立場だからな。それぐらいは待てる。悪いけどよろしく頼んでもいいか?」

 

「もちろん。それじゃあ友好の証として…」

 

 

ユージオは会話を不自然なところで切り上げると、巨木の方に歩いて行った。不思議に思った上条がその後を追うと、ユージオは手にしていた斧を降ろし、自分の昼食である2つのパンの包みを開いた。するとそのパンの片方を、上条の方へズイッと差し出した

 

 

「はい、カミやん。あんまり味はオススメ出来ないけど」

 

「え?い、いやそれは悪りぃよ…それユージオの飯なんだろ?だったら…」

 

 

そう言いかけたところで上条の腹が盛大な音を立てて鳴った。もはや誤魔化しの効かないほどの大音量で、ユージオが聞きそびれるハズもなくクスクスと可笑しそうに笑っていた

 

 

「ふふっ。身体は正直みたいだね?」

 

「・・・すまん、ありがたく頂きます。腹減って死にそうだ。ところでユージオ、それ意味分かって言ってんのか?」

 

「え?な、何のこと?」

 

「・・・天然かぁ…」

 

「?」

 

ユージオは上条の言葉を理解できていなかったようだが、あまり多くは言うまいと上条はその呟きを最後に、差し出されたパンを受け取り、巨木から生える一本の根っこに座り込んだ

 

 

「そんじゃ、いただきまーーー……」

 

「あ、カミやん。ちょっと待って」

 

「んぁ?」

 

 

上条が大口を開き、少し灰色がかったパンの生地に歯を立てようとした瞬間、ユージオに待ったをかけられ、パンを持っている両手を降ろした

 

 

「長持ちするしか取り柄のないようなパンなんだけど…まぁ一応ね」

 

 

するとユージオは、左手に持った自分のパンの上に、右手でアルファベットのSの字に似たような軌跡を描いた。そしてその軌跡に軽く触れると、金属が振動したような音とともに、薄紫色のウィンドウのようなモノが浮かび上がった

 

 

「なッ!?」

 

 

それを見た上条は愕然とした。表示の仕方こそ異なれど、ユージオが表示したそれは間違いなく『ステータス・ウィンドウ』だった

 

 

(・・・決まりだな。ここまでイマイチ確証は持ててなかったけど、ここは現実でも、異世界でもない…人間の生み出した仮想世界だ)

 

 

百聞は一見に如かずといったところか、上条が抱えていた疑念はユージオの表示したウィンドウによりあっさりと晴れ、何より欲しかった確証を得た。そして上条自身もまた、見よう見まねでパンの上に左手の指二本で少し歪なS字を描いて触れた。すると、上条のパンの上にも『Durability』という文字と、その隣に数字の『7』の書かれたウィンドウが現れた

 

 

「お、おお…これは……」

 

「?ねぇカミやん、まさか『ステイシアの窓』の『神聖術』を見るのが初めてだ、なんて言わないよね?」

 

「え?い、いやまっさかぁ。そんなわけないだろ」

 

(実は記憶を失くしたのはこれで二度目です…なーんてな)

 

 

あまりにも興味津々にウィンドウを見ている上条を見て、ユージオは不安そうな声で尋ねた。上条としては聞き慣れない単語がいくつもありそれについて聞いてみたかったが、イマイチこの世界の常識の尺度も掴みきれてないので、どうにかして誤魔化そうとした上条がウィンドウの表面を軽く触れると、薄紫色のソレは光の粒を散らして消えた

 

 

(消し方はこれで合ってたか…)

 

「なら良かった。『天命』はまだ余裕がありそうだったから、ゆっくり食べていいよ。これが夏だとこんなには残ってないけどね」

 

「・・・天命ねぇ…」

 

(要するにだ、さっき表示してたステイシアの窓とかいうのに載ってたDurability…いわゆる『耐久値』をこの世界では天命って呼んでて、それを差す数値が、このパンの場合は7…ってとこか)

 

 

上条は大雑把に目に見えた情報を頭の中で整理すると、今度こそ手に取ったパンに噛り付いた。するとどうだろう、小麦の味と程よい食感が口の中に……

 

 

「ごっ!?」

 

「美味しくないでしょ、これ」

 

 

噛り付いた瞬間、上条は思わず口の中のパンを戻しそうになった。苦笑いしているユージオの言う通りお世辞にも美味いとは言えないが、譲ってもらった身でそんなことを言えるはずもなく、無理やり咀嚼して飲み込んだ

 

 

「そ、そんなことねぇよ。美味いなぁ…」

 

「無理しなくていいよ。出がけに村のパン屋で買ってくるんだけど、朝早いから前の日の残り物しか売ってくれないんだ。昼に村に戻るような時間もなくてね」

 

「じゃ、じゃあ家で弁当でも作って持って来れば……」

 

 

そう言いかけながらユージオの方を見ると、ユージオはパンを持ったまま目を伏せていた。何か無遠慮な言葉だったかと上条は首を縮めたが、ユージオはすぐに顔をあげると小さく笑った

 

 

「はは、僕あんまり料理できなくてね。ずーっと昔はね、昼休みにお弁当を持って来てくれる人がいたんだけど、今はもう…」

 

「・・・どうしたんだ?」

 

 

これは聞いていいものか、と聞いた後で上条は思ったが、ユージオは木漏れ日の差し込む巨木の針葉を見上げながら、どこか懐かしむような口調で話し始めた

 

 

「幼馴染だったんだ。同い年の女の子で、小さい頃は朝から夕方までずっと一緒に遊び回っていて…天職を与えられてからも、毎日お弁当を持ってきてくれたんだ。でも6年前、僕が11歳の時の夏のことなんだけどね。村に『デュソルバード・シンセシス・セブン』っていう名前の『整合騎士』がやってきて『央都』に連れて行かれちゃったんだ」

 

「でゅ、でゅそるばーど…やたらと長い名前だな。でも、なんでそのせいごーきし…ってのに連れて行かれちまったんだ?」

 

「・・・僕のせいなんだ。安息日に2人で北の洞窟に探検に出かけたけど、帰り道に迷って…果ての山脈を向こう側に抜けたんだ。決して足を踏み入ることならずって、分かってたのに…『禁忌目録』にも…そう書いてあるのに…」

 

(禁忌目録…?)

 

 

ユージオが口にした言葉の中に、いくつも知らない言葉があったが、その中でもかつて上条が、自分のアパートのベランダで出会った純白の少女の役割と似た響きする言葉があり少し頭に残ったが、敢えて聞かずにユージオの話に耳を傾けた

 

 

「ただ少しだけ闇の国に…『ダークテリトリー』に掌が触れただけなんだ。それなのに整合騎士は村にやってきて、彼女を鎖で縛り上げた。助けようとしたんだ。僕も一緒に捕まってもいい、そう思って斧を手に取ろうと思った。でも、そこから手も足も動かなくて…僕はただ…黙って彼女が連れて行かれるところを見ることしか………」

 

 

まるでその時の悔しさを滲ませるように、ユージオは食べかけのパンをグシャッと握り潰した。その表情に自嘲の色を微かに浮かべながら、ひしゃげたパンを口に放り込むと俯きながら噛み続けた

 

 

「・・・その子がその後どうなったのか、知ってるのか?」

 

「整合騎士は尋問ののち処刑する、って言ってた。彼女のお父さんの村長も死んだものと思えって…でもカミやん、僕は信じてるよ。きっと生きてるって」

 

 

一拍おいて、雄大な雲が流れる蒼穹を緑色の瞳で見上げながら、どこか遠い日々を思い出したような寂しげな声で呟いた

 

 

「『アリス』は、必ず央都で生きてるって」

 

「アリス…『不思議の国のアリス』…?」

 

 

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