とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第16話 士気高揚

 

「・・・・え〜…一部臆測にすぎない点はありますが、とりあえず現時点では、これが私の隣にいるカミやんという少年がここにいる経緯と、あるはずのない記憶が混濁している理由です」

 

 

夜も更け始めた頃に始められた軍議は、用意された長机の最前列にある席に着いた上条とアリスの簡単な自己紹介から始まった。しかし簡単だったのは自己紹介までで、その直後に始まった上条がここにいる経緯の話には、その場にいる全員が頭を抱え、者によっては首を傾げていた

 

 

「ここと似た世界がもう一つあって、その世界から迷い込んで来た…ねぇ…」

 

「つまるところそれは、聞きしに及ぶベクタの迷子とは違うのですか?」

 

 

混乱を避けるためにも、この世界が作られた物であることや、それを管理する者がいることを伏せながら、アリスが配慮に配慮を重ねて話したというのにも関わらず、話を聞き終えてから深いため息を吐いたベルクーリは、顎に生えた無精髭をなぞりながら訝しげに呟いた。それに続いて口を開いたエルドリエが訊ねると、上条がそれに答えた

 

 

「いや、ベクタの迷子とは違う。俺はそもそも住んでた世界が違うんだ。信じられないとは思うけど、簡単に言えばこの世界と同じ歴史を辿っていて、なおかつ同じ人間がいる世界がもう一つあって、俺はそっちの世界を生きてたんだ。けど、原因の分からない何かが起こって、二つの世界が融合した…ってことだと考えてる」

 

「んで…その帳尻合わせとして、今の俺たちの頭ん中には、そっちの世界にいた俺たちの記憶が混在してる…ってことか?」

 

「まぁ、噛み砕いて言えばそういうことだ。俯瞰的な視点で見るなら、同じ世界が二つあるってことは、同じ人間も二人いることになる。だけど、本当はこっちの世界や人が正しい…言ってみれば元になった世界なんだ。俺がいた世界は後付けで、その世界が生まれたせいで辻褄が合わなくなったから、人間の記憶ごと世界が融合した…ってことだと思う」

 

「・・・訳が分からない…」

 

 

疑問を投げたベルクーリに対して上条が付け足した説明に、それを同じく耳にしたエルドリエは再度頭を抱えて吐き捨てた。するとその次には、真紅の鎧を纏った整合騎士、デュソルバード・シンセシス・セブンが一つ咳払いして口を開いた

 

 

「私はなんとなく腑に落ちてきた。私の頭の中には、あのキリトとユージオなる二人の少年に倒された記憶と、お前一人の拳に打ち倒された記憶がある。要するにお前は、そのもう一つの世界においては、あのキリトという少年に代わるイレギュラー…ないしは代役のような位置にいたんだろう?」

 

「代役か…まぁ、そういうことだと思う。俺はこっちの世界でキリトが具体的にどう過ごしてきたのかは、アリスから大雑把に聞いた程度しか分からないけど、俺はアイツと同じような経緯を辿ってきたのは間違いない」

 

「・・・では聞くが、お前はそこにいる『レンリ・シンセシス・トゥエニセブン』という整合騎士と会ったことは?」

 

 

そう言ったデュソルバードは、不意に後ろの方の席に座る一人の少年騎士を指差した。突然の名指しにビクリと肩を浮かせた少年は、明らかに上条よりも若年に見えた。実際に自分よりも年下なのかは分からないが、あのフィゼルとリネルという二人の少女とも対峙していたので、彼のような少年が整合騎士であることに特に驚きを感じることもなく、ただレンリの顔を一瞥して首を振った

 

 

「・・・いや、会ってないな。俺がカセドラルで戦った整合騎士の中にはいなかった」

 

「そうか。言及するとこのレンリは、キリトとユージオにも会っていない。そこで代表してレンリ、お前に問う。お前はこの世界ともう一つの世界の記憶が、二つ存在しているという実感があるか?」

 

 

デュソルバードの問いかけに、軍議の開かれた天幕の中に集まる全員の視線がレンリという少年騎士に注がれた。するとレンリは、緊張に喉を詰まらせながらも、ゆっくりと口を開いた

 

 

「えっと……僕にはそもそも、そんな記憶が融合した実感も、記憶に辻褄が合わない点も見当たらない…です」

 

「・・・うむ。代表を立てておいて今更だが、他の者にも重ねて問いたい。整合騎士を除いて、自分の記憶に混在している点がある者、アリスとカミやんが語る事態に心当たりがある者は、正直に挙手してほしい」

 

 

レンリの答えにデュソルバードは何か確信を得たのか、少し感慨に耽るようにため息を吐いた。そしてその後、今度は軍議に集った16人の整合騎士以外の、30人ばかりの人界守備軍の部隊長に問い質した。彼らはしばらく周りと視線を配り、顔色を伺っていたが、やがて誰しもが首を振り始めた。しかしそんな中で、長机のかなり奥の方から一本の手が真っ直ぐに上がると、その細い手に首を振っていた兵士の視線が集まった

 

 

「そなた、名はなんと?起立してこちらに来ていただけると助かります」

 

 

アリスが訊ねると、手を挙げた兵士は椅子を引いて立ち上がり、素早くアリス達上位の整合騎士と、上条達が座る最前列付近に走りよった。その人物は、敬礼の姿勢を取りながら凛とした声で、上条にとってはよく知るその名前を名乗った

 

 

「お心遣いに感謝いたしますのと同時に、まだ若輩の者ながらも名乗らせていただきます。ソルティリーナ・セルルトと申します。人界守備軍においては部隊長の任を預かっております」

 

「ありがとうございます。ではお聞きしたいのですが、ソルティリーナさんの記憶が融合したと実感できる点とは、一体なんでしょうか?」

 

「・・・私の記憶の中には、北セントリア帝立修剣学院において、キリトの指導生として一年間剣を教えていた記憶と、そこにいるカミやんの指導生として、同じく剣を一年間教えていた記憶が混在しています」

 

「やはり、そういうことか……」

 

 

アリスの質問越しにリーナの返答を聞いたデュソルバードは、何かに合点がいったように肩を上下させた。そして腕組みをして背もたれに体重を預けると、上条へと視線を向けながら言った

 

 

「このソルティリーナという騎士以外の様子や、レンリの様子から鑑みるに、世界が二つあって、その世界と記憶が融合した実感が持ててるのは、このカミやんと、キリトに関わった人間だけ。だが、どちらの世界の記憶にも、この二人が同じ時間、同じ場所にいた記憶がない。つまり、カミやんとキリトだけは二人存在していないことになる」

 

「・・・・・」

 

「カミやんのいたもう一つの世界にはキリトが存在せず、キリトのいたこちらの世界にはカミやんが存在しない、それは何故か。もっと言えば、なぜお前たちと関わった者には、似通った記憶が二つ混在するのか。私の推測が正しければ、お前たち二人は我々とは何かが違う人間なんじゃないのか?まだ何か隠していることが……」

 

「ーーーッ!?」

 

「で、デュソルバード殿ッ!それは…!」

 

「話の途中で悪いけれど、一ついいかしら?」

 

 

自分たちが隠して話した事実に、デュソルバードがここまであっさりと辿り着くとは夢にも思わなかった上条とアリスは、胸の内側で密かに驚愕した。そして同時に、それを口にさせてはいけないと決めていたアリスが、慌てて手を差し出しかけたところで、急にファナティオが口を挟んだ

 

 

「えっと、二つの世界と記憶が融合した実感が持ててるのは、この少年とキリトに関わった人間だけ…って言ったわよね?お言葉なんだけど、私はそこのカミやんと関わった記憶ないけど、その実感はあるわよ?」

 

「な、それは真ですかファナティオ殿っ!?」

 

「それと多分、私の部下である四旋剣も」

 

 

ファナティオが述べた話に、デュソルバードは驚きの声を上げると、ファナティオは次に自分の配下である整合騎士、四旋剣に属する四人を見やった。同じ白の鎧を着た四人の騎士は、ファナティオの話に深く頷くことで答えた

 

 

「そ、それはその…一体どういう理由で?」

 

「私と四旋剣は他の整合騎士と同じように、キリトとユージオに倒されました。けれど、もう一つの世界で経験した記憶では違うのよ。もう一つの記憶だと私や四旋剣は、訳の分からない緑色の修道服を着た男に倒され…いえ、殺されたのよ」

 

「あーっ!そうだった!すっかり忘れてた!神の右席!左方のテッラ!」

 

「はいはーい!実際に顔を見たわけじゃないから分からないんですけどー!」

 

「多分私たちもその人に首を刎ねられましたー!」

 

「・・・んな笑顔で言うことか…?」

 

 

ファナティオの意見に便乗するように、フィゼルとリネルは手を挙げて長机に身を乗り出しながら弾けるような笑顔で言った。そんな彼女たちに対し、上条は呆れながらも話を続けた

 

 

「すまん、えっと…ファナティオさん達が殺されたのは、左方のテッラって人間で…簡単に言えば俺やキリトと似たような、両方の世界にはいない人間なんだ。だけどソイツは悪いヤツ…言ってみれば今から戦うダークテリトリー側の人間みたいなヤツだ」

 

「と、言うと?私たちはあなたやキリト、そのテッラという人間とのいざこざに巻き込まれた、そういうことですか?」

 

「うっ、それは……」

 

「・・・なぁ…お前さん達よ。一つ聞きてぇんだが、それってそんなに重要なことか?」

 

 

ファナティオの追及に上条が言葉を詰まらせていると、不意にベルクーリが少し笑いながら口を開いた。そんな彼の突然の問いかけに上条はおろか、他の面々も言葉を失っていると、ベルクーリは鼻から太く息を吐いて淡々と語り始めた

 

 

「そりゃあ俺だって、最初は面食らったぜ?ある日なんの間違いなのか、見覚えもないツンツン頭のガキと殴り合って、その果てに自分が死んだ記憶がいつの間にか頭に居座ってんだ。そんな夢を見た覚えもねぇし、ついに生き永らえすぎて死の前兆でも自意識が予言したのかと思ったさ」

 

「ところがどっこい、ソイツが実際に目の前に来て、この世界が本当は二つあると来やがった。まぁ記憶が二つあるってのは俺として気になるところだったんで、軍議が始まる前にアリスの嬢ちゃんに説明してくれって頼んだのは俺だったんだが、予想だにしなかったとんでもねぇスケールの話が飛び込んで来て…まぁ驚いた。だが、それだけだ」

 

「この坊主やあの少年が只者じゃねぇってのは、アリスの嬢ちゃんが語るサマや、実際に殴り合い、心意の刃をぶつけた俺には分かる。だけど、その只者じゃねぇ理由を解明すりゃあ、もう目の前まで来てる闇の軍勢の進行は止まるのか?」

 

 

ベルクーリの声は、低く厳かで静かなものだった。しかし、彼が話すというそれだけで周りは嘘のように静まり、彼の声は天幕の端から端まで鮮明に聞こえていた。その上で、彼の問いかけに何か反応を起こす者は一人もいなかった

 

 

「俺たちがここに集まった理由はなんだ?言ってみろ、カミやん」

 

「・・・人界の皆を守るためだ」

 

「そうだ。人界を、そこに住まう無辜の民を守る。それこそが俺たちがこんな東の果てまで遥々集まった理由だ。断じてこんな机上で、お互いの疑問と空論を投げ合うために集まったわけじゃあねぇ」

 

「お前らの不安はもっともだ。けどな、そんなことお構いなしに、闇の軍勢は攻め込んで来るぞ。そんな時でもお前達は、この少年たちの事情に耳を傾け、頭を悩ませながら剣を握るのか?そんな自分の興味だけに心を動かされるようじゃ、俺たちはこの戦争には勝てない。絶対にな」

 

「だから俺たちが気にするべきなのは、この少年たちが力を貸してくれるってことだけでいいんだよ。素性が分からなきゃ不安か?じゃあ教えといてやる。このカミやんはな、一人の親友と、その幼馴染のアリス嬢ちゃんのため、たったそれだけの理由で世界を敵に回して戦った男だ」

 

「そしてその末に、この世界の頂点に立っていた最高司祭をも拳一つで黙らせた。そんな男が、人界守備軍の味方に来てくれたんだ。こんなにも心強え味方は、願っても来てくれるモンじゃねぇだろ」

 

「おっさん……」

 

「小父様……」

 

 

いつしか、彼らが集まる天幕だけでなく、人界守備軍全体が静まり返っていた。けれど、それを知る者は一人もいなかった。皆が無意識のうちに、破格のカリスマ性を誇る、世界最強の剣士の言葉に耳を傾けていた

 

 

「なぁに心配すんな、責任なら俺が取る。この少年たちが人界の民に害を及ぼすようなことがあれば、即座に切り捨てる。だが、そんなことは夢にもないとまず信じてやれ。忘れたか?この守備軍じゃあ、そういう面倒な儀礼だの何だのは全部なしにしたハズだろ。禁忌目録にも『一般民は騎士と話す前にはたっぷりご機嫌伺いをしなくてはならない』なんて決まりはない」

 

「同時に『全ての事情を包み隠さず話した者のみにしか、背中を預けてはならない』なんて決まりもない。俺たちが信ずるべきなのは、ここにいる全員が、人界の民を守る為に戦いに来ているということだ。そして紛れもない、人界守備軍の勝利を願っている」

 

「今はそれでいいじゃねぇか。互いの腹を割って話すなんてのは、祝勝の宴で酒を飲み交わしながら、飽きるまでやったらいい。この少年たちの首根っこを引っ掴んで、ぶっ飛んだ世界の理についての話を酒の肴にすりゃあいい。そんで、そんなぶっ飛んだ話すら霞むほどの、自分が戦で挙げた武勇伝に花を咲かせてこそ、真の英雄ってモンだろ」

 

「おぉ、おおおおおお………」

 

 

それは、アリスの喉元から自然と漏れた唸り声だった。彼女だけでなく、全ての人間が震撼していた。沸々と湧き上がる闘志に胸を踊らせ、体を震わせていた。鼻や口からは荒々しい息が漏れ始め、握りしめた拳を突き上げるべきその時を、今か今かと待ち望んでいた

 

 

「二つの世界と記憶?俺たちが今から戦うのはそんなものじゃねぇ!俺たちから大切な民を奪わんと襲いかかる、ダークテリトリーの軍勢だ!そして俺たちは人界守備軍だ!守る為に戦う騎士だ!背負う物が違う!剣にかける重みが違う!拳を撃つ覚悟が違う!」

 

「今こそ集え!求める平穏のために!手を取り合え!志を同じくする者のために!そして恐れるな!戦いの果てに夜明けを迎え、人界の蒼穹を仰ぎ見るのは!俺たち人界守備軍の人間だ!!!」

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」」」

 

 

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