とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第30話 遥かなる視点

 

「あーあー。よくもまぁここまで複雑に拗らせたモンだぜ。おいおい、これどうすんだオティヌス?流石にちょいと看過しすぎじゃねぇの?たしかに上条ちゃんが後先考えずに並行世界の技術をパクったのも問題だけど、この責任の一端は二つの世界に同じザ・シードを撒いちまった俺たちにもあると思うぜ?」

 

 

中性的な出で立ちをしたその男『雷神トール』は飄々とした態度で言った。やたらと固い丸太の椅子と、必要以上に大きい木製の円卓に肘をついて頬を支える彼に、円卓の対岸にいる金髪の少女が答えた

 

 

「北欧神話には正義と悪が存在しないということを、よもや知らずに話している訳ではないだろうな。雷神」

 

 

二つの世界の垣根を取り払った『Alfheim Online』という仮想世界の中心、世界樹の頂点で『隻眼のオティヌス』という『魔神』の称号を背負う隻眼の少女は、黄金で造られた玉座に座したまま、怪訝そうな表情で対岸に座る雷神に言った

 

 

「いや、そういうことを言ってんじゃねぇって。この状況を作り出した原因と、ある程度の責任を取る必要が俺らにもあるんじゃねぇの?ってことが言いたいわけよ。仮にも『二刀流の坊主』がいる方の世界は、オティヌスのミスで出来た世界だろ?」

 

「挑発はその辺にしておけよ。誰が貴様を元に戻したと思っているんだ?貴様の目的はどうせ、その責任を取るだのとアレコレ理由をつけて、あの世界で腕試しついでに暴れたいだけだろう?」

 

「う〜ん、バレてたか〜」

 

「それでも、私はトールの意見に一理あるよ。このALOを利用してる連中の一部は薄々勘づいて、現実でも噂し始めてる。仮想世界に現実の話を持ち出すのはタブー視されてるけど、それだって友好関係を築いたヤツらにとっちゃタブーでもなんでもないからね」

 

 

トールから少し離れた場所に座る、銀髪を三つ編みにした褐色肌の彼女『マリアン=スリンゲナイヤー』は、トールと同じように左手で頬杖を突きながら右の掌を魔神に見せながら言った

 

 

「それはこの妖精の世界に限った話だ。異世界の民同士が騒いだところで、実際にどうこうなる話ではない。それ以外の仮想世界は依然として完全に隔たれている。むしろあの人間が勝手に持ち出した『地下の世界』が例外なのだ。ならばその責任は自分で取って然るべきだろう。我々が出る幕ではない」

 

「ダメだこりゃ、聞く耳持たねぇなこの神様は。っていうか、元からこうなることはそれなりに予想ついてたんじゃねぇの?たまたま一番最初が上条ちゃん連中だったってだけだ。なんでわざわざ『あの男』が横流ししてきた『ザ・シード』を二つの世界に配る必要があった?せめてどっちかは仕様を変えるべきだっただろ」

 

 

トールは依然として態度を変えないオティヌスに、頭を抱えてため息を吐きながら言った。一方のオティヌスも、足を組んで玉座の肘かけに肘を立てて頬杖を突くと、左目でトールを睨みながら言った

 

 

「それがあの男の望みであり、私としても目指すものが同一だったからそうしたまでだ。既にデジタルデータである貴様には知る必要もない」

 

「分かった。じゃあこの際だ、細かいことは言わねぇさ。とりあえず俺だけでも…」

 

「諦めなトール。オティヌスが言ってる通り、今の私らはただのデータで、数あるAIの一つに過ぎない。現実に干渉したって何の得もありゃしないよ」

 

「別に現実側に過度に干渉しようなんざ俺だって思ってねぇよ。だけど、ここはゲームの世界だろ?ただ面白そうな場所に殴り込んで遊びに行くのの何が悪い?」

 

「『これは、ゲームであっても遊びではない』」

 

 

オティヌスが静かにも重みのある声でそう言うと、世界樹の頂点は静寂に包まれた。トールとマリアンはオティヌスに視線を注ぎながら口を噤み、北欧の魔神はため息交じりに続けた

 

 

「・・・恐らくこれは、『ザ・シードを作り出した人間』が望んで作り出した状況だ。ゲームとは今でこそ娯楽や児戯という意味合いが強いが、元は勝負や勝敗を決める言葉であり、これは彼らにとっての先行きを決める正念場だ。私たちが遊び半分に関与すべきでは……」

 

「なら、その世界に賭けた上条ちゃんはどうだ」

 

 

鋭さを持ったトールの一言に、オティヌスの眉が微かに動いた。雷神は頬杖を解くとその指先をオティヌスに向け、真剣な眼差しを彼女の隻眼に注いで言った

 

 

「確かに本物の神様のお前からすれば、人間が何しようと知ったこっちゃねぇだろうな。だけどお前だって分かってんだろ。『これは、ゲームであっても遊びではない』って言葉の『ゲーム』って部分が勝ち負けを意味するところだってんなら、このままじゃ確実に上条ちゃん連中は『負ける』ぜ?」

 

「・・・では具体的にどうしろと?私が手を一つ振れば確かにあの人間は勝つだろうな。そうすれば人間共は喜ぶと?」

 

「あ〜…まぁ俺の言い方も悪かったな。コイツは見方を変えれば、仮にも仮想世界に関わってきた俺らに向けられた宣戦布告とも取れる。少なくとも上条ちゃんは、それを分かった上で俺らの分も背負ってる。だったら俺は、売られた喧嘩くらい自分で買う。勝手に背負われるなんざまっぴら御免だ」

 

「・・・確かにね。AIになった身としては、今のアイツらの力になってやりたい気持ちも少しくらいは私にもある。まぁいずれ取って食われる時が来るのかもしんないけど、それでも今の連中に仮想世界を定義づけられるのは癪に障るね」

 

「・・・ふむ…」

 

 

一見して中立に見えていたマリアンがトールに寄り始めるような意見を述べると、ついにオティヌスも痒くもない後ろ頭を掻き始めた。そして雷神は悩ましそうにする主神になおも続けた

 

 

「今のお前にとってアリスやら、新しい人工知能やらは関係ないかもしれねぇ。だけど、お前を救った時の上条ちゃんならきっとこういうさ。いてもいなくても同じなら、輪の中に入れた方が絶対に面白くなる。合理的とか効率的とか考えて輪の中から弾き出すより、そっちの方が楽しくなるに決まってる…って具合にな」

 

「・・・あの人間の本質は繋がる強さ…あの人間を助けたいと思う輩が多く存在し、その人間達が助けに行きたくとも行けないのもまた事実…か」

 

「そういうこった。少しくらいはそういう人間に肩入れしても、バチは当たらねぇと思うぜ?もっとも、バチを与える方の神様には関係のないことかも知れねぇけどな?」

 

 

オティヌスが小さな手で口元を覆いながら呟くと、トールはフッと笑みを浮かべながら言った。オティヌスはやがて深く息を吐いて頷くと、彼に釘を刺すように一言付け加えた

 

 

「・・・いいだろう、雷神トール。ただし、我々がやるのはあくまでも道の『舗装』だ。道を切り開くのはあの人間がやるべきことだ。それ以上のことはしない。そして勘違いしてくれるなよ。元より私も、勝手に神を気取って世界を救うなどと宣うあの連中が気に食わんだけだ」

 

「へへっ、それで十分。上条ちゃんならその辺は勝手にやっていくだろ。にしても俺たちの神様は本当に素直じゃねーな。最初から心配そうに見てた癖によ」

 

「貴様はもう一度消し飛ばした方がよさそうだな。雷神」

 

「おっと、そりゃ流石に勘弁だぜ。こんなナリでも、一応切られりゃそれなりに痛いんでな」

 

「だけど上条当麻のいる世界は大丈夫として、もう片っぽはどうすんのさ?元はと言えば今回の件はあっちの世界が発端なんでしょ?そっちも少しくらいは担保してやってもいんじゃないの?」

 

「いいや、それについては及ばんさ黒小人」

 

 

そう言ってオティヌスは玉座を立つと、世界樹の下に広がる雲海の更に下に広がる妖精の町を見下ろしながら、ほんの少しの笑みを浮かべて言った

 

 

「彼らも彼らで、この世界の歩き方は心得ているさ。こと仮想世界においては、上条当麻にも決して引けを取らない『真の英雄』がいるのだからな」

 

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