【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】   作:レイティス

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横やりを入れる反逆者は殲滅よー
祝 撃破!!!
リザルトだひゃほーい!!!


第百話 検証・水 前

 

 □■<グランバロア>

 

 その日、グランバロアの首都艦は祭りが催されていた。

 軍事船団の艦隊を全滅させた【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】、即死の吐息を繰り出す【絶竜王 ドラグカット】、そして<第四海底掘削城>のエラーにより溢れる鮫。

 それらを討伐した船団員と<マスター>たちを祝して開催されているこの宴は激闘の末デスペナルティとなった<マスター>たちのため三日三晩続いている。

 

「──とうっ!」

 

 そんな首都艦のセーブポイントとなっている広場にデスペナルティから解放されたルミナスが降り立った。

 掲示板その他で情報を集めており、セーブポイント周りの喧噪にも戸惑いはない。

 システムログを確認し満足げに頷くと歩き出し──屋台に向かう。

 

「おじさーん! 串焼き四本! ついでに何の肉ー?」

「お、運がいいねぇ姉ちゃん! これは【エンペラー・ホエール】の串焼きさ! 【モビーディック・ツイン】じゃないけどこいつも美味いぞー!」

「おー、鯨肉! 【モビーディック・ツイン】にちなんでリジェネとか付かないかな。ともあれありがとねー!」

 

 雑談もそこそこに購入した焼きたての串焼きを【ジュエル】から出したモルテナと歩きながら食べる。

 なおルミナスは二本食べていた。

 屋台を離れた後の歩みは迷いがなく、出店巡りではなく目的を持っている事が伺える。

 

「もぐ。それで……今度は何処に行くんですか? 今回の件の報酬の受け取りとか?」

 

 タレの付いた鯨肉を頬張りながらモルテナが前を歩くルミナスに問う。

 前述した三つの脅威について、グランバロアは大々的に緊急クエストとして<マスター>に参加を呼び掛けており、国の指示に従ったものには戦果とは別に報酬が出る事になっているのだ。

 

「んーん。報酬関連は祭りの後だしギルドとか役所とかの公的施設は今は最低限の仕事しか受け付けてないらしいよ」

 

 しかしルミナスから出たのは否定の言葉だった。

 【ジュエル】に格納されている間の事は把握する術のないモルテナには分からないことだが、グランバロアの行政府は大変なことになっていた。

 最初の【モビーディック・ツイン】遭遇戦から被害確認から連なる脅威に対し会議軍議&指示に威信をかけて奔走する軍事船団。

 更に各船団の出征費用や<マスター>への報酬、遺族への弔慰金で寂しくなる国庫に心胆を寒からしめる貿易船団。

 <第四海底掘削城>を管理していた冒険船団や神代のモンスターたる<SUBM>を国外の輩に取られる事が許せない海賊船団もこの騒動は例外ではなかった。

 祭りの後にはティアンの犠牲者たちの合同葬儀や作戦参加者への論功行賞も済ませる事になっているため各船団の上層部は今この時も仕事をしているのであろう。

 

「今日はパンサンド君を受け取りに行って……あとは検証、かな?」

「……検証、ですか」

「はい声色だけで分かる渋面しなーい」

 

 モルテナがルミナスを見る目が呆れを含んだものになる。

 彼女がルミナスの奴隷になってからこれまでも幾度となく行われて来た検証……例えばラーニングしたスキルやラーニングそのものの仕様の確認だったり特典武具を含むアイテムの確認だったりに付き合って来た経験からろくでもないことだと察せられた。

 

「あれ? でもグランバロアには<決闘結界>はありませんよ? どうするんですか?」

 

 これまでの検証は全て各国に存在する闘技場を始めとする決闘施設の中で行われて来た。

 それは決闘施設を決闘施設たらしめる<決闘結界>の存在が大きく、戦闘の終了後に戦闘前の状態に戻す事が出来るまるでゲームのセーブ&ロードを可能とする不思議な代物だ。

 その機能を活かしてラーニングしたスキルの変更や自爆・自傷の危険がある検証を行ってきたのである。

 

 しかし、グランバロアには決闘施設は存在しない。

 世界の根幹(ジョブの転職条件)に関わる決闘施設は失われし技術により建造されており、新たに作る事は出来ない。

 長期の航海用に転職用のジョブクリスタルを搭載したギルド艦を参考に一国に相応しいだけのクリスタルを持つグランバロアだが、決闘施設だけは船に乗せる事が出来なかった。

 それ故に独特の文化(海上闘技場)が栄えたりしているが、その仕様上グランバロアでは例え決闘ランキング一位でも【超闘士】どころか【闘士】にも就くことは出来ない。

 

「ふっふっふ。まぁ見ていなさい……あ、いややっぱモルテナは出さないかも」

「えぇー……? まぁ頑張って……ください?」

 

 思わせぶりな事を言いながら速攻で前言を翻す主に最早ツッコミを放棄してしまう。

 モルテナからすれば支離滅裂なのも"たまにある"事なので自分に被害が来なければ良いと軽く流している。(中には支離滅裂に見えて掲示板の話で意見を変える事もあるが)

 そんなじゃれ合いをしつつ二人は各種ギルドを始めとする公的機関が集まる区画へと移動する。

 お祭りの喧噪も遠く、屋台なども出ていない区画を進みテイマーギルドに入る。

 そしてパンサンドこと【マイニング・ヘッジホッグ】を受け取る。グランバロアのテイマーギルドでは海棲種以外の保護買い取りはやっていないので普通のテイムモンスターの一時預かり扱いである。

 

「やっふーい久しぶりに感じるねぇパンサンド君!」

『qrr!』

「抗議されてますけど」

「留守番させていたのはモルテナが(従属キャパシティを)大食いだったから仕方なかったんだよ……パンサンド君ごめんね?」

『qui?』

「甲斐性のなさを人のせいにしないでください……」

 

 ルミナスのテイムモンスターや奴隷を同時に扱うのに必要なステータスである従属キャパシティは多くない。

 従属キャパシティは<エンブリオ>による補正を受ける事も出来ず、ジョブ構成とアクセサリーによる追加に依存する。

 ルミナスのジョブの中で最も従属キャパシティが多いものが蝙蝠などの眷属を扱う【吸血鬼(ブラッド・サッカー)】でありその次が【鈍重術師】だ。

 地属性の【魔術師】系はゴーレム生成の都合で従属キャパシティが伸びやすい傾向にあるが、【鈍重術師】は物理ステータスにも割り振られている都合上他の天・海属性よりはマシ(氷属性などの例外はあり)という程度である。

 そんな従属キャパシティでは一人と一匹どころかモルテナだけでも十全にキャパシティ内に抑えられずサブジョブに下級職を一つ空きにしている有様だ。

 

「だけどそんな日々も今日の検証で終わりなんだよ!」

「えぇ……?」

 

 力説しながらもパンサンドを抱きかかえルミナスは踵を返し次の目的地へと歩き出す。

 テイマーギルド(パンサンド)が目的地じゃなかった事に疑問を覚えつつも奔放な主にも慣れたモルテナは追随する選択肢しかなかった。

 

 

「──というわけで、本日の目的地はここだよ!」

 

 

 そうして、ルミナスの足がとある建物の前で止まった。

 看板に描かれている紋章は世界共通──職業ギルドではジョブクリスタルで選択する際のアイコンを広くしようしている──の杖と魔法陣。

 

「ここは……魔術師ギルドですか?」

「そう……今日はついに転職条件を満たした【重王】の転職クエストをするよ!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……はい、というわけでね!」

 

 モルテナの反応を楽しんで数分後、ルミナスは白い空間にいた。

 空も地面も全て白色で構成されており見渡す限りには壁も建物もなにもない、まるでテクスチャを張り忘れたかのような空間。

 事前に聞いていなければバグか何かを疑うところだが──<Infinite Dendrogram>ではこれまで一度もバグが出たことがない。

 

「手抜き空間に見えてここは所謂<試練の間>……そう、【重王】の転職クエストに来ているだよね!」

 

 白い虚空に向けて言葉を重ねるルミナス。

 その周囲を隠密しながらモルテナが操作しているドローンが飛行して撮影している。

 同じパーティでも転職クエストとなれば当然アイリスは入る事は出来ず、キャパシティ内のモルテナが動画として記録しているのだ。

 なおルミナスの動画も基本的にアイリスのチャンネルで公開されておりその収入は折半である。

 

「魔術師の【王】系は別属性から転職条件が類推しやすい(姉さん基準)からなんとかなったって感じだね。条件は五つだけど試練が始まるまで一つずつ挙げて行こうか、まずは『①強敵撃破もしくは<重力の井戸>の完全踏破』。まぁこれ(強敵撃破)は他にも結構超級職の条件になってるし分かるよね? <重力の井戸>は知らないけど!」

 

 人差し指を立ててドローンに向けて話し始める。

 なお単純に『強敵』と言われるが、そこは先着一名限定の超級職の転職条件。最低でも伝説級<UBM>や超級職の相手の撃破に際し貢献度一位(MVP)を取る程の活躍が必要である。

 勿論ルミナスはほぼ単独でも【ダウトール】や【アラク・ネア】を倒しておりこの条件を満たしている。

 

「続いては『②【鈍重術師】レベル100』、更に『③魔術師系統で合計レベル200』。これも説明不要かな? まぁ③は【生贄】とかMPだけ見てる人は案外取り逃すかもしれないけど」

 

 次に挙がるのは関連ジョブの取得の条件。

 これも【魔王】や【神】を除く殆ど超級職に付けられているものだ。

 ルミナスは【鈍重術師】レベル100、【魔術師】レベル50、【魔戦士】レベル50が該当する。

 

「んで次からが厄介で、『④重力魔法による重力変動により10000G相当の出力を達成』。STRにして十万相当分の出力を出せと! ちなみにー私は【モビーディック・ツイン】初遭遇の時に達成したっぽいね」

 

 〇〇魔法により~という特定属性魔法の出力を問うものは他の属性の【王】の条件にもある定番のものだ。

 <エンブリオ>というある種のズルを持たないティアンの場合はMPや魔法威力を増加させる装備を使ったり他人の協力を得て達成するのが常らしい。

 

「そして最後が『⑤重力魔法による与ダメージ3000万』。ただでさえ純粋ダメージ系少ないのにねぇ! まぁ重力魔法で加速させれば質量攻撃でも加算されてたみたいだからいいけどねー」

 

 難易度はともかく条件自体は分かりやすい類のものだった【重王】。

 ルミナスはこの最後の条件を【絶竜王 ドラグカット】戦の対犯罪者<マスター>の時に満たし、デスペナルティが明けて早々に転職に挑戦しに来たのだった。

 

「──というわけでそれらを満たしてついに転職クエストなんだよ! なお失敗した場合動画はお蔵入りされることとなる!」

 

 ドローンに向けてポーズを取りつつもスキルによるバフを重ねる。

 超級職の転職クエストは『試験官の討伐』。

 試験官は前任の超級職のコピー(分身体)。つまり前【重王】だ。

 流石に【重王】のスキルは使えないそうだが──試験官の制限はそれだけ、つまり【王】のステータス補正と超級職としての経験は存分に発揮される。

 勿論闘技場のような結界もない以上ティアンならば転職失敗はイコール死となる中この転職クエストは余りにハードルが高い。ハードルをくぐれそうなくらいに。

 

(とはいえ、<エンブリオ>と特典武具はないからまず負ける事はないと思うけれどー……)

 

 しかし、ルミナスは姉から事情を聞いているから穴だらけの上位互換を脅威に感じない。

 試験官は装備なども生前のものが用意されるらしいが特典武具はコピーされないことが分かっている。

 より正確にはステータス補正はあるけれど特典武具が()()武具たる要因、固有スキルはないのだ。

 上位のティアンが持つ最大の初見殺し要素がない以上、ルミナスは万が一にも負けるつもりはなかった。

 

「まあ重力魔法がロストしていた以上前【重王】は相当昔の人だけど、そもそも言葉通じるのかな?」

 

 ルミナスが<Infinite Dendrogram>で使用されている共通言語の限界に思いをはせていると、白い空間に光が集まる。

 最初は空間と同じ白く輝く光だったソレは濃度を増し徐々に輪郭を鮮明にさせて老人のそれとなっていく。

 

「……んー?」

 

 瞬間、ルミナスは変化していく光にノイズが走ったように感じた。

 しかしそれも注視しようとした時には既に直っており、人型は完全に一人のローブと杖を装備した老人へとなった。

 

「前任の読み込みにおけるラグ……な訳ないか。うーむ、変な不具合で転職失敗とかは勘弁して欲しいんだけどねえ」

 

 あるいは自分の気のせいならそれに越した事はない、そんな事を思いながらも首を傾げる。

 超級職の転職クエストなんて十人十色、魔術師系の【王】は情報がある方だがこんな現象については当然話は聞いていない。

 アイリスから得た情報は彼女の知り合いである【嵐王】と【石王】の転職の話だったが、彼らはどちらも<エンブリオ>の力で順当に勝利したという。

 ルミナスが疑問符を浮かべたまま判断をしかねているとついに人型が動き出す。

 

 杖を振る予兆が見えた瞬間、ルミナスは咄嗟に飛び退いていた。

 

『──《ダル・プレス》』

「おっとぉ!? 試験開始の合図ぐらいして欲しいものだね!」

 

 数瞬前までいたところに重圧が襲い掛かる。

 これが一般的なフィールドなら陥没で範囲が分かりやすいが、白い空間ではそれも分からないので当て勘だ。

 ドローンが戦闘の邪魔にならないよう高度を上げているのを横目に追撃を警戒するが、ルミナスの予想と反して老人は杖を振った姿勢から動かない。

 

 数秒間微動だにしない老人にもルミナスは当然警戒を解かない。

 そもそも杖を振らずとも、口を動かすだけで魔法スキルは発動可能だ。

 ルミナスもまだ専用のスキルをセットしないと出来ないが、なんなら()()()()()()()()()なら意志一つで効果が現れる。

 想定外が続いているため様子見に徹しようとしていたルミナスに応じたように、老人が次の動きを見せる。

 

『おのれ、"化身"どもめ。ついにこの領域にまで足を踏み入れるか』

「……ふむん?」

 

 試験官たる老人が言の葉を発する。その事についルミナスの足が止まる。

 魔術師系の【王】に限らずそれなりの数の戦闘系超級職の転職クエストで前任者等と戦闘を行う事は珍しい事ではない。

 そして、中にはその者の自我も残り会話をすることも出来るという。(挑戦者の上位互換コピー等では流石に確認されていないが)

 もっとも、その内容は世間話などではなく戦闘における駆け引きのようなものが殆どらしい。

 

 ルミナスが足を止めたのも試験官が喋った事に驚いたからではない。

 自らがカメラの前で言った事を思い出す。

 

「なるほどー? ロストしていたとはいえまさか前任が先々期文明……二千年以上前の人だったとは驚きだね」

『"冒涜の化身"か。"夢遊の化身"か。何にせよ我が(魔力探知)は誤魔化せぬ』

 

 言葉が通じるようで会話が通じていない。

 そして、老人の手から杖が光の塵となって消える。

 

「──《過速(オーバースピード)》!」

『フラグマンが決戦兵器を完成させ、貴様らを滅するまで我は幾度でも立ち上がろうぞ!』

 

 如何にも魔法使い然とした装備から重力を操作して亜音速で跳躍し、重力魔法がもっとも恩恵を受ける攻撃──つまり落下攻撃をスキルで加速して避ける。

 魔術師系統ながらも【重王】は地属性の中でも更に物理色の強い重力魔法使いの王。白兵戦闘もお手の物だ。

 

 跳躍、落下、蹴撃の反動を使って再び跳躍。

 《空中跳躍》等のスキルを使っていないのにまるで「W」の字を描くように直線的な空中挙動はまさに重力制御の極致。

 

「飛蝗か何か!? あーもー仕方ないねー!」

 

 まるで流星のように続けざまに地が穿たれるのをルミナスは避け続ける。

 スキルの影響で超音速に到達したからこそ回避を続けられるが《過速》は制御に失敗すればお陀仏だ。

 話を聞かない試験官に業を煮やして切り札を切ろうとしたルミナスに──落下ではなく上昇を続けた老人も重ねる。

 

「《黒蝕双狼(ゲリ・フレキ)》──!?」

『──《重星(ブラックホール)》』

 

 名前からして、本来使えないはずの【重王】の奥義。

 必殺スキルの発動のために足を止めたルミナスの周囲()()()()()()の空間が歪む。

 超音速を以てしても離脱が間に合わない範囲が黒に染まる。

 光すらも呑み込む超重力域が全てを圧壊させる。仮にここが試験用の特殊エリアでなければ周囲一帯に破壊の爪痕が刻まれるだろう。

 

 そして、片手で数える程の短い時間の後に破壊の黒球が消え去った時。

 

 そこにあったのは……消え去る間際の光の塵だけだった。

 

 

 To be continued

 

 





 祝・百話(厳密には閑話がある)でグランバロア編が終わると思ったけど戦闘が長引きそうなので前後編です。

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