【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】   作:レイティス

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<SUBM>後は宴じゃ宴!
実は皆に内緒で【重王】の転職の試練を受けに来たんだよ!
ルミナスだいーん!!


第百一話 検証・水 後

 

 ■???

 

 無念だった。

 ただただ無念だった。

 

 フラグマンと競うために鍛えた重力魔法では片手で数える程の間"獣の化身"を足止めする程度しか出来なかった。

 フラグマンに自らの秘奥を明かし開発した新兵器でも"武装の化身"を討つのにはまるで不足だった。

 切り札を使った乾坤一擲の一撃も"黒渦の化身"には何の痛痒も与えられなかった。

 

『何故だ。どうして我らがこのような目に遭うのだ。神はいないのか……』

 

 煌玉竜──【琥珀之深淵(アンバーアビス)】開発工廠の一角で呟いた自分に声を掛けようとしたフラグマンが、口を閉ざして顔を逸らす。

 あるいはこの世界で至高の頭脳を持つ彼ならば呟いた言葉の答えも知っているのかもしれないが、その実殆ど無意識に口から出た言葉であり今更興味もない。

 重要なのは一点のみだ。

 

『言ったな。"化身"を打倒する決戦兵器を作り上げると』

『……ああ。どれだけ時間がかかるかは分からないが、必ず』

 

 聞きたかった言葉だった。

 彼が言うのだから作れるのだろう。──その時に人類が残っているかは別として。

 必要なものは時間だ。

 "化身"に直接相対する事は出来ないが、一人の超級職として"化身"の妨害をする事は出来る。

 

『──! 何をするつもりだ!?』

 

 彼がこちらを問い質す声が聞こえる。

 しかし、工廠に備えてある()()()()()()()()から手を放す事はない。

 この作業が出来るのは超級職で、かつ魔法の──否、魔法スキルの神髄(アーキタイプ・システム)に触れる事が出来る者のみ。

 だがフラグマン(【大賢者】)がやっても意味はないのだ。

 

『"冒涜の化身"が作った人形が存在する限り、後継が超級職への転職が出来なくなっていたと聞いた』

『!!』

 

 初めて聞いた時は信じられなかった報告だ。

 親が、師が、友が就いて()()超級職を継いで仇を取らんとする者たちの絶望した表情を忘れる事が出来ない。

 

『もしかしたら全ての超級職を"化身"に奪われるかもしれない。そんな事は許す訳には行かない』

 

 勿論戦力としてもだがそれより別の、もっと深い根っこのようなものからそう思うのだ。

 ()()()()()()と。()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

『故に転職の試練に細工をする。魂を<アーキタイプ・システム>に焼き付け、試練の際の制限を外すのだ』

『……そんなこと!』

『出来るはずだ。"化身"を見るなり消え去った古龍たちがやったように。分かっているだろう?』

 

 大陸東方に住まう、規格外の知識と力を持つ最高位の竜たち。ある時は人の支配者であり、ある時は人の庇護者であり、ある時は人の友だった。

 古龍と呼ばれるそれらはしかし"化身"を見て共に戦うでもなく姿を消したのだ。

 実直が過ぎる龍の巫女は「殺されないために自らの屍を世界に刻んだんですよ、今を生きる私たちには何の御利益もないとは困ったものです」と言っていたが、存外役に立てようと思えば役に立つものだ。

 

『……、だが古龍と私たちでは扱えるリソースが違い過ぎる』

 

 フラグマンがなおもこちらを止めようとする。

 勿論それも理解の上。古龍ならばきっと問題なくとも一人の人間ではまず安定はすまい。

 超級職の器に己を刻み付けても、代替わりの際にリソースを空にされれば我が意識は霞へと消えるであろう。

 つまり、一度……次の【重王】の代の転職の試練にしか干渉は出来ない。

 

『それでも、可能性はあるのだ』

 

 "化身"に超級職の器をみすみす奪われずに済み、

 まるで神の如き選別を潜り抜けた次代の強者に【重王】の座を明け渡し、

 未来に完成しているであろうフラグマンの決戦兵器と共に"化身"を討ち果たせる可能性が、確かにある。

 

『ここでただ磨り潰されるだけでは零の可能性だ。お前に賭けたからな──』

 

 言葉と共にクリスタルを中心として編んでいた術式を発動させる。

 効果は即座に現れ、己の肉体がリソースに溶け行くのが分かる。

 フラグマンが何か言っているが、視覚よりも先に喪失した聴覚ではその言葉を聞き取る事が出来なかった。

 そしてすぐに視覚も失われ、全てが黒に染まり──。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 □■試練の間

 

『……そうだ。"化身"に連なる者に超級職の器を渡す事は出来ない』

 

 【重王】の奥義《重星(ブラックホール)》の効果時間が終了し、音も光も吸い込み、その周囲の空間の軋みが発する轟音が止む。

 本来超級職のスキルを使えない試験官の身分にして全力を出せるのは彼がジョブクリスタルに取り込まれ消失するその直前の状態であるから。

 "化身"に似た反応を撃破した彼は重力魔法で宙に漂ったまま白い空間を見渡す。

 《重星》の影響でもまるで景観が変わらない白が続く空間には他に生命は見当たらない。

 

『"冒涜の化身"の人形ならば復活もするか……だが再挑戦までの期間は一ヵ月。何度でも、今回も阻んで見せる』

 

 言って、決意と共に放った自分の言葉に違和感を覚える。

 『今回も』?

 

(おかしい。我はあの秘術を編んで、次の瞬間にはこの相手……次か? 試練の間の意識は保っているはずが──)

 

「──《天雷の滅塵弓(インドラ)》」

 

 瞬間、思考の間隙を縫って放たれた極大の雷撃が先代【重王】を撃ち抜いた。

 

『貴様……っ』

 

 雷電によって硬直する身体を無理やり重力魔法で発射方向に向けると、そこには先程超重力に呑まれたはずの女──ルミナスが同じく重力魔法で浮いていた。

 

「これじゃあもう録画出来ないなぁ……にしても試験官が【ブローチ】は反則じゃなーい?」

 

 その目線は先代【重王】の懐から砕け落ちて行く破片に向けられていた。

 本来ならばインスタントで生成される試験官が【救命のブローチ】──百万リルを超える消耗品の致死ダメージ回避装備を使うのである。

 "特典武具などの固有装備を除いて生前の所持品がコピーされる"とはいえあまりにあんまりな話であり、実際他の職の試練の情報からないと思っていたがあてが外れたようだ。

 

(【ブローチ】は砕いたとはいえ……流石に【アイテムボックス】満載の【身代わり竜鱗】とかないよね?)

 

 仮にあっても《瞬間装着》のクールタイムがあるため際限なく耐久されることはないとはいえ、その手の緊急回避装備の有無はルミナスにとっては重要だ。

 特攻によるメタが効かない相手には単純な火力としてラーニングしたクールタイムの長い必殺スキルなどを使用する傾向があるためだ。

 

『貴様……一体どうやって……』

「ふむーん? 【王】とはいえ術師系に感知系に振るのは多くないからねー。あれは父さんの《鉄の森の狼王(ヤルンヴィド)》でモルテナのスキルを使えるようにして《インビジブル・マーチ(透明化)》と併せて──」

『そんなことはどうでもいい……! 化身ならまだしも貴様如きが《重星》をどうして──』

 

 改めて全身の装備を《鑑定眼》で確認するルミナスに先代【重王】が言い募る。

 実際、【重王】のスキルで強化された《重星》は単純に一万倍に近い重力を発生させ、更にその重力方向も起点座標を中心として吸い込むものだ。

 地属性魔法の物理特性は所謂《魔法耐性》のような広範な耐性をすり抜ける事が出来、重力魔法はレジストするのにSTRが必要というもので更に対抗手段は少ない。

 先代【重王】が知る限りはSTR以外で軽減するのはそれこそ【鈍重術師】で習得出来る《重力耐性》ぐらい……

 

(……いや、そういえば【錬金王(キング・オブ・アルケミスト)】が開発していたか。……あれより時が経っていれば、あるいは──?)

 

 彼が思い出すのはかつて一時期はフラグマンと並び称されてきていたアーティファクトクリエイターの一人。

 記憶の最後はフラグマンの一強とされていたが、数年前までは【錬金王】や【匠神(ザ・クラフト)】等有力な職人が対<終焉>に数多くの発明をしていた。

 最終的に<終焉>戦で特殊超級職に並ぶ、いや超える程の活躍をしたフラグマンが最も優れているという論調になり幾人かはそのまま行方を眩ませていたが……その中でも対"化身"で姿を消す前に、魔法で【煌玉竜】の飛行機能を再現するために重力を緩和する術式を専門家の自分に説明していたのを思い出す。

 

「……?」

 

 ──だが、あるいはそうならばまだ()()だった。

 ルミナスは何を聞かれたか分からないというように首を傾げる。

 専門的な知識がないのではなく、逆に素人に「何故そんなことを聞くのだろう」とでも言うかのように。

 

「《地よ楔を外せ(重力低減スキル)》、《秘跡の夜明け(敵対魔法効力弱体スキル)》、《重力蛇眼(重力変動感知スキル)》、《加重透過(パーティ重力耐性スキル)》、《自称癖(ジョブスキル強化スキル)》……《重力耐性》と入れて、大体対重力魔法は最大で()()()までは私には効かないよ?」

 

 先代【重王】には聞いた事のないスキルの羅列がまるで呪文のように耳に入る。

 

「──先代【重王】が相手だってわかってるんだから、()()()()()メタ(対策)なんて当たり前じゃない?」

『貴様……ッ!』

 

 前情報と違って超級奥義を使うとは思わなかったけど、とおどける。

 そんなルミナスに憤激するもその頭の中では次の手を模索していた。

 

(ステータス等のリソース総量自体は"化身"と比べて遥かに劣る。先の物理攻撃も避けていたように対重力魔法に特化している能力を持った者が送られて来たということか、それなら──)

 

 雷撃の痺れから脱した先代【重王】の手に一瞬の光が走る。

 《瞬間装備》によって新たに装備したのは……一本の斧だった。

 重量武器と相性の良い重力魔法としては分かりやすい選択を以て、再び重力操作による空中機動がルミナスに迫る。

 

「例え超級職の補正があってもねぇ!」

 

 ルミナスも重力魔法で空中機動に応じる。

 地上ではなく空中での重力魔法による移動速度にはAGIは作用されず、重力魔法の効力により左右される。

 魔術師系の【王】であり自身が修める属性の魔法への補正がある先代【重王】に対し、ルミナスは《秘跡の夜明け》の魔法効力強化と《重力蛇眼》による重力操作の感知の先回りでその上を行く。

 重力方向の変更にも追加の消費MPが発生する以上、高所を取った方が圧倒的に有利な重力魔法による位置取りを制したのはルミナスだった。

 いつの間にか発生していた炎の爪が振り下ろされ、下から斧が迎え撃つ。

 

『──《選刃(セレクト)(グラビトン)》』

 

 瞬間、斧が鈍色の煌めきを放ち加速する。

 本来同程度のMPを注いでも方向に出力を割けば打ち勝てるはずのない斧が、炎の爪を打ち払い勢いをそのままにルミナスをその刃を届かせる。

 【救命のブローチ】が砕けるのを感じながらもルミナスは衝撃の勢いを活かして即座に離脱した。

 《重力蛇眼》が斧を中心に《重星(超級職奥義)》にも匹敵する重力の変動を感知したからだ。

 

『……逃がしたか』

「いや喰らってますけど?? 何その斧反則級じゃん」

 

 己の反則(エンブリオ)を棚に上げる事は得意なルミナスである。

 【ダウトール】の《宝物鑑識》の補正を受けたルミナスの《鑑定眼》のスキルレベルは八相当。これは探索専門の上級職……戦闘力や汎用性をある程度犠牲にした【偵察隊】等のジョブ出なければ到達出来ない域ではあるがそれでもルミナスには斧の鑑定は出来なかった。

 特典武具にしても古代伝説級武具であればなんとか読み取れた経験によりその危険性は理解出来るのだ。

 

(まぁ、流石に何の負担もない訳はないか)

 

 ルミナスが見つめる先ではその力の代償なのか先代【重王】が斧を振るう腕が曲がっていた。

 重力魔法で無理やり動かしているが、本来回復魔法を掛けなければ使い物にならない程の反動だ。

 

(《選刃》って事は他にも選択肢はあったはず。それなのに奥義を無効化する程の重力耐性を持っている私にも重力属性を選んだと言う事は選ばざるを得ない理由があったと言う事……あの腕の捻じれを見る限り選んだ属性の反動を受けるのかな? 自身が耐性を持っている重力属性以外だと一撃も反動を受けれないとか)

 

 それでも重力耐性を突破する程の出力、あるいは耐性そのものを消滅させる特性は厄介だ。

 しかし──

 

「良いのかな、相打ちだと復活で私の勝ちになると思うんだけどね?」

『──……』

 

 これは公平な勝負、決闘等ではない。転職の試練なのだ。

 ルミナスの勝利条件は「先代【重王】の撃破」だが、それが為された時の自分の状態はなんでも良いのだ。

 勿論ティアンが相打ちをしたら超級職が即座に空くので意味がないが、<マスター>にはリスポーンがある。

 極大の反動を持つ斧で先代【重王】が諸共ルミナスを撃破したとしても、相打ちならば試練を突破したルミナスはデスペナルティから復帰した後に悠々と新たな【重王】となれるのだ。

 そして重力魔法の軌道勝負自体は諸々の補正の都合でルミナスが上回る以上、更なる隠し玉がなければルミナスの勝利は揺るがない。

 

 当然、下手な特典武具もびっくりな武具がもうないとも限らないのでルミナスは今も精神攻撃フェイズの合間に《鑑定眼》を全力で掛けているが。

 

『──知った事か』

「……なんて?」

『ああ──"化身"に一矢報いるこの機会、逃せるものか。例えそれが"冒涜の化身"の人形一つだとしても、復活するとしても、その間にフラグマンが間に合う可能性は零ではないのだから──!』

 

 言葉と共に斧が煌めきを強くする。

 先程と違い斧の刃が放つ色が幾重にも重なり安定せず、その光の色が強くなる様はまるで制御を放棄しているかのようで。

 

「……そっちが自爆覚悟とかこれじゃ立場逆転じゃんってね」

 

 そう言いながらもルミナスの口角が上がる。

 実際にはルミナスには【擬粘偽宝 ダウトール】により二回目の《九死に一生》が使える。

 身が砕け散る程の反動もそれが致死ならば届かない。

 ──しかし、そんな圧倒的優位が理由ではない。

 

「まぁ、私としてもようやく見つけた宿()()だからね。どうせ勝つなら当然倒して勝ちたい」

『何を──』

「<NEXT WORLD>からこれまで、RPGは父さん達とやるTRPGぐらいしか出来なかったからね。例えMMOでも必ずこの<Infinite Dendrogram>はクリアすると決めてたんだよ」

 

 先代【重王】には理解させるつもりのない語りをしながら【ヴォルガーン】のカートリッジが音を立てて排出され、炎の爪が勢いを増す。

 【絶竜王 ドラグカット】戦からデスペナルティを経て七十二時間、十本全て生成されていたカートリッジが景気よく消費されて行く。

 

「私は──私たちはこのゲーム(遊戯)()()()()()()()を目指す。それには先々期文明の妄執は邪魔なんだよねぇ」

『ほざけェッ!!』

 

 叫び声と共に魔法を唱える。

 重力魔法を多重に発動して反動によりズタボロとなった己の身体を傀儡人形のように無理やり動かす。

 

『《選刃(セレクト)》、出力最大……っ!?』

 

 斧を振り、属性の選択権を放棄してその分出力を最大限にして解放する。

 しかし、スキル名の宣言とは裏腹に斧はその光を無作為に放ち続けるのみでそれを破壊力に解放する気配はない。

 そしてその原因は斧を振るう腕にあった。

 皮一枚で繋がっていたはずだった腕はまるで何かに噛み砕かれたように千切れ、完全に肩から乖離していた。

 斧の反動で痛覚が既になかったから気付く事が出来なかったのだ。

 ……そこにはルミナス同様に透明化していた黒狼がいたことに先代【重王】は最後まで気付く事は出来なかった。

 

「ぶきやぼうぐはそうびしなければいみが(装備スキルが使え)ないぜ、なんてね!!」

『……──ッ!!!』

 

 直後、ルミナスの炎の爪でその先代【重王】の仮初の身体を焼き切り裂く。

 先代【重王】は声なき叫び声と無念の想いと共に光の塵へと消えて行った。

 

「よーし、これで【重王】ゲットだよ! これで同期内トップも間違いなし!」

 

 ここに試練は達成され、また一人超級職に就く<マスター>が増えたのであった。

 

 

 To be Next Episode

 





〇【鉄狼樹林 ヤルンヴィド】
 ルミナス父の<エンブリオ>らしい。
 TYPE:ルールでキャパシティ内の奴隷に《獣化》等のスキルを付与するとか言っていた。
 その必殺スキルはキャパシティ内の奴隷一人を【ジュエル】に強制帰還させて自身+他の仲間狼にスキルとステータスを付与するとかなんとか。


 というわけでこの後閑話を一話挟んで五章も終了です。予定より長くなりましたね(いつもの
 次章の開始はまた書き溜めその他で時間を頂くのでしばらくお待ちください!

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