【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】   作:レイティス

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前回の産業:
偽装ワーム船で砂漠を進む
超巨大ピラミッド<貧富の墳墓>
初心者狩りの補填で割引して神造ダンジョンに挑めー


第十九話 <貧富の墳墓>

 □<貧富の墳墓> 【魔術師】ルミナス

 

 巨大ピラミッドの近くの岩場で【エルドライム号】から降りて一時間。

 数千段……いや数万段、もしかしたらもっとあったであろう階段をアバター故の身体能力で駆け上がり<貧富の墳墓>の入り口に到着した。

 

「と、とーちゃく! はぁ、ていうか近くで見ると本当大き過ぎだねこれ?」

 

 振り返り、ピラミッドの頂点から砂漠を見渡す。

 <貧富の墳墓>はその頂上に入口があるタイプなのでよく見えるが……これまで上ってきた階段を見下ろして愚痴る。

 一時間──AGIの限り駆け上がったのにそれだけの時間がかかったのだ。【食戦士】がサブジョブにない純魔法職だったらここまで来るだけでどれだけかかることか。

 それでも合計レベル的にまだルーキーと言って過言ではない私の身体(アバター)は息が上がってしまっている。

 とはいえ辿り着くことさえ出来れば、王国の<墓標迷宮>や天地の<修羅の奈落>のように国の許可が必要な神造ダンジョンと違って誰でも入ることが出来る。

 これまでで大分気力が削れた感じがするけど、むしろここからがスタート。

 

「それじゃあ、これから<貧富の墳墓>攻略を開始するよー!」

 

 気を取り直し、後ろから(神造ダンジョンの制約の関係でパーティは組んでいない)姉さんの【フギン・ムニン】に宣言する。

 普段なら姉さんから激励の言葉が来るようなところだけど──

 

『やったぜ!』『待ちくたびれた』『段数えぐすぎてわろえない……飛行魔法オボエヨ……』

『【測量士】情報だけど最下段の面積コルタナの倍以上あるぞ』『のりこめー^^』

 

 邪魔にならない程度に視界に現れる大量のコメント。

 まるで動画の配信のように流れるその文字は、実は単に掲示板の実況スレの内容を姉さんがサブジョブの【高位幻術師(ハイ・イリュージョニスト)】の幻影魔法で表示させているものだ。

 しかし私も、そして姉さんも状況をスレに書き込んではおらず──こちらの実況レスの内容に対する反応ではなく、実際にこの場を見ているかのように書き込まれるレスたち。

 それを為しているのも、姉さんのもう一方の力の賜物だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 通常、<Infinite Dendrogram>にてリアルタイムで動画を配信することは出来ない。

 <DIN>が販売している魔法カメラによりデンドロ内で画像や動画を取り、それを外部(リアル)に出力することは出来るけれど、それにはログアウト処理を必要とする。

 連携サイトにも動画配信サイトはなく、精々掲示板やブログに静止画を上げる程度に留まっている。

 それは三倍加速の影響でゲームの内外において時間の進みが違うからだとか理由は色々言われているけれど、大事なのは「リアルタイム配信は出来ない」ということだ。

 

 更に通信にしても、通信魔法による念話にも専門の官僚がいるという世界観においてリアルのインターネットのように外国の情報を取得することは容易ではない。

 ──しかし何事にも例外はつきものということで、情報系の超級職やエンブリオを持つ一部の例外、つまり姉さんはその常識を破ることが出来る。

 

 姉さんのアバター、【超記者】アイリスのエンブリオ【万知双告 フギン・ムニン】は専用のモンスターを使役するTYPE:ガードナーの上級、複数体のモンスターを活用するTYPE:レギオンのワタリガラスの群れだ。

 その能力特性は情報収集。

 身体能力はそれこそ「眼」を除き普通のワタリガラスと変わらないけれど、その視力は複数の視覚強化系スキルの複合効果を持つ固有スキル《大いなる神眼》により仮に上空からでも地上の様子を見つめることが出来るとか。

 そしてTYPE:レギオンの例に漏れず、姉さんはこの子たちを常に百羽以上、全国に情報収集のために放している。

 

 それも十分以上に驚異の能力ではあるのだけれど、今回のメインはそのスキルではない。

 他にもいくつかある【フギン・ムニン】の固有スキルの一つ、《記憶の結び》。

 【フギン・ムニン】の内一羽が見聞きした情報を他の【フギン・ムニン】、そしてマスターである姉さんにも共有し、必要とあらば出力するスキルだ。

 

 普段は<UBM>の戦闘動画や決闘のランキング戦動画、趣味の風景動画などを上げるために使われているスキルだけど、その力を使えばライブカメラのようにこちらの映像を他の【フギン・ムニン】から映すことも出来るのだ。

 今現在、七大国の各スタート地点の都市にある<DIN>支局に【フギン・ムニン】を一羽ずつ、さながら中継器のように配置してもらい、動画などを閲覧できる視聴覚室の一角で流しているのだ。

 

 こちらの映像を【フギン・ムニン】を通して見てもらい、その反応を専用に用意した実況スレに書いてもらい、スレに書かれた内容を姉さんが幻影魔法で読み上げ(?)るのだ。

 

 

「ふふふ、流石姉さんだぁ……我ながら画期的では?」

『カメラマンが豪華過ぎる』『超級職の無駄遣いやめろ』『はよ進め』『10万リル出すから今度【妖精女王】のライブでやって』『↑桁が足りねぇぞ。あっ輝麗様もお願いします』『草』

「みんな辛辣過ぎない!? 折角姉さんが頑張ってるのに!」

『だからやぞ』『というか前の狩りで大鴉の発案って言ってたやん』『あっ』『あっ』『ばれてしまいましたなぁ……』

 

 あーあーきこえなーい!

 今週は期限がある内に神造ダンジョンに挑戦しよう、と姉さんと話していた時に「それなら、私に良い考えがありますよ」と勧められて始めた企画だけど、普段は掲示板を通しての会話(レス)だったから中々新鮮だ。

 なんでも「<貧富の墳墓>はまだ攻略動画がないのでひかりぐらいのレベル帯でも行ってみる価値はありますよ。エンブリオ的にスレの知名度はあって損ないですしねー」とのことだ。

 ……まぁ、パーティには入らないとはいえ姉さんのサポートはあるしいいか!

 

「よし、入口で駄弁ってても時間の無駄だからぱぱっと墳墓、行くぞー!」

『おー』『無駄言うなし』『デッデッデデデデ』『カーン!』『なお、動画投稿時にはこのコメントも生放送風に反映される予定です』『まじかよ管理人!?』

 

 うーん視界が騒がしい!

 リアルタイムにレスポンスがあるとテンションが上がるぞぅ!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 <貧富の墳墓>の内部は巨大な迷路が連なっているダンジョンとなっていた。

 壁に燭台が取り付けられていて明かりには困らない。

 【魔術師】の基本魔法スキルである<リトル・ライト>の出番かとも思ったけどMPの消費が抑えられるようで何より。

 

 しかし逆に、迷宮の通路の幅は狭い。

 三人も並んで歩けるかどうかと言ったところだろうか。

 神造ダンジョンが先着一名の【魔王】を得るための試練と考えれば団体様(パーティ)お断りなのは分かるけれど、巨人族とか【従魔師】とかのテイマー・サモナー系に対する配慮が足りないんじゃなーい?

 

「というか迷路めんどい……壁ぶち壊したい……」

『やばいこと言い始めたぞ』『草』『神造ダンジョンだから破壊不可能だゾ』

「わかってるけども! もっとこう……色々あるじゃん!?」

『言い淀むのか……』『素直に暴力で解決したいといえ脳筋』『攻略マッピング動画ではなかったのか……?』

「マッピングは姉さんがやってるから私はトラップ戦闘担当でいいんだよ! 適材適所なんだよ!」

『開き直るな』『草』

 

 失礼な言葉に視線を少し上にずらす。

 そこには姉さんが随時幻影魔法で更新している周辺マップが記されていた。

 某世界樹の迷宮を彷彿とさせるけど……分かりやすいのでよし!

 

 探索を開始して早一時間、事前情報などない大迷宮を前に私たちは適当に歩いているが、それでもマッピングのおかげで少しずつ進んではいる。

 ……それでもまだ四分の一程度なんだよね、第一層──最上層は一番面積としては小さいはずなのに。

 

「やや」

『うわ出た』『ヌッシよく双剣で突撃できるなー』『管理人リアル視点やめてくれめんす……』

 

 そんなことを話していたら、曲がり角から一体の人影が。

 

 人影ではあるけれどそれが人であると分かるのは(シルエット)だけだった。

 全身に白い包帯を纏った化け物。

 まさしくミイラ、といった風体を示すように頭上には【マミー・レッサーゲートキーパー】と記されている。

 武器を持たずこちらに近寄って来るけれど、問題ない。

 

「私より遅い程度じゃ話にならないね!」

『UUuuu…………』

 

 振り下ろされる包帯の手を回避して【ゲリ・フレキ】で斬り付ける。

 こちらに伸ばされた包帯が切れるけれど、血が出たりはしない。

 よく見ると包帯の奥は黒くなっているけれど……闇魔法か死霊術系の影響かな?

 

 現在の私のジョブは【料理人】レベル50と【食戦士】レベル50、そして【魔術師】のレベル24だ。

 【食戦士】以外はそれぞれDEXとMPに重きを置いたジョブとなっており、今の私のステータスは合計レベルから見ると中途半端と言ってもいい。

 【料理人】はSTRも上がるから攻撃力は困っていないのだけれど、それでも【マミー・レッサーゲートキーパー】はそんな私より遅い。

 最上層だからレッサーゲートキーパー(下級門番)ってことである程度弱いのは神造ダンジョンだからか、それとも

 

『マミー系は接触から呪怨系状態異常してくるよ』『ゼロ距離闇属性の可能性もあるから近接注意』

「あ、やっぱりそっち系? それじゃーこっちだね。《メジェド・ビィーム》!!」

『何度見ても草』『真の英雄は目で殺す』『眼力すごいですね^^』

 

 コメントの忠告に、私は即座に掴みかかろうとしてきたミイラ男から距離を離し目から光線を放って相手を焼き貫く。

 自分視点では視界は問題ないのだけれど、傍から見たら非常にシュールな絵面である。

 《神蝕の緑》にセットされた聖属性・炎熱属性複合の《メジェド・ビーム》、アンデッドに対して実に効果的な攻撃スキルだ。

 【魔術師】のレベルアップにより習得した《ファイアボール》などの炎属性攻撃魔法もあるんだけど、【魔術師】では特にアンデッド特攻のある聖属性魔法はないのだ。

 

 もがいている【マミー】に対して様子を見ていたけど、胸に大穴を空け、併発した【燃焼】により直ぐに【マミー】は倒れ、そして光の塵となった。

 

「一層じゃ流石に問題ないねー。広さを考えるとみんなにはわからないけど散歩動画になりそうな予感がするよ」

『散歩動画(迷路)』『食料的に意味で辛そう……下に行くほど広がるんだぜ?』『管理人のマップがなければブラバ案件』

「本気で<貧富の墳墓>を攻略したいなら休憩手段の確立が必要だねこりゃ、三桁AGIじゃマップ埋めるだけで日が暮れるよ」

『頑張れ頑張れ』『マップ分かってても現在地表示されないと迷いそう』

 

 モンスターがあまり脅威にならないと判明したので小走り程度の気分で迷路内を散策していく。

 私は姉さんがマッピングをしているから問題ないけれど、何も対策していなければ下層に行くどころか入り口まで戻るのにも苦労するだろう。

 <貧富の墳墓>はダンジョン内に異空間が広がっているタイプではなく、実際に外から見た空間通りなので階層数自体は多くない。

 推定十層から多くても十五層……地下に延々と続いている、ということでもなければ多分そんなものか。

 時間はかかりそうだけど視聴者が飽きないかが心配となっているあたり、少し慣れてきたものである。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

「今のコルタナなら初心者にも(少し)優しいからカルディナおすすめ!っとこんなもんかな?」

『ほんとぉ?』『掲示板閲覧を実況していくのか……(呆れ』『一階層から広すぎて時間がかかったからしゃーない』『黄河を推せ』『妖精女王様を推せ』

「ここで他国を推薦してそれを見たマスターの密告で帰りの船が来なかったらどうしてくれるの??」

『草生える』『デスルーラ不可避』『ちゃんと罠注意しろよー』

 

 <貧富の墳墓>を探索開始して二時間半。

 姉さんのマップを頼りに第一階層迷宮を踏破して私たちは第二階層に降りていた。

 早々に話すことが枯渇しそうだったので初心者スレやエンブリオスレを視聴しているみんなと回っていたのだけど、階層が変わったので流石にもう止めた方がいいかもしれない。

 その間にも【マミー】の他に【スレイブ・スケルトン】やら【ライトポイズン・スコーピオン】、【ホーンテッド・スピリット】など多くの敵を倒し【魔術師】もレベルが2上がって26になった。

 階段前でボス戦とかはなかったけれど、少ない事前情報では<貧富の墳墓>では偶数階層にボスがいるということはわかっていたので問題ない。

 

「階層が変わるとやっぱりモンスターの質も上がるね、レパートリーが同じだとスキルが取れないからありがたい」

『こやつ慢心しまくっておる』『一層最後ら辺食べられないスピリット連発されたから気が立っておるのだ』『こわ近づかんとこ』

「君たち私を大食いキャラにしようとしてるね? やめようねそういうのは──」

『あっ』『あっ』『油断しすぎィ!』

 

 

 雑談をしていたその瞬間、足元から古典的な「カチッ」という駆動音が聞こえる。

 次に現状を認識した時には、既にトラップにより発射された矢が背後から肩に突き刺さっていた。

 

 ──いや。正確には突き立っただけ。

 装備していたコルタナの初心者用セットから一歩進んだ【ルース(原石)】シリーズのコートの留め具に命中し、矢はそのまま重力の影響を受けて床に落ちる。

 

「……うん! 油断はよくないね!」

『いわんこっちゃない』『大丈夫?』『明らかなアンブッシュなのだ』『どうみても毒とか塗ってありそうな矢だったんですがそれは……』

「ダメージもほぼないし状態異常も受けなかったよー。──《愚者の虚衣》のおかげでね!」

『はい』『知ってた』『公式チートやめろ』『観察対象がいなければ最大発揮とかやはりチートでは?』

「仕様だから仕方ないね!」

 

 そう、今《神蝕の青》にセットされているのは【邪曲妖声 ジャクレン】からラーニングしたスキル、《愚者の虚衣》。

 

 《愚者の虚衣》

 パッシブスキル。

 自身のEND、及び病毒系・精神系・制限系・呪怨系状態異常耐性に+200%する。

 このスキルの効果は自身を対象とする看破スキルが持続している間だけ減少する。

 効果の減少量は自身を対象とする看破スキルの最大強度に依存する。(最大-80%)

 

 【ジャクレン】に看破した時の情報の通りならばその効果は異常とも言える。

 まさにイベントボスの貫禄とも言えるけれどその向上した防御力で矢をかすり傷で抑え、状態異常も無効化することが出来た。

 エンブリオ相手では到達形態とかTYPEの制限があるけれどモンスター相手ではその制限は緩いらしく<UBM>のスキルも使用できるのはありがたい限りだ。

 

「これからも<UBM>からラーニングしたいところだねぇ」

『堂々と捕食宣言』『これは暴食魔王』

「誰が腹ペコ大魔王かな!?」

『そこまで言ってねえw』『図星かな?』『ハラペコカワイイヤッター』

「ぐぬぬ……いいよもう普通に攻略するんだからね! 普通に!」

 

 不名誉なイメージが付きまとってくる……!

 これは早急に払拭しなければ……あっ新しい敵。

 

 

『色違いのサソリだ』『鉱石っぽい見た目だ堅そう』『あっ(察し』

 

 

 ラーニング()欲には勝てなかったよ……

 

 

To be continued

 

 

 




 【万知双告 フギン・ムニン】
 <マスター>:アイリス
 TYPE:レギオン 到達形態:Ⅵ
 能力特性:情報収集
 スキル:《大いなる神眼》《記憶の結び》《思考の継承》
 必殺スキル:《叡智の双眸(フギン・ムニン)
 モチーフ:北欧神話にて主神オーディンに仕える一対のワタリガラス、フギン・ムニン
 備考:情報収集に特化した主人公の姉の<エンブリオ>
 【ブロードキャストアイ】の上位互換的な存在であり、本人と併せて戦闘能力こそ皆無ではあるがその分えげつない系の<エンブリオ>である。
 以前アイリスから情報を買った<マスター>の一人が無断で自分のブログにその詳細を載せたことがあり、知名度は高い。(件のマスターはなんやかんやあって引退した)





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