【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】   作:レイティス

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前回の産業:
速いってことは強いんだよなぁ!
スレ主、性能とメタのために全身スライムスーツ
煙幕グワー!


第四十六話 必殺スキル

 □【鈍重術師】ルミナス

 

 ──実に面倒くさいことになった。

 

 場の状況だけを見ればある程度さっぱりしたと言ってもいい状況である。

 <エンブリオ>の輸送能力によって消えた<ゴブリン・ストリート>の<マスター>二人。

 一人逃げ出して晩ブルに確保された推定【奴隷商】の店主。

 そして煙幕に乗じて行使されたもう一つのスキルによって姿を消したティアンの護衛たち。

 

 交易路という盤面上には私たち四人と【強奪王】エルドリッジのみが残っている。

 互いに巻き込みを気にしないで戦える……というわけでは勿論ない。てーか現状では<ゴブリン・ストリート>の思惑通りである。

 

『まず現状を整理します。掲示板では今まで通り適当に戦況の実況でもしていてください』

『おまかせあれー!』

『それでいいのか……』

 

 姉さんの特典武具、【響心妖声 ジャクレン】による念話が響く。

 今回は対人ということもあり本格的な作戦会議自体はこちらの念話で行い、出しても問題のない部分のみを掲示板で話している状況なのだ。

 私のスレ読者がPK側にいる可能性もあるからね!

 

『最初に周知しておきますが、護衛のティアンたちが消えたのは──件の誘拐事件の犯人です』

『えっ』

『唐突ぅ!』

『へぇ』

『マジで?』

 

 最初に爆弾が投げられる。

 一瞬みんながそれに反応をした隙にエルドリッジが詰めて来るけれど、まあその程度は読めるんだよね!

 

「《バッシュ》!」

 

 カウンター気味に放った【ゲリ・フレキ】の一撃は肘で受け止められる。

 AGI型の【強奪王】であるエルドリッジだけど、まるでダメージを受けている様子はない。

 彼は耐久型の<エンブリオ>による俊敏性と耐久性を両立しているトンデモPKとは聞いていたけど、相手の速度を逆に利用したカウンターでもこれかー……

 

「……なんだ、実況中じゃないのか?」

「私にスレ実況による隙はないと思っていただこうっ! 仮に輝麗(フゥリー)ちゃんとコラボすることになっても私に動揺なんてないんだよ!」

「なんだその分かりにくいたとえ!?」

 

 おかしい、突っ込みが後ろからとんでくる。

 

 

『煙幕中のスキルで拉致されました。ラビリンス系のようですね……隔離スキルを使用したということは近場に本体がいるはずなので今捜索中です』

 

 TYPE:ラビリンス……キャッスル──建物型の<エンブリオ>の上位系であり、主に建物の内部にその効果を発揮するタイプだ。

 工房型とか防衛拠点と言った外部に効果があるもう一つの上位系であるTYPE:フォートレスと比べると数が少ない印象ではあるけれど、展開時に範囲内の対象を取り込む事が出来る利点は結構大きい。

 話によれば展開時の建物よりも広い範囲から取り込む、隔離にリソースを多く割いている<エンブリオ>のようだ。

 

『なるほど。……一応聞いておきますが』

『はい?』

『これも今私たちが請けている依頼には関係ないんですが……』

 

 ある意味至極真っ当な事を言うビースリー。

 冒険者ギルドで請けた依頼のことだけを考えたらそれは正しいかもしれない。

 

 エルドリッジが今もこの場に残っているのはティアンを誘拐した犯人──ラビリンスの<エンブリオ>の<マスター>が本拠地への追撃を妨害するためだ。

 そういう追加オーダーがなければ煙幕に乗じて他のクランメンバーと一緒に撤退していただろう。相性的にわざわざ私たちに突っ張りには来ないだろう。

 つまり、このまま後退すれば相手はわざわざ追っては来ない可能性が高い。まぁ来るなら来るでソロのエルドリッジ(高額賞金首)を全員でぼこってもいいんだけど!

 

『でも寄り道してこそじゃん!?』

『このスレ主念話でもうるさぁい……』

 

 人命(ティアン)優先とかPKの思惑通りにしたくないとか色々理由はあるけれど。

 それはそれとして私はRPGではダンジョンの分かれ道の先に大きな扉(ボス部屋)発見したら戻って外れルートを突き進むんだよ!

 

『まあスレ主ならそういうって知ってたよー!』

『デスヨネー……』

『知ってました』

『私も現場に行きたい……』

 

 なお上からアイ、ヤクシイム、ビースリー、晩ブルである。

 ここでそういう反応が返ってくる晩ブルは戦闘狂の素質があるのではなかろうか??

 

『──見つけました。崖下、木々で隠れていますね。座標を送ります』

 

 そしてそんな益体もない会話をしている間に姉さんが仕事をしてくれたらしい。

 拉致スキルの都合上そこまで離れてないとはいえ誘拐先の相手拠点──<エンブリオ>の所在をものの(デンドロ内実時間)数秒で発見するとは流石と言わざるを得ない。

 問題は崖下にあるということだけど、それは私やビースリーの重力制御の前には障害にはならない。

 

『とはいえ、私は行けません。行くならルミナス一人です』

『そうなのかい?』

『ここで二人抜けると【強奪王】の《ピックポケット》が通った時のリカバリーが利かないので』

『AGIの暴力は悲しいなぁ……』

 

 ということになった。

 誘拐犯にしても<ゴブリン・ストリート>に荒事の外注をするぐらいだし純戦闘職ではないはず。

 <エンブリオ>にしても展開スキルの範囲的に戦闘用じゃ……え? 必殺スキルでもう<エンブリオ>のデータも割れてるからいってらっしゃい? アッハイ。

 まあそれを抜きにしてもある程度物魔両方万能に動ける私が行くことになるのは必然ではある。

 

『まあそういうことならやってみよう! まぁ目の前のゴブリンを撒いてからだけどね!』

『そこが難点なんだよなぁ……単純に空行けばいいってわけでもなし』

 

 こんなところで戦闘するんだし《空中跳躍》とかの装備スキルはあるだろうからある程度の隙は必要だ。

 でも、それに必要なパーツ(スキル)は既にセットしてある。──後は実行するだけ。

 

【クエスト――【救出――クルエラ山岳地帯 難易度:五】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 そんな私たちを後押しするように流れるアナウンス。

 しっかりサブクエスト認定してくれる管理AIに心の中で拍手を送りつつ、【ゲリ・フレキ】の切っ先を構えなおした。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ■【強奪王】エルドリッジ

 

 ──実に面倒くさいことになった。

 

 ニアーラが行った煙幕に乗じてクランメンバーを輸送用の《ペリカン・カーゴ》により避難させ、クライアントに合図の念話を送ってティアンの奴隷を奪取させた時にその提案はやってきた。

 ──展開した<エンブリオ>の再収用のクールタイムまで相手方の<マスター>の足止めをしてくれるなら、追加の料金を出しましょう。

 

(全く、簡単に言ってくれる)

 

 これでもPKクランのオーナーともなればアンダーグラウンドなクエストも何度も受けてきた身だ。なんたってアルター王国盗賊ギルドではVIP待遇だ。

 ここまで大盤振る舞いのクライアントが公の【奴隷商】を利用せずこんなこと(奴隷奪取)をしてる理由も聞かされていないが察しは付く。

 

 <Infinite Dendrogram>における「奴隷」と呼ばれるティアンの取り扱いについては国の法によって異なるが──ことアルターではよほどの重犯罪を犯した者以外はそこまで悪い扱いを受けない。

 犯罪を犯したティアンが落とされる犯罪奴隷は公共事業などの重労働に回され、国営の【奴隷商】で扱われる奴隷は基本的に借金奴隷や傭兵()()()の戦闘奴隷だ。

 なお、戦闘奴隷とはいえ大昔のコロッセオのように闘技場で戦う訳ではなく(そもそもあそこは戦闘狂たちの遊び場だ)主の代わりにモンスターと戦う殆どテイムモンスターのような扱いだ。

 

 そして、奴隷となっても彼ら彼女らはアルター王国の国民であり、しっかり管理されている。

 当然ながら、公的な奴隷商から購入した奴隷をなんらかの理由──死亡や重篤な障害など──が起きれば届け出をしなければならないし、放置していると奴隷の首輪からの反応が購入した【奴隷商】に通達される。

 清廉を謳う建国王に慮り、奴隷でも無体な扱いはされず、戦闘奴隷にしても──<マスター>間で囁かれる所謂「肉の盾」のような真似は眉を顰められるのが騎士の国アルターだ。

 正規のルートで入手しても当たり前のように正規の使い方しか許されない。

 

(それは非認可の奴隷を扱うのだって分かるがな。随分急なことだ)

 

 時期や<エンブリオ>の性能、王都でまことしやかに囁かれる事件の関連性を考えれば、クライアントがなんらかの目的でティアンを攫い、その警備が難しくなったから今度は奴隷に目を付けたのは想像に難くない。

 直接非認可の奴隷商と取引をせずに他国とやり取りする奴隷商を襲う理由までは分からないが──恐らくはクライアント側のスポンサーの都合だろう。

 ……直接<ゴブリン・ストリート>と奴隷奪取の手引きと邪魔者の排除を依頼したのは「Dr.T」なる<マスター>だが、《看破》した彼のレベルと<エンブリオ>を考えれば一人であれだけの大金を用意できたとは思えない。

 

 なんといってもこの<Infinite Dendrogram>の世界はこれまでのゲームとは一線を画す出来だ。

 なお、ここで言う「出来」とは「すごく面白いゲーム」という意味ではなく「現実に近い」という意味だ。

 

 零から百まで──その気になれば負数や虚数(魔法やスキル等のゲーム要素)も──正しく機能する物理演算。

 村や町の一般人どころか凡そ全てのモンスターに至るまでの心情や生態系の再現。

 全世界同時接続が数十万人から数百万人にも及ぶにも関わらず遅延も何もないそのサーバーの強度。

 

 発表まで全く無名だったのが一層の怪しさを引き立てるこのゲームには各方からその手が延ばされていると聞く。

 その世界の出来だけでなく三倍時間加速やセンススキルなどの存在もあり、真に関係のない業界はないとも言われているとか。

 ──管理AIを用いたハッキングを仕掛けた合衆国のゲームメーカーが手痛すぎるカウンターを食らったことで彼らは全員「正門」からの調査をせざるを得なかったとか。

 

 間違いなくその裏には何某かの資金提供があり、その関係で彼の方にも制約があるのだろう。

 

 なにせ、単に治験用の人員が欲しいだけならカルディナなら<ゴブリン・ストリート>に依頼した額で軽く三桁の身を持ち崩したヒトを確保出来るのだから。

 だがまぁ、仮に現実世界の大企業のスポンサーがいたとしても資金提供にも都合があるのは当然だ。

 <Infinite Dendrogram>は……もとい、現行のVRゲームの殆どはRMT(リアルマネートレード)禁止法によっていやがおうにもデンドロ内で稼いだ資金での取引しかすることが出来ない。

 RMT禁止法は公的なゲーム内通貨と現実の通貨の売買を禁止するだけでなく、現実での立場を使った交渉や恐喝などにも適用される国際法だ。

 『第二の居住空間であるダイブ型VRMMO内での財産が、現実の経済にまで大きな影響を及ぼさないようにするため』というお題目だが、世界派と呼ばれる<マスター>の存在を考えるとその施行は正しかったのだろう。

 ついでに「部下に命じてゲーム内の調査を行わせる」ことすら禁じられているが、まぁ、どんな法にも抜け道はある。

 職業ゲーマー……俗にいうプロゲーマーならその限りではないし、なんなら態々ゲーマーを招聘せずとも「ゲーマーを育成する部署」を設立してデンドロをプレイする事は出来るらしい。

 実績がないと上から小言を言われるとかで現在世界規模でデンドロとは関係のないeスポーツの場も盛り上がっているとか。ゲームをして食べる飯は全く美味そうだ。

 

 

(ふ、下請けである今の俺には関係ないことか)

 

 四肢を動かしながらも思考が逸れている事に気付き、改めて前を見据える。

 相手パーティは一人も欠けることなく俺から視線を逸らさずに──いやむしろ視線を遮るように大盾を構えている。

 コレをされると手を出し辛い。【強奪王】のスキルを同時に起動出来るのは両手の二回分──盾と全身鎧でどうしても《テイクオーバー》が届かない。

 STRを頼りにゴリ押しすることも不可能ではないが、回復役がいる以上長期戦になるのは必然だろう。

 

「だが、察している通りお前たちと俺では事情が違う」

「!」

「俺はこのままステータスを活かして少しの間お前たちから小銭(装備)を奪えば良いが、お前たちはそうは行かない」

 

 圧倒的なAGI差は物事を単純にする。

 フェイントやカウンターを含めば単純に必勝とまでは言えないが、こと戦略的に考えた場合速度というステータスが齎す影響は大きい。

 発揮速度に五倍も差があれば退却するだけなら追撃も妨害も気にする必要はなく、相手から退却の選択肢を奪うことも出来る。

 戦場における決定的なアドバンテージだ。

 

「アイリスがいる以上、分かっているはずだとは思うが──上級職の奥義程度では俺は倒せない」

 

 【奮骨砕刃 スケルトン】──俺の全身の骨格に置換されている<エンブリオ>はそのスキルを以て俺の防御力を跳ね上げている。

 骨格の強度という形で作用するためステータス上では確認出来ないが、それは硬度にして──END三万を超える程だ。

 上級職の奥義スキルでもろくなダメージとならず、相手に超級職もいない以上警戒すべきは特典武具や<エンブリオ>の必殺スキルぐらいのもの。

 とはいえこれまでの戦闘で使っていない以上簡単に使えるような単発攻撃系スキルはないだろう。

 あるとしたら俺と同じく準備時間が必要なタイプや単純に射程や速度の都合。

 

「カウンターを警戒して欲を出さずに削ればいいだなんてイージーな仕事だ」

 

 威圧するように告げる──勿論、言葉ほど簡単ではない。

 リソースの都合はあるが人が想像しうる効果は凡そ存在すると言ってもいいのが<エンブリオ>の固有スキルだ。

 取るに足らないと思っていた相手が実はメタな固有スキルを所持していたなんてことも日常茶飯事である。

 ましてやラーニングスキルを持つ<エンブリオ>持ちが相手となれば、まず確実にこちらに有効なスキルも揃えてあるはず。

 だから──先に潰す。

 

「──《()

「《副葬品は要らず、(スケル)

 

 俺の気配から何かを感じ取ったのか──この世界では割とリアルな「殺気」の変化に気付く者もそれなりにいる──ピンクの口がスキルを宣言するために開かれる。

 しかし、圧倒的な地力(ステータス)の差でスキル宣言の順番はどうあがいても変わることはない。

 

々よ、(スト)

ただ還るのみ(トン)》」

 

 必殺スキルの宣言と共にピンクが右手に持つ黒い短剣が高い音を立てて砕け散る。

 対象の強度を無視して片手に装備している武具を破壊する必殺スキル、《副葬品は要らず、ただ還るのみ(スケルトン)》はその真価を問題なく発揮した。

 《鑑定眼》で確認した限り武器がエンブリオなのはピンクだけ。後はクールタイムである三分を待てばいいだけだ。

 

我らに(ライ)──」

 

 だが、相手のスキルの宣言は止まらない。

 双剣の<エンブリオ>だからそれもまた当たり前だが──AGIによって引き延ばされた思考がスキルによらない危機感を伝えてくる。

 その源は今まさに宣言されようとしているスキルだ。それを発動させると面倒になると知っている。

 

 ──第何次かも忘れた討伐隊に紛れていた<マスター>の必殺スキルだ、ラーニングとあれば可能性はある。

 

 AGIの限りを振り絞り、その首に手を伸ばそうとして、

 

 

「──裁定を()》!」

 

 

 一歩届かず、とある<エンブリオ>の名を冠するそのスキルが宣言される。

 

 

「ちぃ!」

「てぇい!」

 

 その効果が適用されると同時、どちらともなく地を蹴り相手から距離を取る。

 ──そして()()()()()()()距離を詰めてくるピンクの影。

 あぁ、本当に……面倒なことになった。

 




〇《星々よ、我らに裁定を(アストライア)
 【星義執行 アストライア】の必殺スキル。
 範囲内の全対象に対して「人々から向けられた好感情の総量に応じたAGIバフ」と「人々から向けられた悪感情の総量に応じたAGIデバフ」を与える犯罪者許さないオーラを発するスキル。
 ティアンもその手にかける<ゴブリン・ストリート>のオーナーともなればその悪名は広く知れ渡っており、万単位のデバフを受けている。
 そう、クルーズピンクの姿を配信したのも全てはこのバフを積み上げるためなのですよルミナス……(後付け姉

それと申し訳ないけれど次回更新も再来週です。
本格的な戦闘は……やっぱり時間がね!

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