【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】   作:レイティス

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第五十話 決着

 

 □【盾巨人】Barbaroi・Bad・Burn(ビースリー)

 

 これが物語だったらティアンを誘拐していた犯人を倒してめでたしめでたし……で終わるという筋書きだったかもしれない。

 しかし残念ながらこれは現実(VRMMORPG)、他人の思惑が絡み自分のご都合通りに進むことなんて殆ど、ない。

 MMOの常として、全員が主人公たりえるのだから。

 

「──ッ!」

「ぐはぁー!?」

『《りすぺくとひーる》!』

 

 エルドリッジの回し蹴りがルミナスの抜けた前衛をずっと支えているヤクシイムに突き刺さる。

 すぐさま【ヴァーチャーズ】がHPを回復するが、このままではジリ貧……いや、明確に私たちが不利である。

 

 アイリスが齎した情報にある【強奪王】の奥義……《グレーター・オールドレイン》が長期戦を許さない。

 アイテムや肉体を抉る【強奪王】最後の固有スキルであるその効果は──ステータスの強奪。

 与えたダメージに比例して対象のステータスを強奪するというバフ・デバフが一体となった長期戦用のアクティブスキルだ。

 一日に一回しか使用出来ず、指定出来る対象も一人ではあるけれど、対象がHPを回復してもその効果は消える事のない強力なスキルだ。

 ルミナスが既に離脱しているためか、ヤクシイムがその対象に指定されており、既にそのステータスは四割程減少している。

 

 そして何より──

 

『──とスレでは言ったけど、正直大分からっけつなんだよね。障壁でMPの殆ど持ってかれてポーション使って上に運ぶ分を確保しなきゃだし』

『分かっています。SPだって尽きてるんですから回復に専念してください』

『むむ、その場にいないこの身が恨めしい』

『足は重要ですから晩ブルはそのまま待機していてください』

 

 横目でパーティメンバーの簡易ステータスで見れば、ルミナスのMP・SPバーは八割ほど黒く染まっているのが分かる。

 基礎火力が故に攻撃にも防御にも重力魔法を使っていた弊害だろう。

 

 それに重力魔法でも風魔法でも、魔法による飛行速度にはAGIは寄与しない。

 駆け付けたと同時にクールタイムが開けた必殺スキル(スケルトン)の餌食になるのは間違いないだろう。

 超級職の中でもステータス補正が高い【王】の系統である【強奪王】のエルドリッジに重力魔法だけで戦う事は出来ない。物理・魔法両面のジョブの都合ヤクシイムよりステータスは低いのだから。

 

『んで、スレでは今から向かうって書いたけど……あちらの反応は?』

 

 それでもエルドリッジはルミナスについて中途半端に(<エンブリオ>の固有スキルをラーニング出来る程度の)知識を持っていた。

 恐らくパーティメンバーにスレの住人がいたのだろうが──

 

『こりゃダメだ止まる気配ないってうおおおおお!?』

『通信で悲鳴上げないで??』

 

 エルドリッジが撤退する様子はなし。

 仲間からスレの実況状況について情報共有がされていないのか、それとも知った上で少しでも金稼ぎ(装備強奪)を狙っているのか。

 どちらにせよ変わらないのは、今の状況だと負けるということ。

 そして、容易い相手だと思われている事だ。

 

 ……それは正直に言って、面白くない。

 

『というか私が来ても《スケルトン》すれば何の問題もないって言う認識なのは正直いらっと来るよね?』

『まぁまぁ──まぁ一泡吹かせたいですよね!』

『本音駄々洩れじゃん』

 

 そしてそれは仲間たちも同じようだ。

 そう、一泡吹かせたい。

 そのために必要なものは何か、考える。

 

 ……と言いつつ、考えるまでもなく()()は明確だ。

 相手の防御力を突破する攻撃と、攻撃を当てる手段。

 それが最低限必要なものであり、エルドリッジはその最低限のハードルをとても高く設定するハイバランス型だ。

 

『スレ主は何か案ないのか? パーティリーダーだよな一応』

『いやー基本的に私ってば単独戦闘メインだからパーティ指揮とかはなんとなくなもので』

管理人(アイリス)といつも一緒じゃん!?』

『姉さんは別枠なの! 【指揮官(リーダー)】とかはないしね。現場の人たちはどう?』

『私もちょっと……いざとなれば《コール・エンジェル・セラフナイト》で抑え込んで撤退かなぁぐらいしか』

 

 《コール・エンジェル・セラフナイト》は【教会騎士】が召喚出来る最高位の天使だ。

 【セラフナイト】は純竜級を超える性能を持っているがクールタイムが一ヵ月と多大な消費をするはずであり、発動前の隙も大きい。

 AGIで大差を付けているエルドリッジ相手に大技を使うなら他のメンバーの手助けがいるけど、それで召喚しても超級職のエルドリッジに勝てるかは……少し、いやかなり怪しい。

 

『ふむーん。ビースリーはどう? 勝てそう? 無理そうなら私が第五の力に覚醒してなんとかしちゃうよ?』

『そうですね……』

『無視!?』

『当然なんだよねぇ』

 

 私たちが現状エルドリッジに勝っている点の一つは「<マスター>の人数」だ。

 通常臨時パーティではお互いの手の内なんて話さないけれど、「どうせアイリスがいるから」とパーティメンバーの手の内は公開し合っているため、連携とまでは言わずとも出来る事は分かっている。

 その中でエルドリッジの防御力を突破出来る方法は、二つ。

 どちらもカウンターで当てる必要はあるけれど組み合わせ次第では──

 

『手がない事も、ないですね』

『マジで!? やったー!』

『ルミナスにはまだ働いてもらいますが』

『え゛っ』

『残業ですね!』

『うっ頭が』

 

 賑やかな通信念話である。

 だけど不思議と兜の下で顔が緩むのを感じる。

 そう、例え格上だとしても押し負けずに挑み、打破する。

 それを目指して私は<Infinite Dendrogram>を始めたのだから。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 □■<クルエラ山岳地帯>

 

『オーナー、《オウル》でも確認しましたがクライアントがやられました。念のためスレ主が戻って来る前に撤退すべきかと』

『いや、不要だ。《スケルトン》のクールタイムは済んでいるから顔を出したところで使う。引き続き観測して近付いたら教えてくれ』

『了解です。ご武運を』

 

 【強奪王】エルドリッジは【テレパシーカフス】による通信を繋げたまま、全身着ぐるみのヤクシイムに何度目かにも分からぬ蹴りを放った。

 単独でパーティを相手にする傲慢な立ち振る舞いとは裏腹に彼に慢心はない。

 <マスター>は、<エンブリオ>とはそれ単体で驚異的な力を発揮するものであるし、そもそも既に一回裏を掻かれた後なのだ。

 

(とはいえ、ここまで戦えば大分<エンブリオ>の傾向も読めるものだ)

 

 AGI差から大剣を盾代わりに防戦一方になるヤクシイムをよそに、最大の不安要素である<エンブリオ>について思案を巡らす。

 

(天使と結界については分かりやすい。補助特化のガードナーと重力増加のテリトリー……いや、減少も出来るかもしれないな)

 

 そこまで考えて、まっすぐ視線を──こちらから向けなくても【強奪王】の射線を塞ぐために立ちはだかる着ぐるみに向ける。

 HPは攻撃の都度天使に回復され、一度もレッドゾーン(1/4)どころかイエローゾーン(半減)にも落ちていない。

 だが、《グレーター・オールドレイン》によるステータスの奪取は回復をしても消えず、累積する。

 奪取という特性上それは割合デバフとなりステータスがマイナスになることはないが、その分高いステータス程減衰は大きい。

 そう、特化型であれば役割を十全に果たせなくなる程に。

 

「ステータスのデバフを受けても俺の攻撃を受けきれているなら、ステータス補正ではなく<エンブリオ>の防具としての性能が高いんだろう。姿を見れば着ぐるみの元となったモンスターのステータスを模倣しているだろうことは想像がつく。流石に俺もスキルなしで地竜の防御を抜くのは()()()()()な」

 

 そう自分の推測を投げかけつつも、エルドリッジは手を変えない。

 例え着ぐるみの<エンブリオ>が自身のジョブに対してメタな性能を持っていようと、RPGという物は相手のHPを0にした方が勝つものなのだ。

 回復をする天使のMPだって《カバーリング》を行うSPだって、替えの鎧だって有限だ。

 ルミナスが戻ってきても既にラーニングスキルは割れており、特典武具でSP・MPの持続回復力を強化しているエルドリッジは長期戦で勝てる側なのだ。

 

 つまり、状況を動かすのは──

 

 

『オーナー!!』

「!」

 

 観測を続けていたニアーラから短い通信が届く。

 何が──なんて聞く必要もない。阿吽の呼吸で視線だけで崖を見る。

 

「とうっ!」

 

 崖下から飛び出すように──重力制御なのでその実()()()()()()()──登場するルミナス。

 残り少ないMPを消費して駆けつけた彼女にもエルドリッジは冷静に己が<エンブリオ>の銘を告げた。

 

「《アス──」

「《副葬品は要らず、ただ還るのみ(スケルトン)》」

 

 二度目の必殺スキルの使用。

 狙い違わず黒の短剣を砕き、ルミナスが完全に無手となる。

 

「まずは一人──」

「それには早いんじゃないかなー!?」

 

 ルミナスの登場と同時に他のパーティメンバーも行動を開始していた。

 【教会騎士】の奥義で天使を召喚しようとしているアイに向かって駆けだそうとしているエルドリッジは背後で声を荒げるルミナスを無視した。

 既に二本とも<エンブリオ>を砕かれた状態では如何に無数の手札を持つラーニング能力を持つ<エンブリオ>だろうとスキルを使用することはできない。

 STRによって無効化出来るルミナスを無視して対処に当たろうとしたエルドリッジに──仲間の声が届いた。

 

『オーナー! スレ主がスーツを変形させて……あれは、黒い歯!?』

「!」

 

 無視できないニアーラの警告に振り向き、右手を向ける。

 

(牙……【神貪双牙】の双牙とは双剣ではないのか?!)

 

 もし、ルミナスの<エンブリオ>【神貪双牙 ゲリ・フレキ】の銘が示しているものが双剣ではないのだとしたら。

 ()()()()を指して【双牙】なのだとしたら。

 (スケルトン)がそうである故に、その可能性を無視出来なかったエルドリッジは自身のAGIの限りをもってスーツを変形させた顔面に《グレーター・テイクオーバー》を行使しようとして、

 

 

『──ダメじゃないですか。情報は定期的に更新しないと、ですよ?』

 

 

 必殺スキルを撃った時のままの全身スーツ姿のルミナスに《グレーター・テイクオーバー》が弾かれたエルドリッジの耳に、再び()()()()()()が届いた。

 

(これは──アイリス!?)

 

 エルドリッジは知らない事だが、ソレはアイリスが獲得した特典武具──【響心妖声 ジャクレン】の第二スキル《揺声》の効果だった。

 自身の声色を自在に変更し、システムメッセージ上のログに記載される発言者名すら改竄する偽声のスキル。

 ()()()()()()()()()()()()。まさしく初見殺しに特化した装備スキルにより一手遅れたエルドリッジが視線を戻した時には、既にスキルが完成していた。

 

 

「《コール・エンジェル・セラフナイト》!!」

「──《未ダ解クニ能ハズ(セントラルドグマ)》」

 

 

 更に、もう一つ。

 場に現れたのは二体の、共に三メテル程のモンスター。

 一体は三対六枚の白翼を持つ、全身を燃えるような赤い鎧兜で包んで剣盾を持つ聖騎士のような出で立ちの天使、【セラフナイト】。

 もう一体はヤクシイムの着ていた着ぐるみがそのまま大きくなった、デフォルメした緑色の地竜のようなモンスター、必殺スキルでモンスター化した【セントラルドグマ】だ。

 

『GRRRRRAAA!!!』

 

 咆哮と共に地を駆ける【セントラルドグマ】と翼を用いて飛翔する【セラフナイト】がエルドリッジに襲い掛かる。

 亜音速(AGI6000)程度の速度とはいえこれまでの戦闘と比べると無視出来ない存在であり、片や上級職の奥義、片や必殺スキルとあらば攻撃力に関しても比べ物にならないだろう。

 

 だから、相対するエルドリッジが選んだのは迎撃でも防御でもなく、突破だった。

 

 左手を構えて《グレーター・テイクオーバー》の構えを取る。

 地竜の鱗も天使の鎧も一手では取れない。二度目のブラフに引っかかった自分に内心で毒づきつつ、スキルを行使した。

 

 

『!!?』

 

 

 奪われたのは、【セラフナイト】の翼の一枚。

 バランスを崩して墜落した【セラフナイト】は【セントラルドグマ】の突撃に巻き込まれるが、AGIに勝るエルドリッジはそれを跳躍で躱し、再度マスターたちに急襲する。

 

装備品(アームズ)モンスター(ガードナー)化する必殺スキル。それならば今はフリー、わざわざ必殺スキルで生まれたガードナーを倒すよりも<マスター>を叩く方が楽だ)

 

 《グレーター・オールドレイン》によりAGIもENDも下がっており、デバフで下がった防御能力を己の<エンブリオ>で補っているヤクシイムにエルドリッジの攻撃を凌ぐ術はない。

 【強奪王】のスキルのクールタイムを待つまでもなく、STRに物を言わせた殴打で十二分にオーバーキルとなる相手だ。

 

 超音速機動で迫るエルドリッジに着ぐるみを脱ぎ捨てた青年の身体(アバター)のヤクシイムは、しかし表情を変えなかった。

 それはあまりのAGI差に反応出来なかったのではなく……()()()()()()()だったからだ。

 

『読み、通り! 《アストロガード》!』

 

 エルドリッジの拳が当たる瞬間、ビースリーが《カバーリング》で二人の間に割り込む。

 持ち前のENDと全身鎧の防御力をスキルで更に五倍化し、仲間をデスペナルティに追い込む打擲を鈍い音と共に防ぐ。

 今までは《グレーター・ビッグポケット》を避けるためにヤクシイムが前を張っていたが、元々このパーティは耐久前衛が多いのだ。

 

『そして──』

 

 白兵戦闘の距離、【強奪王】のスキルのクールタイム、召喚モンスターとの挟み撃ちの配置。

 絶好のカウンターの条件が揃ったところにビースリーはエルドリッジを打ち崩す手を放つ。

 

『──《解放されし巨人(アトラス)》!!』

 

 つまり、己の最大の一撃である必殺スキル。

 防御力の十倍化……《アストロガード》と合わせて防御力を()()()、六桁に及ぶ防御力が攻撃力と化してエルドリッジに放たれる。

 

 ──しかし、それでもまだ速さが足りない。

 

『GBRAAAAAAAA!!』

「チィッ!」

 

 その身体を変性させ、鱗を飛ばして退却ルートを潰す【セントラルドグマ】の攻撃をエルドリッジはダメージを無視して飛び退く。

 飛鱗が外套や肌を切り裂き少なくないダメージを受けるが、直接攻撃用の必殺スキルよりも被害は少ないと踏んでの行動だ。

 

 彼の推測は正しく、ビースリーの攻撃は致命傷を与えうるパーティの最大火力だが、必殺スキルの効果時間が十秒という事と《アストロガード》中は移動する事が出来ないという制約がある。

 一度攻撃範囲から出れば《アストロガード》を解除せざるを得ず、防御五倍がない状態なら彼の速さと硬さを合わせれば凌ぐ事が出来る。

 

 ──はずだった。

 

「《グラビティルート》っ!!」

 

 全身鎧のビースリーがエルドリッジに向かって()()()()()

 ルミナスの使った重力魔法がビースリーを強制的に動かす。

 《アストロガード》は使用者が移動出来なくなるデメリットを持つが、それは一切のノックバックを無効化する不動の効果がある訳ではなく、強制的な移動は受ける。

 それを活かした魔法の行使だが……その落下速度はエルドリッジの速度に追い付いていない。

 

 そのままでは、まだ。

 

 

『《天よ(ヘヴンズ・)!』

 

 ビースリーが続けてスキル名を叫ぶ。

 それはエルドリッジには通用しなかったスキル。

 重力魔法と同様に一定以上のSTRがあれば対応が出来るテリトリー(結界)のスキル。

 

重石となれ(ウェイト)》!!」

 

 テリトリー故にある程度の範囲を制御出来るソレを極めて縮めて放つ。

 そして、()()()()を対象としてその効果を発揮する。

 

 重力を三百倍に強化したビースリーが超音速を超え、迫る。

 防御力自体が五十倍化しており、速度も自身に比する彼女を防ぐ術をエルドリッジは持たなかった。

 

「────」

 

 刹那の瞬きの間に自分に向かって落ちてくる全身鎧にエルドリッジは驚愕の表情を浮かべ、

 その身体に大盾が特大の衝撃を与え吹き飛ばした。

 

 

 To be continued

 

 

 

 





〇《未ダ解クニ能ハズ》
 【変成繊維 セントラルドグマ】の必殺スキル。
 着ぐるみが巨大化して暴れ出す。
 【セントラルドグマ】は【ゲリ・フレキ】同様素材を溜め込み任意のステータス補正を得る事が出来、この必殺スキルはステータス補正を外部に出力することになる。
 ……表に出ている要素が防御面の地竜の姿だったが、このスキルを使うとその制御を外れ割とすぐにランダム変性する。
 無制御故にその能力は高いが無機物故の身体部位を無視した変性は「絵面がやばい」と不評。


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