【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】   作:レイティス

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ダンジョン料理うまし!
三十層ボスもさっくり倒して帰還!
※ヴァルハラという名前ですが当店に人肉使用の料理はありません


第五十七話 挨拶回り

 □王都アルテア 【鈍重術師】ルミナス

 

 

 先日の<墓標迷宮>の狩りから数日後。

 私はモルテナを引き連れてシステムメニューのマップを確認しながら王都を歩いていた。

 勿論既に王国に来てこちらの時間で半年程、単に散策をしている訳ではなく()()()()を探しているのだ。

 姉さんは国を移す事に関する<DIN>での処理をしているらしく今日は一緒ではない。

 

 中央通りに面した区画ではないから少し時間はかかるけど……マップがあって迷う程方向音痴でもない。

 

 

「あったあった。やっぱりこの手の物件は表通りにはないから少し探し辛いねー」

 

 

 足を止めたのは中央通りから少し外れた区画、移動の面では悪くはないけれど探そうと思わないと中々辿り着けない微妙な塩梅の立地にある一軒の店の前だ。

 看板に見覚えのあるレリーフ、「円に内接する六芒星」が刻まれているのが特徴と言えば特徴だろうか。

 

 この店舗は<マスター>のお店……TYPE:キャッスル系列という意味ではなく、実際にこのデンドロ内でプレイヤーが所有している物件だ。

 所属国家を固定してプレイしている<マスター>の中には自分の家を持つ者もそれなりの数がいる。

 工房など生産作業の補正目当て、休憩や倉庫などの単純にデンドロプレイの拠点など建物の効果とプレイヤーの事情により物件を持つ理由はまちまちだ。

 勿論個人での所有ではなくクランでリルを出し合ってより複数人で活用する大規模なクランハウスを建設、あるいは借りる場合もある。

 身近な例で言うと<Wiki編纂部・アルター王国支部>ではオーナーの趣味も相まってMPの自然回復増加に特化したクランハウスを持っている。(私も重力魔法を習得する時には使わせてもらった)

 

 とはいえ、<Inifinite Dendrogram>はサービスが開始されてまだ三年にも満たず、<マスター>の大半は新参者だ。

 死を恐れない中堅以上の<マスター>の狩りは一般的なティアンと比べると圧倒的に儲かるけれど、それでも長年商売をしている【大商人】などに資金力で勝てるのはごく僅かで信用という面でも分が悪い以上一等地に居を構えるのはそれこそクランランキングの上位ランカーぐらいだろう。

 中には土地だけ買って知り合いの<マスター>の【大工】に(あるいはそれを補助する<エンブリオ>や特典武具も使って)建物を作ってもらう事もあるそうだけど、流石に大規模な工事になる土木系の<エンブリオ>はスレでも片手で数えるぐらいしか見た覚えがない。

 

 

「ま、旅人プレイの私たちには関係ない事情だってことでお邪魔しまーす」

「失礼します」

 

 

 店の前で突っ立っていても仕方ないので扉を開けていざ入店!

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

 店に入ると正面のカウンターにいるティアンの女性が私たちの来店に笑顔で対応してくれた。

 周囲には武具が値札と共に種別ごとに陳列されている。

 装飾は少ないけれど《鑑定眼》で見てみればその性能は値段を考えると大分高く、品質重視の品ぞろえなのが分かりやすい。

 あとは何故かカウンターに招き猫ならぬ虎の置物がおいてあるのが気になるぐらいで、<マスター>の店にしては大分一般的な感じだ。

 

 

「予約しておいたルミナスだけど、トバールはいるかな?」

「あ、はーい。少々お待ちくださいね!」

 

 

 トバール様ー! と店の奥へ声を掛けながら引っ込んでいくティアンの女性を見送る。

 そう、ここは先日<墓標迷宮>で一緒に狩りをしたトバール・XNの店なのだ。

 今日は以前掲示板で話していた「奴隷に有用な装備」を売ってくれるそうなのでやってきたのだ。

 今引っ込んで行った女性も奴隷みたいだしね。

 

 生産職。特に物件を持っている<マスター>はジョブの都合上従属キャパシティに余裕があれば奴隷を所有するケースは結構多い。

 変な意味ではなくそれは<マスター>の制約……つまるところログアウト中の対応のためである。

 建物の維持管理や店番の仕事、はたまた単純作業で辛い場合もある素材の採取などを奴隷に行ってもらうのだ。

 一日八時間……三日に一日しか家に帰らないんじゃすぐに埃まみれになっちゃうから人を雇うのは道理なのである。

 

 

「……待たせたな」

 

 

 壁に掛けてある武器をモルテナに素振りさせて遊んでいると店主であるトバールが出て来た。

 その手に持っているのは……大量のブローチ?

 

 

「それが?」

「あぁ、これは自作の【救命のブローチ】」

「おおー」

「……の失敗作だ」

「ちょっと??」

 

 

 失敗作かーい!

 【救命のブローチ】とは<Infinite Dendrogram>でも最も有名な装備の一つである。

 HPが0以下になるダメージを受けた時にそのダメージを無効化にする装備スキル《九死に一生》を持つアクセサリーだ。

 スキル発動時に10%を残HPからダメージの超過回数分の確率判定で破壊されて24時間の間再装備できなくなるというペナルティはあれど、基本初見殺しが蔓延しているこのデンドロでは最重要アイテムと言っても過言ではない。

 

 とはいえ、勿論誰でも手が届く品ではない。

 基本的に亜竜級以上のボスモンスターのドロップ品でしか手に入らないという塩仕様。

 その市場価格やなんと相場にして約500万リルというとんでもない命の値段である。下手な奴隷より高い。

 類似スキルを持たせた装備の開発は多様な生産職が着手しているのだけど、必要素材や設備などの都合で市場価格より安く作る試みは失敗に終わっていたりスキル性能が劣化していたりという話を掲示板の生産職スレでよく見たものだ。

 <エンブリオ>の特殊性を以てしてもお安く再現することが出来ていないのだとか。まあ【救命のブローチ】が安く作れたならそれだけで億万長者だろうけどねー。

 

 

「まともに再現しようとするとアルター国内だと<天蓋山>で取れる宝石が必要だそうだ。正攻法はとうに諦めている」

「それはそう……で、それがどう関係してくるの?」

 

 

 <天蓋山>は私が【風竜王】と戦った<風竜山>を含む<境界山脈>でも最も険しい山だ。

 そこには空を飛ぶ天竜を統べる【天竜王】がいるらしく、彼らを徒に刺激しないよう立ち入っただけで指名手配されるという厳重っぷりで知られている。

 山脈を流れる湧き水はただそれだけで【劣化万能霊薬(レッサーエリクシル)】になるなんて噂もあるし、霊験あらたかな山なのは間違いないようだ。

 

 

「失敗作でも使い道ということだ。俺が作成したこの劣化【ブローチ】のスキル……《九死に半生》だが、本来の効果と違いダメージを無効化せずに現在HPの95%のダメージを受けるようになっている」

「ほうほう、一発即死こそ避けられるものの瀕死の重傷になるってわけだ……ん?」

「……そう、HPの低下により【ジュエル】の自動《送還》機能を誘発させることで戦闘は離脱すれど死ぬ事は余程のことがなければあり得ないということだ」

「なるほどね?」

 

 

 奴隷やテイムモンスターを収納する【ジュエル】。

 それは収納量や非召喚時の自動回復などの他にも色々とオプションが付けられ、その一つに「HPが一定以下まで減少した際に自動的に【ジュエル】に《送還》する」というものがある。

 ダメージを完全に無効化する【救命のブローチ】だと<UBM>のような強大な相手の場合、初撃を無効化して壊れて次撃で死亡してしまうがこの劣化ブローチだと残HPを5%まで減らしてそこで自動《送還》が発動する、ということだろう。

 確かに<マスター>と違ってガチで死んじゃう奴隷やテイムモンスターには大事な装備だ。テイムモンスターは装備出来ないけど。

 

 

「……最初は報復系や背水系に需要があるかと作っていたんだが、中々使い道が見つかるものだ」

「あー、私もいくつかストックしてるけどそっち系にもいいよね。それじゃあ折角だし買っちゃうよー、いくら?」

「うむ。一つ十万リルだ」

「安っ!!」

「それが俺の<エンブリオ>の力だからな。この作品も主原料はミスリルだ」

 

 

 そもそもからして自己申告でも言っていた「本来のメインジョブは【高位鍛冶師】」というのは真実であるらしく、ここにある武具はトバールが鉱物を強化する【星錬鉱房 テルース】を用いた鉱石で作成したものらしい。

 単機能特化型の<エンブリオ>でその必殺スキルである《神天導地(テルース)》を使えば鉱石のランクを一、二段階は引き上げてミスリル(逸話級金属)アダマンタイト(古代伝説級金属)に相当するリソースを溜め込むことが出来るのだとか。

 本当生産系<エンブリオ>はチートみたいなやつばっかりだよ!

 

 

「その単機能特化型でさえラーニング出来るのだから人の事を言えないと思うが……」

「……すみませんルミナス様、これまでの事を見ているとフォロー出来ません……」

「あれぇー?」

 

 

 おかしい……モルテナまで敵に回ってしまったぞ。

 【風竜王】戦のせいかな? それともレベル上げで【マッドスライム】に取り込まれかけた時のこと? あれはちゃんと助けたけどなぁ。

 

「声に出てますよ……もっと早く助けられましたよね? 【スライム】系に取り込まれるのってすごい怖いんですよ?」

「あれはスレのみんなが止めてたから私悪くないです」

「……本当は?」

「私もやったんだからさ!」

 

 

 この後滅茶苦茶ジト目で見られた。主人に向ける眼差しじゃないよこれはー。

 なお、劣化【救命のブローチ】改め【臨死のブローチ】は十個購入した。

 大体この類のは需要があるからどの国にも<エンブリオ>を使って作ってる<マスター>はいるとの話だが、補充できる時に補充するに限るのだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「──というわけで何事もなければ今日帰ってから金土日でレジェンダリアに渡る感じになりそうだねー」

「それは寂しなるなぁ、アニバーサリーまで王国にいればいいのに」

 

 

 ところ変わって日付も変わってリアルの大学構内、食堂。

 梢さんと一緒に昼ご飯を食べる場所を探していたところに私たちを見つけた月夜先輩が折角だからと誘ってくれたのでそれに応じたのだ。

 勿論付き人の月影先輩も一緒である。忍者というか執事というかつかみどころのない人である。

 

 そして今上がっている話題は今日アルター王国を離れる事についてだ。

 七月にも入って<マスター>の間ではアニバーサリーイベント(<Infinite Dendrogram>の発売日は七月十五日だ)に備えて、大規模な討伐や遠征は減っている時期である。

 リアルの知人とイベントを過ごしたい欲はあるのだけれど、もうアルターについてリアル二ヵ月になるからね。まずは七大国巡りを優先なのである。

 

 

「あとは冒険者ギルドの依頼事情だねー。護衛依頼のがかなりダブついてるらしいし」

「最近はレジェンダリアでは<超級>の犯罪者が暴れてますからね。確か【魔王】でしたか」

「レジェンダリア()()、ですけどね……」

「あー、王国にもいるんだっけ? 会った事ないんだよねー」

 

 

 指名手配犯罪者な<マスター>はラーニングに許可を必要としない相手としてみるといいんだけど、流石に<超級>相手に軽率に挑んで一日を捨てるのはね! やるなら計画立てて行かないと。

 <マスター>同士である私から見れば単なる厄介なPKなのだけど、ティアンからすればまさに凶悪な殺戮者だ。

 <エンブリオ>の到達形態に差があれどティアンとしてなんらかの手段を講じずにはいられないということで、特に指名手配<マスター>の活動域の近くでは隊商の護衛依頼が増える。

 今回の国家間移動はその需要の高さと供給の減少に応じた形となる。

 

 あとは物理ステータスが脆弱な姉さんの長距離移動は出来るだけ馬車、もとい竜車に乗せないとっていうのが七割ぐらいかな!

 

 

「まぁ、<マスター>向けの護衛依頼となると基本的に短期のものになるようですが」

「セーブポイント機能付きなら専用の護衛を雇うからねー」

 

 

 今回、アルター王国からレジェンダリアまで護衛依頼で竜車で行く、と簡潔に言っているが勿論王都アルテアからレジェンダリアの首都である霊都アムニール行きの護衛依頼が出ている訳ではない。

 当然<マスター>にも食事や睡眠その他生理現象があるので概ね八時間……デンドロ内の一日に一回はログアウトが必要となる。

 セーブポイント機能の付いた高級なキャリッジならログアウトした後に復帰した時にも相対座標に戻れるけど、馬車サイズでこの機能を持つのは大変お高いのである。

 大体はカルディナやグランバロアで使用される複数人の【船員】系統で動かす船舶サイズから運用されており、個人規模では技術的にも素材的にも厳しいらしい。それこそレジェンダリアの一部で作られているとか?

 つまり、<マスター>がログアウトしている間、例えば食事などで一時間としても三時間はその場を動けないのだ。護衛を雇っているのに護衛がいなくなる間立ち往生になるなんて本末転倒にも程があるよねー。

 

 そんな理由で<マスター>の護衛依頼は大体その日の内に辿り着ける距離、長くても一日二日程度の距離の依頼となるのが普通だ。

 勿論、その名の通り地竜が牽く訳だからその速度はリアルの車にも近いものがあるので移動距離はかなりのものになるけれど、七大国という括りは伊達ではない国土を持つ。

 中継と依頼の数がそれなりにある都市を考えるとアルテアから<サウダ山道>を通ってギデオンへ、そして乗り換えを挟んで<サウダーデ森林>を通ってニッサ辺境伯領、そこで更に国境を越える護衛依頼を探してレジェンダリアに入るという形になる。

 

 

「どうせ他の【魔王】という終わりのある神造ダンジョンと違って<墓標迷宮>のあるアルター王国には戻って来るけどねー!」

「お、じゃあ各国のお土産期待してもええん?」

「まかせたまへー!」

 

 

 各国のお土産……やはりその地方特有のモンスターの肉とかかな? 先輩モンスター肉で料理してたしね。

 

 

「梢さんと月影先輩にも何か良さそうなの見繕って来るから期待しててねー」

「おや、お構いなく」

「そういうことなら妖精工房のかつての【鎧巨人】専用の装備スキルが付いているらしい全身鎧をお願いします」

「ガチで高いもの頼むじゃん?」

 

 

 四桁万円するやつを頼むんじゃあない!

 妖精工房とは他国にも知れ渡っている程のレジェンダリアでも最上級のマジックアイテム工房の事だ。

 名前の通りティアンの妖精種たちがブラウニーよろしくアイテムを作っている……訳ではなく、【妖精女王】への捧げものを作るための工房なのが名前の由来なんだとか?

 レジェンダリアは自然魔力が豊富な土地であり、それを加工するには特殊な技術、というよりジョブが必要なのだ。

 話に聞く限りではファンタジーというよりファンシーな品々が日常的に使われているらしく、観光にはとても楽しいものらしい。

 

 

「このタイミングのレジェンダリア入りと言えば、ひかりさんは管理人から話は聞いているのですか?」

 

 

 そういえば、と前置きをして月影先輩が主語を省いて尋ねて来る。

 

 

「む? 特別な事は特に聞いてないと思うけど、何の話?」

 

 

 数日前からアニバーサリー前にレジェンダリア入りすることについては姉さんとも話し合っている。

 これといって気を遣うような注意事項の類はないと思うので問い返してみると、

 

 

「最近国境付近の<UBM>について何やら不穏な話が流れているのですよ」

 

 

 月影先輩の口から出て来た情報はなんとも物理的なトラブルの予想を掻き立てるものであった。

 

 

 To be continued

 

 

 

 




 【星錬鉱房 テルース】
 <マスター>:トバール・XN
 TYPE:フォートレス 到達形態:Ⅴ
 能力特性:鉱物強化
 スキル:《千鉱万地》
 必殺スキル:《神天導地》
 モチーフ:ローマ神話における大地の女神"テルース"
 備考:この星の大地こそが我が工房だ……というノリで実体がないタイプのキャッスル系列。
 自身のMPをリソースに変換して鉱物に注ぎ込むというプロセスの都合上その効果は永続する。買った後で性能が減るような詐欺ではない。
 精錬加工した後の鉱物は強化対象から外れるため武具には使用できず、地属性魔法に使用する他はゴーレムやジェムが精々となる。

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