ニッサ到着ぅー!
国境だからレジェンダリアンが増えて来たぞ
【キル・キル・バ】にズンバラ=リ
□■レジェンダリア北端・国境森林地帯
『GRRRRッ!』
『……』
レジェンダリアの中でも王国との国境に近い森林地帯。
夕暮れに赤く染まった木々の合間にて複数の狼型のモンスターが
彼らはかつてこの近隣に君臨していた古代伝説級<UBM>──【螺神盤 スピンドル】が討伐され空いた縄張りを新たな活動域とするために移動してきたモンスターである。
無論その狩場の移動もただの勢いではなく、確かなステータスに裏打ちされたものであり、彼ら──【ベイン・ウルフ】は亜竜級のステータスと猛毒の爪牙を持ち好戦的である危険な種であることは確かだ。
しかし──
『GRッッ!?』
『……』
徹らない。
<マスター>にして合計レベル300以上の中堅どころが相手をするようなモンスターである【ベイン・ウルフ】がその牙を突き立ててもその人型は
逆に、飛び掛かった【ベイン・ウルフ】が意識を失いその場に倒れ伏す。
『GYAU! GYAU!』
『……』
倒れ伏した仲間に周囲の【ベイン・ウルフ】が吠え掛けるが、覚めない眠りについた同胞はその声に応える事はない。
そのまま攻撃をものともせずに行動を続ける銀色の人型が創造主の指示に従い、頸骨を勢いをつけて踏み砕く。
少しの痙攣の後にまた一匹と光の塵と化す仲間の姿に、包囲をしている【ベイン・ウルフ】のうち一匹が後退る。
『……』
その様子を無感情に眺めていた……否、表情もない形だけの頭部を持った人型は後退った【ベイン・ウルフ】の隙を付き突進を行った。
スキルも何もないただの体当たりに過ぎないそれは当然【ベイン・ウルフ】のHPを削り切る程のダメージを与える事は出来ずにその身体を吹き飛ばし──体当たりを受けた【ベイン・ウルフ】はそのまま起き上がらなくなった。
周囲を取り囲んでいた他の【ベイン・ウルフ】もそれを見て顔を見合わせ……一声上げると人型相手に背を向け、一斉に逃げ始めた。
モンスターと言えど生物として思考もする存在である、手に負えない相手と相対し自身の
『GiGi』
自身から逃げる存在を前に人型が選んだ行動は──追撃だった。
主命である「寝ている間に一定以上の
しっかりトドメを刺した後それぞれ別方向に逃げた他の【ベイン・ウルフ】を追おうとした時、
「──《水波ざーん》っ!」
『GYAN!?』
一体の【ベイン・ウルフ】が去って行った先から何らかのスキルの宣言と破壊音が響き渡り、続いて狼の悲鳴を察知した。
「……こっちから来たみたいだったけど──おや?」
そして間を置かずに森の茂みから一人の銀髪碧眼の女性<マスター>が顔を出した。
本来群れを成すモンスターが単独で現れたところから不審に思ったのか様子を見に来たようだ。
そこにいたのがティアンや<マスター>ではなくモンスターとしても不格好な銀色の人型……モンスター名【スラル】を見て疑問の声を上げ首を傾げている彼女を見て人型、【スラル】は──女性<マスター>を相手に突進した。
主命その二である「他の<マスター>に見られたらとりあえずは寝かしといて、トップシークレット」を果たすため、その身に纏う玉虫色のオーラを以て不思議そうな顔をしている彼女に襲い掛かり、
『接触厳禁です!』
「──《インビジブルハンド》」
突如として上空から掛かった警告の声に全くの疑問も躊躇もなく実行を移した女性<マスター>の重力魔法を前に両者の距離が強制的に開いた。
ダメージこそ小さいが大き目のノックバックを与える《インビジブルハンド》を瞬時に自身と【スラル】に逆方向に放った<マスター>の顔つきは既に疑問のそれから一挙動も見逃さないと相手を見定める戦闘者のものとなっていた。
【スラル】は愚直なまでに指示を遂行しようとするも……今の一連の流れで「単独でこの<マスター>を能力に影響下に落とす事は難しい」と判断していた……訳ではない。【
しかし人型たちは主と感覚を共有しており、その視界を通して既に増援の【スラル】が向かっている。
そして新たな指示に逃げ道を塞ごうと動く【スラル】に対して、上空から声が掛かった。
『【スラル】、その主である【
上空の鴉から降ってきた言葉は誤解のしようもなく紛れもなく警告だった。
明らかに【スラル】に、そして創造主である【怠惰魔王】について看破しているその言葉について【スラル】は特に反応も示さずに再び突撃しようとして──主からの指示にその足を止めた。
「止まったね。んで、ゴーレム亜種みたいな印象だけど……【魔王】?」
『……私も詳しく知っている訳ではありませんが。《
「私の姉がとても情報強者な件!」
『ともかく【怠惰魔王】が戦闘を【スラル】に任せているのと、神造ダンジョンの制覇者がこの程度のモンスターの駆除に乗り出すのには事情があるという事は分かる程度ですね』
女性<マスター>……ルミナスとその姉であるアイリスの<エンブリオ>である通信端末でもある【フギン・ムニン】が会話している間にも【スラル】は戦闘態勢を解いた事の証明か玉虫色のオーラを解除し、彼女に背を向けた。
そしてそのまま歩き出すのを了承と捉え二人はそのあとに続くのだった。
◇◇◇
□【鈍重術師】ルミナス
銀色の変なのに連れられて行った先はもふもふ種族、もとい羊毛種族という種の村でした。
なんでも彼ら彼女らは戦う力がなくて、【スピンドル】の影響で縄張りが変わって侵入してきたモンスターの群れに蹂躙されかけたところを【怠惰魔王】……目の前のバクの着ぐるみを着た<マスター>、ZZZが救ってくれたらしい。
【怠惰魔王】は直接戦闘能力はないけれど《
それのおかげで彼一人(?)で村の周囲のモンスターを排除出来たという、まさに羊毛種族にとっては救世主というわけだ。
そして、近隣のモンスターを駆逐している最中に私たちが運良く? 悪く? 発見したって訳だね!
「……どうぞ、お茶です」
「どうもどうもー」
メイドと思しき羊毛種族の女性が給仕をし、そのままZZZの背後に戻る。
うーん、見ていて可哀想なぐらい怯えているというか警戒しているね!
まあそれも仕方ない。姉さんが確認した限り彼らにとっては救世主であってもZZZはレジェンダリアでは
仮にデスペナルティになったらそのまま<監獄>行きになってしまうし、そうでなくともこの村の情報を拡散すればこれまでの生活は出来なくなる。
なんせうちの姉さんの情報拡散力は誇張も何もなくデンドロ一なのでね!!
鴉の威を借る狼? きこえないきこえない。
……とはいえ、緊張しているのは羊毛種族の女性ぐらいだけど。
「では単刀直入に、こちらが求めているのはこの村の近辺に移動してきたモンスターの情報です。【螺神盤 スピンドル】によって荒らされたモンスターの勢力図をより素早く完成させるためにご協力お願いします」
「んー……ぼくは別にいいけど全部の【スラル】の戦闘を見ている訳じゃないんだよねー。ドロップアイテムでいい?」
「
ZZZが着ぐるみのポケットからいくつかの指輪型の【アイテムボックス】を取り出す。
多分外征している【スラル】がドロップアイテムを回収していた物だと思われるそれを姉さんが《叡智の双眸》で中身のドロップアイテムを鑑定していく。
お付きの人は慌てているけど、正直ZZZがその気になれば周囲の【スラル】で私たちは圧殺されるだろう。
まあその前に何人かラーニングはするしデスペナルティ期間中にここの事はレジェンダリア中に知れ渡るけどね!
「オメガから話は聞いてるからねー。悪いようにはしないんじゃないかなーたぶん」
「勿論です。例え犯罪者であろうと<DIN>のルールに従う限りは等しくお客様ですからね。……ここの情報についてはどうしますか?」
「じゃあそういうことでー。この村については……言わない方がいい?」
「えっ……えっ!?」
犯罪者のくだりで硬くなったり急に話を振られて戸惑う羊毛種族の女性。
うーん新鮮な反応だ……モルテナもツッコミはするけど割とすぐに慣れちゃったからなぁ。
しかしオメガ……モヒカン・オメガかな? あの人も随分謎な人脈があるよね。
<モヒカン・リーグ>の長なのに私のように国を定めず旅人プレイして各国の<モヒカン・リーグ>を助けて去って行く謎の<超級>モヒカン、デンドロ七不思議があったらまず間違いなく入ってるね!
カルディナで会いはしたけど<超級>のスキルはまだ使えないみたいだからなー。
「私としては正直に公表することをオススメしますね。
「あー、いたねーそんな人もー」
「その時に「犯罪者である【怠惰魔王】を匿っていた」という言質を取られてしまうと羊毛種族としては大分不利になってしまうのではないでしょうか」
「……!」
出されたお茶を飲みながら姉さんの解説を聞く。
……あ、ストック増えた、流石レジェンダリア。
「というわけでして、公にZZZさんに所属を伝えてくれると中央も余計な手出しが出来なくなってwin-winなのではないかと。近辺で狩りをしていた以上はそのつもりだったんですよね?」
「まー寝心地良いからねー」
【魔王】にして<超級>。犯罪者となっていてもZZZの影響力は大きい、というかその罪状も軽犯罪のもので仮に収監されてもリアル一年以内に出て来れるらしいけど。
ただでさえレジェンダリアのティアンは【魔王】に……というより神造ダンジョンについては触らぬ神になんとやらとスルーしてきた歴史がある。
長命種が多いからこそ帰還者なき迷宮に畏怖を感じているのだとかなんとか。まぁ私が被害受けたみたいに人知れず踏破されてたみたいだけどー。
ついでに寝心地がいいってあたりで羊毛種族の人たちが感極まってる、極端だなぁこの人たち……!
「それでは近辺のモンスターの情報の対価は……そうですね、リルで支払うなら二十万リルとなりますがよろしいでしょうか? 代わりに欲しい情報があれば私がお教え出来る限りであればお安くしておきますが」
「えー……別にぼくは寝られれば他はどうでも」
「まぁ、そうなりますよね。それではこちら代金となります。【契約書】に記入お願いします」
「はいはーい。……あ、ごめん筆記具持ってないやぷりーず」
「直ぐに持ってまいります!!!」
羊毛種族のメイドの女性が慌ただしく準備をして姉さんが常備している情報売買用の【契約書】にサインがされる。
<DIN>が……というか多くの情報屋の<マスター>は情報を取引する際に破ることでペナルティの発生する【契約書】というアイテムを用いる。
これは情報屋が情報の信頼性を保証し、デンドロ内で取引した情報をリアルで拡散させないために用いるものだ。
勿論デンドロ内の【契約書】にリアルの行動を制限する力はない──ないけど、リアルで契約を破ったら再ログインした時にその罰(大体の場合はジョブレベルのリセットなどデスペナルティよりも<マスター>にとって重篤なペナルティとなる)を受ける。
これはスキル《真偽判定》などのように恐らく脳波を読み取っているのだとか。悪い事はするもんじゃないね!
姉さんが就いている【
<マスター>の情報系ジョブに就く者の動きを活発化させるためには掲示板やSNSで取引した情報を拡散される訳には行かない……という事情以外にも理由がある。
その理由とは<エンブリオ>だ。
<Infinite Dendrogram>の象徴とも言えるシステム、プレイヤーのパーソナルを読み取って成長する自分だけのオンリーワン……勿論私も楽しませて貰っているけど、世の中にはどんなことでもバカな事をする連中がいるのだ。
つまり、<エンブリオ>から個人に対して誹謗中傷をする者が現れたのだ。
例えば悪魔や怪物などのモチーフを取る<エンブリオ>や、そうでなくとも様々な<エンブリオ>から読み取ったパーソナルを時には曲解したり一部分だけを切り取って揶揄する輩は今もゼロではない。
そういったアンチや暇人が他者の<エンブリオ>を調べるのに情報屋を使っていたというのだ。
これには姉さんたち<DIN>所属のマスターのみならず志ある情報屋系<マスター>が団結して【契約書】関連の取り決めを定めて<エンブリオ>を基に誹謗中傷している<マスター>を懲らしめ(情報的な意味で)たらしい。
その結果として<超級>などの明らかな有名人だからといってそのデータが衆目に晒されている、みたいな事がなくて別な方向にバランスが取れている。
……まあ姉さんに限らず情報系<エンブリオ>とかジョブとのシナジーで割と簡単に<エンブリオ>とか特典武具の能力割れちゃうからねー。
「何はともあれ上手くまとまって良かった良かった。あ、おかわりお願いしまーす」
「は、はぁ……」
「ルミナス、少しは遠慮してください」
「まあうちはディス……友達の【暴食魔王】が寄ることもあるからって食糧生産にも【スラル】を割いてるからいいけどねー。三大欲求はだいじー」
「そうそう、いざという時は戦闘役として姉さんを抱えてここから大脱出を決めることも考えて──なんて?」
なんて??(確認
To be continued
〇《星託》
【占星術師】系統のジョブスキル。
未来の出来事を漠然と知ることが出来る託宣系スキルである。
【占星術師】が扱うソレは他のジョブと比べると情報が詳細に分かるが、その精度や術者が求める情報かどうかは星の巡りに左右されるため扱いが難しいらしい。
〇【怠惰魔王】
情報の対価としておまけに渡した「快眠寝具カタログ(休息効率上位ランキング)」をすごく喜んでいた。
羊毛種族の皆さんの生産作業か捗る。
〇【暴食魔王】
この後悲しみの自棄食い(羊毛種族の村近辺のモンスター狩り)した。