【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】   作:レイティス

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ぅわ超級職っょぃ


第六十三話 幕の裏

 ■???

 

 夢を見ていた。

 

 まだ己が師や兄弟弟子がいて……この大陸の平和を掛けて"化身"との戦いに臨んでいた頃の夢だ。

 そして……師と言葉を交わした最後の記憶だった。

 

 

『師よ……"武装の化身"と接敵した【琥珀之深淵(アンバーアビス)】隊の反応、ロストしました』

 

『……そうか』

 

 

 あるいは、それは戦いとも呼べるものではなかった。

 <■■>をも乗り越えた【勇者】たちが成す術もなく壊滅し、東方国家がその大地ごと磨り潰され、それを皮切りに数々の国家が滅びた。

 人類がその総力を結集しても相手の力にはまるで足りず、師が文明に齎した超兵器すらも……戦果を上げることが出来なかった。

 

 

『各員、割り振られた地下工廠及び地下居住区への移動を開始せよ。最後の開発機でも止められなかった以上、残された時間は少ない』

 

『は……』

 

 

 無念だった。

 希代の名工フラグマンが築いてきたこの文明が崩壊するのは余りにも悔しかった。

 兄弟弟子たちの多くが同じような表情を浮かべながらも絶対の信頼を置く師の言葉を完遂するために行動を開始する。

 

 

『私は、間違えてしまったのだろうな……』

 

『師よ……』

 

 

 最後に退出しようとした自分に師の信じられない呟きが聞こえた。

 ありえない。

 師に間違いなんてあるはずがない。

 

 

『思えば、私たち以外にもいれば……【錬金王(キング・オブ・アルケミスト)】や【匠神(ザ・クラフト)】がその姿を消す前に引き留める事が出来ていたら、或いは届いていたかもしれなかった』

 

『……』

 

 

 ありえない。

 師が齎した機械の技術を受け入れなかった【錬金王】も、己が打った刀に喰われたと聞く【匠神】も師と比べるのも烏滸がましい小物だ。

 奴らがいたところで好転などするはずがない。

 

 

『この地において師より貢献出来た者などおりませぬ』

 

『だが私は、()()()()()()()()()()()、あの"化身"に備える事が出来たというのに──』

 

 

 その言葉の意味は理解出来なかったが、師の悔恨は深いらしい。

 気にはなったが、理由を尋ねる時間もない。何時この工房の隠蔽が"左右の化身"に剝がされるかも分からないのだ。

 

 

『……まだ、諦める訳には行かない。私は必ず"化身"の打倒を成し遂げる。──後は、任せる』

 

『……必ずや』

 

 

 師も、兄弟弟子たちも分かっていた。

 "化身"に対抗するには──時間が足りないと。

 故にこそ弟子の中でも長命種たるハイエルフである一番弟子をもしもの時のために【大賢者】──師のジョブであるソレの専用のジョブクリスタルのある工廠に配置した。

 

 そして、()は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■霊都アムニール 

 

 レジェンダリアの首都にして<マスター>のスタート地点の一つ、通称"霊都"アムニール。

 世界最大の巨木にして<UBM>の括りを超えたもの、世界で二番目に巨大なモンスター【アムニール】に合わせて作られた樹上都市だ。

 <マスター>の増加からもうすぐ三年、樹の上だというのに行政役所や闘技場施設が建てられている事に新しく降り立った<マスター>が驚く光景が恒例となりつつある。

 

 

「……」

 

 

 その中のとある高等行政区画、その執務室でハイエルフの男は目を覚ました。

 どうやら書類の整理をしている間に日頃の疲れが溜まって微睡んでいたらしい。

 レジェンダリアに──否、世界中に<マスター>が増えてから彼の仕事も増える一方だ。処理すべき事柄は増えて<マスター>を行政に関わらせるなんて事は出来るはずがないのだから当たり前のことだが。

 

 

(随分久しぶりに、懐かしい夢を見た)

 

 

 あるいは、机上にある<マスター>に関する意見書がその原因かもしれない。

 彼──フェアラスはハイエルフの部族長にしてレジェンダリア首相、事実上のレジェンダリアの実務のトップである。

 レジェンダリアは七大国の中でも一番<マスター>が初期国家に選択する人数が多い国として、その降下地点であるアムニールは一都市における<マスター>の滞在数においてもトップである。

 

 

「こういう形で苦労させられるとは思ってもいなかったが、な」

 

 

 そして、古今東西どころかここ異世界のような<Infinite Dendrogram>でも人が増えるということはトラブルが増えるということに変わらない。

 ましてや、初めてこの世界に降り立つ<マスター>ともなれば常識がない行動を取る者も多い。

 窃盗や不法侵入や暴行など、<マスター>について多少なりとも余人より詳しい自負のあった彼をして<マスター>の奔放さには頭を悩ませていた。

 

 最近は流石に慣れて来たのか他の役員が対応に回っているが、それでも彼の元に──一国の実務のトップに意見を送る程度には上の立場から来た書類を前につい溜息を付いてしまう。

 レジェンダリアは自然魔力豊かな土地故に人間種以外にも妖精や獣人や蟲人、小人や吸血鬼など様々な亜人種といった人間範疇生物(ティアン)が住まう部族連合国家だ。

 各々の部族の伝統や禁止事項を知らずのうちに(あるいはそれらの事情を軽視ないしは無視して)襲撃されたりして、犯罪者となる<マスター>の数も七大国で一番なのだ。

 目の前にあるのはレジェンダリアで指名手配とされる犯罪を犯した<マスター>たちの名前と顔写真の束である。

 

 

「まったく、性懲りもなく増えるものだ……ん?」

 

 

 愚痴を吐きながらも犯罪者の<マスター>の情報と罪状を《真偽判定》で確認しているところに、執務室の扉がノックされた。

 フェアラスが入室を許可するとゆっくりと扉が開き、人間種の老婆──【超占星術師】ステラ・セラリズムが部屋に入ってくる。

 

 

「定例報告だよ。……時間が取れないなら出直すけど?」

「フン、問題はない。そのまま話せ」

 

 

 無遠慮に要件のみを話すステラにフェアラスは頭を切り替え、魔法を発動する。

 机の上に溜まっていた書類がひとりでに舞い、フェアラスが目だけを動かして確認したものから分けられていく。植物操作魔法の応用だ。

 

 このレジェンダリアの議会でステラの──もっと言えば、人間種の立場は微妙だ。

 この地で最も人口的な意味で繁栄している人間種は、この自然魔力溢れるレジェンダリアでも種族ごとの人数で最多となる。

 しかし、他の亜人種のように種族毎に部族集落を形成する事のない人間種は議会に「種の代表」を送る事はない。

 古の時代にレジェンダリアとある人間の国が同盟をしていた事から、掟により「人間種の代表とは【覇王(キング・オブ・キングス)】である事」と定まっているからだ。

 ──勿論、これは数の上で最多となっている人間種の台頭を抑えるための他亜人種の決めた掟ではあるが、人間種がその数の多さから種の中でも複数の派閥になっており明確に「種の代表」を決めれない事から今日に至るまで、そしてこれからも変わらない掟となっている。

 故に代表としての人間種はおらず庶務やステラのような特殊技能を持つ者しか議会に関わる人間種はいない。

 

 

「前回より占星術のぶれは予想の閾値内、新たに宙に上がった<UBM>はいないとして……《星託》で次の犯行時期と場所については特定した。やっぱり<マスター>のイベントと絡めて来るみたいだねぇ」

「時期については《星託》せずとも予想できる事だったが……ふむ、この事を担当の者には?」

「勿論通してあるよ」

「まったく、無知ならともかく遊興で禁を犯す狂人の考えは理解が出来ない……」

「そこに関しては同感さね。力を持った子供は厄介なことこの上ない」

 

 

 レジェンダリアの首相と占術課の長、決して仲が良いとは言えない二人ではあるが問題の対処を指示する立場と問題の予報する立場、メリットを大きく上回るデメリットを笑いながら実行する()()()には共に頭を抱えさせられているのだった。

 しかし、溜息をつきながらも書類を確認する視線は変わらないしステラにしても既に報告した件に関しては「対処が終えた事柄」という態度を隠そうともしない。

 その程度には彼らはティアンの中では格段に手が広く、そして長いのだ。

 

 

「今回で"監獄"に落とせるかは良くて三割ってところだけど、最悪でもセーブポイントの陥落は起きないよ」

「なら良い。早いところ後進に席を譲ったらどうだ? その方が占術課のためにもなるぞ」

「はん。まだまだあの小娘にくれてやる程耄碌しちゃいないよ。なにせ<マスター>だからね」

 

 

 超級職である【超占星術師】のスキルを持ってしても、組み合わせ次第で上級職のスキルでその結果を超える事もあるのが<マスター>だ。

 ティアンの超級職の中には知己となった<マスター>に己のジョブを継承する者もいるが、ステラがそれをしないのは政治的な理由が大きい。

 今人間種の中でレジェンダリアの議会の部署一つの長のポストにいるのはステラのみ、<マスター>に譲ったとなってはこれまでのバランスを保てないからだ。

 最近には恒例となったやり取りをしてステラが執務室を出る。

 

 

「ふむ」

 

 

 ステラの足音が遠ざかるのと同時に最後の書類に目を通し切り、

 

 

「──突然の訪問、失礼しますよ」

 

 

 フェアラスしかいないはずの部屋に女性の声が響いた。

 声の主を探せば、先程までステラがいたところにいつの間にか白衣を身に纏い機械仕掛けの仮面を被った女性が立っていた。

 特徴的な点として、その額にはそこにあるのが自然であるかのように水晶色の宝石が嵌め込まれていた。

 

 

「ほう、()()()()()だな。最後に会ったのは何時だったか」

()は初対面ですね。スタルク・アカイブと名乗っております、以後お見知りおきを」

「さて、次が果たしてあるのかどうか……」

 

 

 レジェンダリアでも最高のセキュリティを持つはずの議会の執務室への侵入者、その異常事態を前にしてもフェアラスの声に動揺はなかった。

 まるで古い知り合いが訪ねて来たかのような態度を取るフェアラスはスタルクが()()()()()()()()を知っていた。

 かつての師フラグマンが作った最後の作品である煌玉人、【水晶之調律者(クリスタル・チューナー)】。

 彼が記憶を辿れば"化身"が消え地下工廠から地上に戻り、後にレジェンダリアと呼ばれる事となった地に同族と共に居を構えた時に一度。そして【覇王(キング・オブ・キングス)】、【龍帝(ドラゴニック・エンペラー)】、【猫神(ザ・リンクス)】の三強時代に二度目の接触を受けたことがある。

 そして<マスター>が増えた今、三度目の初邂逅を果たした。

 

 

「それで? 今回は何の用だ。知っての通り先程【超占星術師】が来たばかりだ、前回のように【覇王】から匿うために長居させる事は出来ないぞ」

「創造主様の隠蔽結界を疑うのですか?」

「師は万能ではあれど全能ではない。その仮面による隠蔽は対"化身"に特化しているのだから当然だろう? だからこそ【覇王】にも【龍帝】にも数を減らされたのを忘れた訳ではあるまい」

「……」

 

 

 量産機として幾多の姉妹を持ちながらも【覇王】と【龍帝】、二人のハイエンドによって【水晶之調律者】の同型機はかなりの数を破壊された。

 "化身"とも無関係、どころか敵対者のはずの二人が何故──そう思いながらも【水晶之調律者】の取れた行動は彼らから出来る限り距離を置く事だけだった。

 苦い記憶……もとい記録に僅かに顔を顰めながら、スタルクは促された通りにフェアラスの場所に訪れた目的を話す事にした。

 

 

「それでは単刀直入に。貴方が創造主様より預かっている【スペル・クトル】の所有権の譲渡を求めます」

 

 

 飾ることもなく言い放つスタルク。

 【スペル・クトル】、それは先々期文明の時代において彼が師から管理・運用を任された兵器の名だ。

 ハイエルフの部族長として同胞を守って来た時も、レジェンダリアの首相として辣腕を振るって来た時も、そして今も師の言伝を守ってこの地に秘している対"化身"用に開発された物だ。

 

 

「劣化"化身"の増大に伴い最終計画のために起動可能な兵器は集中運用するべきというのが私たちの考えです」

「なるほど」

 

 

 フェアラスが先程劣化"化身"(<マスター>)について苦言を呈していたのと同様に、スタルクたちも先々期文明を崩壊させた十三体の化身以外に地に増えた彼らについて小さくない障害になると考えているようだ。

 スタルクらが"化身"たちに察知されないように隠蔽している仮面や他にもいくつかの機能については、彼らの創造主であり師であるフラグマンが"化身"のデータを解析し、その能力を模倣した故に完成したものだ。

 十三種の化身の内能力を模倣出来たのは半分にも満たないが、それ故に劣化とはいえ"化身"の足元には至る程度の潜在的敵性存在が大量にいる事態は何らかの手を打つに値するのだ。

 だが──

 

 

「断らせてもらおう」

「何……?」

 

 

 全く悪びれずに言う拒否の言葉にスタルクが仮面の下で顔を歪ませる。

 

 

「師から【スペル・クトル】の管理を任されたのは私だ。これまでの時間の保守・改修作業によって通常の操作工程の他に魔法的要素を加えているため、貴機では扱えないのだ。私か、あるいは当代の【大賢者(アーチ・ワイズマン)】で無ければ動かせまいよ」

「……」

 

 

 師から託された単一の遠隔操作端末と己が磨き上げた魔法技能。

 その合わせ技によりフェアラスが管理する【スペル・クトル】はこれまで維持され……その力を増してきた。

 

 

「そうですか……【樹王(キング・オブ・トレント)】の貴方が?」

 

 

 失望を隠さずにスタルクが尋ねる。

 【樹王】……地属性の中でも生体操作、特に樹木などの有機物への干渉に特化した魔法系統の超級職である。

 自然豊かなここレジェンダリアの地にて力を発揮する超級職であり、フェアラスの実力を現したジョブでもある。

 しかし、スタルクの声には明らかに嘲りが含まれていた。

 

 

「その通りだが、何が言いたい?」

「そうですね、正直に言いましょう。【()()()()()()()()()()()()()が創造主様の作品に手を加えたのですか?」

「──……」

 

 

 フェアラスのメインジョブは【樹王】、そしてサブジョブの内上級職は【緑樹術師(プラントマンサー)】と【蒼海術師(ハイドロマンサー)】だ。

 彼の師であるフラグマンが、そして大半の兄弟弟子が就いていた【賢者】のジョブは天・地・海の三大属性への適性が必要である。

 そしてフェアラスは……天属性への適性を生まれながらにして持っていなかった。

 

 もとよりハイエルフという種全体が天属性への適性が低く地属性、次いで海属性への適性があるという種族であり、フェアラスが特別落ちこぼれという訳では決してない。

 むしろ、三大属性を持ち二代目のフラグマンとなった一番弟子のハイエルフが異才だったのである。

 

 フェアラスが同種族の中から二代目のフラグマンを輩出し、兄弟弟子の中でも下から数えた方が早かった事について屈折した思いを抱いているのも純然たる事実だが……その程度の挑発に激昂するようではそもそも異種族の坩堝たる議会において頂点には立てない。

 彼にとって涼しい顔をして建前を話す程度は訳はないのである。

 

 

「ジョブとはあくまで<アーキタイプ・システム>による補助であり、その補助がなければ出来ないという事はない……それこそ、我が師こそが最たる例であろう?」

「……その通りですね」

 

 

 フェアラスの師、フラグマンのジョブ【大賢者(アーチ・ワイズマン)】は三大魔法属性を全て使う事が出来る魔法のゼネラリストだ。

 そして、【大賢者】でありながら【技師(メカニック)】も顔負けの機械工学の技術を齎したからこそ、名工フラグマンの名はこの時代にも発掘物から広く知れ渡っているのだ。

 例え本心がどうであれ、フラグマンの名を出されてしまってはスタルクに反論することは出来ない。

 

 

「とはいえ、流石に断って終わりでは師に申し訳が立たない。こちらから次善案を出させてもらおう」

「次善案?」

「そうだ……数日後に"化身"たちが劣化"化身"──<マスター>向けにイベントを起こすのは知っているな?」

 

 

 鸚鵡返しに首を傾げるスタルクにフェアラスが提示するのはイベント──<Infinite Dendrogram>発売一周年の記念イベントだ。

 議会に所属し多くの<マスター>から情報を得ている彼も当然、混雑を予想される当日について議会に指示を出しているのでその詳細も、これまでのイベントと比べても大規模となる事も知っている。

 そして長い間政を司って来た彼にしてみればそれが更なる<マスター>の誘致目的だと言う事も、イベントが台無しとなった際の反動(炎上)も簡単に分かるのであった。

 

 

 To be continued

 

 

 




〇先々期文明の【匠神】
 【大賢者】がその機械文明を齎すまで【錬金王】と共に並び称されていた存在。
 【大賢者】とは逆に、呪符を自ら作成し<アーキタイプ・システム>の補助なく術式を扱う異才だったらしい。
 自らが打った刀に喰われその亡骸すら残らなかったとされている。



 ようやく次回からアニバーサリーイベント回ですが、来週再来週はちょっと更新お休みします。
 気長に待っていただけると幸いです!

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