自爆だぁ! 卑劣な真似を……
重力魔法で墜落を防ぐよ!
最後の見せ場を取るとは【嫉妬魔王】め……
□【鈍重術師】ルミナス
時は流れて暫く。
私は──正確には私と姉さんとモルテナはレジェンダリアの首都、霊都アムニールにある第二闘技場に来ていた。
とはいえ、アルター王国でやっていたようにここレジェンダリアでも決闘ランキングに殴り込みを掛けようという訳では、当然ない。
乙女の危機ですよあのチャンピオンは……
「赤、《巧みの星》──緑、《ファスト・フォワード》──黄、《現在への門扉》…………どう!?」
「三十分、五十二分、《赤》のクールタイム空けと約十三時間の追加クールタイム。……額面通りですねー」
闘技場施設の一角を借りて順々にラーニングしたスキルを繰り返しては姉さんに確認してもらう。
「やっぱり乗算になったりはしないかー!」
「……私、出ている意味ありますかねこれ……」
賑やかしはモチベーションの維持に必要なんだよね!
リアクション役は大事、掲示板でのやり取りでも常々そう感じているので絶対に逃がさないのである。
そして私たちがやっていることと言えば……分かりやすくラーニングスキルの検証だ。
【ゲリ・フレキ】……ラーニングスキルを持つ<エンブリオ>の<マスター>として、そしてゲーマーの性としてカルディナでもアルターでもやっていた事ではある。
ゲーム的によろしくなくても誰だってオンリーワンもナンバーワンという言葉には惹かれるしだからこそこのゲームを遊んでいるわけでして……
レジェンダリアに来て一ヵ月は経っている今になってわざわざソレをやる理由は勿論、先々週に開かれた<Infinite Dendrogram>一周年のアニバーサリーイベントだ。
七大国に分かたれた<マスター>が一ヵ所(全十階層)に集まったイベントマップ、<廻世の星殿>。
同期メンバーとの狩りもだけどそれ以外にもこれまで行ったカルディナ、アルター、レジェンダリア以外の国に住むスレに出没する<マスター>との遭遇機会も非常に多かった。というか探しまくってた。
姉さんの記憶力と看破力の甲斐もあって三桁にも及ぶ<マスター>からラーニングをする事が出来たのだ。
「闘技場の代金も掛かりますし、大変ですね……」
「まあ私の戦力パフォーマンスにもろに影響するからねー。クールタイムの都合上モルテナには悪い……とも思ってないけどこれからも闘技場検証は定期的に開催されるんだよ!」
「えぇ……」
スキルの文面自体は姉さんから教えてもらえるけれど、当然カタログスペックからは分からない「使用感」というのは存在する。
例えばスキル使用時にかかるモーションであったり、着弾点からの影響範囲であったり。
そして何より、一番大事なのは他スキルとのシナジーだと思う。
同系統のスキルと組み合わせた際に補正が加算なのか乗算なのか。
ラーニングで複数の<エンブリオ>の固有スキル同士を使用するという本来ならばありえない挙動に
「
「恐らくは
<Infinite Dendrogram>はこれまでサービス開始から一度もアップデート、メンテナンスの類をしていない……らしい。
勿論、<マスター>に悟られないようにオンメンテをやっている可能性はあるけれど、少なくとも公式でメンテナンスのお知らせが出た事はない。
姉さんの指摘については──まぁ、そんなこともあるのだろう。なんたってデンドロだし(思考停止
とはいえ、<マスター>によって無限とは言わないまでも膨大な量となる<エンブリオ>のスキルの組み合わせ。
【ゲリ・フレキ】の唯一の欠点である八時間のクールタイムをクールタイム短縮スキルの重ね掛けで上手くすれば解消できないかなー……と思ってたけど、難しいかなぁ。
それと、もう一つ。
「水、《クリエイト・ゴーレム》」
闘技場に来る前に店で買った(自然魔力豊富らしい)銀を手に珍しく習得したゴーレム作製スキルを使用する。
そして──何も起こらない。
「うーんただのジョブスキルなのにねぇ! 本当困ったものだよー」
「この分ではオメガからラーニングしたものも試すだけ無駄でしょうね……」
スキル自体は下級職、【
だけどそのスキルをラーニングした大本は──レジェンダリアに入って出会った<超級>、【怠惰魔王】ZZZだった。
これから示される答えは……「<上級エンブリオ>である【ゲリ・フレキ】では<超級>からラーニングしたスキルは使用出来ない」ということ。
ただでさえ<超級>から下級職ジョブスキルとかいう大爆死したところに追い打ちである。
第六形態になって必殺スキルでも得れば使えるのか、それとも【ゲリ・フレキ】が<超級>になるまでお預けなのか……
「まあできないものはしゃーない(今後のラーニングや特典武具に)切り替えて行こう!」
「それでいいんですか!?」
「大胆な棚上げは(ゲームとしてデンドロをやっている)<マスター>の特権だからね! それにまだやる事はあるからねー」
進化しないと分からないものは今悩んでも仕方ない!
モルテナの突っ込みに満足しつつも手を開閉してグローブ……【灰燼竜掌 ヴォルガーン】の調子を確かめる。
左右五本ずつカートリッジが生成されていてフル状態だ。【ヴォルガーン】の鱗の色だった火山を思わせる濃茶色と竜血を表す赤色の液体の入ったカートリッジはぱっと見の印象でもすごく強そうだ。
「新しい特典武具ですね。……トドメを刺したのは私でしたけど」
「
「まぁいいんですけどね、ジョブの適性の都合ですし……」
「ふふふ、ちゃんと報酬はあるから心配しなくていいよ。そう、追加デザートをね!」
「<UBM>との戦闘に対する報酬がデザート……!」
いや、
具体的に数値で言うと今回のアニバーサリーで唯一の装備面の強化である【灰燼竜掌 ヴォルガーン】だけど、なんと攻撃力で言うと約五十%増である。
【ゲリ・フレキ】は
というか
スキルを用いない通常攻撃のダメージはSTR+装備攻撃力の合計+αであるため、【灰燼竜掌 ヴォルガーン】の補正を足してようやく三〇〇〇になったという次第である。
……まぁ、攻撃部位や勢い、環境などの+αが大きいのがデンドロなんだけどね。
【
「デザートの心配をしているモルテナはさておき「してませんけど!?」……折角の闘技場だし最大火力の試し打ちも済ませないとね!」
【灰燼竜掌 ヴォルガーン】の二つの固有スキル、炎熱のカートリッジを自動生成する《克火撃発》と武器に炎を纏わせる《灰燼焔爪》。
勿論アニバーサリーイベントから今日までの狩りでもその能力は発揮して来た。
単純に「装備攻撃力+500」と言ってもそこにスキルの補正が乗算で掛かる事という事でラッシュには大きいし、「装備防御力+1000」は装備としての耐久力・硬度も上昇するため最初の想定よりかは使いやすい。
そして最後の武器にエンチャントファイア!するスキルこと《灰燼焔爪》。
スレでも話に出ていたように、アクティブスキルで瞬間的に炎を纏って攻撃するタイプのスキル自体は存在するけれど、持続的に属性を付与するというスキルは地味にデンドロには乏しい。
私が就いている【魔戦士】ではなく【魔法剣士】系列にあるぐらいだとかなんとか。
後姉さんや一部の事情通スレ住人から聞いた限りでは
《灰燼焔爪》とカートリッジによる強化も当然試してはいるのだけど……六時間に一回分の強化ストック補充。
単純計算で全弾装填されるのには六十時間……二日半掛かるので実践も兼ねて少しずつ使っていた結果複数重複使用……更に
というか森林に囲まれたレジェンダリアで大規模な炎系が使えないということである。戦闘の余波でも余りフィールドにダメージがあると罰金が掛かることもあるしね。
「流石に的役をモルテナにさせるのは可哀そうだし……姉さん何かある?」
「はいはい。こんなこともあろうかと用意はしてありますよ」
流石姉さんである。さすあね!
姉さんが取り出したのはモンスターを収めた一つの【ジュエル】。
ジョブの殆どを情報系で固めている姉さんに従属キャパシティは殆どないけれど、そんな人でも使えるモンスターは幾つかある。
その一つがインスタントモンスター……【
練習用の、と但し書きが付くように安くて必要なキャパシティもほぼ0だけど戦闘能力も精々が一職目程度で【ジュエル】から出して数時間もすれば自壊してしまう代物である。
でも闘技場の結界内ならもーまんたい!
悪用を防ぐため「《
見習い【闘士】も練習相手に使っているそれなりに知名度のある物だ。作る【錬金術師】によって戦闘タイプが違う個体もいるとかなんとか。
「まあそれじゃあ早速始めよう。《喚起》、《灰燼焔爪》」
姉さんから受け取った【ジュエル】をモルテナの【ジュエル】と交換して手早くインスタントモンスターを召喚する。
【闘士】の練習用ということもあり、名前の通り白い小柄の人型モンスターが結界内に現れる。
続いて発動した《灰燼焔爪》により【ゲリ・フレキ】の黒刃に赤い炎が走る。
視線を動かして簡易ステータスの方を見ればMPは僅かに……秒間一ずつ減って行っている。
固定値減少、炎熱のカートリッジの時間をフルで使ってもたったの六十。五桁のMPを持つ私にとっては誤差と言っても過言ではない燃費である。
「それじゃ、行くよー?」
「頑張ってください」
「観測は既に始めているので何時でも」
巻き添えを喰らわないように下がる二人。
以前カートリッジを二本使用した時は【ゲリ・フレキ】を振るった半径数メテルに炎が広がってあわや延焼という事態になったので念のためだ。
一本、二本、三本。
撃鉄を引くかのように炎熱のカートリッジが排出され、炎の勢いが増す。
四本、五本、六本。
発せられる熱気に姉さんとモルテナが更に下がる。
熱量が増えているのは分かるけど炎の色が変わる事はないらしい、ふぁんたじー。
七本、八本、九本。
余りの熱量に周囲の景色が歪む。
それとは裏腹に私は熱いとは感じない……使用者に対する対象指定保護が働いているのか、それとも《灰燼焔爪》に炎付与と同時に炎熱耐性付与も施されているのか要検証。
「ルミナスー! もうインスタントが持ちませんよー!!」
「うへえ炎熱
放出される熱波に当てられ【火傷】の影響か足が止まっているインスタントモンスターだけど、そのHPはぐんぐん減っている。
ぶっちゃけここまで攻撃の前段階で被害を受けていると、もはや攻撃を当ててもダメージが数値として表示される訳ではない以上意味はないかもしれない。
とはいえ、結界で再生されるとはいえそれで彼(?)を使う意義がなくなるのも可哀そうだし、攻撃して〆よう。
「それじゃ──」
十本目。
重い引き金を……引くような感覚はなくこれまでと同じように最後のカートリッジが消費され、
振り抜かれた【ゲリ・フレキ】を起点に闘技場の結界内に起きた
◇
◇
◇
「はい」
「はいじゃないですが」
「ロー!」
「ローでもないです……」
数分後。
闘技場の結界の効果によって何事もなかったかのように復活した私たちは再びレンタルしたブロックに入った。
闘技場の部分レンタルは時間単位での料金なので何回復活しても無問題、りーずなぶるだね!
ついでに不透過モードにもなっているので他にレンタルしてる人からいきなりの謎の爆発が目撃されたこともないのである。
「いやー……こういうのは
「反省しなさい」
「はい」
この後何度か検証した結果(姉さんとモルテナは結界の外で不透過を一時解除した。ずるい)、《灰燼焔爪》に炎熱のカートリッジを使った際の効果は概ね判明した。
一、炎熱のカートリッジを使う程火力(熱量的な意味で)は増大し、武器に纏わせるだけだった炎は攻撃と同時に剣の軌跡をなぞりそのリーチを伸ばす。
炎の軌跡は最大十メテル程度まで伸びる。
二、この時武器を纏う炎は私に被害を及ぼさない。
炎熱耐性が付与される訳ではない(重要)
三、五本以上炎熱のカートリッジを使用すると攻撃時以外にも武器の周囲に炎熱の継続ダメージが生じる空間が発生する。
何の備えもない矢や下級魔法ぐらいなら防げるけどあくまで炎熱に撃墜なのでものによっては爆発したりして被害が増える(二敗)
四、五本以上炎熱のカートリッジを使用すると武器攻撃の直撃時に噴火したかのような爆発が生じる。
その威力はダメージにして十本使用時のもので五桁後半にもなる。
二次効果扱いなのか特に使用者保護はない。対策をしないと死ぬ(六敗)
「常時至近距離で《クリムゾンスフィア》が発生するとか欠陥品じゃない??」
「無制御で出力を上げるのはデンドロではよくあることですよルミナス」
余りのピーキーっぷりに出た文句に生暖かい目で告げる姉さん。
一分間の火力は確保出来るけどそれで死んでは元も子もない。
多重使用するよりは一本から三本ぐらいでの継続火力がメインとなりそうだ。
なんなら射撃武器使った方がいいまであるけれど、悲しいかな【大食戦士】……というか【戦士】派生で使える飛び道具は精々が投擲程度。
弓やら銃やらはより装備制限の緩い【闘士】系か遠距離のウェイトの高い【狩人】系になるのである。
……それでも、また必要になれば自爆ぐらいはするだろうなぁという思いはやっぱりゲーマーとしてあるのだけれど。
To be continued