氷柱は人生の選択肢が見える   作:だら子

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其の十七: 「原作ブレイク(上篇)」

よし、鬼殺隊やめよ。

 

私、明道ゆきは車椅子に乗りながら右の拳を握った。

 

そのまま懐に忍ばせた『退職届』を服の上から静かに撫でる。隠の一人が私の車椅子を、もう一人が点滴スタンドを押しているのを尻目に、ふうと息を吐いた。鬼殺隊本部・産屋敷邸の廊下を走る、車椅子とスタンドのカラカラという音が耳に入る。ゆっくりと隠に押してもらい、移動していると産屋敷邸の美しい庭が見えてきたため、身体を少し動かした。

 

瞬間、上弦の参から受けた傷の痛みが全身を襲う。あまりの激痛に思わず涙が出そうになった。あ、やばい。身体を動かすんじゃなかった。はあ、もう辛い、無理、帰りたい。だが、帰れない。

 

こうして、氷柱・明道ゆきが怪我に苦しみながらも鬼殺隊本部へ来ているのには理由があった。

――――緊急の柱合会議に招集されたからである。

 

(傷が完治してないどころか、目覚めたのも一昨日だというのに、なんで連れ出されなきゃいけないんだ)

 

真面目に泣きそうである。あの無限列車編の戦いで自分一人だけ何週間も昏睡状態だったというのに、どうして無理に外へ出なくてはならないんだ。

 

しかも、今回の私の怪我は骨折程度ではない。左腕と左目の欠損である。これは普通の鬼殺隊士ならば最早引退レベルだ。一応、左目は義父からの呪いのおかげで再生しているらしいが、それでも大怪我を負っていることには変わりはない。何故、招集に応じなくちゃいけないんだ。他の隊士なら確実に会議への出席は免除になるだろうに、私だけ強制参加とかふざけるな。会議中、容態が悪化して死の淵を再び彷徨ったらどうしてくれる。

 

(まあ、私の容態を無視してでも、柱全員で行いたい重大な会議なんだろうけどさあ…)

 

己の失態により原作から大幅に逸れ、まさかの上弦の参の討伐に成功してしまったことが、今回の緊急柱合会議の発端に違いない。百年もの間、我々鬼殺隊は上弦の頸を切ることができなかった。膠着状態だった歴史がようやく動いたのだ。何かしら無惨も行動するのではないかと鬼殺隊が警戒態勢に入るのも無理もない。『鬼舞辻無惨の打倒』という本懐にさらに近づくため、鬼殺隊幹部全員で対策を練る算段なのだろう。

 

原作から乖離しすぎて頭が痛い。しかも、今回の会議では『氷柱の追及』の意味合いもあるのではないかと個人的に推測しているため、余計に頭が痛い。なんせ、私は己の性格の悪さゆえに任務前に煉獄を列車から追い出してしまった。それにより部下達を危険に晒したのだ。弁解の余地もない。いくら、周りの勘違いにより「煉獄を列車から追い出したのも作戦のうち」と思われようとも、部下を危険に晒したのは事実である。

 

しかも、列車を原作のように転倒させるだけで終わらせず、大破させたのだ。いくら産屋敷一族が先見の才で富を築いているとはいえ、列車を壊したとなれば一体どれだけの金がかかるか。政府への口止め料なども含めたら目が飛び出るような額になるに違いない。

通常、鬼殺隊では大概の場合、物品や家屋をつぶしてもお咎めがくることはない。だが、流石に列車は…うん…この時代では元の時代より更に高価だろうな…うん…二十一世紀でも高いものなのに…。うん…うん…お怒りの言葉が怖いな…。

 

はあと再び溜息を吐く。傷ではなく、ストレスで胃がキリキリしてきた。

 

「気が重いですね…」

 

やってらんねえわ。色々と悩みすぎてマジで吐きそう。

 

原作にはない緊急柱合会議の登場だけではなく、まさかの上弦討伐、煉獄の生存といったシャレにならないレベルの原作ブレイク。その上、左腕の欠損までしているのだから、もう絶望オブ絶望である。いや、もう本当に冗談抜きで絶望感ハンパねえ。

 

だからこそ、今回、私は覚悟を決めた。

 

 

――――鬼殺隊を辞めよう、と。

 

 

明道ゆきの手による上弦の鬼の打倒は最早不可能。二十五で死ぬ呪いは解くことはできぬだろうと思ったからだ。

 

ただでさえ先の無限列車編で己の実力のなさを痛感したばかりなのだ。五体満足の状態で上弦の鬼には敵わないのに、左腕がなくなった今、上弦どころか雑魚鬼の打倒すらできないに違いない。それを踏まえて考えると、上弦の打倒は目指すだけ無意味だろう。このまま鬼狩りを続けるのは、ただ命を浪費するだけである。

 

それならば、戦いから身を引き、限りある命を大切にしながら、穏やかに余生を過ごすべきなのではないか。そのような考えが前よりも更に強くなったのだ。

 

以前に一度だけ述べたことがあるが、実は、『上弦の打倒を諦め、二十五で死ぬまで楽しく生きよう』と考え、辞めようとした経験がある。理由は鬼への恐怖でストレスマッハになり、トチ狂ったからだ。それにより私はお館様に退職届を提出したのだが―――結果は惨敗。まさかの突き返される事態に見舞われた。

 

(だけど、今回は退職できるはず)

 

前回、お館様が氷柱の退職を認めなかったのは仕方がないことだとは思う。というのも、私の退職理由が「鬼への恐怖に耐えられなくなった」だったからだ。お館様すれば「柱に至るほどの知略の持ち主を辞めさせるわけにはいかない。その程度の恐怖ならば、まだ大丈夫だろう。怪我を負い、戦闘不能になったわけでもないのだから」という気持ちだったに違いない。

 

だが、今回ばかりは退職できると思うのだ。なんせ、片腕の欠損である。剣士としては致命的な怪我だ。現に、原作の音柱・宇髄天元の引退理由の一つとして、片腕をなくしたこともあったはずだ。彼が腕を欠損する『遊郭編』はこれから先のお話ではあるが、やはり原作で描写されている『音柱の退職理由』の一つをを思い出すと、今回こそは私も退職できる気がしてくるのだ。

 

いや、必ず退職できるだろう。お館様もそこまで鬼ではないだろうし。寧ろ、片腕をなくした今、お館様の方から退職を勧めてくれるのでは。よし、勝ったな。

 

そうこう考えている間に、柱合会議が行われる部屋へ辿り着く。隠に障子を開けてもらうと、水柱・冨岡義勇と音柱・宇髄天元以外は到着していたようで、柱達が一斉にこちらを見た。瞬間、恋柱・甘露寺が真っ先に声を上げる。嬉しそうに頬を染めて両手をパチンと合わせた。

 

「ゆきちゃん! よかったあ、目が覚めたのね!」

「フン、死にぞこなったか」

「思ったよりもピンピンしてんじゃねーか」

 

甘露寺蜜璃ちゃんの屈託のない笑顔の後に、伊黒と不死川の言葉は結構キツイ。いつもなら笑って流せるのだが、上弦戦で精神をボコボコにやられているので、普段より凹んだ。

 

若干落ち込むこちらをよそに、隠が私を抱き上げ、座布団ではなく、座椅子に下ろす。もう一人の隠が座椅子の横に点滴スタンドやら肘掛やらを設置し始めた。自分一人だけ対応が大袈裟だ。まあ、これくらい当たり前か。私、本来ならばベッドで寝ておく必要のある重症患者だし。こんなところに早々と呼び出す方がおかしい。

 

チラッと横を見ると直ぐ隣には蟲柱・胡蝶しのぶがいる。何か私の身にあれば即座に対応できるよう、蟲柱の配置が氷柱の横になったのだろう。ここまでの対応をするなら病室で寝かせておいて欲しかった。それに私はすぐに退職予定だから会議に出席する意味もあまりないし。

 

ハアとため息を吐いたとき、近くにいた岩柱・悲鳴嶼行冥と炎柱・煉獄杏寿郎が口を開いた。

 

「明道、死の淵から戻ったか…」

「上弦の参との戦いで一番怪我が酷かったのは明道だったからな、心配した! なんにせよ、共に会議に出席できるのは喜ばしい!」

「あ、鳥…」

 

岩柱と炎柱がこちらを気にかける言葉をかけてくれたのに対して、相変わらず霞柱・時透無一郎は塩対応である。いや、これは塩対応ではなく最早無反応の域か。時透無一郎は大体の人間に対して無視だが、特に私への対応はスルーが多いような気がするんだよなあ…。柱の皆様の態度が明道ゆきに冷たくて泣ける。

 

若干心を痛ませていると、目の前の障子がガラッと開いた。そちらへ視線を向けると、童を二人引き連れたお館様が視界に入る。瞬間、ザッと一斉に柱全員が頭を下げた。お館様が「よく来たね、私の可愛い剣士達」と言うと、直ぐに不死川が我々を代表して挨拶する。不死川の言葉を受け、お館様は彼に幾つか返答した後、「それでは柱合会議を始めようか」と話した。それを聞いた私は「あれ」と首を傾げる。

 

(まだ宇髄と冨岡が来てないのに柱合会議を始めるの?)

 

今まで出席した柱合会議では、お館様は全員が揃ってから会議を開始していたはずだ。以前に私は大遅刻をした経験があるのだが、その際もお館様は待ってくださっていた。余談だが、会議終了後は不死川にこれでもかと言うくらいボロクソに罵られた。怒られても仕方がないことなのだろうが、言い訳をさせてくれ。任務が想像以上に長引いてしまったが故に遅刻したのである。寝坊とか、そう言うわけではない。

 

…話が逸れた。改めて述べるが、柱が二名も抜けた状態で会議が開始するのはおかしい。だからこそ、疑問の声をお館様にぶつけようとしたのだが、その言葉は紡がれることなく終わった。お館様が先に話を初めてしまったからである。

 

「今回、報告すべきことが三つある。皆も知っての通り、上弦の参が討伐された。杏寿郎、蜜璃、しのぶ、ゆき、この場にいない義勇を含めて、よくやってくれた」

「恐悦至極に存じます」

 

お館様が炎柱、恋柱、蟲柱、氷柱の順に視線を合わせてくる。一番最後にお館様と目が合ったせいで、私が言葉を返す羽目になってしまった。まるで上弦の参討伐が自分の功績みたいになるのでめちゃくちゃ嫌な気分になる。しかし、これからくるであろう『鬼舞辻無惨対策』や『氷柱への責任追及』を考えて、気持ちを切り替えた。今、凹んでいたら精神的にもたないだろう。些細な嫌なことは直ぐに忘れるべきだ。そう思い、お館様の次の言葉を待った。

 

さて、どんとこいお館様。私は退職を決意した身。なんでも受け止める覚悟は出来ている――――

 

「そして二つ目。つい先ほど入った情報だ。

 

天元、炭治郎、禰豆子、伊之助、善逸が上弦の陸『堕姫』『妓夫太郎』の討伐に成功した」

 

――――出来てるわけねぇだろホゥワッェエェッ?!

 

思わず内心の声が裏返った。下手をしたら口から心の声がまろび出ていただろう。それくらい驚いた。要安静患者なのにも関わらず、驚愕のあまり私は腰を半分上げる。しかし、左腕が欠損していたせいで上手く上体を浮かせることが出来ず、身体がよろめいた。隣に設置されていた点滴スタンドにぶつかり、スタンド諸共仲良く畳へ顔面から突っ込む。ガシャガシャンッと音を立てて崩れ落ちた。

 

「ゆきさん!! 大丈夫ですか!」

「…えっ? …上弦の陸の討伐…えっ??」

 

大丈夫じゃねえ。全然大丈夫じゃねえよ。どういうことだってばよ。

 

隣にいた胡蝶がすかさずこちらの上体を上げ、心配してくれているのを尻目に私は頭を押さえる。ぐるぐるぐると脳内で「上弦の陸の討伐」というお館様の言葉が巡った。生前で読んだ原作の『吉原遊廓編』のシーンが浮かんでは消えていく。困惑のあまり、吉原遊廓編での炭治郎達の女装やら善逸の顔芸やらのギャグシーンまで頭の中でごちゃごちゃになって現れた。ぐわんぐわんと視界が揺れていく。

 

私が目を白黒させていると、周りの柱達がザワザワと騒ぎ始める。宇髄を称賛する声や生死を心配する声など様々な音が己の耳を流れていく。こちらを支えてくれている胡蝶しのぶは「私は蝶屋敷に帰るべきですかね…」と難しい顔をして呟いていた。それに対して、お館様は宇髄や炭治郎も無事であることと、他の医者を用意させているから早々に胡蝶が戻る必要はないことを皆に説明し始めた。

 

その様子をぼんやりと見つめながら、私は内心で唖然とつぶやく。

 

(堕姫と妓夫太郎の討伐に…成功した…?)

 

早い。あまりにも早すぎる。

 

確かに私は今回、一ヶ月もの間、昏睡していた。かなり長い間、昏睡していたため、目覚めたときよりも状況が変わってしまうのは当たり前だ。だが、それにしても早すぎる。記憶にある原作知識では『無限列車編』から『吉原遊廓編』まで、四ヶ月くらい猶予があったはずなのである。私の覚え間違いの可能性も無きにしもあらずだが、ここまで短くはなかったと思うのだ。

 

また、『上弦の陸の討伐が早い』と思う理由の一つに、お館様の体調もあげられる。吉原遊廓編で上弦の討伐が成功したときは、お館様は既に床から立ち上がれない程に衰弱していた描写があった。今の彼を見る限り、今回の柱合会議が最後の出席になりそうだが、それでもこの場に立てているのだ。それだけで上弦の陸『妓夫太郎・堕姫兄妹』の討伐が原作よりも早いことが窺えた。私は震える手で口元を押さえる。

 

(原作と変わりすぎている)

 

ドッと冷や汗が流れた。ガタガタと更に手が震え、思考が上手く出来なくなる。己の手に負えないほどのところまで来ていることに、ようやく気がつき始めていた。

 

(早く退職しよう)

 

上弦の陸が討伐されたのならば、より一層、私が鬼殺隊にいる意味がなくなった。なんせ、二十五で死ぬ呪いを解くために討伐を予定していた上弦の鬼は、『妓夫太郎・堕姫兄妹』だったからだ。彼らが殺された今、他の上弦の鬼の頸を取るのは困難極まりないだろう。いや、上弦の陸でさえ、猗窩座戦を経験したことにより『討伐は不可能に近い』と考え始めているのだ。上弦の陸以上の鬼の頸を撥ねるなんて、私にできるわけがない。

 

ちなみに、上弦の陸『妓夫太郎・堕姫兄妹』の頸を取ろうと思った理由は、第一に、上弦で一番弱い鬼だからだ。

 

原作では、音柱・宇髄天元及び竈門炭治郎一行によって倒された鬼である。身体能力が向上する『痣』が炭治郎以外の人間に現れていない状態で討伐ができた上弦は、『妓夫太郎・堕姫兄妹』のみだ。

勿論、毒耐性のある柱の宇髄だったからこそ、『妓夫太郎・堕姫兄妹』相手に、上手く戦えたのもあるだろう。それでも『痣』の恩恵が柱にない状態で狩れる鬼というのは私にとって非常に重要だった。

 

次に上弦の陸を討伐対象に選んだ理由は、ぶっちゃけると『消去法』である。

 

まず、一番上弦で強い『上弦の壱・黒死牟』は即座に選択肢から消去された。あんなの敵うわけねーだろ。十七巻までの知識しかない私でもゼッテー戦ってはいけないのがわかる。そもそも黒死牟の戦闘能力が未知数の時点で選択肢から消去だ。

加えて、彼がしっかりと登場するのは『無限城編』からである。

無限城編といえば、敵の本拠地に鬼殺隊が強制突入させられる章だ。本拠地なんぞ死んでも行きたくないので、元々私は『無限城』までに呪いを解くつもりでいた。

 

それに伴い、無限城編で遭遇する予定であり、十七巻までは途中までしか戦闘描写がない、『上弦の弐・童磨』と『上弦の参・猗窩座』も選択肢から消去された。

あと、どう考えてもこの二体は十七巻時点でも戦闘能力と思考回路が意味不明すぎてゼッテー戦いたくない。

まあ、猗窩座の場合、今の時点でまさかの討伐成功してしまったので、選択の余地も何もなくなったけどな。

 

次に討伐対象として挙げられるのは、『上弦の肆・半天狗』と『上弦の伍・玉壺』だ。この二体は上弦の陸『妓夫太郎・堕姫兄妹』の頸切りをミスった場合の予備として考えていた。だが、あくまで予備でしかない。

 

というのも、半天狗と玉壺が登場する『刀鍛冶の里編』では、この二体が刀鍛冶の里に襲撃する形で現れるからだ。襲撃されるのと、上弦の陸『妓夫太郎・堕姫兄妹』戦のように我々鬼殺隊が敵地へと赴くのとでは、対策の難易度に雲泥の差がでる。

上弦の陸『妓夫太郎・堕姫兄妹』戦では、自ら戦いにいくため、どれだけ準備しても周りから疑われにくい。だが、『上弦の肆・半天狗』及び『上弦の伍・玉壺』戦では、話が変わってくるのだ。

 

基本的に、刀鍛冶の里は鬼に見つからないよう、ちょっと私がドン引きするレベルで隠されている。加えて、必ず里には鬼殺隊士が常駐するほどの警備体制がしかれているのだ。いくら『知将』と敬われている私でも、里に柱を配置したがったり、過度の装備して滞在したりすれば、周りから間者と疑われてしまうに違いない。

しかも、かなり詳しく鬼の能力まで知っているとなれば、より疑念が深まるだろう。それにより、『明道ゆき』の首が物理的に飛ぶ危険性があった。

 

そうなれば、呪いを解く前に私終了のお知らせである。故に『上弦の肆・半天狗』及び『上弦の伍・玉壺』はあくまで予備の鬼となったのだ。

 

他に、繰り上がりで出てくる新・上弦などに関しては、黒死牟達と同じで、彼らと鬼殺隊とのガチンコ対面が『無限城』になるため、選択肢から消えた。

 

これ以外にもまだまだ理由は幾つかあるが、妓夫太郎・堕姫兄妹を討伐対象にした主な理由は、『上弦の陸が一番弱い上弦だから』『上弦の中から消去法で選んだ』の二点である。

 

(会議をぶった斬ろう。退職届を叩きつけよう。もう無理)

 

上弦の陸の討伐成功報告に衝撃を受けすぎて精神がガッタガタだ。可哀想なくらいプルプルと右手が震えている。なんとかを腕を動かして懐に入れ、退職届と書かれた紙に指先を触れさせた。そして、それをワシッとしわくちゃになりそうなくらい掴んだ。不死川や伊黒に罵られようとも、今、この場で退職届を叩きつける――――そう思った瞬間だった。お館様が再び言葉を紡ぎだしたのは。

 

「三つ目は、柱の中ではゆきのみが知らない情報になる。

 

 

 

――――義勇が殉職した」

 

 

退職届を握り締めた右手で自分の胸を思いっきり強打した。


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