氷柱は人生の選択肢が見える   作:だら子

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刀鍛冶の里編
其の二十一: 「新たな力」


「わっしょい! わっしょい!」

「煉獄いつにも増して声がデケェよ!」

「宇髄、貴方も大概うるさ…いえ、仕方がないでしょう。藤の家の方が軽食に下さったのがお芋ですし」

「明道、お前ならこうなることくらい予測できたんじゃねーか? 何で止めなかった」

 

無茶言うんじゃねえよ宇髄さんよ。

 

私、明道ゆきに対して咎めるような目を向けてくる宇髄天元。あまりにも理不尽な非難に「ええ……」と内心で戸惑いの声を上げた。

 

柱になってからというもの、隊士が暴走した時などに鬼殺隊の人間から「明道なら知っていたんじゃないか」と言われる機会が増えた。確実に私が『予知じみた戦略・戦術を練り、智謀だけで鬼を狩る剣士』だと思われているからだろう。そのため、理不尽にも「明道、お前予測してただろ?! 止めろよ?!」と怒られることがあるのだ。

 

そんなの分かるわけねーよ。まるで私を確信犯みたいに言うのやめろ。敢えてチームの隊士を暴走させて楽しんでるような扱いをするな。誠に遺憾である。

 

何か否定する言葉を紡ごうとして口を開けた。だが、私は口を開けたまま止まる。こうなった場合、何を言おうとも無駄だった記憶が頭を過ったからだ。否定しようとも「言い訳やめろ」みたいな顔をされた数々の経験を思い出して真顔になる。

 

結果、私は宇髄に対して何も言わず、開けた口を目の前にある芋へと向けた。そのままかぶりつく。もっもっと咀嚼すると美味しい芋の味が口の中に広がった。

 

私が肯定も否定もしないので、宇髄が大袈裟に溜息を吐いた。何度も言うがその態度、誠に遺憾である。だが、どうにもならないので怒りは飲み込むしかない。若干私がイラついていると、宇髄が不機嫌そうな雰囲気を隠さないで言葉を発した。

 

「で? いつまで待てばいいんだ?」

「時が来るまでですよ」

「はあー…またそれか。まあ良いけどよ。刀鍛治の里を守るってことは聞いてるしな」

 

――――刀鍛治の里。

 

鬼滅読者ならこのワードを聞いてピンと来た方もいらっしゃるに違いない。鬼滅世界で刀鍛治の里といえば『日輪刀などを産み出す鬼殺隊専用施設』である。だが、鬼滅読者が刀鍛治の里と聞けば――――。

 

上弦の伍・玉壺と上弦の肆・半天狗が登場する『刀鍛治の里編』を思い出す者が多いのではないだろうか。

 

刀鍛治の里編といえば上弦二体の打倒だけでなく、柱達に痣が現れ始める重要な話だ。その『刀鍛治の里編』に私は現在、割り込もうとしている。こうして煉獄杏寿郎と宇髄天元と共に芋を食しながら待機しているのも原作介入のためだった。

 

(ああ、やりたくないな)

 

芋を食べながら遠い目をした。お腹は膨れていくのに心は満たされない。嫌なものである。

 

私、明道ゆきは刀鍛治の里編へ介入する気は全くなかった。それどころか、退職する予定だったのである。だというのに、無惨に狙われているせいで退職する方が命の危機という事態に陥ってしまった。ならば、鬼殺隊所属のままでいいから後方支援担当にしてもらおうと考えたのだが…。まさかのお館様から「お前の命、この鬼殺隊に捧げてもらう(要約)」というお言葉を頂いてしまったのである。つまり前線で働いて死ねってことですね。ここはブラック企業か。ハローワークが来い。

 

(流石に悪いことが重なりすぎじゃない…?)

 

煉獄や宇髄が近くにいるというのに、思わず溜息を吐きたくなる。それくらい悪いこと続きだった。

思いつくだけで一体何個あるのか。箇条書きにするなら最低でも六つある。自身の片腕欠損。上弦の参打倒による炭治郎成長の妨害。原作介入したかった吉原遊郭編の寝過ごしスルー。水柱・冨岡義勇の殉職。退職不可。参戦したくなかった刀鍛治の里での任務、などなど、考えるだけで頭が痛い。

 

(刀鍛治の里編も吉原遊郭編みたいにスルーしたいんだが無理か。そうだよな)

 

スルーしたい章に限ってスルーできないとか、どういうこと。世知辛い。

まあ、確かに、刀鍛治の里編は吉原遊郭編で上弦の打倒ができなかった場合の予備として考えていた。だが、計画していた当初と今では状況が違いすぎる。

 

まず、最初の前提からしてアウトだ。片腕がなく、戦えないのである。故に明道ゆきによる上弦の頸をはねる行為は不可能に近い。加えて、猗窩座戦を経験したことで、上弦と自分の実力差を明確に理解してしまった。私の実力では両腕が揃っていても、『上弦の肆・半天狗』と『上弦の伍・玉壺』の打倒は絶対に無理だろう。結論を述べると、片腕しかない今、上弦の打倒は、何度も言うが、不可能である。

一応、片腕の『代わり』になる要素が存在してはいる。だが、あくまで『代わり』なだけで、上弦打倒には役に立たないだろう。

 

他にも色々と理由もあり、二十五で死ぬ呪いの解除のために足掻くよりも、老い先短い人生を心穏やかに過ごすべきだ――――そう考えていたさ。だが、無惨に追われる羽目になり、辞めるに辞められなくなってしまった。挙げ句の果てに、後方勤務もお館様から直々に却下され、まさかの前線送りになる始末。最終的には、全盛期でない状態で刀鍛治の里編への介入である。殺されるじゃん。ここが私の墓場か。

 

(そろそろゆっくりと人生を過ごさせてほしい)

 

だが、できない。私はどうやら前線で戦う必要があるらしい。今回、介入する気ゼロだった刀鍛治の里編に参戦する理由も『やらねばならなくなってしまった』からだ。既に分かっている方もいらっしゃるだろうが――――主に選択肢のせいで、である。真面目に泣きたい。

 

芋を食べながら思い出すのはお館様との会話。同僚の前で号泣して、お館様にパワハラ受けた、数ヶ月後の話だ。

 

 

 

 

 

 

当時の私はまたもや産屋敷邸に呼び出され、お館様との一対一の対話を余儀なくされていた。

 

内心「今回は一体どんな無茶ぶりをされるんだ」と震えていたが、仕方がないことだろう。私とお館様オンリー会議は、大体の場合、ロクでもない頼みごとをされるのが常だからだ。

 

氷柱任命の呼び出しから始まり、柱になってからは己の実力に伴わない高難易度の任務が振り分けられ、最終的には最悪なコンディションで前線にぶちこまれそうな事態に陥らされている。今回の呼び出しも、確実に『ロクでもない頼みごと』に違いない。

 

私が遠い目をしていると、お館様が話しかけてきた。彼は布団の上に座り、御子息達に支えられている状態である。お館様は自身の容態に反して、いつも通りの優しげな声色で言葉を発した。

 

「左腕の調子はどうだい、ゆき」

「ご心配頂きありがとうございます。なんとか動かせるようになってきました」

 

私は『左腕』を掲げる。上弦の参・猗窩座に切られ、あるはずのない腕が、明道ゆきの左側に存在していた。

 

初めに言っておくが、この左腕は切り落とされた腕を手術でくっ付けたわけではない。ましてや、鬼のように再生したわけでもない。この腕は――――。

 

――――義手である。

 

木製で作られた腕は非常に高性能で、この大正時代に作られたとは思えない精密さだった。当たり前である。なんせこの腕は、『あの』カラクリ人形・縁壱零式の作者によって作成されたものだからだ。

 

縁壱零式とは何か。

一言で言うならば、戦闘用カラクリ人形である。

 

縁壱零式とは、『刀鍛治の里』で登場する人形で、炭治郎に新たなる力を授ける役割を持つ、重要オブジェクトである。加えて、このカラクリは日の呼吸の使い手『始まりの剣士』の姿及び戦闘能力を再現した人形であるため、物語を盛り上げるための伏線の一つであるともいえよう。

ちなみに、このカラクリは戦国時代に製作されたもので、製作者は小鉄君の祖先である。

 

この縁壱零式を物語を構成する物質の一つとして考えるならここまでの説明でオーケーだ。私が注目しているのは縁壱零式作製に使われた技術である。

 

このカラクリ人形は、正直なところ、二十一世紀の世でさえ、再現できるかどうか分からぬ『オーバーテクノロジー』人形だ。二足歩行に加えて、六本の腕を操り、人との戦闘が可能。しかも、滑らかに動き、人外に片足突っ込んでいる鬼殺隊士に打ち勝つ強さを持つ。流石は漫画の世界だ。技術がやべえ。

 

時代の一歩どころか、百歩進んだ技術を持っていた縁壱零式の作者。その作者、もしくは、戦国時代の小鉄の祖先一家が、一丸となって製作したのが、現在私が付けている左腕の義手だ。

 

これが手に入ったのも、お館様が勝手に刀鍛治の里へ義手の作成を依頼したからだとか。その際、小鉄君の一族の蔵からこの義手が発見されたらしい。「あまりに良い義手なので、氷柱様にお使いください」と仰ってくださったみたいだ。

 

余談だが、この一連の流れはこちらの預かり知らぬところで行われたことである。しかも、頭のおかしいことに、ある日突然、私は何の説明もなく手術室に連れていかれ、義手をつけられた。

 

いや待って。流石に説明が欲しかった。お館様、年々こちらへの説明を省くことが多くなってきてませんか。「明道ゆきなら分かってるだろ」と謎の信頼はしないで下さい。いやほんとまじで。何一つ私は分かってねえから。

 

(あの時は真面目に死ぬかと思ったな…。なんか危ねえ人体実験でもされるのかと…。全力の抵抗をしようとも、しのぶちゃんに麻酔打たれるし…)

 

義手を半強制的につけられた時のことを思い出してゲンナリとする。

 

だが、その怒りが消えるくらい、この義手は素晴らしかった。あの縁壱零式の製作者の作品なだけあり、まるで本物の手のようだ。多少、扱いづらさはあるが、細かいところまで動かせるし、軽いし、言うことがない。この技術が失われてしまったことが本当に惜しいと思うくらいだ。

 

(良い義手が見つかったのは良かった。良かったんだけど、けど…)

 

私の言葉の途切れが悪いのには理由がある。義手の調整をする時にちょっとした問題があったのだ――――。

 

 

 

 

今回、義手の調整や整備などをしてくれたのは小鉄君の一族である。原作とは違い、小鉄君の両親は存命しており、彼の父が縁壱零式の当代所有者らしい。

 

またもや意味不明な原作ブレイクである。突然現れた原作崩壊現象を見て、思わず半目になったものだ。私、マジで何もしてないのに、どうして原作が瓦解してんの? おかしくない??

 

それはさておき。いや、あんまりよくないが話が逸れるので一旦置いておく。

義手の調整する際に出てきた問題――――それは小鉄君の父君の話の内容である。

 

小鉄君の父君、否、小鉄父と呼ぼうか。義手調整の時、小鉄父がやたら興奮気味に私にこう話しかけてきたのだ。いや、こちらに話してくるというよりも、小鉄父は小鉄君と盛り上がっていたような気がするが…。彼らはわちゃわちゃと両手を上に掲げて、全身を使って表現し始めたのである。

 

「氷柱様、この義手は本当に凄くて! な、小鉄」

「父の言う通り、本当に良い義手なんですよ、コレ。我が一族の叡智と浪漫が詰まっているというか」

「はあ」

「あまりにいい義手で一族挙げてのお祭り騒ぎになりました。連日飲んで騒いで盆踊り、挙げ句の果てに家を壊しましたよ。あと、父と身内の狂乱っぷりに長が若干ビビッてましたね」

「義手が見つかっただけで嬉しいのに、しかも、付けるのが柱のお方で、知に優れた氷柱様というじゃないですか。正直に言うと、興奮しまして。めちゃくちゃ興奮しまして」

「はあ」

「――――これはもう更なる改良をするしかないな、と」

 

ズンッとこちらに向かって凄んでくる小鉄父。彼が付ける面の鼻の部分が私の顔に刺さった。人でも殺せそうな気迫に思わず後ずさる。これが漫画なら小鉄父の面に影が差し、後ろに般若を背負っているだろう。それくらいの凄みがあった。

 

小鉄父はそのままスッと後ろに身体を引く。次の瞬間、ガッと私に付いたばかりの義手を掴んだ。彼は高らかに天高く義手を掲げる。勢いについていけなかった。怖い。

 

「小鉄、やはり男の浪漫といえば、こうなんていうか、『がちゃんがちゃんっ大合体!!』みたいな感じだよな!!」

「……うん?」

「待っていて下さい、氷柱様。今から火薬を仕掛けたり、仕込みナイフを入れてみたりしますから。氷柱様の義手、必ずや『超大合体!カラクリ氷柱・明道零式!』みたいにしてみせます!」

「父なら素晴らしい改良ができると思うので期待しておいてください」

「は?!?!?!」

「実はね、改良してから義手をつけさせてもらいたかったんです……。でも、お館様に先に腕をつけろと言われたから、付けざるを得なくて……クッ」

 

いやいやいや。「クッ」じゃねーから。悔やむところじゃねーから。超大合体って何。明道零式って何。名前からしてロクなもんじゃねえな。何故、私で試そうと思った。改良なんぞ絶対にするな。ヤバそうな匂いしかしねえ。

それと、私はポンコツなので間違えて自分に向かって仕込みナイフをぶっ刺してしまいそうなんだよ。頼むから改良なんてするな。

 

(あと、小鉄父ってこんなキャラだったのか)

 

原作では既に故人だったため、彼の人なりは知らなかった。小鉄が中々面白い性格をしているため、父君も濃いキャラをしているんだろうなとは考えていたさ。だが、ここまではっちゃけているとは思わなかったのだ。誰かコイツら止めて。このままだと私の左腕が機動戦士ガンダムみたいになる。

 

小鉄君と父君の暴走っぷりが病室の外まで聞こえていたのだろう。結果、耳の良い我妻善逸がこちらに駆けつけて来てくれた。あの時ばかりは善逸が神に見えたものだ。その際、ちょっと善逸に殺されかけたが、それが許せるくらいには彼に感謝した。ちなみに、叫んでいた内容と行動は以下である。

 

「あれえええ?! 先生、元気じゃん! 喋ってんじゃん! ちょっ、まっ、だったら呼べよ! 誰か呼べよ!」

「我妻」

「つーか、何であんな物騒な会話してんの?! 義手になったの先生?! いつのまに手術したんだよ先に言って?! いやこれ俺達任務に行ってたからかな?!」

「我妻。首。私の首が締まっています」

「ちょっ、炭ァアアアアア治郎ォ! 伊之助ぇえエエェ!! 先生目ェ覚めたァアアアアア!!」

「聞いていますか、我妻」

 

我妻善逸ってこんな煩かったか。

 

いや煩かったわ。但し、命が関わることと、異性限定で煩かったはずである。それ以外では善逸は常識人であり、冷静に物事にツッコム人間だったと思う。今回、まるでギャグ漫画の人間のように盛大に叫んでいるのだが、大丈夫か。鬼滅の刃、ジャンルの転身でもあったのだろうか。わんわんと声を上げて泣き叫び始めた善逸を見て、そんなことを思った。

 

(そういえば、炭治郎・善逸・伊之助・禰豆子たちとは目が覚めてからずっと会ってなかったな…?)

 

目が覚めた瞬間、息をつく暇もなく柱合会議へ駆り出されたっけ。そこで、原作ブレイク現象のお知らせと、お館様からのパワハラを受けたんだ。その後、病室へ逆戻りし、精神的に落ち着いたと思えば、強制的に義手を付ける手術。身体の容態が安定したら、直ぐにリハビリで、小鉄父の暴走事件の勃発、と言う流れだった。思えば、かまぼこ隊の皆様とまるで会う暇がなかったな。

 

四人からすれば無限列車編からずっと明道ゆきと面会できず、不安な日々が続いたのだろう。彼らは優しい人間なので、きっと心配してくれていたはずだ。その最中で、上弦の壱・黒死牟と上弦の弐・童磨と出会い、冨岡義勇の殉職を経験。加えて、吉原遊郭編で、上弦の陸との戦闘だ。そりゃあ長い間、私の下へ足を運ぶことは難しかったに違いない。

 

だからこそ、我妻善逸はここまで泣き叫んでいるのだ。冨岡義勇のように明道ゆきまでもが死ぬんじゃないかと思ったのだろう。恐らく、炭治郎達にとって冨岡の死はかなり鮮烈で、衝撃な出来事だったのだ。優しい彼らは自身の力不足を痛感し、後悔し、私の無事を祈ってくれたのだと思う。

 

(そこまで私を気にかけなくていいのに)

 

ぶっちゃけると私はかなりゲスい人間なので、ここまで泣かれると困惑してしまう。明道ゆきをそこまで心配する価値はないと思うのだ。私も冨岡の死にショックを受け、精神をボコボコにされたが、直ぐに立ち直ってみせた。ここまであっさりと気持ちの切り替えが出来たのも、冨岡よりも自分が可愛いからだろう。既にいない人間について考えて落ち込むより、生存ルートの模索の方がずっと大事だったのだ。

 

(炭治郎達も律儀だよなあ…)

 

炭治郎達の前で戦ってみせたり、研修を行ったりしたこと以外は、ほぼ私は彼らに関わっていないぞ。最早他人である。しかも、明道ゆきとくれば、自分が生き残る為なら炭治郎達を見捨てようと考えていたくらいである。なんで私の為にこんなに泣けるんだろうか…。やっぱりかまぼこ隊には人格者しかいないのかな。

 

(あんまり泣かないで欲しい。どうしたらいいかわからないし)

 

若干気まずくなる私と、中々泣き止まない我妻善逸。二人の隣にいる小鉄君と小鉄父は「あわわわ」と慌てていた。カオスな状況である。やべえなと考えていた時だった。

 

――――そこに続いて禰豆子を連れた炭治郎と、伊之助が病室に入ってきたのだ。

 

炭治郎と伊之助はパタパタと走ってきたと思えば、私のベッドの前でピタリと止まった。そのまま何故か無言で佇み始める。どうしたんだろうと私が声をかけようとした瞬間、彼らはクワッと目を見開いた。同時に、ワナワナと震え始める。え、なに、怖…。

 

伊之助はプルプルと揺れる手で私を指差した。びっくりするような大声で、怒鳴るように言葉を発した。

 

「起きてんじゃねーか!!」

「先生。明道、明道先生…!」

 

伊之助の隣で、炭治郎は何かに耐えるかのようにクシャと顔を歪めた。眉をグッとひそめ、口を一文字に結ぶ。しわくちゃになるほど力いっぱい瞼を閉じて、グゥと拳を握っていた。彼はそのまま唸るような声で言葉を紡ぎ、私のベッドの布団へ縋り付く。

 

「明道先生、先生、先生…!」

「センセー死んでるかと思ったぞ!! 死体みてーに動かなかったからな!!」

「縁起でもないこと言うんじゃねーよ!!」

「むーむー!」

 

炭治郎はひたすら『明道先生』と名前を連呼していた。伊之助は私のベッドをトランポリンみたいにして飛んでいる。地味に痛い。善逸は泣きながら伊之助にブチ切れていた。横にいた禰豆子も「むーむー」と言いながらポンポンと布団を叩き始める。

 

おんおんと泣き叫ぶ善逸。

布団を握りしめ続ける炭治郎。

ベッドをポカポカと殴る伊之助。

高速の布団叩きをする禰豆子。

周りの意味不明な行動に慌てる小鉄君と父君。

 

その様子を見た私は、流石にきまりが悪くなった。最低な考えを抱いていたことが恥ずかしくなってきたのだ。私はなんとか彼らを宥めて、宥めて、宥めまくった。それでも終わらないかまぼこ隊の奇行に、ほとほと困ったものである。四人の暴走は、胡蝶しのぶがあまりの煩さにブチ切れ、怒鳴りに来るまで続いた――――。

 

――――それで終われば、ただの『ちょっとした良い話』になると思うのだが、これには続きが少しある。というより、これが本題だ。

 

炭治郎達が病室から出て行った後の話である。蚊帳の外状態だった小鉄君と小鉄父がズンズンとこちらに近づいてきたのだ。てっきり私は「大変でしたね」とか「お大事に」とか言われると考えていた。だが、それは完全に違っていたのである。

 

「皆さんのためにも頑張って義手、改良しますね! 明日、案をお持ちします!」

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった。私はピシリと固まり、思考を停止させる。現実世界では一秒程度のことなのだろうが、自分には何十分にも思えた。

 

しかし、小鉄君と父君の「うおーっ」と気合の入った声で現実に戻される。私はハッとした後、全力で焦った。

 

(やばい。このままだと私の左腕がロボみたいになる)

 

炭治郎達の介入によりすっかり忘れていた。この二人が義手に並ならぬ想いを抱き、魔改造を施そうとしていたことを。

 

額からブワッと玉のような汗が滲み出た。やばい。やばい。やばたにえん。先程も言ったが、無駄に毒針やら仕込み刀なんか入れられたら、間違って自分に刺してしまう可能性が高い。ポンコツなめんな。そもそも、変人の巣窟(偏見)である刀鍛治の里の人間が、あの狂った状態で義手を改造してしまったらどうなるか。

 

(考えただけでおそろしい)

 

ブルッと身体が震えた。横目で彼らを見ると、二人は拳をあげ、走って病室から出ようとしているではないか。やばい。あいつらあの勢いのまま義手魔改造案を書き上げる気だ。

私は身体の体調を無視して、ベッドから立ち上がる。鬼を狩るときと同じくらいのパワーで全力疾走した。グワっと二人の腕を掴み、必死に叫んだ。

 

「ご先祖の傑作を改造するなんてもっての他! 普通に使える義手でお願いします!」

「いやいや普通なんて氷柱様に似合わないですよ!」

 

どういう意味だテメェ。

 

私が普通じゃないというのか。ふざけんな。明道ゆきはどこにでもいる凡人だ。周りの柱共と一緒にするな。ただ、私は選択肢が見えて、生きるのに必死なだけだよ。凡人オブ凡人です。

 

……待て。そこに怒っている暇はない。なんとか説得しなくては。誰か助けて。あっ、真菰。真菰を呼んで。あの子、誰かを説得するのめちゃくちゃ上手いから。真菰。真菰はどこだ。

 

心の中で必死に真菰にヘルプコールをしながら私は小鉄父と戦った。最後あたりはどちらも服が乱れ、ぼろぼろ状態だった気がする。胡蝶しのぶがまたもやブチ切れて「いい加減にしてくれませんかね、ゆきさん」と包丁を持ってこちらに来るまで、小鉄君と父君との口論は続いた――――。

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