氷柱は人生の選択肢が見える   作:だら子

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其の二十四: 「音柱は手を掲げる」

「杏寿郎くんと天元くんだったかな。君達中々強いね!」

 

上弦の鬼・童磨は対の扇を武器として構えながらニパーッと満面の笑みで笑った。それを見て俺――――音柱・宇髄天元は眉をひそめる。「割りに合わない戦いだ」と強く思ったからだ。先程から煉獄と共に童磨に対して攻撃を試みているが、驚異の再生力で傷をなかったことにされてしまう。俺、宇髄が遊郭で倒した上弦の陸を遥かに上回る強さだ。既に傷だらけの身体を抱えてため息を吐く。

 

(厄介なのは再生力だけじゃねえ)

 

冷気を操る血鬼術。これが非常に厄介だ。一見単純な術だが、汎用性が高く、どの技も広範囲高威力の上に、技自体の数が多い。加えて恐ろしいことに、この術の冷気を吸ってしまうと肺が壊死するときた。これは鬼殺隊士にとっては死活問題である。呼吸による身体強化を封殺されてしまうからだ。

 

しかも頭が痛いことに、この童磨は元々の戦闘能力が高く、高い観察眼と洞察力を併せ持っている。煉獄と俺、宇髄の合わせ技や戦術を冷静な目で観察し、看破してくるのだ。やりにくいったらありゃしねえ。流石は上弦の弐の位を戴き、あの花柱・胡蝶カナエを殺しただけはある。

 

(早く譜面を完成させねえと)

 

譜面。聴覚と指揮官能力を統合した戦闘計算式だ。相手の攻撃動作の律動を読み、脳内で音に変換。そして、相手の癖や死角を読み取って、唄に合いの手を入れるが如く音の隙間に攻撃して打撃を入れられるようになる戦術だ。俺、宇髄天元の持つ強みの一つと言えるだろう。だが、童磨に対する譜面が中々完成しねえ。鬼なんざ散々化け物だ何だと思っていたが、この上弦は桁違いだ。まあ、譜面が完成しないのは仕方がねえ。最後の『部品』が欠けているからだ。

 

そう考えながら、俺と煉獄は刀を構えてジッと童磨の様子を窺う。それを見た上弦の弐は眉をハの字にした。首をコテと傾げ、不思議そうな声色で話し始める。

 

「ねえ、猗窩座殿を倒した柱の一人は杏寿郎くん、君かい?」

「いかにも」

「………そうかあ」

 

煉獄の言葉を聞いた瞬間、童磨はポロリと涙を流した。戦いの場にそぐわない涙に俺は怪訝な顔をする。童磨はそのまま目を押さえながら言葉を紡いだ。

 

「悲しい。一番の友人だったのに。悲しい。悲しいよ。なんて酷いんだ。俺は猗窩座殿の友人として敵討ちをしないと」

 

薄気味悪いほどに童磨の声には感情が乗っていなかった。己の耳に入ってくるのは奴の心が動いていない声色だけ。

それを聞いて俺はゲンナリとした顔になる。この童磨が今、浮かべているのは、忍びの者のような『無』の心。まるで人間を演じている人形の如き能面さの感情だった。思わず俺はぶっきらぼうに童磨を罵る。

 

「テメェ派手に何も感じてねえんだろ。薄気味悪ィこというんじゃねえ」

「なんでそんなこと言うんだい。俺は悲しんでいるのに」

「本当に友人の死に悲しんでるならもっと気持ちが昂ってるだろ。ふざけてんのか」

 

そうだ。この男はただ悲しみを演じているだけ。本当に仲間の殉職に嘆いているのなら顔色が変わり、もっと動揺していてもおかしくない。――――あの明道のように。

 

俺、宇髄天元の脳裏に浮かぶのは明道ゆきだ。冨岡の死を聞き、明道ゆきは動揺し、泣き崩れたのだと言う。どんなことがあろうとも心を乱さず、笑顔の裏に冷徹さを兼ね備えていた明道。その彼女が泣いたのだ。

 

実のところ、俺は明道ゆきという女を、ただ最善の策を練り、最適な道を選び、冷酷な判断を下す機械としか俺は思っていなかった。だが、童磨を見て改めて感じた。明道ゆきという柱に感情はあるのだと。

 

目を閉じ、思い出すのは明道のことだった。

 

 

 

 

氷柱・明道ゆきは智謀の剣士だ。

 

本来ならば武力で鬼の頸を切るところを、己が策略を以って敵の打倒に至った者。いっそ哀れになるくらいに剣の才はないが、それを補うどころか、凌駕するほどの智謀で他の柱と同等の戦果を残す傑物。

 

人柄は物腰柔らかで、常に笑みを浮かべ、穏やか。周りから「実力が足りてない」と疎まれることも多いが、人格者であり、その類稀なる智謀から、柱として認められた剣士。それが明道ゆきである。

 

だが、それは鬼殺隊の平隊士に共通する認識だ。驚くべきことに一部の柱からは非常に嫌われている。その筆頭として挙げられるのは不死川だろう。あの煉獄にさえ、「明道は尊敬すべき同僚だが、許せない人物でもある」とまで言われているのだ。余程のことをあの明道はしているに違いない。一定の人物からは疎まれる存在となっている、それも明道ゆきの側面の一つだ。

 

――――ここまでは客観的に見た明道ゆきである。

 

俺、宇髄天元から見た明道ゆきは『合理的に判断を下す機械』だった。

 

明道は賢い。賢いで終わってしまうのがおこがましいほどに奴は頭が回った。俺は忍者の頭領になるための訓練を受けた経験があるが故に、前線における戦術指揮官としての能力は柱の中でも上位の分類である。その宇髄天元様があの明道の頭脳に関してだけは太鼓判を押してもいいくらいに認めていた。

 

隊内で明道ゆきの評価に人によってかなりの差があるのも、明道が意図的に作り出したものだ。鬼殺隊を円滑に運用するため、人によっては嫌われたり好かれたりすように手を回している。それにより隊内での統制を図っているのだろう。

 

そこまでならまだいい。

明道ゆきという柱が恐ろしいのは忍びの如き無感情で人の生き死にを判断することだ。

 

鬼の討伐において犠牲者が必要と判断したら躊躇なく切り捨てる。最善の結果のために少数を死なせるのだ。だが、鬼殺隊に所属していればその判断も仕方がないことである。明道の策で、より多くの人間が救われていることは事実だからだ。

まあ、そもそも忍びをやっていた俺がとやかく言えることじゃねえ。奴をこの件で責めて良いのは薄暗いことをやってこなかった人間だけだ。

 

重要なのは、明道ゆきが切り捨てた人間に罪悪感一つ抱いていないことだ。無感情に、無感動に、まるで作業かのように人の命を切り捨てていた。いつも朗らかな笑みを浮かべているが、その顔に悲しみの色が出たことはなかったのだ。

 

――――本懐を遂げるためには心は不要。

 

合理的に、冷静に、完璧な判断を下す。鬼を倒すために大多数の命は救うが、小は簡単に切り捨てる。己の弟を彷彿とさせるような明道の振る舞いだった。

 

「思考が完璧すぎて薄気味悪ィな、あの女」

 

明道ゆきという隊士を念入りに調べ、初めて発したのがこの言葉だった。一応、俺の名誉のために言っておくが調査したのは明道だけじゃない。他の柱もだ。前職が忍びという特殊な職種だったため、何でもかんでも調べてしまうのだ。

 

明道ゆきの調査記録の本をパタリと閉じて考えるのは彼女の機械的な合理主義である。鬼殺隊には明道のような人間も必要だろう。だが、見ていられない。俺という人間は『心』を生命の消耗品として扱う忍びのやり方に疑問を覚え、里を抜けた経歴がある。明道ゆきが合理的な判断の下、誰かの命を消費するのは……なんとなく、見ていられなかった。

 

それからだろうか。

まるでかつての弟への罪滅ぼしかのように俺は明道に絡むようになったのだ。

 

それでも明道ゆきという人間は変わらなかった。やはり心を変えるのは難しいのか――――そう思っていた時である。

 

冨岡義勇が死んだのは。

そして、明道ゆきが泣いたと聞いたのは。

 

冨岡の死に様を聞き、無惨が氷柱を追っていると知り、明道ゆきは静かに涙を流したのだと言う。身体を震わせながら、無表情のまま泣いていたと。上弦の陸を討伐し、病室のベッドで煉獄からその話を耳にした時、柄にもなく驚いたことを今でも覚えている。

 

あまりに驚きすぎて自身の怪我を顧みず、明道の病室の天井に忍び込んだほどである。天井裏から見た明道の目は見事に腫れ、『泣きました』と言う顔をしていた。加えて、まだポロリポロリと涙を目尻から流しているではないか。降りしきる涙という雨を見て、ストンと胸にとある感情が落ちるのが分かった。

 

(ああ、そうか)

 

明道ゆきは感情がなかったわけじゃない。氷柱・明道ゆきには確かに誰かを想う心と情があるのだ。明道ゆきという柱は、感情の全て智謀の力とし、類稀なる頭脳で直向きに内心を隠し続けただけの――――ちっぽけな人間だった。感情を持った、ただの人間なのである。今、この場で泣いているのはずっとずっと明道ゆきが犠牲にしてきた、明道の『人』としての側面なのだろう。

 

明道ゆきはきっと後悔し続けているのだ。

 

明道の経歴には『義父が鬼となり、彼女自身が殺した』というものがあった。加えて、明道の師範も兄弟子も全員死んでいる。ただこれは、同情するほどのことではない。鬼殺隊に所属していれば明道のような者はごまんと居る。しかし、そういった経緯のある隊士ならば必ず激しい感情を見せるはずなのだ。それを誰にも悟らせず、笑顔を浮かべている時点でおかしいと思うべきだった。

 

明道ゆきは後悔しているからこそ、自分を犠牲にすると決めた。心を生命の消耗品にして、人々の安寧のために生きることを覚悟したのだ。他の柱と劣らぬ熱き『心』が明道には――――存在していた。

 

だが、今回ばかりは明道ゆきは『心』を隠せなかった。冨岡が死んだからだ。それくらいに明道は冨岡が大切だったのだろう。不意に涙を見せてしまうほどに。明道ほどの隊士ならば冨岡の死の原因となった上弦の出現を看破していてもおかしくない。だが、それができなかった。きっと答えは一つだけだ。

 

「明道も人間ってわけか」

 

明道ゆきは人間だ。どれほど化け物じみた智謀を持とうとも完璧には至れぬ、人という種族なのである。

 

きっと、明道にとって不測の事態が起きたのだろう。だから、冨岡義勇は死んだ。だから、明道ゆきはここまで泣いているのだ。そもそも、今まででも明道の作戦内に犠牲者が出ている時点でおかしいと思うべきだった。完璧な人間ならば犠牲もでないはずだ。そんな簡単なことにさえ気がつかなかった。いや、明道の手により『気がつかせないようにさせていた』のだろう。

 

明道の姿を天井裏で見た後、直ぐに俺は離脱した。自身のベッドに戻り、再び考えるのは奴の『退職届』の件だ。煉獄は「明道が退職届を懐にいれていてな。柱合会議の際、落としたのだ! 何故、退職届なんぞ明道は持っていたのだろうか」と不思議がっていたものだ。だが、今の俺の中には、なんとなくとある考えが浮かんでいた。

 

「明道、お前――――疲れた、のか?」

 

長い間、前線で心を消費し続けるのは疲れるだろう。しかも、片腕まで欠損させたのだ。鬼殺隊を辞めることを視野に入れても仕方がない。だが、きっと明道のことだ。もしも辞めても後方勤務を務め、活躍するに違いない。それでも今回、明道は退職届を落とした。いや、この場合は『捨てた』のだ。理由は至って簡単で、陳腐なものだろう。

 

――――冨岡が死んだからだ。

だから、まだ前線で戦い続けることを選んだのである。

 

俺は夜の病室で右手を掲げる。上弦との戦いは熾烈なものだった。だが、今までの経験や柱達との切磋琢磨により上弦の打倒に至ることができた。しかも、上弦の陸の打倒に成功しただけでなく、五体満足でこの場に存在できている。片腕くらいなくなる覚悟は決めていたが、何一つ欠けずに生きていた。嫁も、炭治郎達も、全員無事だ。

 

そこまで考えて、俺はギュッと拳を握った。胸に手を近づけて独りごちる。

 

「嫁達に、良い言い訳考えねえとなあ……」

 

上弦の鬼を打倒したら鬼殺隊を辞めると言っていた。だが、まだ俺は鬼殺隊で戦うべきだろう。なんせ、ただの『少女』が片腕をなくしても、大切な人をなくしても、戦う覚悟をしているのだから。ここで俺が戦わずして、どうするというのだ。

 

――――こうして、宇髄天元には戦う理由ができてしまったのである。

 

 

 

 

 

明道ゆき及び、自身の戦う理由を思い出して俺は静かに前を見据える。そこには相変わらず薄気味悪い涙を浮かべる上弦の弐・童磨がいた。

 

(明道の涙とは大違いだ)

 

冷徹だと思っていた明道ゆきの涙には確かに感情があった。目の前の悪鬼の涙には何の色も浮かんでいない。それを改めて確信したところで童磨は片眉をクイと上げる。不満そうで、殺意が抑えきれない顔をしていた。

 

「何でそんな酷いことを言うの。俺が猗窩座殿の死に悲しんでないなんてこと」

「ハッ見たら派手に分かるんだよ。感情のある奴と、感情のない外道の違いくらいは――――なっ!」

 

俺はその言葉と共に走り出した。鎖で持ち手の先端同士を繋いだ大振りの二本の日輪刀を取り出す。そのまま二本の刀を高速で回転させた状態で馬鹿正直に正面から突っ込んだ。無数の爆発を周囲に発生させながら流れるような連続の斬撃を放つ。

 

「音の呼吸・伍ノ型『鳴弦奏々』!」

「新しく見る技だ。これも煩くて派手な技だね。無数に爆発しているせいで騒がしくて何も聞こえないや」

 

余裕綽々といった様子で童磨は扇子を掲げる。難なく俺からの連続の斬撃を扇子で軽く往なしていった。だが、想定済みだ。これくらいで打倒できるならば他の柱は死んでいないだろう。俺は不意に笑った。

 

――――次の瞬間、童磨の背後から赤き刃が現れる。

 

毛先だけ赤みがかった金髪に、炎を象った羽織をはためかせて、煉獄杏寿郎が刀を振り上げる。俺の技の爆音により煉獄の存在を気がつかせないようにしていたのだ。宇髄天元はただの囮り。布石に過ぎない。煉獄の金と赤が混じった瞳が耀く。そのまま彼は炎が燃え上がるような凄まじい威力で童磨へ突撃した。

 

「炎の呼吸・壱ノ型『不知火』!」

 

だが、外れた。煉獄の攻撃は童磨の頸を掠めるだけで終わったのだ。童磨はひょいと身体を翻して俺達二人から離れようとしていた。しかし、その最中、少しばかり驚いた顔をこちらに晒す。

 

「びっくりした。まだ連携の戦術があるんだ。大体は見終わったと思ってたのに。ボロボロなのによくやるねえ。だけど、もう策は――――」

「尽きたって?」

 

そんなわけねえだろう。何故ならば、譜面はつい先程完成したからだ。そう、『ヤツ』の存在をもってして、譜面は形作られた。今回の戦いにおいて、俺と煉獄の二人だけでは譜面を完成させることは不可能だった。『ヤツ』がいなければ、今回の策は練る事はできないからだ。だからこそ、今の今まで譜面の作成が無理だった。だが、最後の『部品』が揃ったことにより、ここに譜面は完成した。

 

俺は不意に笑う。童磨が怪訝そうな顔をした――――その瞬間だった。

 

――――上弦の弐・童磨の顔面に義手が横から叩き込まれたのは。

 

あの義手は明道のものだ。まるで爆弾の落下が横に書き換えられたかのような、右から左への強い衝撃だった。それを見て目を細める。童磨にこの打撃が通ったのには二つ理由がある。一つ、俺の音の呼吸・伍ノ型『鳴弦奏々』の騒音により、義手の移動音を隠したこと。二つ、煉獄の攻撃で童磨の意識を奪ったこと。この二つが合わさった結果、最善の瞬間に、最適の場面で、童磨の頬に明道の義手を叩き込むことに成功したのだ。

 

(刀鍛治のおっさんもいい仕事しやがる)

 

夜中、いそいそと明道の義手を改造していた刀鍛治のおっさんを思い浮かべる。最初、あのおっさんに遭遇した時は不審者かと思い、排除しかけたものだ。しかし、途中、明道の依頼により義手の改造に勤しんでいると聞き、刀を納めた。全く、明道とくれば義手の魔改造依頼なんて真似、素人なのによくするものだ。間違えて暴発したらどうする。

 

一瞬の間におっさんと明道のことを思い出していたら、童磨が木々に叩きつけられた。奴が「グッ」と呻き声を漏らしたと同時に煉獄が頭上から刀を振るう。

 

「炎の呼吸・伍ノ型『炎虎』!」

 

ドンッと爆発したような音が広がった。次の瞬間、周りには冷気が満ち始める。どうやら童磨が煉獄の技を相殺するため、血鬼術を発動したようだ。その反動からか、冷気だけでなく、モクモクと煙が立ち込めていた。煉獄はくるりと身を翻して飛び、スタリと俺の隣へと並び立つ。俺達は静かに刀を構え直した。

 

煙が段々晴れてくると、上弦の弐の姿が現れる。片腕が欠損し、他にも身体に傷を負った状態の童磨がそこにいた。奴は少し不機嫌な様子を隠さないまま、こちらに向かって言葉を放つ。

 

「あーあー。ここまでやられたのは久しぶりだよ。しかもあの義手の爆弾は何かな。爆発の威力は凄いし、なんか身体が動かないんだけど。毒でも入ってた?」

「気分はどうだ?」

「最悪だよ。だから、そろそろ本気を出そうかな」

 

 

「――――本気とやら、本当に出せるのかねえ?」

 

俺が静かに笑みを浮かべると、童磨は再び怪訝そうな顔になった。何を言われているのか分からないという表情だ。無理もないだろう。奴は気がついていないからだ。

 

何故、明道ゆきがわざわざ刀鍛治の里から離れた位置に俺達を待機させたのか。何故、明道が早々にこの場から離脱したのか。全ての事柄に理由があるように、明道の行動にもそれ相応の理由がある。戦いの最中、俺もようやく気がついた。

 

(全く、明道は仕方がねえやつだ)

 

刀鍛治の里の周辺の森は非常に高い木々が多く、日中でも夜のように暗い所が多い。故に、空の様子がずっと分からない状態だった。だからこそ、明道はこの場を戦地としたのだ。だからこそ、明道は早々に離脱したのだ。

 

俺はスッと上空に手を掲げる。先程の明道による義手爆弾により木々が倒れ、空が既に見えていた。そう、全てはこの時のために、明道はこの場から離れた。この時間に童磨への不意打ちの攻撃をするために。

 

俺はニヤリと不敵に笑い、言葉を紡ぐ。

 

「なあ、童磨さんよォ。

 

――――朝が来たぜ」

 

キラリと輝きを増す太陽を指差して更に笑みを深める。俺の背後にはきっと朝日の光が差し込んでいるだろう。自身の眼前には目を見開く童磨があった。その彼から少し離れた後方に、明道の姿が見える。明道ゆきもまた、俺と同じように小さく笑みを浮かべていた。太陽の光を受けて、明道の青緑色の瞳が耀く。

 

 

 

鬼の時間は終わりを告げる。

 

 

 

 

 




次回予告:明道ゆき、ストーカー被害に遭う



(皆さまお久しぶりです。八月の新刊として、「もしもオリ主が別の選択をして、鬼化ルートに進んでいたら」IF番外ルート本を頒布することとなりました。良ければ見てもらえると凄く嬉しいです。詳細は活動報告にて)

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