氷柱は人生の選択肢が見える   作:だら子

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皆さんお久しぶりです。

列車編、観ましたか。凄く良かったですよね。
後、鬼滅最終巻がついに出てしまいました。最終巻が出ると遂に終わりかと思って本当に悲しくなりますね。
また、「もしもオリ主が別の選択をして、鬼化ルートに進んでいたら」IF番外ルート本の後編をエアコミケ2で頒布します。詳細は活動報告にて。


柱稽古編
其の二十五: 「稽古」


 

 

気がつけば刀鍛冶の里編が終了していた件について。

 

ラノベのようなタイトルが脳内に浮かんだ。自身の屋敷『氷柱邸』の廊下で、ぼんやりと空を見上げる。太陽の光が目に痛かった。右の小脇に大量の資料を抱えつつ目を細め、溜息を盛大に吐く。童磨につけられた肩の傷跡が若干痛んだ気がして、しょっぱい顔をした。もう完治したはずなんだけどな……そう考えながら思い出すのは原作ブレイク刀鍛冶の里編だ。

 

(刀鍛冶の里編、本当に色々あったな……)

 

いやほんともう色々ありすぎてお腹いっぱいだ。刀鍛冶の里編に介入するだけで勘弁して欲しいのに、追い討ちをかけるように童磨との遭遇である。しかも、童磨戦での鬼殺隊側の人選が胡蝶ではなく煉獄と宇髄ときた。真面目に頭を抱えたかったものだ。

 

ここで煉獄と宇髄が戦線離脱するような怪我を負えば原作通りとなり万々歳ではある。だが、逆に童磨が死ぬのは不味い。更なる原作ブレイクの一歩となり、無惨が倒せなくなる可能性がもっとアップしてしまうからだ。そうなったら困るのだ――――私がな!! 自己中すぎて申し訳ねえ。だが、何度も言うがこれが私、明道ゆきである。

 

突然の童磨戦において、なんとか私は童磨戦から一時的に離脱できたが――――まさかの再び童磨との遭遇である。しかも、気がついた時には自身の義手が童磨の顔に猛烈パンチをキメていて、木までぶっとばしていた。流石のこれには顔が真っ青になったものである。

 

―――あ、これ死んだな私。

 

冗談抜きでそう思った。しかも、その時、私は宇髄と煉獄が童磨の近くにいることを知らなかったので「童磨、あの二人を撃退した感じか。えっ、うそ、今この場にいるの私一人?」と勘違いして余計に己の死を覚悟したものだ。

 

だからこそ、朝が来た時は狂乱した。

 

ヒャッハァ!! 朝だぜ化け物ォ! と自分の実力のなさを棚に上げてイキリまくったものである。朝の光のお陰で宇髄達を発見できたこともイキリに拍車をかけていた。完全に有利な立場になったことを自覚した結果、得意げな笑みを浮かべ、間抜けにも童磨の前に出るくらいには調子に乗った。今思えばよく死ななかったなと思う。いやほんとよく死ななかったよな私。

 

その後、童磨は直ぐに離脱したため、明道ゆきの『刀鍛冶の里編』での戦いはそこで幕を閉じた。

 

そこまで思い出して、私はふむと義手の左手で顎のあたりをさする。内心でひとりごちた。

 

(総合的に見ると、刀鍛冶の里編は中々上手く行ったかもしれない)

 

童磨と遭遇したことにより、原作にはなかった追加人員が直接『刀鍛冶の里編』での戦闘に加わることはなかった。結果、炭治郎は漫画通りの道筋をたどり、私の知識と同じような経験を積んでくれたのである。それを思えば上手くいった――――じゃねえわ。肝心なこと忘れてた。

 

――――無限城編までに登場する上弦の鬼が全滅したッ!!

 

どうしよう。絶望で天を仰ぎたい。

確かに、左手が欠損している状況で、上弦の鬼の打倒は無理だと分かっていた。『上弦を倒さねば二十五で死ぬ』呪いの解除は最早不可能だと理解もしていた。故に、私は呪いを解くのを諦め、穏やかな人生を歩むと決めてはいた、そう、『いた』のだ。だが、頭で理解するのと、感情は別問題である。やっぱり現実を突きつけられると辛い。認めたくない。しかも、残りの人生を幸せに生きるつもりだったのに鬼殺隊も辞めれていないし。なんなの? ほんとなんなの?? 辛すぎない??

 

(しかも、私が戦闘スタイルを全て知っていて、現在生きている上弦といえば一人しかいねえ。無限編に出てくる新上弦の獪岳くらいしかいねえんだけど!)

 

残る上弦が一番強い黒死牟と、二番目に強い童磨、そして獪岳と同じく新上弦の鳴女である。残った上弦の人選が酷すぎる。半分くらい笑えないほど強いやつしかいなくて泣きたい。しかも、獪岳以外は全員、戦闘スタイルや血鬼術の全貌を途中までしか知らないので、まさしく『詰み』状態だ。呪いの解除は不可能だと言いまくっていたが、完全に不可能になった。

 

頭が痛い。逃げたい。しかし、鬼殺隊を今、辞めたり、逃亡したりすれば無惨に殺されかねない。それ故に私は『如何にして戦いを回避するか』に専念する必要があった。鬼殺隊の人達は皆、明道ゆきのことを『片腕なくても頭脳労働が本職なんだし、全然前線にいても大丈夫だろ』と考えていらっしゃるからだ。マジで勘弁してくれ。

 

だからこそ、私はせっせと、目の下の問題、『無限城編回避』のための準備を進めていた。無限城にだけは死んでも行きたくねえ。黒死牟や童磨だけでなく、数多の鬼があそこにはいる。しかも、あの無限城編だけは鳴女の能力により彼女が作った空間に閉じ込められるだけで終わらず、強制戦闘になるのだ。命がいくつあっても足りない。結果、私は無限城編を回避の算段を必死でしていた。

 

――――でも、その前にやらなければならない『義務』があるんだよなあ。

 

再び重い溜息を吐いた。小脇に書類を抱えた状態で氷柱邸の廊下を歩き続けると、直ぐにとある部屋の前ヘと到着する。深呼吸を繰り返した後、扉の取っ手を横に引いてガラリと開けた。そのまま私は静かに入室する。

 

――――そこには大勢の隊士達がいた。

 

彼らは見慣れた黒の隊服を身にまとい、着席している。机にはノートと筆記用具が並べられ、隊士達の正面には教卓と黒板があった。どこかの学校かのような風景である。

 

(いや、学校といっても差し支えはないかもしれないな)

 

私は無表情のままスタスタと教卓へと歩みを続ける。教卓に到着すると、書類を卓の上に置き、自分の表情を無理矢理に和らげ、笑みを浮かべた。傍から見れば余裕たっぷりなのだろうが、内心大荒れだ。ニコニコと笑いながら黒板を背にして沢山の隊士達をゆっくりと見据えた。

 

この時、本来ならば過度の緊張による冷や汗で己の服はびっしょりになっていたと思う。だが、私はまだ心臓がバクバクと高鳴る程度で済んでいた。

 

と、いうのも、目の前にいる隊士達の大半は顔を真っ青にして机にうなだれているからだ。彼らは吐きそうな顔をして口元を押えていたり、意識を失ったりなどをしていた。つまり、私の方向を見ている人の方が少ない状況なのだ。そのお蔭というべきか、緊張で発狂することもなく自分の正気を保てていた。それでも大勢の前に立つのが私は苦手なので胃痛がしてくる。キリキリとした痛みを感じながら多種多様な隊士達を一人一人見渡していった。

 

(あ、炭治郎達もいる)

 

口元を押さえる炭治郎と玄弥、魂の抜けた表情の善逸、爆睡している伊之助が目に入る。今回の『授業』には炭治郎達がどうやら参加するらしい。ちょっと憂鬱な気持ちになった。

主人公御一行様を見ると、トラブルが起きるような気がして嫌なんだよな。一つ前の『授業』ではカナヲがいたけど、何も起こらなくて本当に良かったと思う。今回もそうであって欲しい。

切実な願いを胸に秘めながら私は静かに口を開いた。

 

「皆さん、氷柱稽古の前半、お疲れ様です。よく頑張りましたね。これから先は柱である私が一部担当致します。さて、後半を始めていきましょうか」

 

――――私がやらなければならない『義務』とは何か?

隊士達に施す『柱稽古』である。

 

簡単に述べると明道ゆきは今、『柱稽古編』の真っ只中にいた。笑みを深めながら内心で頭を押さえる。

 

柱稽古編といえば、刀鍛冶の里編と無限城編の間にある、いわゆる『閑話』みたいなものだ。ずっと戦いばかりは登場人物達も読者達にも疲れや飽きがでてきてしまう。また、次の戦いが以前の戦闘と同じでは面白みがないので主人公を強化する必要がある。そのため、挟まれた息抜き兼主人公強化の章というのが、この『柱稽古編』だ。

 

少しギャグが挟まれていたり、次の章への伏線が入っていたりする『柱稽古編』。いやはやまさか、私がこの柱稽古に参加しているとは。色々と複雑な想いで胸がいっぱいだ。

 

(何で私が教える側にいるんだろうな……)

 

意味不明すぎるポイントその一である。

正直、前世の記憶が戻った時点では、たとえ鬼殺隊士となったとしても平隊士で終わると思っていた。まあ、そりゃあ前世、鬼滅読者だった身からすれば「柱になれたらなぁ」とかいう憧れはあったよ? でも普通、なれると思わないじゃん。平和な世の中で育った人間だぞ。人外的な力を手に入れられるとは思わないじゃん流石に。

 

いや本当に何で私、柱になってんの? 鬼殺隊最強の一角になってるとか頭おかしくない? 剣の才能があり、実力が認められて柱になったのならまだいい。だけど私の場合、選択肢の所為だからな。実力が伴わなすぎて無理。身の丈に合わない地位にいるのってこんな辛いとは思わなかった……胃痛……。

 

(しかもさあ、何? 何でまだ私、鬼殺隊にいるの?)

 

以前にも述べたが、無限城編までには鬼殺隊を辞めているはずだったのだ。本来の予定では最低でも刀鍛冶の里編で上弦を打倒し、柱稽古編辺りではキャッキャッしているつもりだった。

呪いの解除どころか、片腕ない状態で前線ぶち込まれている状況に咽び泣きそう。ここは地獄か? 絶対、無限城編は回避するからな……絶対だぞ……。

 

私が決意を固めていると、目の前の隊士達が頭を抱え始めた。こちらが「氷柱稽古の後半始めるぞー!(要約)」を言った瞬間、一様に皆が皆、頭を抱え始めたので非常にシュールである。ちなみに、これは授業ごとに同じ反応をされるので私は慣れたものだ。

 

一部の隊士が青ざめた顔をさらに青ざめさせながら口々に話し始める。

 

「うっそだろこの状態で始めるの?」

「辛い……。次は何が始まるんだよ……」

「ちょっと今は無理……。氷柱様が他の柱と同じで鬼畜……。やりたくねえ……」

 

と絶望した声色でぶつぶつと呟いていた。天を仰ぐ者までいる始末。善逸に至っては「いやほんと死ぬ。冗談抜きで死ぬ。ちょっと無理なので。本当に無理なので。勘弁してください!!」と咽び泣いていた。

 

阿鼻叫喚な状況を見て、ちょっとだけ自分の顔が引き攣る。

 

(少しはこの様子を見慣れたとはいえ、酷いなあ。つーか、誰だ今、私を鬼畜呼ばわりしたやつは)

 

一つ言っておくが、氷柱稽古がここまで熾烈になったのは私の責任ではない。氷柱邸に育手として勤務する教師達と、弟子の真菰の手によるものである。まるで私が主導して地獄の鍛錬を積ませているかのような話し方をするのはやめろ。

 

しかし、隊士に弁解したところで「何言ってんのお前」と言われるのが関の山だ。なんせ、私は『柱』であり、知謀の剣士と呼ばれているのである。自分で言うのもなんだが、どう考えても明道ゆき自身が部下達へ地獄の稽古をつけるように指示しているようにしか見えない。世知辛い世の中である。

 

ちなみに、前半の氷柱稽古では『隊士達が組ごとに別れ、隊として戦う』というものをしていた。

 

一見すると、チーム戦なので面白そうに見えると思う。しかし、実態は、隊士達が戦う最中、氷柱邸管轄の育手と真菰が横槍を入れまくり、容赦なく隊士達の命を狩りに行くという、地獄の稽古に仕上がっている。結果、非常に熾烈なチーム戦になっていた。

 

(洒落にならない罠の数々を教師陣が仕掛けまくっていたっけ……)

 

特に真菰は罠のレパートリーがありすぎてびびったものだ。

流石は鱗滝左近次の弟子……すげえよ鱗滝一門……。あそこの一門、優秀な奴ばっかりだよな……。私の一門は大体中くらいの地位の人が多いらしいからさあ。まあ、己が入門する前に、私の兄もしくは姉弟子の殆どが全員死んでたから伝聞なんだけど。唯一生きてた兄弟子が『義父と戦い、私に育手を紹介してくれた隊士さん』である。でも、彼も師範も死んじゃったしなぁ……。

 

ちょっとしんみりした気持ちになる。しかし、こんなところでしんみりしては精神が持たないので、気を取り直した。

 

私は死んだ顔の隊士達に向かって、再びニッコリと笑ってみせる。これから行うのは、あまりやりたくないことなんだよなぁ……。溜息を吐きたくなる気持ちをグッと抑え、口を開いた。

 

「さて、これから行う氷柱稽古の後半ですが、只今から戦術・戦略について教えていきます。つまり、座学ですね」

 

それを言った瞬間、隊士達が少し沸きたつのが分かった。「よっしゃ、寝れる!!」だの「もう身体的な痛めつけはないんだ……!!」だの、割と切実な叫び声が響き渡る。いやほんと切実だな。分かるよ。分かる。私も君達の立場ならそんな反応してたと思うもん。

 

だが、そんなに生易しくないのが柱稽古である。

 

私は笑顔を表情に固定したまま、ピッと右手を軽く上げた。指を綺麗にそろえ、手のひらを正面に向けたまま、顔の横に固定させるポーズを取る。

 

――――次の瞬間、教室の四方の隙間から一斉にチョークが大量に放たれた。

 

チョークは、気絶して机に寝そべっていた隊士達の額へリズミカルにパンッパンッパンッと当たっていく。しかも、そのチョーク達は驚異のスピードと威力に耐えられず、彼らの額に当たった瞬間、粉となって消えた。一部の気絶していた隊士達は強制的に覚醒となり、慌てて机から起き上がる。

 

流石は氷柱邸管轄の育手達によるチョークの投擲だ。威力がエゲつねえ。

 

若干引きながら、それを悟らせないように明道ゆきは笑みを深めた。

 

「寝れると、楽な授業だと――――そう思いましたか? それは重畳、重畳」

 

私は右手に指差し棒を持ち、義手の手ひらをパンパンと軽く叩く。

 

「これから始まるのは、先程の団体戦で疲弊した極限状態で『如何に戦術・戦略を練れるか』という授業です。寝れば容赦なく起こします。寝る必要のないくらい策略を練らせます」

 

最後に明道ゆきは確認をとるかのように「良いですね?」と言って、言葉を切った。同時に、目を細め、うっそりと笑ってみせる。それを見た隊士達の顔が引きつったのが分かった。

 

――――これだけ見れば明道ゆきが『柱』として輝いて見えると思う。

その実、現在、私の内心は大荒れである。

 

多分、私の心の荒れっぷりは悟っている人も多いと思う。めっちゃこわい。雰囲気をぶち壊さないように震える手を必死で押さえているからな、今。ちなみに、指差し棒を無駄に揺らしているのも手の震えを悟らせないためである。こわい。めっちゃこわい。

 

(こんな無駄に偉そうなムーブして大丈夫なんだろうか……)

 

この『偉そうな教師ムーブ』は第一回目の授業の時に選択肢のせいでさせられたものである。それが妙に氷柱邸の教師陣にウケてしまい、第二回目からも冷徹教官みたいな言動を取る羽目になっていた。そろそろ偉そうな教師ムーブはやめたいのだが、周りのせいでやめれないという悪夢。

 

(もう本当に帰りたい)

 

雑魚隊士の明道ゆきが教えることなんて無いと思う。正直、教えている内容は兵法にあることをそのまま授業しているだけだ。しかも、この『疲弊した極限状態で如何に戦術・戦略を練れるかという授業』も選択肢の決定によるものである。私、ぶっちゃけ必要か? というレベルの明道ゆきの必要のなさを発揮していた。授業中に度々選択肢が現れて、私が不本意にも隊士達を説教することになるが、あまり為にならないようなものばかり。いやほんと私必要か?

 

胃がキリキリしてくるのを感じる。それでも私は教科書を開き、授業を開始させた。

 

――――が、数十分経つと、疲労からか隊士達が寝始める者が続出し始めた。それに伴い、チョークが宙を切り、隊士達の額へと吸い込まれていった。何度も寝る者には小刀、果ては槍が飛んだ。前回の授業では手榴弾が舞ったのでまだ大丈夫な部類である。

 

怖いなー。教室がもはや戦地。そう思って私が顔を引き攣らせていたときだった。

 

一部の隊士が発狂し始めたのだ。

 

どうにも頭脳運動が苦手な隊士にとっては極限状態での座学が我慢ならなかったらしい。こんなことは今までの授業ではなかったので、私は若干ビビって後ろに下がる。そんな中、伊之助や一部の隊士が立ち、叫んできた。

 

「ウガーーーーッ! やってられるかァ!! 刀を振らせろ!」

「戦術とか戦略とか練れないんですけどォ?!」

「賢いやつにさせておいた方がいいのでは?!」

 

バタバタと騒ぎ始めた一部の隊士達。炭治郎は「やめるんだ、皆」と慌て、玄弥は厳つい顔をしながらキョロキョロとあたりを見回していた。酷すぎる授業風景である。しかしながら、隊士達の怒る姿を見て、明道ゆきはこう思った。

 

――――すっごい分かる……と。

 

教えているはずの私が「この授業……意味ある……?」と若干なっているからな。確かに、戦術・戦略は必要不可欠な要素ではある。だが、教師役がこの私、明道ゆきだ。しかも、先程も言ったが、教えている内容が『氷柱秘訣の戦術戦略』でもなく、完全に教科書通り。絶対隊士達の為にならないし、彼らの頭の出来の良さにも違いがあるし、正直、この授業は必要ないと思う。

 

それに、わざわざ極限状態で授業する意味が分からない。前世の二十一世紀でこんなことをすれば、間違いなく私、訴えられると思う。負ける自信すらある。

 

だが、そんなことは口が裂けても言えない。「いや、私、この授業する意味がわからないんだよね」と言った暁には殺される。色々な意味で隊士に殺される。「テメエ分かってないのにこんなことしてんのかよ! 死ね!」となったらどうしよう。こちらへ抗議してくる隊士達を見ながら冷や汗を流した。

 

(どうしよう)

 

取ってつけた理由を何か言わなくては。上手い具合に訳をこじ付けないと。作戦など練ったこともない隊士達を含めて、無理矢理に『疲弊した極限状態で戦術・戦略を立てる授業』を受けさせている理由を説明しなければ――――って、できるかァ!!

 

(こういうときに限って選択肢は現れてないし!)

 

理由を説明できないときに選択肢パイセンは登場するのが常だったじゃん。何で登場しないの?! おかしくない?! そもそもこんな授業するとか言い出したの選択肢だったじゃん。私の代わりにちゃんと説明しろよ。

 

だが、どんなにガタガタと文句を選択肢に言っても、矢面に立たされているのは私である。憤る隊士達に何か言わないといけないのもこの私、明道ゆきだ。理不尽が過ぎる。どうして今世はここまで人生難易度が高いんだよ。私、前世で罪を犯したことなんてないのに何故。

 

理不尽な己の人生に嘆きながらも必死に頭を回転させる。表面上は笑顔を固定させたまま、ひたすら考えた。

何か、何か言わなければ。しかし、考えても考えても良い理由は浮かばない。

頭を抱えたい気持ちになった時、貫く私を不思議に思ったのか、隊士達が怪訝そうな顔をこちらへ向けてきた。やばい。これ以上、長引かせるのには無理がある。

 

(つらい。つらすぎる)

 

隊士達に「実は何も考えてないんだ!」と本当のことを言って責任問題となるくらいなら良いんだ。きっと退職の道を辿れるし、前線から逃れられるし、良い事づくめだからだ。

でも、退職してしまえば片腕もないのに自力で無惨から逃げる必要がでてくるんだよな。前にも言ったけど。

それなら鬼殺隊での地位にしがみつき、護衛してもらった方がいい。前線に行くのを如何にして回避するか考えた方が生存率がまだ高いと思ったのだ。まあ、『まだ』高いだけで、どっちにしろ命の危険があるんだけどな!

 

故に私は慌てて口を開いた。

 

「――――静かに」


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