氷柱は人生の選択肢が見える   作:だら子

28 / 28
其の二十八: 「不吉な出会い」

蜜璃ちゃんとのお茶会楽しかったなぁ。

 

私、明道ゆきにしては珍しく、機嫌よく鼻歌を歌っていた。ふんふんと鼻を鳴らしながら奏でるのは鬼滅のオープニングだ。

 

現代から鬼滅転生してから早二十年。それだけの時間が経過し、数多のハプニングがあったのにも関わらず、最初から最後までこの曲を歌うことができている。ほかの曲はサビしか歌えないというに、だ。

 

ふんふんとメロディだけ鬼滅のオープニング曲を鼻で奏でながら私は目を細めた。

 

(お茶会の蜜璃ちゃんかわいかったなー)

 

先程まで行っていた恋柱とのお茶会を思い出して、ふふっと笑う。

 

漫画で読んでいたときよりも実物の甘露寺蜜璃はかわいくてお茶会は役得だった。伊黒小芭内が熱を上げる理由が分かるというもの。あまりにも楽しすぎて胸がいっぱいになり、パンケーキを食べる手が進まなかったくらいである。幸せ過多ゆえの満腹だ。

 

甘露寺蜜璃が幸せそうに微笑む顔を脳裏に浮かべながら、不意に私は思った。

 

(それにしても柱って美男美女が多いよね)

 

愛らしい甘露寺蜜璃。どこぞのアイドルかと思うくらいの美少女、胡蝶しのぶ。『美人』と称される柱達の顔が浮かんでは消えていった。

 

私が覚えている限りでは、公式で『美男美女』だとはっきりと名言もしくは描写されている柱は音柱・蟲柱・恋柱だったと思うのだが、この世界の柱は皆、顔がいい。流石は漫画の登場人物である。だからこそ、柱達と遭遇する度に、今まで言ってこなかったが、私は地味に興奮していた。さながら心境はアイドルにキャーキャーと騒ぐファンである。

 

(あーーー……ほんと、柱達にキャーキャー言うモブになりたかったなぁ……)

 

私、明道ゆきは『鬼滅の刃』の登場人物や世界観、その他諸々が大好きである。実のところ、今、こうして鬼滅の世界にいること自体、本来ならば飛び上がるくらい嬉しいのだ。今だってキャーキャー騒ぎたいほどである。自分が柱となりあの蜜璃ちゃんとお茶会をするなんて夢を見ているみたいだ。幸福で騒ぎ立ててもおかしくないのだが、ただ一つの問題点が全てを台無しにしていた。

 

――――己の命の危機のせいでな!

 

(命の危機のせいで鬼滅世界での楽しみを全てぶち壊してんだよな)

 

確かに、鬼滅の世界は大好きだ。だが、生死が関わってくるとなると話は別である。何が嬉しくて痛い思いや怖い思いをしなくてはならないのか。しかも、謎の呪いに、謎の転生特典がぶちこまれているときた。意味不明すぎる要素がありすぎる。どんなに登場人物との関わり合いが楽しくても、これではプラスではなくマイナスにしかならない。

 

はあと重いため息を吐いた。気を紛らわせようと、テーブルの前に置かれた大根を箸で軽く割り、かけらをヒョイと口に放り込む。大根の旨さがじわじわと口内で広がっていくのが分かった。

 

私は無心で箸を動かし、大根を口へ入れる作業を繰り返す。純粋に『美味しい』という事実が己の心を和らげていく。思わずといった様子で私は言葉を零した。

 

「ここのおでんはやはり美味しいです。腕を上げましたか、ご店主?」

「姉ちゃんがここに来るのは久々だからねェ。ちょいといつもより愛情を込めてやったよ」

「あら、お上手ですね」

 

ふふと私はおでん屋の店主に笑いかけた。それを受けた五十後半くらいの店主は豪快に笑ってみせる。彼の笑顔を見て、私はホッとした気持ちなった。

 

――――現在、明道ゆきのいる場所は東京内にあるおでん屋の屋台である。

 

甘露寺蜜璃とのお茶会の後、私は変装してこの屋台に来ていた。わざわざ黒髪のカツラをかぶり、顔には左目の傷を隠すメイクを施して、おでんを食べに来ている。町娘風の着物を身に纏ってまでここにいる理由は、有り体に言うならば――――『息抜き』というやつだった。

 

毎日毎日鬼のことを考え、命の危機に怯えて生きるのは流石にしんどすぎる。しかも、屋敷で休もうにも、自分の家である氷柱邸には隊士達や弟子達がわらわらいるのだ。休めるはずがない。特に今は柱稽古で屋敷が隊士だらけだ。その状態で自分を曝け出せるはずがないだろう。

 

ゆえに、私はこうして変装して外へ飛び出す機会を度々作っていた。

 

まあ、確かに、無惨が明道ゆきを狙っている今、外出は控えるべきなのだと思う。だが、ちょっとくらいの息抜きくらい許してほしい。

 

いやほんとマジで……息抜きくらい許して……。柱稽古になってから更に労働が増えたんだよ……。精神力がゴリゴリ削れていく……。

今も精神的に疲れすぎて衝動的に邸を飛び出してしまったくらいだ。蜜璃ちゃんとの幸せな時間を過ごしただけに、寝るのが嫌になった。次の日が来て欲しくないから寝たくなかったのだ。所謂、週末の日曜日症候群状態である。

 

現在の時間は夜だが、一、二時間程度なら無惨や鬼にも遭遇しないだろ。柱稽古編といえば最終決戦直前のお休み期間みたいなものだし。万が一鬼に遭遇したとしても、雑魚鬼程度だろう。それくらいなら、滅することはできないが逃亡くらいはできると思う。ていうか、この時間帯くらいしか今、自由な時間がないんだよな、柱稽古のせいで。休める時に息抜きしておかなきゃ。

 

そう思って大根を再び口の中に入れ――――

 

 

「久しぶりだな、店主」

 

 

――――聞き覚えのあるラスボスの声を聞き、気管支に思いっきり詰まらせた。

 

あまりの苦しさに悶え苦しむ。思わずガハッガハッと咳き込みそうになったが、咄嗟に口を手で押さえた。執念と根性で咳と嘔吐感を押さえ込む。プルプルと若干身体を震わせながら思うのはただ一つだった。

 

無惨なんでここにいるのォ?!

 

思わず目をカッと見開かせて、顔は正面に固定したまま、バッと眼球だけ横に動かした。

 

そこにいるのは漫画で見た通りの無惨様だ。服装は着流しで、短く整えられた髪の上に中折帽をかぶっており、ハイカラな装いをしていた。服こそ漫画で見たことのない装いだが、顔面と声が完全に鬼舞辻無惨である。見間違いも聞き間違いもなく、完全に無惨様である。

 

千年もの時を生きる、全ての悪の根源。数多くの強力な鬼を統べ、人々を絶望の淵に落す悪鬼。

――――鬼舞辻無惨。その本人が今、私の隣にいる。

 

それを自覚した瞬間、気管支に大根を詰まらせた痛みよりも恐怖で打ち震えた。

 

(何で無惨がァ?! いや、待て待て。待って私。鬼舞辻無惨のわけないないない!!)

 

だって、まだ今は柱稽古編中なのである。それなのに無惨と遭遇なんてどういことだ。原作ブレイクは頼むから程々にしてくれ。鬼舞辻無惨との対面など、何か事件が起きる気しかしないんだよ。

 

多分、「ただ無惨と出会っただけで問題が勃発しそうだなんて、自意識過剰にも程がある」と考える人もいるに違いない。だが、これは自意識過剰ではないのだ。私、明道ゆきは柱である。腐っても柱。どんなに弱くても柱。鬼殺隊最高位を与えられた柱なのだ。『最強の幹部の一人がラスボスと遭遇!』など、物語においてこれほどのスパイスはないだろう。

 

あああああ嫌だ。嫌すぎる!

 

何で私は柱なんだ?! 雑魚程度の剣の才で柱とかなんの冗談だよ。実力の伴わない地位にいるのがこれほど辛いとは。きちんと地位相応の力があれば無惨と遭遇しても対策を講じることができるというのに。私がラスボスと出会えば確実にほぼ死しかないんですがそれは。

 

切実に現実から目を背けたい。だが、己の横で交わされるおでん屋の店主と無惨の会話が私を現実へと引き戻してくる。おでん屋の店主が一人二役している、もしくは無惨の声と姿が幻だと思い込みたかったが、どう考えても違う。もう一回どころか十回見たが、鬼舞辻無惨がそこにいた。気管支に詰まったおでんを全力でなんとかした後、遠い目をする。

 

ああ……以前、列車に乗ったとき、無限列車とは知らずに意気揚々としていたら炭治郎達が乗車したときのことを思い出す……。なんか似たようなシチュエーションだよこれ……。

 

(この時期の無惨といえば、私の妄想では無限城で引きこもっているイメージしかないんだけど。頼むから城に引っ込んでてくれ)

 

次のラスボス登場は産屋敷邸での登場にしておけよコノヤロウと、内心で無惨を罵倒した。これでも生前は無惨のことも好きだったのだが、現在では『絶対ブチコロス』という憎しみの対象である。こいつのせいで鬼が世に蔓延り、私がしんどい思いをしているからな。マジで怒りがおさまらない。

 

――――ラスボスとの対面なんて冗談も大概にしてくれ!

 

鬼滅世界において、初めての鬼舞辻無惨との遭遇である。願うことなら一生出会いたくなかった。だが、遭遇してしまったものはどうにもならない。この状況をどうにかしなければ。

 

私は必死で思考した。冷や汗が流れるレベルで考えた。その傍ら、無惨に対して不信感を抱かせないためにも、私はおでんを口に入れていく。普通の客を全力で演じていた。

 

いやほんとマジでどうす――――

 

 

「ここによく来られるんですか?」

 

 

――――話しかけてきやがったァ!!

 

無惨が人の良い笑みを浮かべて、こちらに話しかけてきたのだ。好青年を具現化したかのような話し方、表情、雰囲気に自分の顔が引きつりそうになる。それでも必死に動揺を抑えて、私は「ええ、そうなんですよ」と笑ってみせた。

 

それを聞いた無惨はちょっぴり嬉しそうに語り始める。

 

「良い店ですよね、ここ。私も偶にくるんです」

「へ、へえ」

 

お前も常連かよ!!

 

もしかしたら今まで知らず知らずの間に無惨とすれ違っていた可能性もあるのか? ふざけんな。こんな所でラスボスとの縁があっただなんて怖すぎる。世間狭すぎだろ。やめろ。

 

しかも、無惨が優しげに此方に微笑んだり、親しげにおでん屋の店主と話したりするの、かなり怖いんだが。お前そんな表情や言動、出来たの?! 無駄にフレンドリーすぎて怖いよ! 鬼舞辻無惨って横暴で偉そうな態度がデフォなイメージあるからさァ! なんでそんなキャラ違うの? 原作で下弦が無惨の女装姿を見て、「凄まじい精度の擬態!」と驚いてた理由が分かった気がするよ……。怖い。

 

そもそも、鬼って人以外喰わないんじゃないのか? なんでお前おでん食ってんだよ。もしや、普通の食事は鬼にとって嗜好品扱いみたいな感じなのか。そうなのか。くそッ! マジでふざけんな!!

 

新事実に内心で震えた。流石に動揺が抑えきれず、若干手が震える。吐きそうになりながら死ぬ気で表情筋を笑顔で固定させた。

 

そんな中、ある考えが不意に浮かんだ。

 

 

――――もしや無惨、私を明道ゆきだと分かって、『敢えて』この場に登場しているのでは?

 

 

思わず黙った。隣にいる無惨がおでん屋の店主と再び言葉を交わしはじめている様子を尻目に、私は頭を抱える。

 

(ありえるな。確か、無惨が私を探してるっていう情報あったじゃん!!)

 

善逸の如く咽び泣きたい。オェッオェッと吐きそうになりながら泣くレベルの危機が来てる。

 

いやでも待って。希望は捨ててはいけない。もしかしたら私の考えすぎかもしれない。先程まで私は完全にオフ状態で、警戒心ゼロだった。無惨ほどの鬼ならグサっと後ろからも刺せただろう。それなのに彼は何もせず、隣に悠々と座っている。明道ゆきの変装に騙されて、私が氷柱だと気がついていないんじゃないのか。いやきっとそうだろう。うん、うん! きっと無惨は偶然おでん屋に来たんだ!

 

そう考えて、逃亡の算段をすることに決めた。

自然で、尚且つ、無惨を逆上させないようにしながら離脱しよう。そうと決まれば――――と、ここまで思考していた時、不意に聞き捨てならない話が聞こえてくる。おでん屋の店主と無惨のとある会話が私の耳に入ってきたのだ。

 

「最近、顔を見なかったからどうしたのかと思いましたよ、旦那」

「探し物をしていてね。でも、見つかったんだ」

「探し物、ですかい?」

「ああ、そうだよ。――――ようやく潰せる」

 

潰すって言ったぞコイツ!!

 

隣にいるせいで無惨がぼそりと呟いたワードがガッツリ聞こえてきた。探し物、確実に私のことじゃねーか。もうこれ完全に無惨は隣にいるのが『氷柱・明道ゆき』だと分かって言ってるだろ。私をビビらせるために「潰す」発言をこちらにだけ分かるように言ってるだろ。そんなにも私のこと消したかったのか。殺意があまりにも高すぎる。好きだったキャラにこんなこと言いたくないが、質の悪いストーカー被害にあっている気分になった。

 

(お前が追うのは炭治郎と産屋敷一族、あとは青い彼岸花だけにしておけよ……!)

 

切実な心からの叫びだった。

 

くそッ、どうする? 鎹鴉で援軍を呼ぶか? 駄目だ、私が殺されるまでに援軍は確実に間に合わない。そもそも、今回、このおでん屋にはお忍びできているので鎹鴉が近くにいねえ。

それなら逃亡するか? 無理だ、この距離で無惨から逃げられる気がしない。少しでも動いた瞬間、絶対に殺される。

 

(何か、何か策は、)

 

って、何も浮かばねえよ策なんて!!

凡人の私に柔軟な対応は求めないでほしい。しかも、私は緊急事態に弱いタイプである。それ故に今、自分の頭の中が真っ白になってしまっていた。やばい。やばい。やばたにえん。

 

――――詰んだ。

 

そんな言葉が頭に浮かんだ。右手に持つ湯呑みがガタガタと震える。恐怖が天元突破してしまい、動揺が抑えられなくなっていた。落ち着け、落ち着け、と考えても震えは止まらない。

私が内心で頭を抱えた――――その時だ。聞き慣れた、安っぽい電子音が聞こえてきたのは。

 

《ピロリン》

 

▼どう行動しますか?

①湯呑みを落とした後、屋敷へ帰る … 上

②無惨と戦う … 死

 

なんで湯呑みを落とす必要があるの?!

 

選択肢パイセンにしてはまともな選択肢が出ているけど、一番の「湯呑みを落とす」って所が意味不明過ぎる。何で湯呑みを落とさなきゃいけないんだよ。何かのフラグに思えて仕方がない。いや、本当になんで湯呑みを落とさなきゃいけないんですか。とっとと帰らせろよ。湯呑みを落とす動作はいらねぇんだよ。

 

だが、選択肢パイセンの命令は絶対である。それに、私にとってもこの一番「湯呑みを落とした後、屋敷へ帰る」は悪いものではない。いや、悪いどころか、最高に素晴らしい選択肢である。屋敷に帰ることができるからだ。それを思えば「湯呑みを落とす」など誤差の範囲だろう。うん。誤差……誤差の範囲で頼むから終わってくれ……。私、運が悪いからなぁ。

 

いや、ポジティブだ。ポジティブに考えるんだ、明道ゆき。二番の「無惨と戦う」を選ぶ必要がなくてよかったと考えるんだ。

 

必死に自分に「湯呑みを落とした後、屋敷へ帰る」の「湯呑みを落とす」はフラグじゃないと言い聞かせた。そして――――明道ゆきは選択するのだ。

 

 

▼選択されました

①湯呑みを落とした後、屋敷へ帰る … 上

 

 

右手が勝手に動き出す。そのまま、持っていた湯呑みをごく自然に、わざとではないかのように――――落とした。フッと湯呑みは空を切り、床へと到達する。落下の衝撃に耐えられなかった湯呑みはガチャンと音を立てて割れた。

 

その瞬間、割れた湯呑みの破片が飛び、私の指を切りさく。思いっきり破片が肉を切り裂いたせいか、血が宙へ飛び散った。チリッとした痛みに私は眉をひそめる。勢いよく飛んだ血は近くにいた無惨の頬に少量だけつき、残りは床に落ちた。

 

自分の指からぽたぽたと溢れる血を見て、内心で溜息を吐く。おでん屋の店主と無惨は驚いたように声を上げた。

 

「大丈夫ですか!」

「大丈夫かい、姉ちゃん!」

「え、ええ。私の不注意です。すみません」

「謝る必要なんてねぇよ! ええっと、布、布……」

 

凄く必死に布を探してくれる店主に非常に申し訳ない気持ちになった。自分が怪我をしたのは選択肢のせいだし、無惨をここに置いたまま私は離脱してしまうし、最低な行為しかしていないからだ。下手をすれば店主の人生はこのままジ・エンドの可能性すらある。

 

マジでごめん。ゲスな人間で本当に申し訳ねぇ。でも私も必死なんだ。無惨が私を「明道ゆき」だとわかった上で接触してきているっぽいのに、選択肢に『逃げる』が現れてくれたんだ。こんな幸運を逃すわけにはいかねぇんだよ。多分、無惨には何か理由があって、私に今、手が出せないのだろう。早く逃げよう。

 

私は「本当に大丈夫ですから」と言って席を立とうとしたのだが――――まあ、そんな上手くいかねえよな。無惨がハンカチをサッと出して、こちらの手当をしてきたのである。あまりの早技に目が点になった。

 

「私の手帕があります。使ってください」

 

ラスボスの手が私の手を触る。死人のような冷たさに自分の背中がゾワワッとするのが分かった。心臓のドッドッという音を聞きながら私は内心で叫んだ。

 

(さ、さ、さ、)

 

触るんじゃねぇ!!

こっわ。マジで怖い。ラスボスと手ェ触れてんぞ。恋的な意味ではなく、命の恐怖的な意味での胸の高鳴りがする。怖すぎる。無惨に触られた時、乙女の如く顔を赤らめて「キャッ!」と言うのではなく、命の危機で「ギャァアアアアアア!」と言いかけた。私に気安く触るんじゃねぇ。死ぬぞ、私がな! 心労で私が死ぬ! マジで今、失神しそうなんだ。手加減してくれ。いやほんとマジで。

 

ふらっと来そうになったが根性で耐える。失神しようものなら逃亡が不可能になるからだ。私は必死で笑みを顔に携え、こう言った。

 

「ありがとうございます。この手帕はお返ししますね。……そろそろ帰ることにします。では、おやすみなさい」

 

脱兎の如く私はその場から離脱した。

――――その様子を無惨がジッと見ているとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

「あの女、どこかで……。いや、今はどうでもいいな。探し物――――産屋敷の居場所が知れたのだ。やつを潰すことに専念する方が先だ」

 

鬼舞辻無惨は頬に付いた血をぺろりと舐めながら、静かに独りごちた。

 

 

 

 




次回予告 最終章突入

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。