氷柱は人生の選択肢が見える   作:だら子

4 / 28
原作突入編
其の四: 「地獄の柱合裁判」


私の横に主人公、竈門炭治郎がいる件について。

 

まるで前世の大型掲示板に投稿する際のタイトルのような言葉を心の中で呟く。生前の記憶に縋り、現実逃避でもしなくてはやってられなかった。なんせ、私が直面している状況が今世最大の胃痛事案だったからだ。

 

――私、原作の『柱合会議篇』のシーンにいるんだけど。

 

(帰りたい。切実に)

 

思わず内心で私は頭を抱えた。いつも柱合会議中には帰りたいと考えているが、今日は特に帰りたい。頼む、帰らせてくれ。真面目に胃痛がしてきた。……え? この場から立ち去りたい理由? そんなのありすぎて語れねえよ。察せ。だが、もしも無理やり分類してみるなら大きく分けて二つある。

 

一つ目は柱達がかつてない程にピリピリしていること。

 

理由は言わずもがな、主人公・竈門炭治郎だ。彼は鬼狩りなのにも関わらず、鬼になってしまった妹・禰豆子を連れて鬼殺を行っている。鬼を殺す人間が鬼を同行させている――鬼殺隊の面汚しもいいところだ。また、それと同時に隊の根源を揺るがしかねない所業である。

 

(読者であったころの生前の私なら鬼殺隊の体裁だとか、隊の規律だとかどうでもいいと言えたんだろうけど…)

 

あの頃の私ならきっと「ここまで柱達、炭治郎に辛く当たらなくてもいいじゃん! 禰豆子は人を襲わねえよ!」と言うに違いない。だが、実際に鬼殺隊に入隊して『鬼が人間を襲わず、守るなんて有り得ない』ということを身をもって知った。鬼という生き物はどれだけ耳触りのいい言葉を吐こうとも、普通の人間のように生活していても、必ず人を襲う。人を喰らおうとする。人を裏切り、人を化かし、人を危機に陥れる――そういう存在なのだ。

 

鬼狩りになってから鬼の愚かさと救いようのなさを身に染みるほどに知った。なるほど、これは確かに皆が皆、揃いも揃って炭治郎を否定するはずだと腑に落ちたものである。原作知識を持ち、鬼の義父に育てられた経験のある私でさえ、『漫画通りに禰豆子は本当に人を殺さず、守るのだろうか』と一時期は半信半疑になっていた程だ。

 

前世の記憶持ちの私がそうやって疑ってしまうくらいなのだから、他の鬼狩りの考えなんて火を見るよりも明らかだろう。早々に柱達は『鬼を連れている隊士と鬼ブッコロ』状態である。気性が穏やかな者達でさえ『うーん、早く鬼を殺すべきじゃないかな』という顔をしていた。

 

(みんなピリピリしすぎでしょ!! あまりにも怖すぎる。帰りたい)

 

特に鬼へ怒りや恨みを抱いている一部の柱の顔なんか恐ろしすぎて見ることが出来ない。マジで怖い。帰りたい。救えないことに柱の中でも鬼への想いが一段と強い奴と一緒にこの場へ来てしまった。チラッと横を見ると今にもブチギレそうな男――風柱、不死川の横顔が見える。咄嗟に見たことを後悔した。

 

(怖ッ!! いつもより三割増しで怖ッ!!)

 

先程まで私と風柱の不死川は合同任務だった。任務が終わってすぐに会議があるということで共にここまできたのである。それが全ての間違いと気がつくべきだった。

 

鬼殺隊本部、産屋敷に入った瞬間目に入る強張った顔の柱達。

気絶した状態で地面に寝かされている主人公・竈門炭治郎。

屋敷の端の方で一人たたずむ冨岡義勇。

 

コンマ1秒で「アッこれ原作の柱合会議ですね分かります」となったものである。あまりにも見覚えがありすぎて回れ右をしたくなった。だが、出来ない。出来るはずがない。なんせ私も柱。腐っても柱。不死川に何度も「お前弱すぎだ」と言われようとも柱なのである。私は引きつる顔を抑えながら柱達の中に入るしかなかった。

 

まあ、直ぐに後悔するんだがな!!

 

生前の記憶に刻まれている通りに風柱・不死川は禰豆子の入った箱を強奪、のちに日輪刀でぶっ刺しやがったのだ。これだけで頭が痛いというのに竈門炭治郎による反撃の頭突き。格上の相手に躊躇なく攻撃する主人公に思わず戦慄したものだ。それに加え、怒りのボルテージをムクムクと上げていく不死川を見て泣きそうになった。

 

(次の任務、また不死川となんだけど。確実に八つ当たりされる未来しか見えないんですけど!!)

 

あの風柱様とくればムカつくことがあれば私に嫌がらせをしてくるんだよ。勿論、命のかかっている任務中にはしてこない。あいつ見た目に反して中身は真面目だから。仕事はきっちりやる。但し罵倒はしてくるが。罵声を浴びせてくるのは別にいいんだ。不死川は文句を言いながらも私を守ってくれるからさ。問題なのは任務が終わってからである。

 

「よし、お前今から俺の試し切り台だ」

「ファッ」

 

最初にコレを風柱・不死川に言われた時は「何言ってんだお前」と思った。まさか「サッカーしようぜ! お前ボールな!」をリアルで発言されるとは考えても見なかったのだ。どういうことだってばよ…という疑問を口にする前に不死川は私へ向かって切りかかってきた。そう、切り掛かって来たのである!!

 

「気でも触れましたか、不死川?!」

「うるせぇ!!」

 

慌てて自分の刀で不死川の刃を受け止める。ガキンと金属音を立てながら上から降りかかってくる斬撃の重さに頭がクラクラしたものだ。鬼との戦闘よりも怒涛の勢いで目の前に現れる選択肢にマジで泣きかけた程である。いや、実際に泣いた。ボコボコにされ、骨を何本か折った辺りで試合は終了。まだまだ不機嫌な状態の不死川が去って行く様子を見ながら、もう二度と機嫌の悪いあいつに近づくものかと誓った。

 

(ガチギレ不死川の横なんて命が何個あっても足りない!! 移動したい!!)

 

混沌を極める柱合会議に先程、お館様が登場したことにより何とか場は収まった。だが、柱達の不満はモリモリである。気に食わねえというのが前面に押し出されている者達ばかりだ。

 

ちなみに、現在、冒頭で述べたように私は地面に押さえつけられている主人公・竈門炭治郎の側におり、彼を挟んで不死川が隣にいるのが今の状況である。

 

(待ってこのポジションおかしい)

 

原作では私が現在いる位置に蛇柱の伊黒がいたはずでしょ。何で私がこのポジにいるの? 替わって。この位置は何かと問題がある。主に不死川のせいで。替わってマジで。

 

だが、そんな風に私が嘆いている間にも話は進む。

 

原作通りにお館様が主人公の育手の手紙、「もしも禰豆子が人を食ったら炭治郎の師及び同門の冨岡義勇が炭治郎と共に腹を切る」といった内容のものを読み上げた。それに対して炎柱の煉獄や風柱の不死川が反論し、不死川が禰豆子の箱を再び攻撃。彼は禰豆子へ血を与えようとするも、それを禰豆子が拒否。これにより『禰豆子は人を食べない』という証明を柱の前でしてみせた。それを見て、私はほうと息を吐く。

 

(本当に漫画通りに進むんだなあ)

 

同僚達が原作にあった流れと寸分の狂いもなく全く同じ行動を取り、一語一句間違わずに漫画での言葉を口にしている。それに安堵すると同時に一種の気味の悪さすら感じていた。ありとあらゆるものが『鬼滅の刃』と一致しているが、私にとってこの世界は現実だ。ご飯を食べれば腹は膨らむし、怪我をしたら痛いし、夜は眠くなる。現実なのに『作られている』。それが少し気味が悪かった。

 

余談だが、不死川が禰豆子に攻撃したり、それを竈門炭治郎が止めようと走り出したりした時、私は何もしなかった。主人公の隣という原作では蛇柱・伊黒のポジションにいた自分は蛇柱よろしく竈門炭治郎を止めるべきだったとは思う。でも、私は何も話さず、ただひたすらお館様をガン見し、無視を決め込んでいた。……理由? そんなの簡単さ。

 

(怖いんだよ馬鹿野郎!!)

 

勿論、下手に原作に介入したらどうなるか分からなくて怖いというのもある。私は二十五才で死ぬ運命を回避するために上弦の鬼を倒す必要があり、本懐を遂げるには漫画の話通り進んでもらわねば困るのだ。上弦の鬼vs柱&炭治郎の間に割って入り、確実に鬼を殺すために。人として最低ではあるが、呪いを解くためには手段は選んでいられなかった。

 

(それを差し引いても一番恐ろしいのは柱達、なんだよなあ)

 

不死川を怒らせても怖いが、他の柱も怖い。鬼に与すると思われている竈門炭治郎を庇うそぶりを見せれば、柱達からどんな目で見られるか分かったものではない。酷い言い様だが、鬼を簡単に殺せる柱達なんて化け物と一緒だ。そんな奴らから批判されれば私が死ぬ。死んでしまう。竈門炭治郎に柱達が色々な意味で攻略されるまで、中立でいるべきだ。そう考えたからこそ、私は自分のために何もしなかった。

 

――――しかし、それがいけなかったらしい。

 

原作での柱合会議の流れが一通り終わり、私が胸を撫で下ろした瞬間だった。お館様がこちらへ視線を向けて来たのだ。相変わらず優しげな声色で彼は話し始める。

 

「珍しく今日は何も話さないね。君の意見も聞きたいな」

 

こっち見んな!! 話を振ってくるな!!

 

お館様に対して酷い言いようだが、心からの叫びだった。後、お館様、『珍しく』って何ですか。何なんですか! まるで私が好んで自分の意見を話している口ぶりやめてくださいませんか。選択肢のせいで言う羽目になっているだけです。だが、言えない。言えるはずがない。今この場で「これまでの意見、全てゲームの選択肢が教えてくれたからなんです」と発言した暁には頭の病気を真面目に疑われる。それに加えて「何ふざけたこと抜かしているんだ」と半殺しにされかねない。

 

(なんで私、仮にも仲間にここまでビビってんだろうな?? おかしくない??)

 

解せぬと内心で考えた時、一斉に柱達は己の顔をこちらへ向けてきた。可愛い系から綺麗系に至るまで様々なカッコいい、カワイイなどと称される顔面が自分の視界に入ってくる。思わずヒィッと悲鳴を上げそうになった。だが、それを根性で押さえつける。そうやって私が怯えている間に柱達は口々に話し出した。

 

「氷柱たる彼女が会議の場で発言しないなんて確かに珍しいですね」

「頭脳だけで柱にのし上がった奴が鬼殺隊の今後を左右しかねない事案に何故何も言わない? 貴様の取り柄はその頭だけだろう?」

 

蟲柱・胡蝶しのぶが不思議そうに首を傾げる傍ら、蛇柱の伊黒小芭内がネチネチとこちらを責めてくる。それを聞いて私は内心で頭を抱えた。出来ることなら奇声を発して転げ回りたいくらいである。

 

(危惧していたことが現実になってしまった…!!)

 

うおおおと心の中で唸る。そう、私がこの柱合会議から離脱したい大きな理由の二つのうち一つはこれだった。『竈門炭治郎に対する判決の意見を聞かれてしまうかもしれない』――それが最も聞かれたくないことであり、今すぐに帰りたい理由である。

 

私の『氷柱』という立ち位置から見れば、例えお館様が鬼の禰豆子が鬼殺隊に入ることを認めてほしいと発言しようとも反対するべきだ。基本的に鬼狩りになる人間は鬼に恨みを持つべき者たちばかりである。お館様が竈門炭治郎と禰豆子を許しても隊士の心には疑念が生まれれることだろう。それが原因で隊内が瓦解すれば目も当てられないことになる。特に、炭治郎に攻略されていない現在の柱達に私が「竈門炭治郎達を認める」などと言った暁にはフルボッコにされることだろう。現実が辛すぎ。帰りたい。

 

(でも、柱としては反対だけど、私本人としては賛成なんだよね)

 

賛成の理由は勿論、『私が禰豆子を許せば炭治郎がこちらに好意を持ってくれるかもしれない』からである。竈門炭治郎はキーパーソンだ。主人公という特質ゆえに強い敵、上弦の鬼の打倒を運命付けられている。つまり、炭治郎との仲が良くなれば上弦の鬼を殺しやすくなることだろう。私は二十五歳で死ぬ呪いを早く解きたいため、彼と友好関係を築くのは必須だといえた。炭治郎のためでなく私のためというあたり、自分の人でなしさが浮き彫りになるな…。ダメな人すぎる…。

 

(どうする、どうする…?! 反対か賛成か、どちらを言うべきか…!)

 

言いたくねえ!! どちらを発言しても片方に必ず私の悪い印象が残る!! だから帰りたいんだよ私は!! 今すぐお家に帰らせてェ!!

 

禰豆子を肯定すればきっと柱達に嫌われてしまうことだろう。そのせいで弱い私を守ってもらえなくなると困るのだ、私が!!

かといって、今、炭治郎を庇わねば私に対する好感度爆上がりイベントは中々回ってこないだろう。柱達が反対する前で好意的な反応を見せればきっと炭治郎は感動して積極的に私へ関わりを持ってくれるはずだろうからなあ…。もしも反対してしまえば後で彼と仲良くなろうとも普通の好意しか持たないに違いない。炎柱の煉獄のように炭治郎を守って死なない限りは。現在の状況はある意味で最大のチャンスであり、最大のピンチだった。どうする、どうする…?!

 

その瞬間だった。いつものピロリンという電子音が脳内に響き渡ったのは。

 

(選択肢パイセン、お前…ッ!!)

 

そうだ…そうだった…。私には頼れる先輩、選択肢パイセンがいるじゃないか! 鬼との戦闘時や胃痛事案の柱合会議でいつも助けてくれた…うん…?? 助けてくれていたのか…? 死にはしないが私にとっては不本意な選択肢ばかりでは…? うっうん、助けてくれた選択肢パイセン!! 選択肢パイセンならきっと今の私に最良の道を示してくれるはず。確かに今までずっと選択肢パイセンが示してくれていたのは「どうしてこんな選択しかできないの?! 死ね!!」ばかりだったさ。だからこそ、私は君のことが大嫌いだった。でも、きっと今回は違うはず。まるでヒーローのように登場してくれたもん。初めて好きになりそうだ。

 

満ち足りた気持ちで私はそっと目を開ける。そこにはいつも通りのゲームのドット文字で書かれた選択肢が存在していた。

 

 

▼鬼の妹を連れた鬼狩り・竈門炭治郎についてどのような意見を述べる?

①竈門炭治郎については何も述べず、「竈門炭治郎及び竈門禰豆子を私の寺子屋で一か月間、預かりたく思います」とだけ発言する … 上

②「鬼は死ね」 … 下

 

 

――――誰が主人公を預かるかァ!!

 

ふざけんじゃねえ。ふざけんじゃねえ。竈門炭治郎と禰豆子を預かる? ………ハァ?! あの竈門炭治郎と禰豆子を?! ゼッッッッッタイに嫌だ。彼は主人公だ。そう、どんなにいい人でも竈門炭治郎は主人公なのである!! 主人公といえばトラブルメーカー。トラブルを呼び寄せるトラブルホイホイ。キングオブトラブルである。そんな人間を私の下で預かる…?? 確実に問題が起きる未来しか見えねえ。それと同時に私への死亡フラグが乱立するに違いない。……無理! 考えただけで無理!! 恐怖で手が震える!!

 

(選択肢の馬鹿野郎!! お前なんて先輩じゃねえ!! 死ね!!)

 

後、選べる選択肢の内容に差がありすぎじゃない?! 何なの②「鬼は死ね」って。実質選べるのは一択だけじゃん。①『竈門炭治郎については何も述べず、「竈門炭治郎及び竈門禰豆子を私の寺子屋で一か月間、預かりたく思います」とだけ発言する』だけじゃん!! 年々内容が雑くなってきてない?! 大丈夫?!

 

だが、どれだけ嘆いても選べるのは一つだけ。私は泣く泣く選択するしかないのだ。

 

 

▼選択されました

①竈門炭治郎については何も述べず、「竈門炭治郎及び竈門禰豆子を私の寺子屋で一か月間、預かりたく思います」とだけ発言する

 

 

「…竈門炭治郎及び竈門禰豆子を私の寺子屋で一か月間、預かりたく思います」

 

自動的に自分の口が開き、感情が何一つ感じられない声色で言葉が発せられた。その時、周りがザワッとどよめくのが分かり、思わず真顔になる。今すぐ時を巻き戻したい。私が内心で頭を抱えているとお館様が緩やかにほほ笑んだ。

 

「新入隊員は氷柱の君の下で一か月間の研修を必須にしようかとこの前話していたね。導入は来年くらいを見越していたけれど、炭治郎に研修が必要というのが君の意見なら許可しよう。一か月間、任せるよ」

「ありがとうございます」

「炭治郎」

「は、はい!」

「氷柱の下で学んでくるといい。彼女は柱の中で最も知に優れた剣士だからね」

「はい!!」

 

お館様、ハードル上げるの止めて頂けますか?!

 

もう…もう…ほんと無理…。私はクイーンオブ凡人なのにこうも『知に優れた剣士』と呼ばれると恐怖しか覚えない。柱になってからというもの一般隊士達からはキラキラした目で見られるんだよ…恐怖なんだよ…。

 

私が遠い目をしていると、いつのまにか炭治郎は隠に連れられてこの場から退場してしまっていたらしい。いつまで経っても立ち上がろうとしない私を不審に思ったのか不死川がスタスタとこちらへ寄ってきた。ヒッ?! 何?! 全力で困惑している私を余所に、彼はガッと腕を掴んだと思うとドスの利いた声で言葉を発する。

 

「テメェの今言った言葉は意見じゃねえ。ただの提案だァ…」

 

怖ッ?!

 

えっ、何?! 怖すぎない不死川?! や、確かに私も自分の先程の発言は「お館様が意見を求めているのにガン無視して自分の願望(?)を言ってるけどいいのか…?」とは思った。思ったさ。でも、よくよく考えたら、恐らくアレが私にとっての最善だった。炭治郎側か柱側、どっちにも付かずに上手く丸め込むにはあの発言をする仕方なかったのだ。まあ、不死川にとっては私の回答が不満なのは分かるけどさ。

 

(何でこうも不死川は私に突っかかってくるのかな?!)

 

彼の見た目や話し方だけに注目すると不死川はヤベー奴にしか見えないが、その実、柱の中でも常識人である。真面目に任務・書類整理を期限通りに処理し、柱合会議ではきちんと周りの意見を聞きつつ発言するような人間なのだ。グループワークができる男、それが不死川である。それなのに何故、彼は私に対して常に喧嘩腰かつ怒鳴り散らしてくるのか。私、君に何かした?? ねえ何かした?? 本当に辛いんですが。

 

(今は嫌われている原因を考えるよりも助けを求めなきゃ…!)

 

私はサッと周りに視線を走らせる。他の柱達は既に畳に上がり、座布団に座っていた。まるでこちらを気にしていない様子の彼らに頭が痛むのを感じる。炭治郎の裁判が終わったから柱合会議を始めるために席に着くのは当たり前なんだろうけど…けど…!!

 

(私を助けろよ!!)

 

自分の腕が不死川の手でギチギチと締まっていくのを感じる傍ら、必死に助けてくれる人間を必死に探す。その瞬間、水柱・冨岡義勇とバチィッと視線が合った。炭治郎の裁判で中心人物の一人だった冨岡は、周りの柱から離れた所にいたせいかまだ座敷に上がっていなかったらしい。冨岡を見た私はパァと目を輝かせる。炭治郎側の彼なら不死川から私を助けてくれるであろう――――そう考えていた時期が私にもありました。

 

冨岡、無視しやがった!!

 

(冨岡、貴様ァ!!)

 

え? えっ?? 冨岡の野郎なんなの?? 口をパクパクさせたと思ったらスッと一人で座敷に上がって行ったんだけど?? ぶっちゃけありえない。流石に心が折れるんだけど。やっぱり奴の好感度設定だけおかしいでしょ。あれほど好感度向上の選択肢を選んできたというのにまるで上がっている気がしねえ。

 

絶望の淵に落とされ私は呆然とする。不死川が無理矢理私を立たせ、座敷に上がらせるまで真面目に凹んでいた。

 

 

今世の私、不幸すぎやしないか…?

 

 

思わず天を仰いだのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。