そして、お気に入り登録に評価、いつもあざす。投稿ペースはまた加速させるつもり。
突然、本当に突然だった。
意図せずして、早朝に、スマホから大音量で流れ始めた。
「ん〜どうしたのお兄ちゃん……」
「9ちゃん起きちゃったか。まだ朝早いし寝てていいよ」
「う……ん。そうする」
9が再び寝付いたのを見て、俺はスマホの画面を見る。
そこには、大雨の緊急速報を伝える通知が届いていた。
幸い、近くに大きな川はない。よほどでない限り、被害がこっちに及ぶことはないはずだ。
「……災害用の持ち出しバッグ、どこにしまったかな」
誰も起こさないようそっと起き上がって、玄関先までいく。
たしか靴箱の中に……
「あったあった」
リュックを取り出して中身を見る。非常食と固形燃料や断熱シート、それから携帯トイレがそれぞれ一人分しか入っていない。
まだ布団で眠る4人の方を見る。
今度買い足しておくか……
寝直そうかと戻ると、ギュッとシャツの端を掴まれる。
どうやら416が無意識に掴んだみたいだ。父親がいなくて寂しかったりするのかな?
無理に引き剥がすこともないだろう。そのまま再び眠りについた。
=*=*=*=*=
トントントン
規則的な音で目が覚める。416が料理をする音だ。毎朝聞くお陰でこのリズムが心地よくなってしまった。
「おはよう、416ちゃん」
「おはよう、お兄さん。もうすぐできるわ」
「わかった。手伝おう」
よっこいせと起き上がるが、まだ45と9とG11は寝息をたてている。G11はともかく、45と9が俺よりも長く寝ているのは珍しいかもしれない。
「手伝ってくれるんじゃないの?」
「ああ、すぐいくよ」
と思ったが……45と9が俺の足を掴んでいる。
「……どうしたの?」
「いや、それが……動けないんだ」
「それ、起きてるわ」
いや、まさか……
と思って少し足を動かす。すると、足を掴む力が強まった。これは確実に起きてるな……?
「45ちゃんに9ちゃん、離してくれないかい?」
2人は何も言わず、俺の足を掴む手を強める。
「いや、起きてるね!2人とも!」
「バレた!45姉!」
「うん、9!」
「うわっバカヤメロォ!」
そんなに引っ張られるとバランスがぁ!倒れるわけには、倒れるわけにはいかない!
「うごごごごご」
全腹筋背筋をつかってバランスを保つ。倒れるわけには……まだ眠っているG11の上に倒れるわけには……
「残念、私も起きてるよ」
もう、耐えたよね……。もう倒れていいよね……。
なあG11……首元を引っ張るのは卑怯だよ。
俺が布団に倒れ込むのに、それほど時間はかからなかった。いや、首元に抱きつくな!45と9も腰を掴むな!
「416!」
「いまだよ!」
45と9がそう言うと、背中に衝撃がくる。
よつん這いで正面にはG11がいる。45と9は腰に抱きついてきてるし、どうやら416が背中に乗っかってるみたいだ。
「いくよ9!」
「わかったよ45姉!」
「君ら俺の動きを封じて何をする気?いや、待て、45ちゃんに9ちゃん、横腹はヤメ、ヤメロォォォ!」
この後笑い疲れるまでくすぐられ続けた。
=*=*=*=*=
「暇だね~」
「そうだね~」
雨が振り続いていて、部屋の中もジメジメしている。でも……風上の方は晴れているから、そのときに買い物でも行こう。
「ねえお兄さん」
背後から突然416が話しかけてきた。話しかけてくるのは珍しい。
「ん?どうしたんだい416ちゃん」
「なにか嫌な予感がするの」
「嫌な……予感?」
「そう、なにか良くないことが――」
416の声は大きな音にかき消された。ズドーンと言う音は空気を震わせる。その後も何度か鳴り続ける。
「か、雷か。随分と近いなぁ」
窓の方を見れば、キレイに稲妻が見えた。
「えっと、その」
「ん?416ちゃんもしかして雷は苦手?」
416の手は俺の服の裾をギュッと握っている。
「そ、そういうわけじゃな――」
416の言葉は途中で止まった。窓の外が光ったからだろう。少し遅れて大きな音が響き渡る。
「ひ、ヒィッ!」
いや、怖いんだね。いいよいいよ、お兄さんに任せなさい。ああでも服の後ろが伸びそうだ。まあ部屋着だから構わないけれどね。
再びズドーンと近くに落ちる。これは停電の可能性も考慮しておく必要がありそうだ。
「お、お兄さん……」
「45ちゃん?」
「か、かみなり、ズドーンって……」
45もうさぎのぬいぐるみを抱きしめながら416の反対側……つまりは俺の正面から突撃してくる。まいったな、最近身動きが封じられがちだ。あぐらをかいているから、すぐに動けなかった。
ピカっと外が光り、すぐに音が聞こえる。どこからか消防車のサイレンすら聞こえてくる。
「……どうしたの9ちゃん?」
「お兄ちゃんってさ……」
またピカっと外が光る。
「実は雷苦手?」
直後、ズドーンと音がする。
「ままま、まさかそんなわけないじゃないか」
「でも落ちる度に身体がビクってなってるよ?」
「そんなわけ……っ!」
また落ちた。ああ、たしかに苦手だよ!でも雷の怖さというより、爆音が苦手なんだよ!
「そういう9ちゃんは楽しそうだね」
「えっ?楽しいじゃんいつもと違ってさ!」
9は目をキラキラさせながら窓に張り付いている。元気だな……これが若さか。
「これが若さかって顔してるよ」
「G11ちゃん……は平気そうだね」
「さすがに怖がるような年齢じゃないよ。それにコレくらいの音、慣れてるし」
そう言いながら、G11は大きくあくびをした。
「何もできなさそうだし、私は寝るね」
G11はおもむろに近づいてくると、俺の膝を枕にして寝息を立て始めた。いや、動けへん。さらに動けなくなったやん。
「ずるーい!じゃあ私は逆側!」
そういって9は逆側の膝を枕にして寝転がった。うぉん、俺はまるでフルアーマー404だ。なんてくだらないことを考えるくらいしかできなかった。
さあ俺の足に限界がくるのと停電と、どっちが先か勝負しようじゃないか。
ピカッズドォォォォン!
部屋の照明が消える。勝負は案外と早く決着がついたのだった。