404小隊(チビ)は現実へと現れる【完結】   作:畑渚

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第十八話 こんなに広かったかな

「おはよう!お兄ちゃん!」

 

 お腹に重みを感じて、目が覚める。見れば9が俺のお腹の上にのっかって満面の笑みを浮かべていた。

 

「お゛は゛よ゛う゛」

 

 いつもどおりだそうとした声は、ひどいくらいにガラガラ声だった。

 

「あれ?お兄ちゃん?」

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 9をどかして、近くの棚に手をのばす。すぐにマスクをして、体温計を手にとった。

 

 

ピピピッピピピッピピピッ

 

 

 不思議そうにこっちを見つめる9をなだめながら数分待てば、体温が測り終わる。

 

「……G11ちゃん」

 

「ん……どうしたのお兄さん」

 

 布団からのっそりと起き上がって、眠たそうに目元をこすっている。

 

「どうやら風邪をひいたみたいだ。全員退避」

 

「了解」

 

 少ない言葉数で理解してくれたようで、すぐに9と45を抱えて部屋から出ていった。こういうときはしっかり動いてくれるのがG11のいいところだ。

 

「あれ、おにいさ——」

 

 扉をあけてきた416が、ずるずると後ろに引きずられていった。今日はさすがに子供とは距離をとらないといけない。

 

「お兄さん、とりあえず私の部屋に入れてきたよ」

 

「ああ、ありがとうG11ちゃん」

 

 感謝を告げながら、僕は着替える。

 

「ちょっとお兄さん!何をしてるの!」

 

「病院に、いかないとね。伝染病だと困る」

 

「私もついていくよ」

 

「いいや、みんなの面倒を頼むよ」

 

「でも……」

 

 俺は靴をはいて鍵をポケットにしまう。

 

「大丈夫だよ。そんなに熱も高くないからね」

 

「わかった。もしなにかあったらすぐに連絡してね」

 

「うん。じゃあ行ってくるよ」

 

 俺は部屋を出て通路を歩く。

 

 ふと気配を感じて後ろを見れば、3人がぴょこりと部屋から顔を出していた。

 

「ちょっと病院にいってくるよ。いい子にしていてね」

 

 皆がコクリとうなずくのを見て、満足して俺は病院へと向かった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「あー、風邪ですねぇ。一応薬をだしておきますので薬剤師の説明をうけておいてください」

 

 やる気のなさそうな医者がメガネをくいくいとさせている。

 普通の風邪でよかった。昨日は普通に皆と一緒に寝ていたから、変な病気をうつしてしまっていたら大変だっただろう。

 

「お大事にー」

 

 すこしぼーっとする意識を振り払いながら、薬局から出る。少し財布には痛手だったが、はやめに治さなければいけないという謎の使命感が俺をかりたてていた。

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

 近くのコンビニによって、スポーツドリンクなどをかごにいれていく。

 

「おっと」

 

「うわっ」

 

 ふらついた拍子に、ちょうどすれちがった人にぶつかってしまった。

 

「すみません」

 

「ごめんごめん、あたいも見てなかったよ」

 

 そう笑う女性は、本当に気にしていなさそうだった。

 

「大丈夫?すこし顔色が悪いみたいだけど」

 

「ああすみません。風邪を引いてしまったみたいで」

 

「そうなんだ。お大事に」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

 随分とフレンドリーな人だ。ひらひらと手をふると、その人は店を出ていった。

 

「お会計〇〇円になります」

 

 お札を適当に出して、俺も会計を済ませる。熱が上がってきたようで、すこしぼーっとしていた。

 

「ありがとうございました~」

 

 外に出れば、重たい湿気が身体にまとわりつく。額にかいた汗を拭いながら、帰路につく。

 

「ただいま……」

 

 返事はない。当たり前だ。皆は今頃G11の部屋のほうにいるはずたった。

 いいしれぬ感覚に襲われながらも、俺はかってきたスポーツドリンクを口に含んだ。すこし濃いめの味が舌に残って気持ちがわるかった。

 

 がらがらと扉をスライドさせれば、いつもの布団がおりたたまれ、かわりに一人用の布団がしかれていた。普段はしまっているテーブルが出されていて、その上には水とお粥が置かれていた。お粥はまだ湯気を立たせていたので、ありがたくいただくことにした。

 

「これは……、416ちゃんかな」

 

 もはや慣れてきた味に、ほっとため息をつく。きっとタイミングを見計らって置いていってくれたのだろう。

 

「おかえり、お兄さん」

 

「G11ちゃん」

 

「ただの風邪だった?」

 

「ああ、ごめんね」

 

「いいよ。ほら、食器回収しに来たんだから早く食べ終わってよ」

 

「……、そのじーっと見られるとむず痒いんだが」

 

「いいから」

 

「ハイ」

 

 もぐもぐと食べているあいだも、G11はずっとこちらを見つめてきていた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「どうだった?」

 

「ん?ああ、美味しかったよ」

 

「……、そう」

 

 しばらくもじもじとしていたG11は食器を片付けていった。

 

「ほら、はやく横になって」

 

「ああ、ごめん」

 

「ありがとうでいい」

 

「えっ?」

 

 G11は、次はしっかりとこっちを見て言う。

 

「ごめんじゃなくてありがとうでいい」

 

「ああ、ありがとう」

 

「うん。それにいつもいろいろとしてくれてるのはお兄さんの方だし」

 

 飲み物などを枕元に用意してくれる。

 

「それじゃあ、くれぐれも勝手に起きたりしないでね」

 

 そういいながらG11が部屋から出ていく。しばらくすれば、隣の部屋の扉がしまった音がした。

 

 こう、一人でこの部屋にいるのが久しぶりで、なぜだかとても広く感じてしまった。

 


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