「完全快復!」
熱もない、喉も鼻も治った。さすがの治癒力だ。といっても、熱を出してから3日ほどかかっているのは内緒である。久々のほぼ一人生活は寂しさこそ感じたものの、免疫力が低い子供にうつすわけにはいかないと我慢した。
「お兄ちゃん!」
部屋の扉がバタンと音をたてて開いたかと思うと、一番のりで9が飛び込んできた。全快しているとはいえ病み上がりに君のタックルを受けると……くる……
「お兄さん。もう大丈夫?」
「ああ、45ちゃん。いい子にしてくれててありがとう」
「うん、お兄さんがすぐに良くなってよかった」
45の頭を優しくなでると、まるですりつけるかのように目を細める。なんだかんだで人肌恋しかったのかもしれない。
「416ちゃんもありがとう。おかゆ美味しかったよ」
「お兄さん、あれ作ったの私じゃない」
「えっ?」
416はやれやれと首を振った。
「あれはG11さんがつくってたの」
なるほど、食べた時に感想を聞いてきていたのはそういうことか。ようやく違和感がわかった。
「じゃあ後でお礼を言っておかないとね」
「それより早くいこ?」
9が服を引っ張っていく。今日は近くのショッピングモールに出かける予定だった。
「G11ちゃんは?」
「もう少しかかるって」
「そうか……じゃあもう少しゆっくりしていこうか」
L|NEでもう少ししてから行くと連絡して、布団を干す。換気をすれば、夏の新しい空気が室内を満たす。
「今日もあついね~」
9が両手に荷物を抱えながら戻ってくる。あちらの部屋に退避させていたゲーム機やおもちゃだ。
「お兄ちゃん!しゅぎょうしたから一回やろ?」
「はは、こんどは負けちゃうかもなぁ」
差し出されたゲーム機をテレビに繋いであげれば、9は慣れた手付きで設定を終わらせる。
その後、対戦格闘ゲームで勝ってしまって9が再戦をごねるのは、わかりきっていた未来だった。
=*=*=*=*=
「あーまた負けた!お兄ちゃん強い!」
「9、こういうときは……」
「そうだね45姉!」
何をする気だおまっちょっ
「45ちゃん!」
「だーれだ」
目を小さな手で覆われて、視界がほとんどない。そしてスピーカーから聞こえる体力を削られる音。
「9ちゃん?」
「あ、あと少し……!」
「9……早く……」
俺は一気に立ち上がる。きっと子供の腕力なら耐えきれずに手を離すだろうとたかをくくっていた。
「ひゃあ!」
「45姉!」
その予測は間違っていなかった。たしかに45は目から手を離した。しかし、見込みがあまかった。
離された手は反射的に首に巻き付くように強く握られ、立ち上がった身長差で俺は首を後ろの方へと引っ張られる。
つまりは、しっかりと首が絞まっていた。
「う、ぐぐぐ」
「ああ!負けちゃう!」
「9……も、もう限界……」
9のキャラの体力を消し飛ばした後、俺はすぐに座って息を吸い込む。
「はぁはぁ……し、しんどかった……」
そんな俺には脇目も振らず、9はコントローラーをおいて45の方へとかけよる。
「45姉……45姉!」
「9……勝負には勝てたの……?」
「ごめん……負けちゃった……」
しゅんとなっている9の頭を、45は優しく撫でる。
「いいの……。9が元気ならそれで」
そうつぶやきながら、45はゆっくりと目を閉じていく。
「45姉?45姉ーーーーー!」
「強く……なるのよ……」
いや、俺は何を見せられているんだ?この学芸会ではトップまちがいなしの二人の子役はいったい?
ぴこんという通知音が俺を現実に戻す。G11からのメッセージだった。
「よし、G11ちゃんも準備できたみたいだから行こうか」
はーいと元気よく返事をすると、それぞれポーチを持って外に出る。俺も出て鍵を閉めると、ちょうど隣の部屋の扉も開く。
「あっお兄さん」
「G11ちゃん、ジャストタイミングだね」
「うん……」
「ああ待って!」
大事なことを忘れている。
「鍵、閉め忘れてるよ」
「えっあっほんとだ!あ、あれ鍵ない、おいてきた?あれ?」
慌ててポケットやトートバッグの中を探るG11だが、どうやら見つからないみたいだ。
「はぁ、まったくもう」
それを見かねて416がするすると部屋の中に入り、すぐに出てくる。
「はい」
「あ、ありがとう」
恥ずかしそうにG11が笑い、416はあきれつつも撫でられる手に頭をすりつけている。
「それにしてもよくすぐに見つけたね」
「べ、べつに部屋の中で見た事がある場所を探しただけ」
「それでもすごいよ」
416はじっと見つめたあと、そっとうつむく。そして俺に頭頂部を見せたまま、固まってしまった。
……なぜか変な空気になってきたな。
「お兄ちゃん、多分撫でてほしいんだと思う」
9がコソコソと教えてくれてようやく理解する。
「ああ、ごめんごめん。よし、すごいね」
416の頭をなでると、先程のように気持ちよさそうに目を細めた。なんというか、まるで犬か猫の相手をしているようだと思ったのはここだけの話だ。
「それよりお兄さん、バスの時間が」
「ん……?」
腕時計を見ると、ギリギリの時間になっていた。
「ほら!急いでお兄ちゃん!」
9が走って先行し、45と416もそれに続いて走っていく。
「ああ!転ばないようにね!」
「うん!」
元気よく返事をして、3人ともバス停へと走っていった。
「よし、行こうかG11ちゃん」
「え!ああうん」
G11は、ほぼ無意識に差し出した俺の手を優しく握り返してきた。
次回、特別編 乞うご期待