404小隊(チビ)は現実へと現れる【完結】   作:畑渚

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この先は覚悟のあるものだけ読み進めるべし
特別編ということでまあ、その、本編とは別の楽しみ方をしてください


第二十話 特別編 別に惚れたってわけじゃないんだからね

「おい!ちょうどよかった!」

 

 昼食を終え、食堂から次の講義に向かおうとした時だった。サークルでいつもよくしてくれている先輩の声に俺は振り返る。

 

「おまえ、今日暇か?」

 

「暇って……、まあサークルの後はなにもないですけど」

 

「よし、これでラスト一人確保だ。おーい!見つかったぞ!」

 

 先輩は吹き抜けから上の階へと叫ぶ。すると先輩の同級生たちがひょっこりと顔を出した。

 

「おいおい、大丈夫かよそいつ」

 

「あれじゃ、イチオシの後輩とかいってた奴じゃろ」

 

「いいんじゃねえの?どうせ数合わせだ」

 

 口々にそんなことを言われる。

 

「あの、先輩。いったいなにが」

 

「バーカ、決まってるだろ?合コンだ。一人足りなくてな〜困ってたんだよ」

 

「困ってって。一人くらいいいんじゃないですか」

 

「今回ばっかしはそうも行かねえんだよ!」

 

 そう言いながら先輩は写真を見せてくる。

 

「WAちゃん、お前らの学年の高嶺の花!あっちが連れてくるらしいんだ。なのにこっちの人数揃わなかったらカッコつかねえだろ?」

 

「は、はぁ……」

 

「まあそういうことだから頼んだぜ!」

 

「は、はい……」

 

 今晩の地獄の晩ご飯が決定した瞬間だった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 その日は講義が始まってもあまり落ち着かなかった。いや、落ち着かないのも仕方がないだろう。何故だか今日に限って、俺の前に例のあの子が座っているからだった。

 

 WA。物静かで美人で、まさしく高嶺の花を体現してるような子だ。普段から大人びた振る舞いでいるためか、言ってしまえば話しかけづらい。もちろん女友達はいるらしいが、話の中心に登ることは少ないのかいつも輪の隅の方で静かにしている。

 

「じゃあテストの模範解答だ。点数が高い生徒の答案を貸してもらった」

 

 教授がスクリーンに映し出した解答は、名前こそ隠されているものの、きっと今日も彼女のものだろう。成績もズバ抜けてよく、こういった成績に絡むことなら基本的に彼女が一番上にいた。

 

「まさしく模範ってところだな。むしろ分かり易すぎるくるいだ。皆もこのくらい勉強するように。それでは今日は以上だ」

 

 まあここまで書き連ねてなにが言いたいのかというと……

 

 

 この大学に彼女と釣り合う男は存在しない。

 

 

 ナンパや呑みの誘いで玉砕したという男は数知れず、女同士ですらあまり行かないという話もある。

 

 講義が終わってボサボサと片付けていると、WAさんが立ち上がる。ワインレッドの眼鏡を外してケースにしまうと、突然その場にしゃがみこんだ。

 

「これ、落としてますよ」

 

「ん?ああ、ありがとうございます」

 

 そう言って俺に何かを手渡すと、教室を出て行ってしまった。

 

 俺はしばらくその後ろ姿を見つめた後に、受け取ったものを見る。それは小さくなった消しゴムだった。残念ながら俺のものじゃあない。きっと近くに落ちたていたから俺のだと勘違いしたのだろう。

 

 まあ縁起はよさそうだと、俺はポケットにそれを突っ込んでから荷物を片付けた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 サークルの終わりに、先輩が一方的に肩を組んでくる。

 

「逃げなかったな」

 

「逃げるわけないじゃないっすか」

 

「いやー、WAちゃんがくるってことだしビビるかなってな!」

 

「ビビリはしませんけど……、あっちはどういう集まりなんですか」

 

「仲良しグループってだけ聞いてんな」

 

「じゃあWAさんのいるあのグループですかね」

 

 講義でよくいる中心タイプのグループだ。とくにリーダーの子はよく彼氏を取っ替え引っ替えしていると聞くし、きっと先輩たちに目当てがいて組んだんだろう。対価にWAさんを呼んでまで。

 

「どうだ。お前から見て可愛い子はいるか?」

 

「まあ皆可愛いと思いますよ」

 

「はぁ……それだからおまえは」

 

「……?どういうことですか?」

 

「つまりはだな、目当ての子はいるのかってことだ」

 

「いえ、とくに」

 

 今日は本当に付き合いできただけだ。そりゃ彼女の一人でもできれば大学生活は変わるだろうけれど、今日のメンツでは一歩引かざるをえない。

 先輩たちはまあ言ってしまえばモテる。おそらくあっちのグループは俺に目なんて向けないだろう。

 

「お前そこはWAちゃん持って帰りますくらいなぁ」

 

「ははは、自分には無理ですよ」

 

「わかんねえぞ?ああいうタイプは実は前から〜とか言い出すんだ」

 

「やけに押してきますね」

 

「まあおまえにとられるのはシャクだから俺も狙っていくけどな」

 

 そういう先輩は、まあ言ってることはアレだが見てくれはいい。これはワンチャンあったりするのだろうか。

 

 

 

 

 などと考えていたら、店についてしまった。もうすでに他のメンバーは中にいるらしく、個室へと案内される。

 

「いやー遅れてすまんね、片付けに時間かかったわ~」

 

「おいおっせ~ぞ~」

 

 先輩が軽い口調で部屋に入っていくのに続く。やはり女性陣のメンバーは想像どおりだった。

 

「じゃあ適当に席替えするか~」

 

 のりの軽い男がそう言って、女子側の提案によって誕生日順ということになった。

 

 

 どうやら偶然というのはあるらしい。夏という早い時期にも関わらず、俺が一番はやい誕生日だった。そして対面——つまりは俺の次に誕生日がはやい人は、WAさんだった。

 

「あ、ども」

 

 WAさんは無言でコクリと頷いた。今日の講義で見た時と服が変わっている。どうやら少し気合が入っているようにも見えた。

 

「それじゃあ飲もうか!すみませ~ん」

 

 先輩が店員を呼んで皆アルコールを頼んでいく。俺はとりあえず先輩たちに合わせて生ビールを、女子側は適当に軽いサワー系を頼んでいた。

 

「私ホワイトサワーで!WAちゃんは?」

 

「わ、私も同じものを」

 

 グループの中心核の女子に聞かれて、WAさんは慌ててそう答えていた。アルコールに弱いなら隠すこともないだろうに……。なんだかこうかわいそうに思えてきた。きっとある程度無理に誘われたに違いない。

 

「じゃあかんぱ~い!」

 

 グラスを鳴らす。とりあえずグラスの生ビールをグッと飲み込んだ。独特の苦味が、舌をしびれさせる。

 

 WAさんもちびちびとグラスの中身を消費していっていた。

 

 

 料理が来るとともに、皆の談笑の声も一層大きくなる。アルコールありの飲み放題のため、次々にアルコールが運ばれてくる。はじっこの席にいる俺は、無駄にたくさん頼まれたアルコールが流れてくるものだから、ついついのみすぎてしまっていた。

 

「う、うう……」

 

「WAさん?」

 

「い、いや、大丈夫。まだ酔ってない」

 

「そ、そう……」

 

 少し頬を赤らめてはいるけれど、まだ意識はしっかりあるようだった。

 

「よーし、席替えってことでいっこ隣にずれよ~!」

 

 いつのまにか流れでそんな話になったようだった。反時計周りにズレるとなると、俺は対面の席へと移動しなきゃならなかった。そしてつまりはだ、つまりはさっきそこにいたWAさんの隣に座るということになるというわけで……

 

「あの……大丈夫……?」

 

「うー?ぜんぜん酔ってない、酔ってないんだかりゃ」

 

 あきらかにフラフラし始めたWAさんと、何度か身体がぶつかる。香ってくるほどよい香水の匂いが、アルコールで鈍った鼻にもよく効く。

 

「ほら、水のんで」

 

「だいじょうぶだもん」

 

 いつものクールさはそこにはない。もはやだだをこねる猫のようだった。

 

「WAちゃん大丈夫?」

 

「ほらお茶お茶」

 

 周りもWAさんの異変に気がついたのか、視線があつまりつつあった。

 

「だ、だいじょうぶっていってるでしょ!」

 

 そういって目の前のグラスを一気に飲み込んだ。目の前におかれていた、俺ののみかけの、赤ワインを。

 

「あの……WAさん?」

 

 グラスを傾けた姿勢で固まっている。

 

「ヒック」

 

 固まった場に、一人のしゃっくりが響く。言わずもがなWAさんのである。

 

「帰る」

 

 突然、WAさんは立ち上がる。しかしアルコールが想像以上にまわっているのか、ふらりと身体が揺れる。

 

「あぶない」

 

 つい反射的に身体が動いて、WAさんをささえる。WAさんは俺の腕を支え代わりにして、そのまま外に向かおうとしている。

 

「ううん……帰る……帰るんだから……」

 

「まったく……おい、送ってってやれ」

 

「俺がですか?」

 

 先輩はため息をつきながらそんなことを言う。まあ、たしかに腕を掴んできているこの手は、なかなか離してくれそうにもない。

 

「でもWAさんの家知らないですし」

 

「近いし……自分で帰る……」

 

 そうはいいながらも、掴む力が緩むことはない。顔はムスっとしていているものの、腕に顔を擦り付けて離してくれない。どこかで見たことがあると思ったが、出かける主人を離さない猫にそっくりだ。

 

「ああもう……、じゃあお先に失礼しますね!」

 

 二人分以上のお金を適当に先輩に握らせて、ぐいぐいと引っ張るWAさんに促されるがままに店を出る。夜風にあたると身体が急に冷えて、アルコールでぼうとしていた頭がはっきりしていく。

 

 そして冷静になるにつれて、今の現状を再認識し始める。お持ち帰り……という判定に入るのか?いや、というか何だこの香る匂いは。香水だけじゃない。なんだか別のなにかを感じる。

 

「ん……こっち……」

 

 引っ張られるようにして住宅街の方へと導かれる。

 

「ここ」

 

「は、はぁ。ここかぁ」

 

 そこには想像以上に大きいマンションがあった。エントランスに入ると、受付の男性が深々と頭を下げる。

 

「WA様、お帰りなさいませ」

 

「うん……ただいま」

 

 少し照れくささを隠すように、WAさんは俺の後ろに隠れてグイグイとエレベーターホールへと押してくる。

 

「ああ、お連れ様」

 

「ん?俺ですか?」

 

「なにかご入用の際はフロントまでお電話ください」

 

「……、ここってホテルでしたっけ」

 

「いえ、これは個人的なサービスですので」

 

「ど、どうも……」

 

 よくわからないがお金がかかっていることはわかる。育ちの良さは節々から感じていたけれども、どうやら想像以上の金持ちのようだった。

 

「WAさん、何階?」

 

「2階」

 

 2階なのにエレベーターをつかうのかという言葉をグッと抑えて、ボタンを押す。エレベーターが上昇を始め、すぐに停止する。

 

「こっち」

 

 すこし酔いがさめてきたのか、WAさんは自分でしっかりと歩くようになってきた。しかし俺の袖をクイクイと引っ張るのでしょうがなく着いていく。

 

「少し散らかってるけど……入って……」

 

「いやいや、俺はもう帰らせてもらうよ」

 

「いいから……」

 

 袖を引っ張る力が強くなってきたので仕方なく部屋にお邪魔する。綺麗に片付けられた、シンプルな部屋だった。

 靴を脱ぎ捨てたWAさんは今度はしっかり腕を握って引っ張ってくる。俺も靴を脱いで、引っ張られるがままに奥の方へと進んでいく。

 

 後ろでカチャリと、自動で錠がかかる音がした。

 

「うう……」

 

「WAさん?」

 

「眠い……、おやすみ……」

 

 そういって、ベッドに身を投げ出す。そう、俺の腕を掴んだまま。

 

「あの……」

 

 声をかけた頃には、もうWAさんは寝息を立て始めていた。寝ているだろうに、俺の腕を離さないどころか、手に頬を擦り付けてくる。

 

「猫だ」

 

 俺はそうつぶやいて、ベッドに座り込む。芳香剤の香りが、だんだんと頭をリラックスさせていくのを感じ取っていた。

 

 アルコールも十分にまわっている俺が、睡魔に勝てるわけもなかった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 パチリと目を開ける。知らない天井だ。

 

 右手に柔らかく温かい感触を感じて、そちらを見る。

 

 目を細めてすりすりと頬に俺の右手を擦り付けている誰かさんと目があう。

 

「あの……えっと……おはよう?」

 

「なっなっ……!」

 

 どうやら彼女も寝ぼけていたらしい。目を見開いて、顔が急速に真っ赤にそまっていく。

 

「なんでここにいるのよ!」

 

「そりゃWAさんに引っ張られたからですが」

 

「あっえっ……たしかに昨日……てことはどこまで夢……?」

 

「へっ?」

 

「ああでももう今さらよねもう後にも引けないし」

 

「あの……WAさん?」

 

「ふふ、ふふふ」

 

 なんだかぐるぐる目で迫ってくるWAさんは、なんだかこう恐怖を感じた。

 

「そ、それじゃあ俺はここらで失礼!」

 

 急いでベッドから飛び起きて、バタバタと玄関へと向かい、靴のかかとを踏んで扉に手をかける。

 

 ガチャガチャ

 

 ところがどういうことか、鍵が開かない。

 

「私にあんだけのことをさせたんだから……責任とりなさいよね」

 

「いや、何も、何もしてない気が」

 

「うるさい!いいから私の言う通りに彼氏になりなさいよ!」

 

 頭の中をハテナが埋め尽くす。

 

「いや言う通りにってそんなことは何も」

 

「えっ……えっ?」

 

 真っ赤な顔がさーっと青くなっていく。赤くなったり青くなったり忙しい顔色である。

 

「ちょっとまってください。そういえば夢だとかなんだとか言ってましたよね?いったい夢の中で俺が何したっていうんですか」

 

「えっそれはその……」

 

 こんどは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「ま、とりあえず俺は帰りますね」

 

 そういってまたドアノブに手を掛けるが、鍵は解除されない。

 

「鍵は開かないわ」

 

「な、なんで?」

 

「私が遠隔でロックしてるから」

 

 WAさんの方を見れば、右手に握り込んでいるものがある。

 

「あの、帰りたいんだけど?」

 

「私の彼氏になるなら開けてあげる」

 

「え?えぇ……」

 

「ねえ、どうするの?」

 

「一応聞いときたいんだけどさ」

 

「うん」

 

「彼氏にはならないっていったらどうなるの?」

 

「彼氏になってくれるまで帰さない」

 

 だめだ、話が通じる気がしない。

 

 いや、でも考えてみれば、大学1の美女からの告白を受けているんだ。これは喜ぶべきことなのか?と、とりあえずここは……

 

「わかった!彼氏になるよ。俺でいいなら」

 

「本当に?よかった」

 

 うしろでガチャリと音がする。本当に鍵を解除したようだ。

 

「が、学校では内緒にしてよね!」

 

「ああ、わかったよ」

 

 もうわけがわからない。とりあえずはやく自宅に帰りたかった俺は、てきとうに返事をしてその場を逃げるように去った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 滑り込むように講義室に入った俺は、その数分後には頭を抱えていた。

 

 たしかにWAさんはいつもどおり、そしてこれまで通りだった。しかし周りがそうではない。明らかに情報が漏れている。明らかにこちらを見ながらコソコソと言われるのは気分が良いものではない。

 

 講義が終わってから逃げるように講義室を出ると、たまたま先輩にすれ違う。

 

「おっ!」

 

「先輩、こんにちは」

 

「おまえ、やったなぁ!」

 

 そういいながらボンボンと背中を叩いてくる。

 

「あの、先輩。何がですか?」

 

「何ってそりゃぁ……WAちゃんと付き合うことになったんだろ?」

 

「あの、それどこから聞いた情報ですか?身に覚えが」

 

「なに、とぼけんなよ。本人から聞いたぞ」

 

「はっ……えっ?」

 

「そもそもあの合コンだってそもそも……おっと」

 

「先輩?」

 

「なんだ、めずらしく満面の笑みなんか浮かべて」

 

「ちょーっとお話聞かせてくださいねぇ」

 

「やだなー。じゃあ次の講義に行くかー」

 

「先輩、昔の彼女さんに連絡しましょうか?」

 

「ハイナンデモハナシマス」

 

 

 つまりは、昨日の合コンはWAさんと俺とをくっつけるために企画されたものであり、主催は女性陣グループのリーダー、隠れた恋心を後押しするために俺にけしかけたと。

 

「まあ……そういうことかと思いましたよ」

 

「……、別れるのか?」

 

「……、どうしましょうか」

 

 すぐに別れたいというほど嫌いというわけでもない。そもそも、いままで学校での表面上のWAさんしか見ていなかった。きっと彼女は、もっとよく話して、感情的で、そしてクールと言うよりかはかわいい方な気もする。

 

「ならしばらく付き合ってみろよ。そこから考えるんだ」

 

「彼女を何人も乗り換える先輩の言う言葉はためになりますね」

 

「うっ、おまえってそんなに毒舌だったっけか」

 

 まあすこし強めにでもあたらないとわりにあわない。

 

 

 突然、スマホが震える。見れば、WAさんからのメッセージだった。

 

 

「連絡先教えたのは俺じゃないからな!じゃあな~!」

 

 そういって先輩は逃げていってしまった。

 ため息をつきながらアプリを開くと、つまりは昼食のお誘いだった。

 

「別に来なくてもいいって……、しかたない。いくか」

 

 

 

 

 これは突然俺にできた、素直じゃないのにベタベタに甘えてくる彼女のお話。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ねえ、暇ならお茶しない?」

 

「そんな時間とらせないからさぁ」

 

 ああ、面倒だ。このような容姿だからか、よくこういうのに絡まれる。今回のはひときわ面倒なタイプの人種だった。冷たくあしらおうにも、離れてくれそうにない。

 

「ごめん!そこの人たち避けて!」

 

 突然、ナンパ男たちとの間に自転車が急ブレーキをかけながら割り込んでくる。

 

「あっぶね!いやーすみませんすみません」

 

「てめぇ!」

 

「あぶねえだろ!」

 

「いや、ほんと、怪我なくてよかったっす!すみませんすみません!」

 

 ペコペコと頭を下げる自転車の持ち主に、ナンパ男たちは唾を吐き捨てながらどこかへ言ってしまった。

 

「君も怪我がないみたいでよかった」

 

 そういって手をさしのべた彼は、どこかで見覚えのある顔だった。たしか同じ大学の……、それ以上の情報は持ち合わせていない。

 その大きな手を借りて立ち上がると、私は汚れた服の土を払う。

 

「あぶないじゃない、少しは前を見て運転することね」

 

 そんなふうに強い言葉をかけても、彼は申し訳無さそうに頭を下げるだけだった。

 

「本当にごめん。っと急いでるからじゃあね!」

 

 そういって自転車にまたがると、すぐに全力でどこかへと向かっていった。

 

 それが、私が彼を認識した最初の日だった。

 その日、講義室の真ん中の方で「講義の時間一時間間違えて早く来ちゃったわ」なんて友達と談笑する彼を、無意識に目で追っている自分がいた。

 




どうしていつもの3倍書いているんですか?
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