「G11ちゃん、今どこだい?」
ようやくお金を下ろしてから、電話をしてみる。どうやら水着売り場の近くにまだいるようだった。
「わかった、もう少ししたら向かうからそこにいてくれる?」
返事を得てから、ため息をつく。
今、俺のズボンは小人に掴まれていた。
「あの……、どうしたんだい?」
「お兄ちゃんだれ?」
こっちが聞きたい。この少女、突然掴んできて離そうとしない。もちろん無理やり振り払うこともできるだろうが、それで泣かれたらどうしようもない。
「お母さんかお父さんは?」
「いな~い」
デリケートな問題が発生した。なんでこんな地雷級の幼女から捕まってしまったんだ俺は。
頭の中では、子供たち3人に振り回せるG11の幻影が助けを求めてきていた。
「よし、じゃあここに詳しいお姉さんがいるところにいこっか」
「ヤダ」
うーーーーん?どうしろというのだろうか。迷子センターに押し付けようにも、この幼女はその場から動こうとしない。
「お兄ちゃん困ってるの?」
そうだね君で困ってるよ。なんて言えない。
「私が助けになってあげる!」
それはありがたい。じゃあぜひ迷子センターに行ってもらいたい。
残念ながら今日は混雑してる。俺に暇があればこの子の保護者をみつけてもいいんだけども、難航しそうだ。
それに、皆を待たせている。残念ながら暇もない。
「お兄ちゃんはさ、好きな人いる?」
「どうしたの唐突だね」
「いいから答えて!」
好きな人……、好きというのがよくわからないけれど、いわゆる恋人候補ってことなのだろうか。
「いないならウチのおねえのお嫁さんにしてあげる!」
「うん、言うならばお婿さんだね。僕は男だよ」
「そんなこといいから!」
「いないと思うよ」
「よかった!早くおねえに会わせないと!」
大変な家庭なんだろうなぁ。父も母もおらず、こんな小さい妹と姉だけ。懐に入ってるお金が自分のものだったら思わず渡してたくらいだ。
「おねえ!」
「もー!どこ行ってたの!」
幼女が大声でそう呼ぶと、通路の奥からズンズンと速歩きで誰かが迫ってくる。
「おねえ!見つけた!」
「なにを?」
「お嫁さん!」
口を開けて固まったまま、その女性は俺の方に視線を向ける。いや、そんな目で見ないでくれ。
「あれ、どこかで会ったことあるっけ?」
「ん?」
女性がじーっと見てくるもんだから、思わず視線をズラした。
「わかんないや。それで、あたいの可愛い妹に何の用?」
「それはこっちのセリフなんですがね。まあお姉さんが見つかったみたいで良かったです」
「そうみたい……だね。迷惑かけてごめんね?」
「いえ、元気でいいじゃないですか」
「変なこと口走ったりしなかった?」
「うん……まあ大丈夫でした」
「ねえねえおねえ」
「もう、お嫁さんなんていうから驚いたじゃん」
「だって」
「だってもあさってもありません」
「むーっ!」
「ほら、行くよ!」
ごめんねとペコペコしながら、女性は幼女を引きずっていった。まるで嵐のような姉妹だった。
=*=*=*=*=
「あ、お兄さん」
「G11ちゃん、ごめん待たせたかな」
「うんにゃ、みんなまだ遊んでるし」
子供たちは皆、おもちゃ売り場のぬいぐるみコーナーにかじりついていた。なんというか安定してわかりやすくて助かる。
「よし、そろそろ15時か」
そう言ってみると、おそろしい勢いで3人ともこちらに振り向く。特に45なんかは、溢れんばかりの期待に満ちた目をしている。
「入り口付近にあったパンケーキ、食べにいく?」
返事はここで語るまでもないだろう。
数分後、頼んだパンケーキの大きさにあたふたしながらも夢中で頬張る子供3人プラスαをながめつつ、俺はコーヒーを啜るのだった。
「お兄さんはパンケーキよかったの?」
「ああ、まあ気になりはしたけど……」
最初こそは勢いよく食べていた3人だったが、先程からあまり進んでいない。やはり子供からしたらここのパンケーキは大きかったようだった。
「なるほどね」
「G11ちゃんは良かったの?」
G11ならきっと食べるだろうと思っていたんだが。甘いものも好きなほうだったはずだし。
「わ、私は今日はいいよ」
そういいながらも、G11はチラリと水着のはいった袋を見た。なるほど、まあ女の子だし気にするのも仕方ないか。
「お兄ちゃん……」
「ん?9ちゃんどうした?」
「ごめん。お腹いっぱい……」
「ああ、いいよ。残りは俺がもらおうかな」
「ありがとう!」
9から皿を受け取ると、45と416も恥ずかしそうにこちらを見る。
「二人もかい?」
「うん……」
「ごめんなさい」
「次からは食べる量を考えて注文するんだよ?」
コクリと頷いたのを見て、二人からも皿をもらう。
「しっかし、3皿かー。少し多いかなぁ」
少しわざとらしく隣を見れば、じっと皿の上のパンケーキを見ているG11がいる。
「G11ちゃん」
「あっうん何?」
「俺だけじゃ少し多いから手伝ってくれないか?」
「えっ」
「俺も食べ過ぎると晩ごはんが入らなくなるからさ、頼むよ」
「うん、しょうがいないなぁ~」
そういいながらも、G11は満面の笑みでパンケーキを頬張るのであった。