404小隊(チビ)は現実へと現れる【完結】   作:畑渚

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第27話 ありがとう

 メインとなっているらしい大きな水槽の前には、数組分のソファが設置されていた。

 水槽に釘付けな子どもたちを見守りながら、俺はソファに腰掛ける。落ち着いてみると縦にも横にも大きな水槽だ。

 

「ふぅ……」

 

 館内は快適そのもので、薄暗いのもあってくつろいでいると寝てしまいそうだ。

 

「お兄さん」

 

「G11ちゃんも休憩?」

 

 G11ちゃんも俺の隣に腰掛ける。

 

「疲れちゃったので」

 

 ペットボトルを開けながらそういうG11ちゃんも、どうやら若干眠たいらしい。

 

「このまま……」

 

 水槽とそれから子どもたちを眺めていると、G11ちゃんが突然ポツリとつぶやいた。

 

「このまま?」

 

「あっいや……その、このままずっと続けばいいのになって」

 

「俺もそう思うよ」

 

 本心だった。親元を離れて一人暮らしだった。そんな人肌離れた夏休みを過ごしていたのだ。だから皆といろいろなところに出かけるこの日々は、俺にとっても続いてほしいものだった。

 

 しかし、何事にも終わりというものが存在する。夏休みというものは終わるものなのだ。

 

「また、皆でいろんなとこに行きたいな」

 

「そうだね」

 

 同意の声を聞きながら、俺はソファから立ち上がった。荷物を持ち直して子どもたちの方に戻る。

 

「あっお兄ちゃん!先に行ってもいい?」

 

 まだ水槽に食いついている45ちゃんと416ちゃんと違い、9ちゃんは先に進みたいようだった。何か目当てのものがあるようでもあった。

 

「待って、俺も行くよ」

 

 先に行こうと手を引く9ちゃんをなだめつつ、G11ちゃんに目配せする。どうやら伝わったようで、肩をすくめつつも了承してくれた。

 

「それで、9ちゃんは何を見たいの?」

 

「えっバレてた?」

 

 そりゃもちろん。45ちゃんのことを置いて自分だけ先に行こうとするあたりがいつもと違う。

 

「えっとね……これ!」

 

 そういってパンフレットを開き指差したのは……

 

「ああ、そういうことか」

 

 水生生物とのふれあいコーナーだった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 なるほど9ちゃんが2人を呼ばないわけだ。

 

「うわぁ!ぷよぷよしてるー!」

 

 ヒトデだとかそんな触れ合える動物を、とったどーと言わんばかりに持ち上げているのは天真爛漫な笑みを浮かべた9ちゃんである。

 

「見てみてお兄ちゃん」

 

「ん、なんだい?」

 

「かめ!」

 

 甲羅をガッシリと掴まれた亀は、ジタバタと手足を動かしていた。

 

「かわいそうだから離してやりなさい」

 

「はーい」

 

 亀を置いてから、9ちゃんは手を洗いに行く。しかしその手についた匂いはとれなかったらしく、確認するかのように何度も自分の手の匂いを嗅いでいた。

 

「もう満足したのかい?」

 

「うん。45姉たちと合流しよ!」

 

 今回は手をつないでこようとしないまま、45ちゃんの方へと走っていこうとする。

 

「走ると危ないよ!」

 

「はーい」

 

 ピタッと足を止めて、それから急かすように早く早くとぴょこぴょことしている。

 

「よし、行こうか」

 

「……、うん!」

 

 追いついた俺は手を差し出す。9ちゃんはしばらく悩んだ後、その手を握り返してきた。

 大丈夫。変な匂いがうつったら洗えばいいだけさ。

 

 なお、そのあとに合流した3人から距離をとられたのは解せぬ。

 

「それよりほら、あっちにイルカがいるんだってよ!」

 

「イルカ!?」

 

「あっちあっち!早く行こ、45姉!」

 

「あっふたりとも待って~」

 

 G11ちゃんが9ちゃんと45ちゃんを追いかけていく中、俺の服の裾を掴んだ416ちゃんがくいくいと引っ張ってくる。

 

「どうしたんだい、416ちゃん」

 

「えっと、その」

 

 なんとなく言葉を決めかねているようだった。

 

「楽しかったかい?」

 

 416ちゃんは無言で、コクリとうなずいた。

 

「また、どこかに行こうか」

 

 また、コクリとうなずいた。

 

「優しいのね」

 

「言われなれてるよ」

 

 お世辞としてが大半だけどな。

 

「また、水族館にいける?」

 

「今度はいつ行けるかな」

 

「……」

 

「冬休み……は俺が厳しいかもな。春なら時間がいっぱいあるんだけど……416ちゃんたちの学校がどうかな」

 

「……」

 

「まあ、俺は時間が有り余ってるから、普通の土日でも行けるかもね」

 

 だから……

 

「だからそんな悲しそうにするんじゃないよ」

 

「そう……ね」

 

 俺は少しうつむいている416ちゃんを撫でようとして、自分の手が磯臭かったことに気がつく。しばらく迷ったがしかし、抵抗する様子もないので俺は頭を撫でた。目を細めて静かに撫でられる様子はまるで猫だ。

 

「よし、皆に追いつかなきゃ」

 

「……っこ」

 

「ん?なんだい?」

 

「だっこ……」

 

「……」

 

「ダメならいい」

 

「わかったわかった!ほら、おんぶでいいかい!?」

 

 416ちゃんがこういうことを言うのが珍しすぎて、ついつい固まってしまった。しゃがんでやると、すぐに後ろに回って、背中に小さな体重を感じる。

 

「……ありがと」

 

「どういたしまして」

 

 それだけいうと、416ちゃんは静かになった。どうやら、寝てしまったらしい。

 

「お疲れ様、いつもありがとう」

 

 いつも家事をしてくれる小さな彼女に、俺も感謝の言葉を返した。

 




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