404小隊(チビ)は現実へと現れる【完結】   作:畑渚

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第29話 知らないもの

 夢を見ていた。

 あったかい、幸せな夢だ。

 

 思えば、随分と冷たくて寂しいところにいた気がする。

 

 沈んでいく。明るい陽の光が届く水面から、どんどんと深く冷たい底へと沈んでいく。

 違う、沈んでいっているのではなくて、戻っているのだ。元いた場所へ。

 

 沈む感覚に反して、意識は浮上していく。だんだんと手足の感覚が戻ってきて、音が聞こえてくる。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「……!先生!」

 

「奇跡みたいだ」

 

 目覚めて最初に聞こえてきたのは、聞き覚えのない声だった。

 

「親御さんに連絡を」

 

「はい!」

 

 若い女性の声でそう返事が聞こえる。いまいち現状がつかめない。

 

 ゆっくりと目を開けば、眩しい光と共に白い天井が視界に映る。保健室かと思ったが、もう高校は卒業したんだった。

 

「ここは……いったい」

 

 体を少し起こして見回せば、なるほど納得、病院の個室だった。

 

「あんた起きたんね!」

 

「母さん!?」

 

 ぱちぱちと瞬きをしていれば、母親が病室に駆け込んでくる。

 

「良かった……本当に……」

 

「いったい何が……」

 

 もういつぶりだかわからない母親の体温に、なんだか安堵感を覚える。

 

「覚えとらんと?」

 

「うん……これっぽっちも」

 

 医者の方を向けば、ふむと顎をさすっている。

 

「記憶障害でしょう。事故のショックを忘れようとする自発的なものなのでじきに治るかと」

 

「いや待って、事故?」

 

 いつの間に俺は事故にあったんだ?

 

「あんたが旅行から帰るときの電車よ」

 

 ああそうだ。たしかに俺は寿司が食べたくなって一人で遠くまで出かけて……

 

 

 そう、一人で帰っている途中に……

 

 

「ごめん、やっぱ上手く思い出せないわ」

 

「急がんでよかと。ゆっくり落ち着いたら思い出せばよかだけやけん」

 

「ああ……。そういえば今日は何日?」

 

「4月1日」

 

 4月……?でも最後に記憶があるのは俺の夏休みの最後……つまり9月だ。

 

「つまりは俺って半年近く寝てたわけ?」

 

 そんなことを言うと、母親は渋い顔をした。

 

「今は20ox年よ」

 

「……はい?」

 

 なんだ。とどのつまりは事故に遭って数年植物状態でしたってか?

 ああ、くそっ!何か引っかかるのに思い出せねえ。

 

「ってことは大学とかは」

 

「もちろん退学してるわ」

 

「デスヨネー」

 

 やっべ。てことは俺、職なし学なしニートまっしぐらか。あーちくしょう、このまま入院していたくなったぜ。

 

 

 このあとめちゃくちゃリハビリさせられて即退院した。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 数年後、何の因果か知らないが俺は元バイト先に拾われるようにして入社し、なんだかんだで社会人生活を満喫していた。

 

 なんともまあ人手不足なもので、数年で支店長まで上り詰めてしまった俺は、今日も閑古鳥のなく店内を監視カメラで眺めつつ頬杖をついていた。

 

「すみませーん、郵便です」

 

「あいよー」

 

 玄関の方から声が聞こえた。

 珍しい。いや、郵便が来ること自体は珍しく無いのだが、今日は配達員が女性だ。いつもはチャラい感じの若い男なのに。

 

「ここにハンコをお願いしまーす」

 

「あっ事務所に置いてきちまった。サインでいいかな」

 

「もちろんでーす」

 

 どこかで聞いたことあるような気がすると思いながら、俺は書類にサインする。

 

「ん?荷物は?」

 

 よくよく見てみれば、配達員の女の子は書類の留まったバインダーを持つのみである。

 

「荷物?私の目の前にあるわ」

 

「は?」

 

 次の瞬間、目の前から大きな音がする。それは4WDの大型車のエンジン音に近い。

 まさかと思ったが最後、何も無いと思っていた空間から車が現れる。噂に聞いていた光学迷彩をこの目で見られて感動である。

 

「さて、抵抗しないでもらいたいんだけど」

 

 そう言って、目の前の少女はその大きなジャケットの下から銃を取り出す。

 UMPシリーズ、ストレートマガジン、サイレンサーのおまけ付き。

 

「来てくれるよね、お兄さん?」

 

「……、まったく。たまには旅に出るのもいいかな」

 

 俺は渋々と車に乗り込む。車の中では、これまたどこかで見たことがあるかも知れない顔ぶれが揃っていた。

 

「騙されやすい癖はどうにかしたほうがいいかもね、お兄ちゃん」

 

「肝に銘じておくよ」

 

 車が走り出す。目的地は、俺は知らない。知らないけど、たまにはサプライズ旅行もいい気分転換になるだろう。俺は代わりに叱られるであろうエリアマネージャーにだけ詫びメールを送り、その携帯を投げ捨てた。

 

 

 この日、街のデータバンクから一人の男のデータが消えた。彼もまた、存在しない人物へと変わってしまった。

 しかしこの世の中でそんな些細な事件に注目する人などいない。

 

 




=*=*作者による長々とした後書き*=*=

 というわけで長々と続いたこのシリーズも、この話を持って完結です。ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
 実を言うとこのエンドは最初期に考えていたものの一つなので、本編との整合性がないかもしれませんが、まあこのSSにいたってそれを気にし始めるとアレなのでお許しください博士。
 とりあえず、締めれたことに喜びを感じておきたいですね。19年夏に初めて20年超えて21年までかかるとは思いもしませんでした。投稿ペース先輩がマジで浮き沈み激しかった2020年でした。

 さて、ここで裏設定というか書ききれなかったものを一つ。まず404チビ達の目的は、『人形接触適合』のある主人公くんに接触すること。そのため、さまざまなカバーストーリーが作られました。隣部屋、親戚の子、そして父子家庭。全て作り話でした。そして数週間の接触後、適性の確認が取れた後に姿をくらますために『電車事故』というカバーストーリー。たぶんこの時に薬かなんかの作用で主人公くんは記憶を失います。記憶消去薬なんてまさに404らしいですね。
 そして来る時数年後、必要となった主人公くんを迎えに来るんですね。ちなみに書類は荷物のサインではなく契約書同意書その他云々です。皆も書類のサイン時には気をつけようね。

 とまあ、長くなりましたが本当に完結です。他にも投稿がエタってるものがありますので、そこら辺が更新できた暁には、また会いましょう。それでは。
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