俺は今、最高に足がしびれている。そりゃそうだ。硬い床に正座なんて慣れないことをしているからだ。もう足の感覚がない。
普段は邪魔だからといってしまっているローテーブルを引っ張り出してきて、なけなしの二枚の座布団は向かいに座る2人に譲っている。2人は、笑顔だった。しかし、何も嬉しそうに笑っているとかそんな単純なものではない。人は怒りながらも、笑顔になれるのだ。
「その……ごめんね?」
「おにいさんはひどいです。私たちを締め出すなんて」
「いやだってまさか自分の家が君たちの目的地だとは思わないじゃない?」
「……やっちゃえ9」
45がそういうと、笑顔のまま9がスッと立ち上がる。そしてそのまま俺の背後に回って……いやまさかやめてくれぇぇぇぇ!!
「うぎゃあああ!」
9は俺の足の裏を、つんつんと突いた。つつきやがった。感覚のなくなっていたと思っていた足は、触られたぜ!って自己主張を俺の我慢できない強さで示してきやがった。
「ふふふ……これで正直に話す気になったでしょう?」
45がドヤ顔をしている。こいつ……なんて目をしてやがる……。完全に場を支配したものの目だ……。だめだ、俺にはぁ抵抗することができねえ……。
「……負けたよ。俺の負けだ。なんでも好きにするといぇあっっっっ!コラッ!降参したヤツに追撃は!やめっヤメロぉぉぉ!」
「あはは~お面白い!」
9の容赦ない刺突が俺の足裏を襲う!すでに致命傷を食らっている俺に、逃れるすべはない!
「こらっ!覚えとけよぉ!」
「きゃ~タスケテ45姉~!」
「ナ、9には手出しさせないわ!」
45は手を大きく開いて9を背中に庇う。9も笑いながら45の後ろへと身を隠す。
「45姉かっこいい~」
「おらぁ!いくぞぉぉぉぉああああああ足痛いィィィぃ!」
サッと立ち上がった俺は足のしびれでバランスを崩し、45の目の前に倒れる。
「あはは!私たちの勝ち~!」
「くっやられた……だが明日は俺が勝つからな……」
「私と9に勝とうなんて百年は早いわ!」
「見てろよ……ガクリ」
俺は白目を向いて気を失ったふりをする。ツンツンと9が生死確認をしてくるのがくすぐったい。
「……まあこれくらいでいいか」
「あっ起き上がった!」
「それで、どうして2人がここに?」
「あれ?おばさんから話は聞いてない?」
「……一応、君たちの口からききたいな」
下手すりゃ俺の人生が終わる。幼女を家に連れ込んだとして社会的に殺される。だから、慎重にだ。この子らの機嫌をとりつつ、そっと帰して、俺は平穏な夏休みを手に入れる!
ん?推しと過ごす夏休み?うらやましい?
待て待て。二次元のキャラである推しが三次元のこの世界にいるわけないだろう?だからこれは夢なんだよきっと。目が覚めるまで時間のかかる夢なんだ。
だから俺はこの世界を楽しむ!最大限に!警察のお世話にならないように!
「えっと私たちはようし?でおにいさんの従姉妹ってことになったんだけど」
「私たちの親、つまりはお兄ちゃんのおじさんとおばさんが旅行の予定をいれちゃっててね!私たちを世話してくれる人がいなくなっちゃったの」
「でも俺の母親とか選択肢はあっただろうに……なんでよりにもよって俺なんだ」
「あれ?お兄さんもしかして知らない?」
「え?なにを……?」
なんとなく嫌な予感がしていた。というのも俺の母親は、いつも突然何かをしはじめる。専業主婦を辞め働き始めたときも、資格をとった時も、仕事を辞めたときも、俺がそのことを知ったのは当日だった。
「お兄ちゃんのママ、今は地球の裏側にいるよ?」
「なんで!?なんでなの!?どうしてよりにもよってこんなときに地球上で一番遠い場所にいるの!?」
「ついでに私たちの親と一緒だよ」
「ねえなんで!?どうしておじさんとおばさんまで地球の裏側なの!?どうして一緒なの!?仲良しってそぶりは見せなかったじゃん!?」
「そしてさらに言っちゃうと、お兄ちゃんのお姉ちゃんは出張で家にいないし、お兄ちゃんのお父さんは今頃空の旅だよ」
「そこまで把握済み!?……たしかにあってるし」
俺はがっくりと膝をつく。
「なるほど……だから俺か」
まあ順当に親戚をあたっていったなら俺になる。祖父母はもう他界しているからな。おばさんとうちの母親は仲が良かったし、その点で信用できる親戚として残ったのが俺だったのかもしれない。
「それで……」
俺は2人の前にあぐらをかいて座る。
「2人はどこで9と45って名前を?」
=*=*=*=*=
「……あれ?なんだっけ」
昨夜の記憶が曖昧だ……。頭がガンガンする。
身体を起こしてあたりを見回すと、酒を呑んだあとが残っている。一昨日のままだ。昨日は……なんだか良い夢を見ていた気がする。
「さて……さすがに片付けようか」
ローテーブルの上にごみ袋を広げ、ポンポンとゴミを放り投げる。酒や弁当、菓子やアイスなど、さまざまなゴミが散乱している。
ごみ袋を縛って外のゴミ置き場に捨ててくる。部屋に戻ると、少し違和感を覚えた。
なんて言ってはみたものの、やっぱりいつもの俺の部屋だ。きっと飲み過ぎで頭が殺られたんだろう。普段は飲まない缶チューハイもたくさんゴミで出したし。
俺は鍵をかけて靴を脱いだ。
ベッドにダイブして背中に何かがあたる。それは毛布だ。少し大きいから邪魔で、結局普段は隅においやっている毛布だ。
いや、おかしい。おかしいぞ。そもそも昨日は酒を買ってない。一昨日にすべて消費しきって家には1杯分すら残ってなかったはずだ。
それに部屋の違和感もある。頭がおかしくなったんじゃない。ローテーブルは一昨日出してない。基本、誰かが来た時にしか出さない。缶チューハイも自分では買わない。瓶で買って自分で割って楽しむのがいつもの俺だ。毛布だって、ベッドの真ん中に置かれているはずがない。いつもは隅だったり床に落ちていたりだ。
明らかに、いつもどおりの部屋ではない。確実に昨日、何かがあったに違いない……!
先程かけた玄関の鍵が、ガチャリと開く音がした。