404小隊(チビ)は現実へと現れる【完結】   作:畑渚

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完結タグをすぐに付けなかった理由はこれである


第30話 特別編 まったく……

「おーっし、じゃあ2時間後まで頼むぜ」

 

「ああ、上手くやれよ?」

 

 俺はそう言って男友達と別れる。今日はサークルの活動日だが、それ以上に価値がある日だ。なんと、俺の大親友が今日告るらしい。そのセットアップをすべく、今日まで準備してきた。あとは二人きりにしていい雰囲気になったところで親友が突貫するのみである。

 

「後輩どもは少し離れたスポットに行ってるみたいだし、俺はどうするかな」

 

 ふらふらと表通りを歩いていれば、ふと目に止まるものがあった。

 

「ここは……喫茶店か?」

 

 古めかしくも和洋の入り混じった外装は、まるで大正ロマンとでも言うかのように俺の目を惹きつけてやまなかった。直感的に、この店に何かがあるように感じる。

 

 カランカラン

 

「いらっしゃいませ」

 

 その喫茶店に入った瞬間。俺の人生は色づき始めた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「少し休憩が長いんじゃないか?」

 

「うーん、といってもお客さんいないしなぁ」

 

「まあ、確かにそうだがな」

 

 我らがバイトリーダーのダネル先輩は、そう言いながらも掃除の手を止めることはなかった。かく言う俺は焙煎機のメンテナンスである。手が豆臭くて敵わん。

 

 こうして二人で働いているのもわけがある。といっても、俺とダネル先輩がバイト中で、店主は買い出し中なだけである。

 ダネル先輩はその長い髪を高い位置でポニーテールにしており、先ほどから目の端にチラチラと入っては俺の目を惹きつけている。

 

「どうだ、直せそうか?」

 

「うわっ!急に近づくなよ」

 

 あービックリした。何というか距離感バグってないですかパイセン。突然すぐ近くに顔が来たから思わず後ろに倒れるところだった。くそっ顔がいいなちくしょう。

 

 

 ああそうだ、正直に言おう。俺はダネル先輩に惚れている。一目惚れ二目惚れ何回見てもドキッとする。わざわざ遠いここまでバイトしに来ているのも、そのためだ。

 

「ところで次の休みはいつからなんだ?」

 

「えっと、テストが来週で終わりかな」

 

「……なるほど」

 

 まさか一緒に出かけたりなんて……

 と考えた俺がバカであった。

 

「じゃあ来週からはさらにシフトが増やせるな」

 

「えぇ……。先輩はどうなんですか」

 

「同じ学年なんだから先輩はやめてくれと言っているだろう」

 

「いやー癖になっちまってね」

 

「はぁ、まあいい。私もシフトを増やすさ。君が来ないならその分さらに多く——」

 

「来ます」

 

「えっ」

 

「同じぐらい頑張ってシフト入ります」

 

「あ、あぁわかった。随分とやる気があるんだな。欲しいものでもあるのか」

 

 さすがにここであなたの心ですだなんて返す度胸はなかった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「おい、最近付き合い悪いじゃねえか」

 

「ん、ああすまん。バイトで疲れててな」

 

「ったく大丈夫かよ」

 

 最後のテストを終えた俺は、無事リア充の仲間入りをした親友に絡まれていた。

 

「ま、たまには呑みに行こうぜ。実はな……合コンの誘いが来てんだ」

 

「なん……だと……?」

 

「ククク、聞いたところによると今日はバイトはないんだろ?息抜きだよ息抜き」

 

「待て、お前彼女はどうする気だ?」

 

「なに、心配するな。彼女も参加予定だ」

 

「す、既にできているカップルを合コンに……まさか首謀者は!」

 

「ああ、俺と彼女を体の良い人数合わせに使おうとしてやがる」

 

「なるほど、お前が俺を誘った理由がわかったぜ」

 

「ククク、俺はサポートにしか回れねえけどよ。お前ならぶち壊せる筈だ」

 

「ああ、任せろ。必ずや討ち取ってみせる」

 

 俺と親友は固い握手をし、数時間後に待ち合わせ場所で再会することを誓ったのであった。

 

 

 

 

 計画は破綻した。繰り返す。計画は破綻した。

 俺たちの浅はかな目論見は看破されており、合コンの首謀者は必殺技を早々に繰り出してきやがった。

 

「王様ゲーム!」

 

「ちくしょうやってやらぁ!」

 

 引いたくじは3番、親友に合図を送るも首を横に振られる。ちっ王様は外したか。

 

「じゃあ3番の人が1番の人に『愛してる』って10回言うで」

 

 定番の王様ゲーム。それは仕組まれた罠だった。まるで決定事項かのように初手で王を引いた首謀者は、俺を狙い撃ちしてきた。

 

「3番は……俺だ……」

 

 頼む。せめて相手は男だったり冗談が通じるような女子であってくれ……

 

「1番は……私だな」

 

 そう言って1番と書かれたくじを上げたのは、室内というのに帽子すら取らない子だった。

 

「……ちょっとタイムで」

 

 俺は絶望の最中にいる親友を招集する。

 

「今日は同じ学部の奴のみじゃねえのか?相手の子、知らねえんだけど」

 

「あぁ。いつも目立たないところに座ってる子だよ。ほら、最初の授業とかで帽子を取りなさいとか怒られてた」

 

「うーん、そんな奴がいた気がしなくもないな……」

 

「とにかく今は耐えるしかねえ。やられんじゃねえぞ」

 

「もしもの時は……」

 

「骨くらいは拾ってやるさ」

 

 そして俺は戦地へと赴くのであった。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

「あ、ああわかった」

 

 俺は唾を飲み込む。覚悟は決めた。相手は帽子を深くかぶったままだし、目を合わせてすむのは不幸中の幸いだろう。

 

「すぅぅぅぅはぁぁぁぁぁ……愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる!はい!10回!」

 

 シーンと静まり返った室内。頼む何か助け舟をと思った親友は白目を剥いて使い物にならない。万事休すか……

 

「その……なんだ、照れるな」

 

 目線も合わせてくれないその子は、そう言って目線を下げたまま俺から距離をとる。すっと、音もなく、一番離れた席へ。

 

 あぁ……終わっちまったぜ俺の青春……。

 

 その後は、本当に何事もなく、そして熱烈な告白をした(させられた)俺は皆から距離を置かれつつ、合コンはエンドロールを迎えた。

 

 お持ち帰りコースやタクシー直帰を決める者たちの中で、俺と親友はトボトボと歩いて帰るのであった。負け犬はクールに去るぜ。泣く気力すらもなくしてな。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「てなことがあったんだよ。ったくこれだから大学生は」

 

「自分も大学生だろうに」

 

 先日のことをダネル先輩に話してみれば、呆れたと言わんばかりにため息をつかれる。

 

「しかしなんだ、いい親友を持ったな」

 

「……紹介しないぞ?彼女持ちだし」

 

「いやそういうことじゃないさ。ただ仲が良い同級生がいるのが羨ましくてな」

 

 意外だ。きっとこんなに美人な先輩のことだから、友達もたくさんいるものだと思っていた。

 

「意外だと思っているみたいだな」

 

「顔に出てたか?」

 

「ああ、ハッキリとな」

 

 ポーカーフェイスには自身があるんだけどなぁ。

 

「まあ、面倒ごとになりかねないからな。普段はあまり人と関わらないようにしている」

 

「じゃあ先輩にとって俺は特別な存在なわけだ」

 

「ふふ、そういう言い方をされては誤解されてしまうぞ」

 

 そうクスクスと笑う先輩の顔は、今まで見たことがないくらいに可愛らしかった。

 

「もし誤解されてもいいと言ったら?」

 

「ははっそれは……さすがに照れてしまうな」

 

 そんなことを言うものだから、その後のバイトに身が入らなかった俺をどうか許してほしい。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 バイトの帰り道。先輩よりも早く店を出た俺は急いで来た道を戻っていた。どうやら定期券を落としたようなのだ。ついでにあわよくば、先輩の帰り道に突き合わせてもらおうという魂胆である。いや、定期券を落としたのは本当に故意じゃないんだがな?

 

 しかし、目の前の障害物A及びBによって俺の足は止まった。いや、止めざるを得なかった。

 

「おいおいそこの姉ちゃん」

 

「暇?今から呑みに行くんだけどさ?一緒にどうよ」

 

 障害物A及びBが女の子の行手を遮っていたのである。なんともまあ迷惑な行為だが、問題はそこではない。普段は俺も無視するようなわりと日常茶飯事な出来事である。しかし、今回は相手が相手だった。

 

「いや、困るのだが」

 

 相手は、合コンで俺が熱烈な言葉を繰り返したあの女子であった。今回も深く帽子をかぶって、服装も夜の闇に溶け込んでしまいそうである。

 

 ったく、仕方ねえか。見ちまったもんはもんだし。

 

「すまん、待たせて。おらなんだおめえら。人の彼女にたかんな」

 

 二人組ナンパやろうがしつこくなくて助かった。去り際に舌打ちをしたくらいである。一発二発くらいはくらう覚悟をしていたので正直ほっとしている。

 

「はあ。あんたも気をつけろよ。目立たない格好で夜道を一人なんてさ」

 

「ああ、ありがとう。助かったよ」

 

「ったく。今日は厄日かな」

 

 定期はなくすし、変な現場に居合わせちゃうし。

 

「ああそう言えば」

 

 女の子はそういってかばんをゴソゴソとする。

 

「これ、忘れて帰っていただろう?」

 

 なんとまあ驚くことに、かばんから出てきたのは俺の定期券ケースだった。

 

「なっこれをどこで?」

 

「いや、普通に店だが」

 

「店……?」

 

 今日はバイト先にまっすぐ向かったからどこの店にも立ち寄っていないはずだが……

 

「ああ、なるほどな。まさかとは思ったが」

 

 そういってその帽子を脱ぐ。まとめられて収まっていた長い髪が、ぶわりと広がる。

 

「まさか私だって気がついてなかったのか」

 

 帽子の少女は、ダネル先輩だった。

 

「えっあっ……はっ?えっ?」

 

「まったく。普通気がつくだろう。格好は違っても声は一緒だぞ」

 

 腕を組みながらダネル先輩は言葉を続ける。

 

「それに君とシフトが合致したり長期休みが同じ日程だったり、気がつく要素はたくさんあっただろう」

 

「あっえっ……?」

 

「まったく、君の目は節穴か?」

 

 ぐいっと寄ってくるダネル先輩に、思わず後ずさりをする。

 やばい、すごい恥ずかしくなってきた。つまり俺はダネル先輩にむかってアイシテルだなんて連呼したわけだ。うわぁマジか。

 

「どうした。帰らないのか?」

 

「あ、えっと、その……」

 

「まったく。そこまで動揺しなくてもいいだろう」

 

「いやぁ……そうそう!俺用事思い出したんで帰りますね!定期券ありがとう!」

 

 そういって定期券を奪い取ろうとすると、ヒョイと避けられる。

 

「いや、あのぉ……ダネル先輩?」

 

「なに、君曰く私は夜道を一人で歩かないほうがいいんだろう?」

 

「うぐっ……」

 

「ほら、電車の時間もあるしそろそろ駅に向かわないか?」

 

「……ハイ」

 

 俺に拒否権は、初めから無かったのだ。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ねぇダネルちゃん」

 

「彼氏、どうやって落としたの?」

 

「よくあんな鉄壁を落としたよねぇ~」

 

 普段はあまり喋らない私だが、少なからず交友というものは存在する。そんな数少ない友人たちが、昼休みに私を取り囲む。

 

「彼ってばいくらアピールしても避けるし」

 

「男友達は多いのに女に対しては絶対一歩引いてるよね」

 

 私がいなくても会話が成立しそうだなと気配を消して逃げようとするが、ガシリと腕を掴まれる。

 

「おーっと逃げようとしたって無駄よ?」

 

「私でなく彼に聞いたらどうだ?」

 

 売るような真似をしてすまないと思いつつ、彼に後を託して私は離脱することにする。

 

「あらあらあら、彼氏を売るような真似が許されると思いまして?」

 

 そういってポイッと無造作に投げ捨てられたのは、彼の衣服だった。

 

「彼なら今、男子たちに拷問を受けている最中ですわ」

 

「なん……だと……?」

 

「観念することね」

 

 まったく、こんな風に面倒に巻き込まれるから嫌だったんだと思いながら、私は質問という名目の拷問を受けたのであった。

 




これで本当の本当に最後です。お楽しみいただけたのなら、なによりです。それでは、また、どこかでお会いしましょう。
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