本当にありがとう……!!
「いらっ……いらっしゃいませー」
いつものやる気のなさそうな店員が少しギョッとしたような表情をしている。いや、犯罪じゃない。これは犯罪じゃないからそんな目で見ないで。
食材はたくさん、2人の好みは知らん。そんなことを考える俺はまるでお父さん。
「ねえねえ、これ食べてもいい?」
そういって9が指さしてきたのはサイコロステーキの試食だった。
「……アレルギーとかはない?」
「うん、大丈夫だよ!」
「ならよかった。45ちゃんもどう?」
「……!い、いいの?」
そういって45もトテトテと試食コーナーに駆け寄ってきた。
「やわらか~い!ねえ、これすごいよ!」
「うん、おいしい!」
2人は口をもぐもぐとさせながら、そわそわとこちらの様子を見てくる。
ちらりちらりと、こっちの様子を見て……くる……。
「わかったよ!今日はサイコロステーキだ!」
こちとら金なら余裕があるんじゃ!この程度、なんぼのもんじゃい!
それにこの娘らは女児……食べる量も少ない!つまりは安上がり!俺が食わなきゃいいだけの話!
「お兄ちゃんも食べなよ~!美味しいよ?」
「はいっお兄さん」
9がそう言って、45がサイコロステーキを手渡してくる。
……美味しいな、もう一袋買っておこう。
「あら、良いお兄さんがいるのね~」
試食コーナーから離れようとすると、目の前に立ちふさがる人物が現れた。
俺がくる時間帯によくいる、パートのおばちゃんだ。フレンドリーなのはいいし、いろいろと知識もあるらしい……のだが、あいにく話したことはない。
話したことはないけど……だからって2人を足止めすることで強制的に俺の足を止めるとは……なかなか策士である。
「今日の晩ごはんはお兄さんがステーキ焼いてくれるって」
「へぇ、それは良かったわね~」
一応顔ぐらいは知っているし、2人も怖がってないからそのまま空気になろうとする。しかし、パートのおばちゃんアイが狙いを定めたのは俺だった。
「そのステーキね、このソースを掛けると美味いのよ」
だ、大根おろしソース!?いや、しかし……。ステーキにはオニオンソース派なんだが……。
「いえ、結構で……」
そう言い切ることは許されない。許されていなかった。やはりこのおばちゃん、策士だ。まさか視線は俺を向いているというのに、ターゲット自体は2人のままだ!はかられた!
そう、さっきの様子をうかがうような目とはうって変わって、2人は好奇心と期待の目で俺を見てくる。
「わか……りました。一つください」
この程度の出費……痛くも痒くもないわ……。
「それとね!」
おばちゃんの攻撃フェイズは終了してないってのか!?
「今ならこっちのソースと一緒に買うとお得なのよ」
そういっておばちゃんが見せてきたのは、醤油ベースのステーキソースだ。
「くっ……買います」
買い物かごにソースが入っていく。これはオニオンソースは断念するしか……
「お兄さん、あと十分したらタイムセールでね、オニオンソースも安くなるよ」
「買います」
もう良い。我慢などしてたまるか。俺はこの2人と幸せな食卓を囲むんだ。そのためならなんだってしてやる。販売商法に乗っかかる愚か者?なんとでも言え。
俺は自分と、それからあの2人のためならどんな汚名でも被ってみせよう!
「お兄ちゃ~ん」
猫なで声が聞こえてはたと振り返ると、そこには両手にお菓子を抱えている9がいた。満面の笑みである。
「一応聞こうか。9ちゃん、それは何?」
「お菓子!」
系統が面白い。珍味からスナック、チョコ系まで揃えている。
「9ちゃんはお菓子が好きなの?」
「うん!でも45姉もお菓子が好きだよ」
「ちょっと、9」
「そうかい。それじゃあ2人の分のお菓子は入れていいよ」
「わ~いありがとう!」
そういって9は買い物かごにお菓子を入れてくる。
「45ちゃんはいいの?」
「……?あ、9が取ってきてくれたから」
「そ、そうなんだ」
どうやら45の好みは9が把握しているらしい。やっぱり仲が良い。姉妹間の仲が良いのは、微笑ましい。
「ねえ、他にはまだあるの?」
「……いや、コレくらいにしとこうか」
ステーキソースをかごに入れたあたりから諦めて、もうカートを使っている。買い物かごはもういっぱいだ。
よくよく考えたらこれを持って帰るの俺だ……。いや、俺ならできる。頑張れ俺、負けるな俺。
「いっいらっしゃいませ~」
レジはいつものやる気のない店員だが、今日はなんだか俺のことをじろじろ見てくる。
「……な、なにか?」
「い、いえ」
手際よく品物を通して、値段を表示する。いままでの俺だったら口からため息が出ていただ、今の俺ならこの程度……!
「あ、ありがとうございました~」
会計は普通に終わった。袋に詰めるのも問題はない。そこからが問題なのだ。俺に手がもう数本あればどれだけ良かったか……。
「お兄ちゃん、重いでしょ?私も持つ!」
「わ、私も」
やっぱりこの2人は天使かもしれない。お菓子などを詰めた軽めの袋を2人に託し、俺は両腕に力をいれる。
十中八九、明日は筋肉痛だ……。
=*=*=*=*=
おっと鍵がポケットに入ったまんまだ……。どうやってとりだそうかと両腕にある荷物を交互に見比べる。
「お兄ちゃん!ちょっとごめんね」
「9ちゃんいったいなにを……!?」
9はあろうことか俺のズボンの右ポケットに手を突っ込んできた。小さい手が太ももに刺激を与えて、くすぐったくて笑いそうになる。
「あった!」
そういって9は鍵をとりだした。
「あっそういうことか」
よかった。突然9が身動き取れない男のポケットに手を突っ込む遊びを思いついたのかとヒヤヒヤした。
……ん?でもどうして右ポケットにあるってわかったんだ?
「ねえ9ちゃん、どうして右ポケットに鍵があるってわかったの?」
「お兄ちゃんいつも右ポケットに入れてるもん」
「ああ、そういうことか」
言われてみればこの部屋にすみ始めてからというもの、鍵を右ポケットにいれがちだ。
「……?あれ?」
「どうしたの9ちゃん」
9は手で止まってとジェスチャーする。
「鍵が……開いてる」
「締め忘れたんだなきっと」
「いいえ、お兄さんが鍵をかけるところ、私は見てたよ」
45も否定する。これは……そういうごっこ遊びだろうか?なら付き合ってあげるしかあるまい。
「9ちゃん、どうしようか?」
「私には荷が重いよ~45姉、助けて」
「そうね、私と9で突入しましょ」
「うん、賛成!」
そういって45と9は扉の前に集まる。
「よし、いくよ45姉」
「ええ、いくよ9」
2人が扉を開け部屋へと駆け込んで行く。まったく子供ってのは楽しそうで何よりだ。
あとを追って玄関に入ると、ありえない状況になっていた。
45と9は玄関に立ち尽くしている。部屋は違和感の塊で、きれいになってる。まだそして、玄関の側のキッチンには、1人の少女が台の上に立っていた。
「おかえりなさい。ずいぶんと遅かったわね」
舌足らずであるのに凛としているその声は、少し前に聞き覚えがあった。
その少女は台から降りると、エプロンを外した。
その台には、416と数字が刻まれていた。もちろん、その数字が意味するところを察せないほど、俺はバカではなかった。