楽しみで仕方がない
「起きて!ねえ起きて!」
ああ、ゲームの推しの声が聞こえる。推しの声に起こされるとか俺は幸せものだなぁ。
「ねえ!早く起きて!」
ああ、推しの声とともに腹部にも衝撃が……うっ、うおっこ、腰に響く……。
「9ちゃん……もうちょっと優しく起こして……」
「ん?お兄ちゃんどうしたの?元気ないよ?」
「いや、大丈夫だよ」
俺だってまだ若いんだから、そんな数日椅子で寝たからって身体壊すわけないでしょ。
「お兄さん、ご飯できてるよ」
45が駆け寄ってきて、足にコツンとぶつかる。
「????!!!!????」
「んーどうしたの、変な顔して?」
「い、いや……なんでもない」
な、なんでもない。なんでもないんだ。まさか利き足に当たられて、それが身体の節々に響いたとかそんなわけじゃないんだ。だからそんな顔を向けないでくれよG11。
G11の目線は俺を見たあと、そっと目を俺の後ろの方に向けた。
ってどうしたの?急に顔が青ざめて……?
「……お兄さん」
ん、何かな……って包丁じゃない?こ、こっち向けてこないで!
「よ、416ちゃんどうしたの」
「そ、その……壊れてしまって」
「ん?ああ、刃の部分が欠けてるのね」
「手が滑って、刃の方から落ちて……」
「いいよいいよ。それより416ちゃんは怪我はない?」
「もちろん」
「なら良かった。けど危ないし……そうだな」
これはもう、あそこに行くしかない。幸い人手はいるし、保護者……になるかはわからないがG11もいる。
「よし、ディスカウントストアに行こうか」
そう、これは416の安全のためだ。ついでにお布団も買うだけだ。だから、これは決して俺の安眠のためという訳ではない!断じて安眠のためではない!
=*=*=*=*=
「わー!すごーい!ひろーい!」
「9、待って……!」
「9ちゃん!45ちゃん!ちょっと待って!」
急いで2人を捕まえる。店内で走り回ると危ないじゃあないか。
「こらっ。危ないだろう?」
「う、うん。ごめんなさい」
「ご……ごめんなさい……」
「わかってくれたなら何よりだよ」
「じゃあお兄ちゃん、手繋いで~」
んん?9は何を言ってるのかな~?お兄さんにはわからないな?
「わ、わたしも……」
45も?ああ、ダメだよ……完全に幼女2人を拉致してきた不審者だよ……
「G11……タスケテ……」
逆捕まえられた宇宙人状態で助けを求める。君だけが頼りだぜG11!
「んー、無理ぃ」
ああ、もう片手は埋まってるのね。416……G11になついちゃったのね。いつの間に……
「ねえねえ、お菓子見てもいい?」
「あ、ぬいぐるみ。……なんでもない」
「よ、よし!買い物の最後にお菓子コーナーとぬいぐるみのコーナーに寄ろうか!」
「ほんと!やったー!」
9は手をブンブンと振り、45は少し手をにぎる力が強くなる。喜んで……るのかな……?
「私は……?」
「よし、まずは包丁見ようか!」
「ほんと……?じゃあお皿も見ていい?」
「いいよいいよ!」
「じゃ、じゃあ……グラスとお箸も?」
「ああ、いいぞ!」
表情こそは変わってないけれど、その右手はブンブンと振られている。G11がだるそーな表情をしてるけれど、それがまたなんだか凸凹姉妹って感じで似合っている。
「お似合いだね」
「それ、お兄さんが言う……?」
「やめろ……不審者を見るような目で俺をみるな……」
「そうじゃないけど……まあ、いいや。416のことも頼んだよ」
そういってG11は背中を見せて、手を振りながら店内へと消えていった。……消えていった!?ちくしょう逃げられたか!
「お、お兄さん……」
だー!困ります!服の裾を掴まれたら困ります!
「わ、わかった。じゃあまず45ちゃん!カート持ってきて!」
「は、はい」
「416ちゃん!まずは台所用品から見ようか」
「う、うん!」
「ねえねえお兄ちゃん!私は~?」
「9ちゃんは!9ちゃんは……」
やばいな……どうしようか。
「そ、そうだな……それじゃあ9ちゃんは45ちゃんのサポートだ!」
「了解!」
ビシッと敬礼して、45と一緒にカートを押しはじめる。仲の良い姉妹でなによりだ……。
=*=*=*=*=
「この包丁も……いや、こっちの方が良い……でも値段が……」
この子食い入るように包丁を選んでるよ。
「416ちゃん?値段は気にしなくていいよ?」
なんたって、君のお父さんからもらった多額のお金が有り余っているからね。
「コスパが最高のモノを選ぶまで帰れないわ」
「そ、そうかい」
何度もコーナーを往復して、ようやく一本の包丁を持ってきた。
「これでいいの?他の包丁は?」
「これ一本あればたいていなんでも切れるから」
「ふーん」
受け取った包丁を見る。ああ、有名なメーカーだから……ここらへんかな。おっあった。
「じゃあこれを買おっか」
「そ、それは……」
俺が手に持ってるのは、包丁数本が入ったセットだ。416の持ってきた包丁もセットの中に含まれている。
俺の家には一本しか包丁が無かったからな。こういう発想も与えてやれなかったかもしれない。
「でも無駄遣いはダメよ」
「じゃあ416ちゃんが存分に使って、無駄じゃなくしてくれるかい?」
「っ!……わ、わかったわ」
顔を真っ赤にしながら、少しうつむいてしまった。
「わ、私が全部、しっかり使うまで料理する」
「そうかいそうかい」
やる気が出たようで何よりだ。お兄さんも思わずニッコリしてしまったよ。
「ねえ!お菓子コーナー見てきていい?」
「まあ待ちなって9ちゃん。皆で行こう?」
「うん!ほら、早く行こうよ45姉!」
「あっ待って……」
9が45の手を引いて菓子のコーナーへと歩いていく。
「416ちゃん、ゴメンね?」
「別に気にしないわ。それにいい食器もなさそうだし……」
そういいながらも手を握ってくる。ほんと君たち手をつなぐのが好きだねぇ。
「……もうちょっと力を緩めてくれない?少し痛いな」
「今度は……逃さないように……」
ははは、確かにさっきはG11に逃げられてたもんね。
「もう、お兄ちゃん遅いよ?」
っと待たせすぎたか……。9が戻ってきちゃったみたいだ。両手にはすでに菓子が抱えられている。
「ちょっと多くない?」
「でもね!ここが私の分で、これが45姉の分。それからこっちは416ちゃんの分!それからそれから……これがG11お姉ちゃんの分!」
「そうかそうか。いいよ、かごに入れて」
いい子かよ……。というかすでに416とG11の好みも把握してるのね。いったいいつの間に?
「ねえねえ、あとはー?」
「うーん、そうだな」
布団……は重いから最後でいいな。食材も今日はいいだろう。あとは……
「ぬいぐるみ、だったね」
「え?いや、私のは……」
「……9ちゃん、連れてってあげて」
「りょーかいだよ!」
また9が45の手を引っ張っていく。っと曲がり角から人が……!
「9ちゃん!危ない!」
クソッ遅かった!9が人にぶつかって後ろに倒れていくのが見える。その小さな頭は、衝撃に強くできているようには到底見えなかった。
「っとセーフ!」
ま、間に合った……。ほぼ滑り込みでキャッチすることができた。
「ごめんなさい!怪我はないかしら!?」
「ええ、まあなんとか」
「本当にごめんなさいね」
外人さんだろうか……?随分と長身で、それにしてはグラマラスなものをお持ちであった。髪を結んでいた大きな青いリボンはしばらく頭に残りそうだな……。
「9ちゃん、周りは良く見ようね」
「うん。お姉さんもごめんなさい」
「あら、いいのよ。子供は少し元気すぎるくらいがちょうど良いって言うもの」
そういいながら、スマートホンを赤いポーチから取り出した。
「いっけない。私もういかないと。それじゃあ」
そう言ってどこか行ってしまった。
「あっ……」
「416ちゃんどうした?」
「G11さん、発見」
そういって指差す方向には、ソファコーナーでだらしなく寝息をたてているG11がいた。見つけたぞ。見つけたぞー!
「全員でおこしておいで。騒がしくしないようにね?」
「うん、わかった!」
「……うん」
「お兄さんがそういうなら……」
「よし、それじゃあG11ちゃんに向けて、突撃ぃ」
もちろん小声だ。相手は抵抗する間もなくチビ達に起こされる。まさに最強の布陣。
そのあと、フロアに消え入るような悲鳴が響いたけれど、だれも見ていなくて助かった。
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