ありふれてない冒険   作:花咲爺

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ゴブスレさんより膂力、速度は上ですが如何せん猪武者な男、という認識でお願いします


只人戦士の小鬼退治

「まったく、小鬼(ゴブリン)は面倒くさくてたまらん」

 

 ドス黒く血に濡れた魔剣を握りし男はそう呟き、地面に転がるそれへ蹴りをくれてやった。

 ガスッと肉が揺れる音がするが、それ以外に音が鳴ることは無い。それもそのはず胴体と下半身が泣き別れをしている者が声など発せる訳がないからだ。

 結果として切断面からさらに血が吹き出て(ブーツ)にかかり、尚更彼は苛立ってしまった。

 

「あぁあああ!クソッたれ!!(ガイギャックス)

 

 薄暗い洞窟の中はカビ臭く、糞尿の匂いや汚辱の香りで満ち満ち鼻がもげそうになる。

 ゴブリン、ひいて怪物と言うものは何故こんな環境で過ごしたがるのだと彼は怒り混じりに吐き捨てた。

 

「GOBBBO!!!」

 

 吐き捨てればそれを聞いたのか知らないがゴブリンが湧いて出る。

 怒気と汚らしい垂涎を撒き散らしながらこちらへと錆びた剣を突き出してくるゴブリン。

 失敗から生まれるだったか、それとも他者への悪口から生まれるだったかと正しき俗説はどちらだと頭の中にふと疑問を浮かべた男であったが

 

「やってられんな!」

 

 そう獰猛に歯をむきだして彼は右手の剣をブンと振った。

 悩みもゴブリンも吹き飛んで消えた。

 

 

―――――――

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 洞窟の中を少し肩を落としながら歩く男はこの日何度目かになる呟きを発した。

 最近続いてた護衛依頼に嫌気が差したことを口実に、手慰みで受けた依頼がゴブリン退治。酔っていたとは言えもう少しマシな依頼を受ければよかったものを…と溜息ばかりが出てしまう。

 臭くてじめじめして暗いし、横穴だったり毒濡れの武器への注意が欠かせない、駆け出しの頃を思い出さなかったのかと今更ながらに彼は後悔した。

 だが一党(パーティー)を組んで切った張ったの繰り返しで、どざーとこなした初めての経験はどうやら今回の洞窟には当て嵌らないらしい。

 しかも微妙に道が長いと来ている所が面倒臭さを助長していた。

 これならばマンティコアか魔神(デーモン)の依頼でも受けていた方が実入りは大きく、精神的目減りは少なく済んだのではないだろうか。

 恐らく芯を得ている答えにたどり着くが、達成出来ないのは経歴に傷どころの話ではない。

 まぁさささっと済ましてギルドでエールだなと新たに現れたゴブリンへ怒りの矛先を変えて男はぐんぐん進んでいく。

 ここまで11、さて残りは如何程だろうか。

 確か以前聞いた話ではこの位の規模だと20匹程だと言われたが長さが長さである。

 何やらもっと潜んでいる気がしてきた男は顔を引き締め進んでいった。

 その後10秒も経たぬ内に新しいのが出て彼の額へ更に皺が刻まれることなる。

 

 

 

「GOBURRROOO!!」

「GIBOUUUUUUNN!!!」

 

「おー、団体様じゃぁねぇの」

 

 兜の下で鈍く光る片眼鏡(モノクル)が映すのは7匹のゴブリン、こちらへとドタドタ音を立て声を荒らげながら向かってくる。

 単独(ソロ)の冒険者が正面から相手をするにはやや厳しい数のゴブリンだ。

 だが、彼の握る両片手剣(バスターソード)は魔剣である。

 主人とみなした者に魔神王と張り合えるほどの力を与えるとか言う意思ある剣ではなく、一たび抜けば必ず三つの命を奪ったり、形あるものであれば全てを切り裂く鋭さを有している訳でもない。

 この世のなにより硬く、壊れない「不懐(アンブレイカブル)」しか効果を持たない魔剣だ。

 その切れ味や効果はそんじょそこらの鋼の剣と同程度。

 だが魔剣、そう、魔剣なのだ。使い手に力さえあれば…

 

「壁ごと死になぁああああ!!」

 

 洞窟からゴブリンまでをも切り裂く力を持たせることも可能な魔剣に化けることもあった。

 

「GOB……!?」

 

 汚らわしい声は一度、二度剣を振るごとに減っていく。

 男はゴブリンの腰布で返り血を拭きながら道すがらいくつかの壁へ剣を深く刺し、くぐもった汚い声を聞いては進んでいく。

 と、ようやくそこそこな大きさの場所に出たが、これほど嫌な気持ちになったのは中々にない事だった。高く積み上げられた糞尿に、その奥で力なく横たえている囚女達、体の要所要所が切り裂かれていて見るのも無残である。

 元は戦士だったのであろう引き締まった体を持つ女に至っては踝から下そのものが切り取られている。

 これでは良い奇跡を受けなければ歩くこともままならない。

 この世界にありふれていることながら何とも無慈悲なことだ。

 男は女から目線を外し、周りを見る。

 どこも怪物だらけ、種類は一つだけだがその特性やら大きさやらは存外に多くいる。

 田舎者2、呪文使い2、英雄は……いないが田舎者の内一体は体が一回り大きい。

 他にもゴブリンがそこそこに多くいた。

 奇襲(アンブッシュ)は彼の得意とするところではないがしなければちょっとジリ貧になりそうなのも確かである。

 彼は背嚢(リュック)から覗いていた投槍《ジャベリン》を取り出すと、何やら部下にお前ら無能のせいで楽しめないではないかとでも高説をくれてやっているのであろうシャーマンの喉へ打ち込み、駆け出した。

 

「呪文使いは速攻ってなぁ!」

 

 一飛びで肉迫した男の斬撃がまだ何が起きたのかと目を白黒させているゴブリンシャーマンの首を見事に撥ね飛ばす。

 きっと何が起こったかも分かっていないであろうゴブリン達に一瞬目をやり、もう一体のシャーマンへ盾と壁のサンドイッチをブチかました。

 

「HOOBIBURRRRR!!!!」

 

 次に彼はようやく敵襲だと気づき、喚きながら突進してくる田舎者(ホブ)の処理に回る。

 一瞬でやられたシャーマンを間近で見て恐慌したのか雑な挙動で繰り出された棍棒を左手の盾で受け流し、お返しに咆哮と共に剣を振るう。

 剣筋は恐ろしく重く速く、骰子(ダイス)の出目など関係なしにホブゴブリンは頭から胴までを切り裂かれ死んだ。

 

 もう一体のホブは人質にでもしようとしたのか虜囚の首根っこを掴みかけたところで首へ剣を深く突き刺されて死んだ。

 

「ったく、ここまで来るのが面倒くさかった割に歯応えねぇなぁ…」

 

 まぁ(エッジ)が良かったのかぁ?と気怠げに呟くと、後に残る向かってきた数匹と劣勢を悟って逃げ始めたゴブリン達へ彼はホブの血をびしゃりと振って踊りかる。

 その時になって胴鎧へ金の認識票がチリンチリンと音を立ててぶつかった。

 

「47!あ48!49と50、51ィ!!!っしゃァ!終わりぃ!!エールだぁあああああ!!!!」

 

 そして、そんな彼のゴブリン退治はものの1刻半程で終わることとなった。

 誰が何と言おうがゴブリンが最弱な魔物だと言う証拠だった。

 




鉄兜の魔剣使い

孤児院出身の男。
素質(信仰心)がなかったため冒険者となった。
メインウエポンは剣。一応他のもある程度使える。

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