「仮面ライダー・・・ガタックだと・・・!?」
新たなライダーの出現に、パンチホッパーは動揺を隠せない。
「アハ」
しかし、結芽は嬉しそうに笑い。
「おにーさんならもっと楽しめそうだね!」
結芽が地面を蹴る。
「オラァ!」
それに対して、ガタックは両肩の砲門『ガタックバルカン』を砲火。先ほどまで結芽がいた地面が吹き飛ぶ。
イオンビーム光弾を毎分5000発という恐るべきスピードで放たれるガタックの兵装は、放つ度に神社を軒並み破壊していく。
「威力は大したものだけど、それじゃあ私は倒せないよ」
ガタックの背後を取る結芽。その一撃が首に叩きつけられる。その寸前でガタックの腕がその刃を防ぐ。
「え!?」
「んな事分かってんだよ天道にも言われたよそれ!」
振り向きざまに拳を振るう。だがそれを当たらず距離を取られる。
しかし、別の方向からパンチホッパーが攻撃を仕掛けてきて、ガタックはそれを受け止める。
「お前、そのゼクターをどこで手に入れた!?」
「どっかから飛んできた!それ以上は知らん!」
マスクドフォームのパワーを使って無理矢理押し返す。
「そうか・・・ならば回収させてもらう!クロックアップ!」
『CLOCK UP』
パンチホッパーがクロックアップを発動。超速で動き始める。
その高速移動が、同じように動けないガタックを襲う。
「ぬぐ・・・おあ・・・!?」
「赤城さん!」
攻撃を一方的に受けているガタックに、舞衣が思わず叫ぶ。
「心配すんな!」
ガタックがそう言い返し、ガタックゼクターの顎のゼクターホーンを少し開いて待機状態にする。すると全身の装甲が浮き上がり分解状態に入る。
「キャストオフ!」
そして、ゼクターホーンを反対側に倒す。
『CAST OFF』
次の瞬間、全身の装甲が弾け飛び、中から青い戦士が姿を見せる。
両側の角が持ち上がり、仮面部分に固定される。それこそが、ガタックのライダーフォーム。
『CHANGE STAG BEETLE』
重い装甲が外れ、身軽になった所で、ガタックは腰のスラップスイッチを押す。
「クロックアップ!」
『CLOCK UP』
次の瞬間、ガタックの見る世界の時間が遅くなり、そして先ほどまで高速で動いていたパンチホッパーの姿をとらえる。
そしてその姿を確認したガタックはマスクドフォーム時のガタックバルカンに収納されていた双剣型カッター『ガタックダブルカリバー』を引き抜き、構える。ちなみに右手の金色のカッターが『プラスカリバー』、左手の銀色のカッターは『マイナスカリバー』である。
「うらぁ!」
「ハアッ!」
衝突する刃と拳。超高速で行われる激しい撃ち合いは、まさしく次元を超えた戦い。
その激しさに、同じ時間流に入れない者に割り込む余地はなく―――
「私もまーぜて!」
「な!?」
結芽は割り込んできた。振るわれた刃はガタックの胴を狙い、ガタックはそれをどうにかプラスカリバーで受け止める。
(こいつ、クロックアップに対抗できんのか!?)
結芽の化け物じみた力に戦慄するガタック。
そこでクロックアップが終了する。
『CLOCK OVER』
「チッ!」
「アハハ!!」
結芽の斬撃がガタックを襲う。しかし、その連撃を全ていなしきるガタック。
後ろ回し蹴りが放たれるも、それが下がられる事で避けられる。すかさずパンチホッパーの拳が飛ぶも、顔面を狙ったそれを顔を下げる事で紙一重で回避、すかさずその胴にマイナスカリバーを叩きつけようとしてかわされ、反撃の拳も回避してプラスカリバーを薙ぐ。そこへ結芽が背後から奇襲。斬撃を受ける。
「うっ!?」
かなりの硬度を誇るヒヒイロカネ製の装甲に守られているとはいえ、刃毀れもしない、折れる事すらないヒヒイロカネより圧倒的に硬く神秘性のある珠鋼で作られた御刀の斬撃を受けるというのは、決して受けて痛くないものじゃあない。
むしろその斬撃によって装甲に傷がつく。
そして、結芽の斬撃に怯んだ所でパンチホッパーのストレートがガタックに叩きつけられる。
「ぐおあ!?」
「もー!瞬おにーさん!この人は結芽の相手だよ!」
「そんな事言ってる場合か。さっさと片付けないとあのババアにどやされるぞ」
「あー、今高津のおばちゃんの事ババアって言った事ちくっちゃおうかな~?」
「・・・糸見の方は確保しておく」
「よろしくね~」
パンチホッパーの標的が沙耶香たちに変わる。というか結芽に弱すぎだろ大人の癖に。
とにかく、これで沙耶香たちにまた危険が迫る。
「おい待てゴラ・・・」
その最中でガタックが立ち上がる。
「別に俺は二対一でも構わねえぜ?さっきはあれだ。油断しただけだ」
「強がりはやめておけ。お前のは初期のライダーシステムだ。最新型の俺のシステムに敵う訳がない」
「んなのやってみなくちゃ分からないだろ!」
ガタックが地面を蹴って結芽に斬りかかる。
しかし結芽の動きは達人のそれだ。そう簡単にとらえられるものじゃない。だが、ガタックも手練れだ。その実力は、サソードはともかく、カブトにも迫る。
振るわれる双剣は、間違いなく結芽を追い詰めていた。
「う・・・わ・・・!?」
「ッ!?結芽!?」
結芽が押されている事に驚くパンチホッパー。その間にも、ガタックは結芽を追い詰めていき―――
「セイヤァ!」
上段からの交差させる斬撃を叩き込んで結芽の写シを剥がす。
「やった・・・!」
その事実に思わずそう声をもらす舞衣。それは、沙耶香もサソードも同じだった。
地面に倒れ伏す結芽だが。
「アハ、アハハハハハ!!」
嬉しそうに笑い声をあげて、
「すごい!すごいよおにーさん!おにーさんもすごいよ!」
迅移を発動させる結芽に対して、ガタックは―――
「クロックアップッ!!」
『CLOCK UP』
クロックアップで対抗。神速の戦いが始まり、神社の石像やら建物やらを破壊しながらガタックと結芽がぶつかり合う。
(まずい・・・結芽の奴、暴走してやがる・・・!)
結芽は戦いを楽しむタイプ。だからその過剰な感情が爆発して命令を聞く事なく相手を切り刻みにいくのだ。その性格上、結芽はあまり任務に出してもらえないのだ。
最も、本当の理由は別にあるが。
「結芽!それ以上は・・・」
「アハハハハ!!すごい!すごいよガタックのおにーさん!もっと遊ぼう!もっと楽しもう!もっともっと、結芽を楽しませて!」
「なっろ・・・バケモンかよコイツはぁ!?」
クロックアップの時間流の中で、結芽とガタックはその剣を交錯させる。
火花が散り、繰り広げられる剣戟は、とてもではないが常人には理解するどころか視認する事すら出来ない。
その様子に、パンチホッパーは思わず冷や汗を流す。
(これ以上はまずい。だったら・・・)
パンチホッパーの視線が沙耶香に向く。それに気付いたサソードが沙耶香とパンチホッパーの間に割って入る。
「そこをどけ、旧式」
「断る。俺はここをどかない・・・!」
「だったら・・・」
パンチホッパーの手が、ホッパーゼクターにのびる。
それに対して、サソードもサソードヤイバーに装着されたサソードゼクターに手を伸ばす。
二人が、それぞれのゼクターに手に触れる。
「がぁぁぁあああぁぁああ!!!!」
『!?』
どこからともなく、黒い影が高速でその場を駆け抜けた。
「ッ!?沙耶香!」
それに対してそれぞれの行動は、サソードは沙耶香と舞衣に覆いかぶさり、反応できなかったパンチホッパーはその攻撃を喰らう。その一方で、超速で動いていたガタックと結芽は攻撃を回避、その正体に目を向ける。
『CLOCK OVER』
時間の流れが元に戻る。
「ぐぅ・・・」
「ッ!剣!」
「剣さん!?」
「ぐおあ!?」
「ッ!誰だ!?」
「・・・!」
サソードは倒れ伏し、パンチホッパーは吹き飛ばされ地面に倒れ、結芽とガタックはそいつと対峙する。
その正体は―――
「なっ・・・・!?」
黒を基調とした装甲。その装甲に基盤のように張り巡らされた赤のラインが、まるで血のように映り、黄色い複眼が、彼らを見据え、その黒い角は、天に向かって伸びる。
そしてその腰には―――黒いカブトゼクター。
「カブト・・・!?」
それは、真っ黒いカブトだった。天道の変身するカブトとは全く違う、黒いカブトだった。
「ぐ・・・あれは・・・!?」
「瞬おにーさん、あれ、知ってる?」
「いや・・・知らない・・・あんなの俺は知らないぞ!?」
「ふーん・・・おにーさんでも知らないライダー、か・・・」
結芽は、いきなり現れた謎の乱入者に笑みを浮かべず警戒の色だけを見せていた。
「ううう・・・・」
唸り声をあげ、背を丸めて、妖しい挙動を見せる黒いカブト。その仕草に、結芽は、何か違和感を感じていた。
(なんか、紫様に似てるような気がするなぁ・・・)
それが、無性に、
「気に入らないなぁ」
「は?」
次の瞬間には、結芽は黒いカブトに斬りかかっていた。
「だから消えて!」
振り下ろされた刃。だが、その斬撃を、黒いカブトはあろうことか。
「うがぁああ!?」
「!?」
「結芽!?」
「ぐぅ!?」
思わぬ反撃に結芽は顔をしかめる。
クロックアップを使っている気配はなかった。奴は、恐ろしいまでの反応速度で結芽の斬撃よりも早く反撃したのだ。まるで居合切り。相手よりも早く、何の構えもしない無形の状態からの、先手だろうが後手だろうが相手よりも先に攻撃をあてる。まさしく、神速の居合。
そして、地面に押し倒した結芽の顔面に向かって黒いカブトは反対の腕を振り上げる。
「うがぁぁあぁああ!!」
獣のような絶叫をあげながら、カブトは拳を振り下ろす。しかしそれよりも先に、ガタックの蹴りが結芽の上から黒いカブトを引きずりおろす。
「がぁ!?」
「どこの誰だが知らねえが、やるってんなら容赦しねえぞ!」
ガタックが殴りかかる。ガタックと黒いカブトが取っ組み合う中、結芽はどうにか起き上がる。
「けほっ・・こほっ・・」
締め上げられた喉を抑え、結芽は怒りに満ちた目で黒いカブトを睨む。
「よくも・・・うっ、げほっ!?ごほっ!?」
どうにか立ち上がろうとした所で、結芽が激しく咳き込む。
「ッ!?結芽!」
その結芽に、パンチホッパーが慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「げほっ!?・・・だい、じょうぶ、だから・・・!」
「でも・・・」
「大丈夫って言ってるでしょ!」
結芽が怒鳴る。それに、パンチホッパーは思わず言葉を失う。
「ぐうあ!?」
結芽の視線の先では、黒いカブトの荒々しくも洗練された攻撃にガタックが苦戦していた。黒いカブトの攻撃は何があっても先に当たるのだ。
「許さない・・・結芽の・・・楽しみを邪魔して・・・!」
御刀を杖に立ち上がり、すぐさま二人のライダーの戦いに乱入する結芽。
「結芽!」
(これ以上はまずい!)
ガタックと結芽がここぞとばかりに共闘して黒カブトを攻撃する。しかし黒いカブトの動きは反応が早く、防御においては非の打ち所がなかった。
その最中において、舞衣は、その黒いカブトの事をじっと見ていた。傍らでは、沙耶香が必死にサソードに呼びかけていたが、それすら気にならない程に、舞衣は黒いカブトに注目していた。
「がぁぁぁああぁあ!!」
「だあくっそ!お前親衛隊最強なんだろなんとかしろ!」
「おにーさんこそ、その程度なの!?」
「んだとごら!?言ったなお前!あー分かりましたよやりゃあいいんだろやりゃあ!!」
ガタックがガタックダブルカリバーを振りかぶる。
その双剣の引き起こす荷電粒子エネルギーが増幅し、カリバーが光り輝き、次の瞬間、振るったその刃から斬撃が飛び、黒いカブトを襲う。
「ぐぁぁぁぁああああ!?」
それをもろに喰らった黒いカブトは吹き飛ばされ、地面を転がる。
しかし、ダメージはある筈なのに、痛む体を無理矢理立ち上がらせた黒いカブトは、なおもガタックに襲い掛かる。
その様子に、舞衣は思わず、こう思ってしまった。
(苦しそう・・・)
何かに責め立てられるかのように、何かに突き動かされているかのように、叫び声をあげながら暴れる、黒いライダー。
その姿に、舞衣は心が締め付けられるような気持ちになる。
苦しんでいるのが、なぜか痛いほど伝わってくるから。
「やァ!」
ガタックが両手を弾いた所を結芽の斬撃が胴に叩きつけられる。
「ぐぅあ!?」
「オラァ!」
すかさずガタックの蹴りが胸に叩きつけられてさがらせられる。
(やめて・・・)
怯んだ所で二人の猛攻が黒いカブトを襲う。
「速攻で片付けるべきだな・・・」
さらに、パンチホッパーまで参加してカブトに連撃を叩きつける。
まるでリンチ。しかし、黒いカブトはそれをものともしないで三人を相手取る。
その体を、確実に傷つけていきながら。
(やめて・・・!)
ダメージを受ける度に、動きが鈍くなっていく。動くのも、つらいはずだ。
だが、それでも黒いカブトは戦う事をやめない。それに対して、結芽たちも攻撃する事をやめない。
(やめて・・・!!)
「うがぁぁあぁあああ!!」
何かを求めるかのように絶叫する黒いカブト。
その姿が、酷く、悲しそうに見えて、苦しそうに見えて、だから、叫んだ。
「もうやめて!」
「ッ!?」
その叫びにガタックが動きを止める。そして舞衣の方を困惑気味に見た。しかし、その直後に黒いカブトが三人を弾き飛ばした。
「ぐおあ!?」
「うわ!?」
「ぐぅ!?」
弾き飛ばされて、地面に倒れ伏す三人。
「うぅぅうう・・・・!」
まだ戦おうとする黒いカブト。そんな彼に、舞衣は叫ぶ。
「貴方もやめて!それ以上戦っても、苦しいだけだよ!」
「・・・!?」
その声に、黒いカブトの体が跳ねる。そして、ゆっくりと舞衣の方を見て、じっと見つめた。
「・・・・」
複眼に、舞衣の姿が映る。果たして、黒いカブトにとって、舞衣の姿はどう映ったか。
そして、舞衣にとって、黒いカブトはその時、どんな風に見えたのだろうか。
静寂が、その場に流れる。
『RIDER JUMP』
『!?』
どこからともなく聞こえてきた電子音。
「ライダーキック」
『RIDER KICK』
次の瞬間、どこからともなく飛んできた緑色の装甲を纏った男が、黒いカブトに飛び蹴りを喰らわせる。
「あ・・・!?」
蹴りが叩きつけられた瞬間、左足のアンカージャッキによって威力が増幅され、破壊力二十トンもの蹴りが黒いカブトに叩きつけられ、大きく吹き飛ばされる。
「ぐあぁぁぁぁぁあああ!?」
悲鳴を上げて、黒いカブトは森の中へ消えていった。
「そんな・・・・!」
舞衣は、闇に消えた黒いカブトの姿を見て、口元を抑えていた。
その様子を茫然と見つつ立ち上がったガタックは、黒いカブトを蹴り飛ばした存在を見た。
それは、緑色の仮面ライダーだった。
「あ、兄貴・・・!?」
そう、その仮面ライダーこそ、パンチホッパーこと、影車瞬の兄、同型の『ホッパーゼクター』に選ばれた男。
名を、影車想。またの名を、仮面ライダーキックホッパー。
「想おにーさん・・・」
「何をしている?」
さらに別の方向から声が聞こえた。そちらに視線を向ければ、鎌府学長の高津雪那とそのほかの部下の刀使(略してブカトジ←意味あったかこれ?)がいた。
「あ、ヒステリックババア」
「誰がヒステリックババアよ!?」
「あ、赤城さぁん!?」
ガタックのいきなりの失礼にその場にいた者が一気に青ざめるものの(なお、パンチホッパーは頷いていた←当然キックホッパーに踵落としを喰らう)、気を取り直して雪那は結芽に言った。
「ともかく結芽、お前のような欠陥品如きが出る幕ではないのよ。下がりなさい」
鎌府のブカトジたちが彼らを囲う。
その最中で、沙耶香は目を閉じる。
「・・・・はあ」
その状況を見て結芽はため息をついて、
「はいはい分かりました~」
写シを解除して雪那の横を素通りしようとする。
その時、結芽の口角があがったかと思うと、
「俺がやる」
パンチホッパーがその肩に手を置いていた。
それに対して結芽は、
「よろしく」
と、即答した。次の瞬間、
『CLOCK UP』
刹那の時間が流れ、何かがブカトジたちのすぐそばを通る。
『CLOCK OVER』
次の瞬間、鎌府のブカトジたちが一気に倒れる。
「な!?瞬、貴様・・・」
雪那の狼狽を無視して、パンチホッパーはホッパーゼクターをベルトから外し、変身を解除する。
「お前・・・」
「勘違いするなよ。俺は結芽の行動を代行しただけだ」
ガタックの言いたい事を読んだのか、瞬はすぐさま否定する。その様子にキックホッパーはため息をついて瞬と同じようにホッパーゼクターを外して変身を解除、結芽たちの後を追った。
「あーあ、無駄な時間使っちゃったな~」
そう言ってのける結芽。だが、その手は、胸を掴んでいた。
「ま、とりあえずは助かったって所だな」
ガタックがガタックゼクターを外して、変身を解除する。
「剣・・・」
「ああ、うん、大丈夫。少し休めば問題ないよ」
「でも・・・」
「沙耶香、わがままはおしまいよ」
サソードの事を心配している沙耶香に、雪那が近寄る。
「さあ、鎌府に戻りなさい」
その雪那の言葉に、舞衣はそっと囁く。
「沙耶香ちゃん・・・」
「・・・・うん」
立ち上がる沙耶香。その行動を了承と受け取ったのか、笑みを作る雪那。
「そうよ沙耶香。お前は親衛隊たちのような欠陥品とは違う、完璧な刀使・・・」
「私は」
しかし、雪那の言葉を遮って、沙耶香は言った。
「貴方の望む刀使にはなれない。ううん、なりたくないです」
その言葉に、雪那は思わず狼狽する。
「え?何を、言ってるの・・・?」
「からっぽのままでいいと思った。でも、私の胸を一杯にするこの熱を、失くしたくない」
それは、沙耶香が初めて口にする、彼女自身の本心。サソードでさえ、満たせなかった、沙耶香の心のうち。
「だから、この熱をくれた人たちと、もう一度戦いたい。一緒にいたい」
「何を・・・お前は妙法村正の継承者。私の代わりに、いえ、私の代わりに紫様にお使いするべき存在!紫様の為だけに働く道具なのよ!」
その言葉に、沙耶香は思わずうつむく。だが、その手を、そっと包み込んでくれるものがあった。
それは、舞衣の手。舞衣の手が、沙耶香の手をそっとに握りしめてくれる。それだけで、勇気が湧いてくる。
「今まで、お世話になりました」
「っ・・・あ・・・」
それは、沙耶香の決定的の拒絶の言葉。その言葉に、雪那は、それ以上何も言えない・・・・筈だった。
「剣!何をしている!」
そう、彼女には、まだ神木、サソードがいる。
「今すぐ沙耶香をとらえなさい!」
神木さえ、サソードさえいえば、沙耶香を強引にでも引き戻せる。そう、サソードさえいればだ。
「今すぐに・・・」
「お断りさせていただきます」
「は・・・?」
サソードの返答に、雪那は一瞬呆ける。
「き・・・さま・・・何を言って・・・拾ったやった恩を、まさか忘れた訳では・・・!」
「忘れてなんていませんよ。むしろ、貴方には返しても返しきれない程の恩があります」
「だったら・・・!」
「だから、これは俺が貴方に出来る最大の奉公です」
「は・・・?」
サソードゼクターをサソードヤイバーから外し、変身を解除する神木は、雪那にこう告げる。
「貴方は、沙耶香を道具と言いました。それが、どれほど非人道的な事か、貴方に理解してほしい。今まで黙っていましたが、貴方は間違っています。ですから、その間違いがどういったものなのかを理解してほしい。だから俺は、貴方から沙耶香を引き離します。貴方のしたことがどれほど間違いで、そして、沙耶香が手に入れた者がどれほど大切か、貴方に分かって欲しいから」
だから、神木は、彼女の元を離れるのだ。
「今まで、ありがとうございました。雪那さん」
そう頭を下げ、神木も、雪那に告げた。
その言葉と姿に、雪那は、言葉を失う。その姿があまりにも哀れに見えて、神木は、彼女の横を通る。
「行こう、沙耶香」
そして、神木は精一杯の笑顔で、沙耶香にそう言った。
「・・・うん」
その言葉に、沙耶香も微笑みを返しながら頷いた。
「ま、まちなさ・・・ま・・・まって・・・沙耶香・・・・!」
小さな声でそう呟き、その場に立ちすくむ雪那を置いて、彼女たちは歩く。
その最中で、舞衣は、あの黒いカブトが消えていった先を、見ながら、後ろ髪をひかれる想いで去っていった。
夜が明けて、赤城たちがそれぞれのバイクを取りに行っている間に、舞衣と沙耶香は、海を眺めていた。
「沙耶香ちゃんのしたいこといっぱい、ううん、全部やろう?」
不意に、舞衣がそう言う。
「私も可奈美ちゃんも一緒だから、ね?」
それに沙耶香がうなずいて、
「食べたい」
「何を?」
「また、クッキー、食べたい」
楽しみにする子供のように、そう、笑いながら沙耶香は言う。
その言葉に、舞衣は本当に嬉しそうに笑って、
「うん!喜んで!」
そう言って、沙耶香に抱き着いた所で。
「舞衣お嬢様」
どこからともなく声がした。それは、舞衣の聞き知った声。
「お迎えにあがりました」
それは、執事の柴田だった。そのすぐそばには黒い立派な車があり、
「柴田さん、どうしてここに・・・?」
そこで扉が開き、中から出てきたのは、美濃関学長の羽島江麻だった。
「私が御足労願ったからよ」
「あ、あの羽島学長。わ、私・・・」
「事情はおおよそ把握しています。二人とも、今はこの地を離れなさい」
そう言う江麻の言葉と同時に、二つの別々の排気音が聞こえてくる。
「なんだよ。車来るんだったらそういえよな。ヘルメット余計にもってきちまったじゃねえかよ」
「うっわ立派な車だなぁ・・・これ、柳瀬さんとこの車?」
赤城と神木だ。
二人とも、それぞれ別々のバイクに乗ってやってきていた。
「余計なヘルメットはこちらで」
「あ、すまねえな」
「どうも」
そして柴田によってスムーズに回収されていった。
「赤城さん、神木くん」
「あ、羽島学長・・・」
「おっす羽島の学長!」
「二人の事、よろしく頼むわね」
その言葉に二人は、
「おう!」
「お任せください」
その言葉とともに彼らは行く。舞衣と沙耶香は柴田の車に乗り、その後ろを赤城と神木の乗るバイクが追いかける。
「無茶する子の後始末ばっかりするのが得意になっちゃったのは、誰の所為かしらね」
そう一人つぶやく江麻の携帯から、連絡を知らせるアラートが鳴る。
それを手に取り、耳に当てる。相手は、彼女の顔見知りだ。
「もしもし、紗南?・・・ええ、匿うだけでいいの。そこから先は自分自身で決めることよ。・・・え?私?・・・・ええ、腹をくくったわ」
その返事を返す江麻の表情は、何かを決心したかのように不敵な表情だった。
とある、山奥にて、舞衣、沙耶香、赤城、神木の三人はいた。なぜそこで止まったのかはわからない。ただわかるのは、そこで誰かと待ち合わせているということだけだ。
そんな訳で。
「舞衣ちゃーん!」
「可奈美ちゃん!」
可奈美が走って抱き着いてきた。
その後ろから天道が歩いてくる。
「天道さんも」
「えっとね!舞衣ちゃん私えーっとえっと・・・・うわ!?」
「少しは落ち着け」
「えへへ。とにかく!話したい事たくさんあるんだ!」
「うんうん、私もたくさんあるよ」
可奈美の興奮ぶりに舞衣も微笑まし気に笑う。ふと可奈美の視線が舞衣の隣の沙耶香に向く。
「あ!沙耶香ちゃんだ!」
「うん・・・わ!?」
「聞いた通りだ!本当に沙耶香ちゃんも来てくれた!」
沙耶香の手をとってぶんぶんと振り回す可奈美にそれに翻弄される沙耶香。
その一方で、天道は赤城たちの元へ向かっていた。
「おっす!何日かぶりだな」
「五日だ。数えておけ」
「あいっ変わらずの唯我独尊思考だなぁおい。ま、それがお前らしいけど」
赤城は天道の性格ぶりに苦笑する。
その視線は次に神木に変わる。
「ひ、久しぶりです。天道さん」
「ああ。この間あったときよりはずいぶんとマシな顔になっているな」
「はあ・・・それはどうも・・・」
天道の言葉にやや困惑を隠せない神木ではあったが、歓迎されていることはわかったので、内心安心している。
「そんなことよりも赤城」
「ん?なんだよ?」
「俺よりも先に会うべき奴がいるんじゃないのか?」
「会うべき奴?それって・・・」
「義兄さん!」
どこからともなく叫び声が聞こえ、そちらに視線を向ければ、そこには、息をあげて赤城の方を信じられないという顔で見ている姫和の姿があった。
「姫和!?」
「義兄さん・・・本当に・・・義兄さんなんだな・・・?」
「あ、ああ・・・久しぶり、だな・・・」
片手をあげてそう言う赤城。その仕草と返事を聞いて、姫和の顔が一気にくしゃりと崩れ、
「義兄さんっ!」
「おぶえ!?」
紫に放った迅移に勝るとも劣らないほどのスピードで赤城の腹にダイブ。そのまま府っ飛ばして地面を転がる。
「生きてる!本当に生きてる!!義兄さんがっ、義兄さんが生きてる!うわぁぁああ!!」
「・・・・悪かったな。今まで教えなくて」
姫和の泣き声がその場に木霊する。姫和は赤城の胸に顔をうずめ泣き、それを赤城は優しく抱きしめる。
その様子を、その場にいた者たちは微笑まし気に見ていた。
「よかったね。姫和ちゃん」
そんな可奈美の言葉の直後、また新しい声が聞こえてきた。
「ウェルカム!舞草は二人を大歓迎シマスネー!」
エレン、薫、風間、山矢の舞草の刀使とライダーたちである。
「ねねー!」
その最中でねねは舞衣の胸に飛び込もうとするも、寸前でその尻尾を薫につかまれ惜しくも胸へのダイブは阻止されてしまう。
「少しは自重しろ。このエロダマ」
「最もだな」
薫の言い様にうなずく山矢。
その一方で、風間はその場に集まったメンバーを一望する。
「刀使からは衛藤可奈美、柳瀬舞衣、十条姫和、糸見沙耶香、ライダーからは天道司、赤城新、神木剣の三人・・・かなりの戦力増強だな」
「いいじゃねえか、丁度他にライダーがいなくて、なんか肩身が狭かったからな」
「それもそうか」
風間はそれ以上考えない事にした。
そこで、一台の車が彼らの前にやってくる。その車の窓には、フリードマンが乗っており、その反対側からは、一人の女性が姿を現す。
「ようこそ舞草へ。若き刀使たち、そして、新たなライダーたち。折神朱音と申します」
女性、折神朱音は、そう物腰の柔らかい声と表情で、そう言った。
次回『相模湾岸大災厄』