でも現実の都合上朝イチで見れない(泣
『観測史上類を見ない巨大な荒魂が出現して、今日で四日目。特別祭祀機動隊によりますと、死者一〇八九人、行方不明者八六四人、負傷者一五二四六人、繰り返します――――』
多くの機動隊隊員や、刀使たちが見上げる先にあるのは、小さな山にも匹敵しそうなほど大きな存在。その周囲を、翼をもつ荒魂が飛び交い、奇怪な声をあげて旋回している。
相模湾岸に、この荒魂が出現して、はや四日。未だ、彼らはその荒魂の討伐に至っていなかった。
そこへ続く道中にて、総勢八名の刀使たちが剣を振るい、襲い掛かる荒魂を猛攻をしのいでいた。
その中で特筆する強さを見せる少女がいた。
その名は、『
襲い掛かる荒魂の猛攻を難なく退け、刀を左右持ち換えながら戦う様はまさしく達人。
他の少女たちも、彼女には及ばないものの、凄まじい戦いぶりを見せていた。
だが、数の優劣では完全に負けている。その現状を、折神紫は痛感していた。
「どうする・・・」
その部隊の隊長として彼女は考える。どうやればこの場を乗り切れるか。どういったらこの状況を打開できるのか。だが思考は堂々巡りを繰り返す。
「紫!後ろ!」
そこで
「ッ・・・ありがとう」
その江麻に礼を言うのも束の間。
「きゃあ!?」
「!?」
誰かの悲鳴があがり、そちらに視線を向ければ、
「雪那!あかん!もう写シが・・・」
雪那がとっくに限界を超えているらしい。これでは戦闘の続行は不可能だ。
「ゆか・・・り・・・さま・・・・」
雪那が、弱々しく顔をあげて、紫の名を呼ぶ。その姿を、紫は見て、しばし考える。
だが、その時、荒魂の咆哮が聞こえたかと思えば、雪那たちのいる直上から荒魂が襲い掛かってきていた。
「ッ!?あぶない!」
叫ぶ、がもう反応できない。
「な!?」
「しまった!?」
写シの無い状態で攻撃を喰らえば、ただでは済まない。下手をすれば、後遺症の残るダメージを負う事になる。
そうなれば、雪那はもう刀使として戦えなくなる上に私生活もままならない。
だが、避ける事も叶わない。他の刀使は別の荒魂の対応に追われている。援護も出来ない。
(であるならば―――)
紫が、思わず祈ってしまう。
『CLOCK UP』
その時、『彼』以外の全ての時間の流れが遅くなる。全ての時が限界にまで遅くなり、荒魂の落下すら、何か、泥にでもはまっているかのようにのろかった。
「急いで片付けないと。クロックアップもそんなに長くないからな」
彼が、腰の装置のスイッチ『フルスロットル』を順番に押していく。
『ONE TWO THREE』
そしてゼクターホーンを一度待機状態に戻して、彼は呟く。
「ライダーキック」
そしてゼクターホーンをまた戻すと、その装置内のタキオン粒子が生成、増幅され、それが一度頭の角を通り、右足に収束して―――
『RIDER KICK』
「ハアッ!」
ライダーストンパーによって波動に変えられたタキオン粒子の蹴りが、その荒魂に直撃し、吹き飛ばされる。
『CLOCK OVER』
そして、時間の流れが元に戻り、次の瞬間にはその荒魂は爆発四散していた。
「うわ!?」
「これは・・・・!?」
その突然の事に、少女たちはすぐには対応できなかった。だが、誰の仕業かはすぐに分かった。
黒いボディに、赤い血のような基盤が迸る、ある意味禍々しいデザインの装甲を身に纏う、一人の男。
「蒼次兄さん・・・!」
紫は、歓喜の想いでその名を呼んだ。
彼の名は『折神
「蒼次さん!遅いですよ!」
「ごめん紗南!引き受けた荒魂が以外に多くて!」
紗南の言い様に襲い掛かる荒魂を殴り飛ばしながらそう弁明する蒼次こと、プロトカブト。
「その様子だと、全部片づけたようですね!」
結月がそう聞いてくる。
先ほどまでプロトカブトは、別に街へ侵攻しようとしていた荒魂の大群を一人で相手取っていたのだ。
そして、それら全てを殲滅してこうしてここに戻ってきたわけなのだが。
「かなりの数がやられたようだね」
「すまない、蒼次兄さん・・・」
「君が謝る事じゃないよ紫。こうなったのも、僕が遅れた所為なんだからさ・・・」
スラップスイッチを叩く。
『CLOCK UP』
次の瞬間には、襲い掛かってきた荒魂のほとんどが消え失せた。
『CLOCK OVER』
気付いたころには全て破壊、爆散しており、そこに立っているのは、紫含む八人の刀使とライダーが一人だけ。だが、それでもなお荒魂は襲い掛かってくる。今は一時的に退けたにすぎず、すぐさま次の敵が襲い掛かってくるだろう。
そのことを理解していた紫は、一つ決断を下す。
「美奈都、結月先輩、江麻、いろは先輩、紗南、蒼次兄さん、以上六名は雪那を連れて撤退して!」
「え?僕も!?」
紫の命令に、思わずプロトカブトが反応する、がそれよりも雪那の方がショックが大きい。
「そんな!私の所為で撤退なんて・・・お願いです・・・!どうかこのまま見殺しに・・・!」
「雪那ちゃん!」
このまま見捨ててほしい事を懇願する雪那を叱咤するひろは。
「もうこれ以上、犠牲は出したくない」
しかし、紫はその申し出を拒否。その様子を見て、『
「篝?」
「せやけど、こんな有様じゃ撤退するのも無理なんとちゃう?」
「そうですよ。行くも茨、戻るも茨。であるならば行くべきです!」
いろはと紗南がそう申し出る。
「本体まで、あともう少しなのに・・・」
江麻が見上げる先には、巨大な大木のようにそびえたつ、今回の事件の元凶。今までに見た事無い程巨大な荒魂。
「いや違う」
それを、紫が否定する。
「本体は、あの奥にいる」
「だったら行ってそいつ倒そうよ」
その紫の呟きに美奈都がそういうも、その隣にいた篝がそれを止める。
「いえ、ここから先は私と紫様、二人だけでいきます」
「は?一体何言ってるんだ篝?」
「そうだよ。ねえちょっと!」
踵を返して階段を上がる篝に、そう問いただす
「四〇〇年続く刀使と荒魂の戦いの歴史・・・荒魂による大災厄は、記録に残るものでも過去三回。いずれも、折神家と一部の者のみがもつ方法で鎮めてきた」
「鎮める方法?」
「あるの?そんなもの?」
「ある」
それらの質問に、紫ははっきりと言う。
「篝の協力が必要だけれども」
「そんなの初耳なんだけど?」
「僕も知らないぞ。まあ刀使じゃなかったから仕方が無いけども・・・」
そうがっくりとうなだれるプロトカブトはさておき、結月がすぐさま指示を飛ばす。
「説明している時間はない。命令に従え」
「結月さん・・・」
「以後、隊の指揮は私がとる。雪那を守りつつ、速やかに撤退する」
結月の冷静な判断に基づく命令が下される。
「やれやれ。仕方がないか・・・紫、篝」
プロトカブトが二人を肩越しに見る。
「生きて帰ってこい」
「・・・分かりました。篝」
「はい」
その言葉を受けて、紫と篝は先に向かう。
「美奈都、蒼次さん。先行し、退路を確保してくれ」
結月の指示が飛ぶ。
「よし、やろうか美奈都。・・・・・美奈都?」
「ごめん結月さん、私、二人の援護に行く」
突然、美奈都がそのような事を言い出す。
「待て!お前が行ってもどうにもならない!」
「ふーむ。ま、いいんじゃない」
プロトカブトが美奈都の背中を押す。
「蒼次さん、貴方まで・・・」
「大丈夫だよ。マスクドライダーシステムは刀使に変わる最強の荒魂殲滅システムだ。美奈都の穴ぐらい、僕がいくらでも埋められるよ。この『居合の蒼次さん』を舐めないでくれるかな?」
「しかし・・・」
「それに、僕には新兵器があるからさ」
そう言って、プロトカブトは懐から、小さなカブトムシ型の装置を取り出す。それは、カブトゼクターとは全く似ておらず、サイズからしてもとても小さい。
「ゼクトからの新兵器。その名も『ハイパーゼクター』だ」
「そんなものを・・・ですが・・・」
それでもなお引き下がる結月だったが、美奈都が口をはさむ。
「紫も篝も疲れてる。露払いくらいはつとまるでしょ」
「そういう事」
プロトカブトの賛同に、最初に折れたのは江麻だった。
「分かった。行ってきて、美奈都」
「江麻!」
「結月先輩も知ってるじゃないですか。美奈都の性格」
「せやね。止めるだけ時間の無駄」
「だったら自分も・・・」
「紗南ちゃん。ここだって随分と大変よ」
「・・・・はい」
美奈都が行ったことを確認して、彼らの撤退が始まる。
「ハア!」
カブトの蹴りが前方の荒魂をすぐ横の崖へ突き落す。
「素手でよくやりますよね蒼次さん!」
「刀とか、刀剣の類が使えればよかったんだけど、生憎と、クナイガンは荒魂に突き刺したままなくしちゃったからね!」
「馬鹿じゃないんですか・・・・!?」
「もっともだね」
結月の罵倒に返す言葉もない。
とにかく今は、一刻も早く雪那を安全な場所へ移動させるという事だけだ。
その為には、目の前の荒魂の群れを殲滅する。やる事は変わらない。
フルスロットルを押していく。
『ONE TWO THREE』
「!? 蒼次さん!いくら何でも使い過ぎなんじゃ・・・」
「多少の無理は承知の上だよ!ライダーキックッ!」
ゼクターホーンを、倒して戻す。
『RIDER KICK』
生成、増幅されたタキオン粒子が、右足甲のライダーストンパーによって波動へと変えられ、一方向の荒魂を回し蹴りによって一気に殲滅する。
「ハア・・・ハア・・・」
「蒼次さん、貴方も疲れとるんちゃいますか?」
「ハア・・・そうだね。どうにかここを切り抜けたら休憩しようかな・・・!」
息をあげるプロトカブトにいろはが駆け寄る。だが、プロトカブトは戦うのをやめない。
一体、目的地につくまで、どれほどの荒魂を倒せばいいのか。
そんな事が脳裏をよぎる。
だが、そんなことを考えても仕方がない。とにかく敵を屠る。それだけだ。
「あとどれくらいなんですか!?」
「あともう少しだ!頑張れ!」
結月がそう叫び答え、新たに荒魂を斬り伏せた。その時、プロトカブトはある事に気付く。
(妙だ・・・)
ここに来るまでに、多くの刀使たちが荒魂を斬り伏せた筈だ。その際に出てくるノロは、路上にかなりの量が散らばっている筈だ。それなのに、そのノロがあまりにも少ない。先ほど屠ったものを引いても、いくらなんでも量が足りなさすぎる。
まるで、どこかへ移動したかのように――――
「ッ!?まさか!」
瞬間、大地が揺れるような咆哮が轟き、林の中から、見るも巨大な霊長類型の荒魂が姿を現す。
「な!?」
「これは・・・!?」
突然の巨大な荒魂の出現。それに、彼らは茫然と見上げてしまう。
まるでゴリラのような腕に短い脚。その体は赤銅色に輝いており、その体のあちらこちらにある目は、ぎょろりと周囲を見渡していた。
だが、その目が、一斉に彼らの方を向いた途端、
「回避ぃぃぃいい!!」
結月の絶叫が響き渡り、巨大な荒魂は拳を振り上げて降ろしていた。
「ッ!」
『CLOCK UP』
拳が振り下ろされ、道路が吹き飛ぶ。まるで爆弾でも爆発したかのようにクレーターが出来、そこに荒魂の拳がめり込んでいた。
『CLOCK OVER』
「あーぶなかったぁ・・・」
しかし、その下敷きに彼らはなっておらず、間一髪でクロックアップを発動させたプロトカブトが全員をかっさらって回避したのだ。
「助かりました蒼次さん」
「結月、今すぐ皆を連れて逃げるんだ」
「ッ!?まさか、あの荒魂を一人で・・・」
「やるしかないだろう。大丈夫。ライダーシステムは刀使を超える為に作られたものだ。実際に刀使の戦闘力を超えるほどの力を発揮しているし、それは僕自身がしっかりと理解してる」
「自慢ですか?」
「こういう時に言ってくれるねえ紗南ぁ・・・」
荒魂が彼女たちを見つける。
「さあ、行って。早く!」
「・・・分かりました」
その言葉に結月は頷き。
「ここは蒼次さんに任せて、私達は先に向かうぞ!」
「蒼次さん、気を付けて」
「頼みます!」
「蒼次さん、どうか無事で」
「ご武運を祈ります」
刀使たちは、プロトカブトに口々にそう言って、その場を離れていく。
その刀使らの背中に、荒魂の咆哮が届く。しかし、その荒魂の前に、プロトカブトが立ちふさがる。
「こっから先にはいかせないよ」
プロトカブトは、懐からあのハイパーゼクターなるものを取り出す。
その時、これをくれたゼクトの人間からの言葉を思い出す。
『それはあくまで試作品。何が起こるのかは分からないぞ』
その言葉を思い出し、しかしカブトはそのハイパーゼクターを腰に装着した。
「ハイパーキャストオフ!」
『HYPER CAST OFF』
そして、そう叫んで、ハイパーゼクターを起動した―――――
「・・・それ以来、プロトカブト、私の従兄の折神蒼次は行方不明となっていました」
とある村の屋敷にて、折神紫の妹である折神朱音が、そう告げた。
現在、舞草の拠点―――というか岩手県一関市閉鎖にて、可奈美ら刀使六名、天道らライダー五名は、折神朱音から、二十年前の相模湾岸大災厄の顛末を聞いていた。
「俺たちの使うゼクターの大本のゼクターを使っていたのが、朱音様の兄君だったとは・・・・」
「従兄だけどな」
風間と山矢の言葉には天道、赤城、神木も同じだった。
「あれから二十年、思えばあっと言う間だったな」
「ハイ!サナ先生!」
そこで廊下の襖から一人の女性が入ってくる。
「長船女学園の、真庭学長・・・」
「お前が十条姫和、そして、お前が衛藤可奈美だな」
紗南は、可奈美と姫和の二人を見る。
「はい・・・」
「あの日の事は昨日の事のように思い出せる。私がこうしてここにいられるのは、お前たちの母親のお陰だ」
その紗南の言葉に、姫和が反応する。
「お前・・
「そうです。大災厄を鎮めるために、奥津宮へと向かった三人・・・一人は私の姉、折神紫。一人は姫和さんのお母さん、柊篝。そして最後の一人は、可奈美さんのお母さん、藤原美奈都」
「ッ!?」
「え!?そうなの!?」
「まじか」
「ええ!?」
「・・・!」
「驚いた」
「なぬ・・・」
「ワーオ!?」
「すげえな・・・!?」
「・・・」
ちなみに上から姫和、赤城、薫、舞衣、沙耶香、神木、風間、エレン、山矢、天道である。
「ひよよんのお母さんがかがりんで」
「可奈美ちゃんのお母さんが美奈都さん・・・!」
衝撃的事実である。
が、天道はさほど驚いていないようで。
「俺の母親がいつも美奈都さんの話をしていたし、俺自身も可奈美が生まれる以前から美奈都さんに世話になっていた」
「まあ俺も篝さんがそんな事してたのは知ってたけどよ・・・まさか衛藤のおふくろもその一人だったとは・・・」
「その通りです」
「何故言わない!?」
姫和が可奈美にそう言うが、
「だって聞かれなかったし」
「美奈都さん自身も可奈美に言わなかった。ようはそれだけの話だ」
「それに藤原は旧姓で、今は衛藤美奈都だから」
確かにそうである。聞かれなかったから言わなかった。その上名前も違う。
「それでもお前の母親の事だろうが」
「そうだぜ?刀使だった頃の話ぐらいは聞かなかったのか?」
「お母さんとそういう話しなかったし・・・でもそっか、お母さんが・・・」
可奈美は、嬉しそうに笑みを零す。
「そういえば、可奈美ちゃんの最初の剣の師匠って、美奈都さんなんだよね?」
「うん、ちっちゃい頃から毎日扱かれてた。司お義兄ちゃんもそうだったよね?」
「まあな。毎日化け物かと思っていたが」
「それでもお母さんから何度も一本とってたよね。私なんか一度も勝てなかったよ」
「トータルで言えばあの人の方が上だ・・・なんだ?」
何故か赤城が珍しそうに天道を見ていた。
「いや、お前が自分以外の人間をそう褒めるなんてな・・・」
「まあな」
天道が天上に向かって右手をあげて指を指す。
「美奈都さんが言っていた。人生は楽しまなければ損だ、と。そしておばあちゃんが言っていた。世界は自分を中心に回っている。そう思っていた方が楽しい、とな」
「出た天道語録。でもま、なんとなくお前がその性格な理由が分かった気がするよ」
天道のお決まりの台詞を聞きつつ、紗南も言う。
「美奈都先輩は本当に強かった。アタシが知る中でも飛びぬけて。当時の折神紫よりもな」
「そうなんですか!」
「ああ、美奈都さんも篝さんも、二人とも素晴らしい刀使だった」
「相模湾岸大災厄の大荒魂を鎮めた本当の英雄は、貴方たちの母親です」
「そしてそんな英雄に、我々は何も報いる事は出来なかった」
二人の表情は、その時のやるせなさがにじみ出ているようだった。
「ですのでこの場で、皆さんに改めて言っておかなければならない事があります。あの時の、二十年前の荒魂討伐は、まだ終わっていません。しかも、大荒魂はあの頃よりもさらに大きな力を増し、強大になっている筈。いつでも二十年前の状態を引き起こせると、我々は考えています」
事件終息当時、政府と刀剣類管理局は、江ノ島に取り憑いた大荒魂の存在を隠蔽した。
その表向きの理由は、その大荒魂が知性を持っていた事だ。
知性を持つ程強力な荒魂の存在は、世間の混乱を招くと考えた政府は隠蔽を決行。その決断をした一人が、他でもない折神紫だ。
当時を知らない刀使や世間、あるいは、その真相を知らない者たちには、折神紫率いる特務隊、つまり現在の五箇伝の学長たちによって鎮められたとされているが、それは全くのデマだという事は、上述にて分かっているだろう。
その中に、柊篝と、藤原美奈都の名前は無いのだから。
そして、その大荒魂を鎮めた方法も、語られた事は一切無い。果たしてそれは何故なのか。
紫は大災厄の二年後に折神家当主に就任。そして、以下五名を、各五箇伝に就任。しかしそこにも、二人の姿はなかった。
されど、大災厄後に刀使としての力を失った二人はそれぞれ家庭をもって穏やかな日常を過ごしていた。
その間、紫による統制で、刀剣類管理局や特別祭祀機動隊などの組織は強化されていった。それにより、荒魂による被害は最小限に抑えられ、世論の評価を上げ、他国との協力の元、新技術を次々に確立していった。
だが、誰もが二十年前に置き忘れていったものに気付く事は無かった。
その、大荒魂の名は、タギツヒメ。
美奈都が死去した日、朱音はその訃報を篝に伝えた。
『私のせいだ・・・』
その言葉を聞いた朱音は、二十年前の災厄・・・というよりは、それを鎮める方法について調べる決心をした。
あの時紫が使った方法。それは折神家でも、ごく一部の者にしか伝わっていない、鎮めの儀。
その方法とは、一人の刀使の命と引き換えに、タギツヒメを、隠世へ引きずり込むというものだった。
「荒魂を、隠世に・・・!?」
「そんなことが可能なのか?」
その事実に、一同は驚愕する。
「可能だ。刀使は御刀の力を使い、隠世の様々な『層』の力を使うが、稀に隠世の深淵にまで到達できる力を持つ者がいる」
「それが柊篝の迅移」
そこで、さっきまで黙っていた天道が答える。
「迅移は、潜る層の時間の流れの違いを利用して加速する技。柊篝のそれは刀使の中でも遥かにすさまじかったそうだな。そして、深ければ深い程加速する」
「ああ。その通りだ。だが、理論的な限界値まで突き詰めたら、どうなると思う?」
「一瞬が無限に、感じる全てを置き去りにして加速し、戻る方法を見失い、結果戻ってこられなくなる」
天道が、そう答える。
「そうだ。篝さんは無限の階層まで到達できる能力の持ち主だった」
「そんで御刀をぶっ刺してそのまま自分ごと隠世に引き込む・・・まさに道連れじゃねえか」
赤城がそう告げる。
そう、まさしくそれは、心中技。自分ごと相手を討つための、一歩間違えれば自爆してしまう、そんな危険な技。
だが、事実としては篝は生還して、こうして姫和がいる。
その理由は至極単純だ。
「ええ。ですが、篝さんは生還されています。その理由は美奈都さんのお陰です」
「お母さんが・・・」
「だがどっちにしろ、美奈都さんも篝に追い付くために迅移を使い、文字通り命を削った。そしてその数年後には命を落としている」
天道の言葉は、まさしくその通りであり、美奈都と篝は、数年でその命を落としていた。
だが、そうなると一つ疑問が残る。
「お二人がタギツヒメを隠世に追いやったなら、今の折神紫は一体何者デス?」
「そんなの決まっている。タギツヒメだ」
「母は鎮めきれなかったんだ。一時的にその力を奪ったに過ぎない」
風間の言葉を、姫和は肯定するかのように告げた。
「じゃあ、元の御当主様はどうなったの?」
「荒魂に浸食された者は・・・・」
「そうです」
姫和の言葉を代弁するかのように、朱音が告げる。
「あの日から、あれはもう姉ではなかったのでしょう」
朱音は、二年前に見た。
紫が、身の内に巣くう何者かと対話している瞬間を。
「私は確信しました。紫の姿をしたあの荒魂こそ、二十年前のあの大荒魂なのだと・・・・私はその事を手紙にしたため、篝さんに助力を願いました。貴方はそれを読んだのですね?」
その言葉に、姫和は頷きをもって肯定した。
「そうですか・・・・」
それを見て、朱音はうつむく。そのまましばしの沈黙の後。
「そういえば」
神木が口を開いた。
「話の中で出た、最初のライダー・・・プロトカブトについてなんですが、その、色って黒なんですよね?」
「ええ。それが何か・・・」
「言いそびれたんですけど、実は俺たち、ここに来る前に親衛隊の刀使とライダーと戦ってたんですけど、その時、黒いカブトと遭遇したんですけど・・・」
「なんですって!?」
朱音が思わず声を張り上げる。
「それは本当かい!?」
紗南すらも声を荒げる。
「ああ、あの黒いカブトな」
「なんでそういう重要なことを最初に言わないんだ馬鹿」
「ば、バカって言うなよ!?」
天道の言い草に反論しつつも、赤城が話し始める。
「突然現れたんだよ。そいつ、柳瀬曰く、なんか苦しそうだったみたいだったけど、これがめっちゃ強くてさ。こっちの攻撃が当たる前に攻撃を当てられるんだよ」
「まるで、とてつもなく速い居合を放っているようにも見えました。正直、ライダーの視覚がなければ見えませんでした。実際に受けてたのは赤城さんでしたけど・・・」
「あれは本当にすごかった。とても正気を失っている人間の技じゃなかった」
「私も、そう思いました・・・」
あの黒いカブトの挙動は速かった。ありとあらゆる攻撃を全て先に当て、流れを作る。どれほど遅れてもすぐさま対応して、攻撃が当たるよりも早く当てる。あるいは躱してから対応させる暇も与えずに攻撃を当てるなど、全ての攻撃が凄まじく速かった。
「あれはもう達人の域だな」
その言葉に他の三人も同意する。
「そ、そのカブトは今どこに・・・!?」
朱音が、焦り気味に聞いてくる。
その問いに、彼らは気まずそうに黙り込み。
「・・・・・敵の必殺技受けて、どっかに消えた」
赤城が、どうにかそれだけを告げた。
「そうですか・・・」
それを聞いた朱音は、分かりやすい程落ち込んでいた。
その日の話は打ち切りとなり、皆、用意された宿舎に行く事になった。
その最中で、
「司さん」
「ん?」
天道は朱音に呼び止められた。
「何か用か?」
「少し、聞きたい事がありまして」
「・・・俺のカブトゼクターの事か?」
朱音は沈黙する。それは、肯定を意味していた。
「・・・七年前、俺は交通事故にあった」
とてつもない、大惨事であった。
引っ越し先で地元を歩いていたら、突如として爆発事故に巻き込まれた。それは、引火性のあるガスボンベを運んでいたトラックが運転を間違えたのか建物の激突、そのままガスが引火して大爆発を引き起こしたというものだった。
天道とその家族は、その渦中にいて、両親と妹を、その事故で失った。
その時は赤城もいたのだが、話の趣旨からそれるので省略。
その最中で、天道は見た。
真っ白な服を着た、十五かそれ以下の、当時の天道と同い年かそれ以下の少女が、爆発に巻き込まれて瀕死の重傷を負っていた天道にベルトを付けるのを。
その少女は、その天道にこう告げた。
『これから、貴方は辛く苦しい運命に立ち向かおうとしてる。だけど、決して諦めないで。貴方には、天の道を征き、全てを司る事の出来る力があるんだから』
その少女は、それだけを言い残して、その場からすぐに消えてしまった。そして、入れ替わるように、カブトゼクターが飛んできて、天道のベルトに一人でに装着され、そして、カブトゼクターの力によって傷を回復させて、天道は生き残った。
その時、天道は見て、感じ取った。
恐ろしい程激しい、感情の激流に苦しむ、紫の姿を。
「紫・・・の・・・?」
朱音は信じられないとでもいうようにそう呟いた。
「当時、それが一体誰で、どうしてこんなものを見たのかが分からなかった。だが、同じように生き残った赤城と共に、その人物の事を調べて、そして真相に辿り着いた。折神紫の事、二十年前の事件、そして、美奈都さんや柊篝の事も。そして俺は、カブトゼクターを通して、折神紫の現状を見てきた」
信じられないという表情の朱音の目の前で、天道の手に、カブトゼクターが握られる。
「おばあちゃんが言っていた。たとえ世界を敵に回してでも守るべきものがある、と。だから俺は折神紫を
確固たる意思をもって、天道は朱音に宣言した。
次回『祭りはenjoyしよう!』
モデル『擬態天道』ただし容姿はあくまで区別がつくもので。
名前の構成は折神の苗字に折神姉妹が色を名前に入れている法則を使って紫の構成色である青、つまり蒼にした。
そんなわけで、折神蒼次。
概要
二十年前の刀使たちにとっては兄のような存在。ただし性格が性格な為に恋愛対象とは見られていない。
刀使の家系という事もあって居合を得意とし、ライダーとしては居合をベースとした戦いをする。
挙動が速く、一撃一撃が鋭く素早い。
『居合の蒼次さん』なる二つ名は美奈都が付けた。