ノロ貯蔵庫にて、六人の刀使と、四人のライダーが、一体の荒魂と激しい戦いを繰り広げていた。
「敵は十刀流、おあつらえ向きに、こっちも十人デース!」
振るわれる超高速の斬撃。荒魂の操る斬撃を掻い潜り、本体である折神紫に刃を届かせなければならない。
刀使は写シがある。それに対してライダーは装甲一枚の中には生身の体。
背負うリスクが段違い。されどそれによって得られる力は、刀使以上だ。
『CLOCK UP』
加速するガタック。それと同時に、ザビーも加速して紫本人に殴り掛かる。しかしその行く末を頭部の腕がその手に持った刀を振るって妨害され、反撃の一撃が襲う。
クロックアップは刀使の迅移を遥かに超える速度で動ける。その為回避には事欠かないが、それに対応してくる敵の反応速度もかなりのものだ。
唯一の遠距離攻撃を持つドレイクは紫を中心に時計回りに走りつつ銃撃する。だが、その銃撃を悉く阻止され、防がれる。
迅移で踏み込む姫和、沙耶香だが紫の操る二刀の御刀によって防がれ、そして片手でもすさまじい速度で振るわれる斬撃を間一髪で躱す。
その最中で可奈美が一人突貫。紫の左右の剣を弾き、踏み込み刃を振り下ろすも防がれ、後ろに飛んで薙がれた斬撃をかわし、また前に出ようとしたところで後ろ襟首を掴まれて後ろに投げられる。その直後に、先ほどまで可奈美がいた場所に異形の腕の御刀が突き刺さる。
その横をカブトが出る。クナイガンを片手に紫に互角以上に刃を交わらせる。
『ONE』
その最中でフルスロットルを押す。それに気付いた紫がカブトを遠ざけるかのように左右の剣を激しく交互に振るって間合いから弾き飛ばす。
そして、さらにフルスロットルを押させまいとする気なのか異形の腕がカブトをしつこく狙う。
それをエレンがカバー、協力してカブトはそれらをいなす。
そして破壊力抜群の祢々切丸の一撃を薫が振り下ろす。しかし、その一撃を異形の腕はいとも容易く弾き飛ばす。
敵は、想像以上に手強い。
「まともに戦えているのは天道だけか・・・!!」
事実、カブトだけは紫に最も多く接近出来ている。が、他の者たちは異形の腕の猛攻に手一杯だった。
それも、舞衣の指示があってこそのものだった。
「山矢さん!前に出過ぎです!エレンちゃん後ろ!沙耶香ちゃんは姫和ちゃんに道を作って!可奈美ちゃん下がって!」
指示を飛ばすと同時に敵の攻撃をいなす舞衣。
しかし敵は舞衣を潰せばいいのかと思っているのか激しく舞衣を攻め立てており、ドレイクはそんな彼女のカバーに気を割いていた。
一向に決定打が決まらない。
一人突出した戦いを見せるカブトをもってしても、紫に攻撃を当てることが出来ていない。
それほどまでに、相手は強いのだ。
(どうすれば・・・)
「ユウスケ!」
「ッ!?」
集中が、一瞬途切れた。それが命取りだった。エレンの叫び声に意識を引き戻し、見上げた先にあったのは異形の腕とその手に持たれた刃の閃き。
「しまっ――――」
次の瞬間には、ドレイクは空中に跳ね上げられていた。
「ガァッ!?」
高く跳ね上げられたドレイクはそのまま地面に落下。その直後に、彼の変身が解除される。
「風間ァ!」
「やばいッ・・・!」
一人、やられた。
それも、舞衣を守るために動いていた者だ。そのため、援護を失った舞衣もすかさず腹を貫かれたやられてしまう。
「あう・・・」
写シを剥がされ、地面に倒れ伏す舞衣。これで、二人。残り八人。
「らぁっ!」
ザビーが飛び上がって拳を叩きつける。だが、その一撃は弾かれ、そしてすかさず横薙ぎの一撃がザビーを打つ。
「うぐあ!?」
「修!」
「余所見をするな!」
思わず吹っ飛ばされたザビーに意識がそれてしまう薫。そんな薫をカブトがカバーするも、その間に今度は沙耶香が狙われる。
四本の腕による猛攻が殺到し、それをいなしきれなかった沙耶香に、ついに刃が到達、肩から脇腹にかけて斬り裂かれる。
「くぁ・・・」
これで、三人目。否、
「くっそが・・・」
ザビーの変身が解除されている。四人目だ。
(これ以上やられるわけには・・・)
「姫和!」
姫和に殺到した斬撃を、ガタックが防ぐ。だが防ぎきれずに胸に一撃を喰らう。
「ぐぅ!?」
「義兄さん!」
「大丈夫だ。まだやれる・・・!」
思わず膝をつくガタックだが、その間に今度はエレンが狙われ、そしていともたやすくその腹を打ち貫かれる。
「く・・・ぅう・・・」
耐え切れず、地面に崩れ落ちるエレン。五人目。
「エレン!」
「ぐあ!?」
「ッ!?」
カブトが横に吹き飛ばされる。
そしてその後ろにいた薫も凶刃に倒れる。
吹き飛ばされたカブトは壁に叩きつけられ、そのままぐったりと座り込む。
「司さん!」
「くそ!」
可奈美、ガタック、姫和は、横一列に並んで、紫と対峙する。
「くっ・・・」
(あれを使うべきか・・・?母と同じ、あの秘術を・・・)
自身ごと敵を隠世に引き釣り込む、捨て身技。
最高速の迅移をもって行える、最初で最後の一度きりの技。
それを使えば、奴は倒せるかもしれない。
だが、それを使えば、きっと、二度と―――
そんな考えが姫和の頭をよぎった時、
「――――我は、禍神」
突如として、紫は、そう言った。
二十年前――――
大荒魂、タギツヒメの根本で。
「紫様、ご命令ください。務めを果たせと」
篝が、御刀の切っ先をタギツヒメに向けて、そう言った。
「務め?」
それに、美奈都が聞き返す。だが、それに答える事はない。
「紫様!」
篝が、急くように言う。
その言葉に、紫は、その手に握る御刀を握りしめて、告げた。
「・・・・お願い、篝。タギツヒメを封じて」
毅然と、されどどこか、辛そうな声が、彼女の口から発せられる。
「はい」
「ちょっと・・・!」
事情を知らない美奈都には、訳が分からない事だろう。だが、その方が断然良いだろう。
この事を言えば、彼女は必ず止めるだろうから。
「辛い決断をさせてしまい、申し訳ございません」
だからこそ、篝は、遺言のような言葉を言い始める。
「皆で過ごした学校生活、私にとっては、掛け替えのない宝物です」
思い出を噛み締め、
「美奈都先輩、貴方の事、正直苦手でしたけど、でも一杯、一杯感謝してます」
「篝・・・?」
感謝を込めて、
「タギツヒメ、お前は私が封じる!」
討つべき敵を見据えて、
「そのために私はここにいる!」
篝は飛んだ。全てを終わらせる為に。
「篝!」
美奈都が叫ぶ。だが、もう遅い。
高く飛んだ篝は弾丸の如き迅さで飛翔し、やがて、大樹のようなタギツヒメの中心に、必殺の一撃を突き立てる――――
「オォォアァァァアァアア!!!」
「ッ!?美奈都!?」
その直後、まさかの美奈都すらも飛んだ。
篝が消えた闇に、美奈都すらも飲み込まれる。
「美奈都ォォォォオオ!!!」
紫の悲鳴のような絶叫が、その場に響き渡る。
だが、それでも、美奈都と篝は戻ってこない。
タギツヒメの中で、篝は、己の最後を実感する。
最高速の迅移を使用したことによる、現世への帰還はもはや絶望的。一瞬が永遠へと引き延ばされ、現世の時間流から、完全に切り離される。
これで良い。
たった一つの充実感、そして、数えきれない程の悔恨だけが、篝の中に残されていた。
これで、もうみんなと会う事は出来ない。笑い合うことも、泣き合う事も、慰めたり、慰められることも、もう二度と無いという事を、ここにきて実感する。
このまま、タギツヒメを隠世に引きずり込めば、この悪夢も全て終わる。
だから、これで――――
「篝ぃぃいい!!」
「!?」
だが、誰もいないはずの暗闇の中で、たった一人、追いかけてきた者がいた。
「美奈都先輩!?」
美奈都は、闇へと落ちていく篝を抱きしめる。
「だめ、美奈都先輩、貴方まで・・・!!」
「篝は絶対に渡さないッ!!」
美奈都の咆哮が、篝の耳元で響き渡る。
「・・・ばか・・・」
その言葉を最後に、二人は隠世へと落ちていく。
そして、一人取り残された紫は、
「篝・・・美奈都・・・私は・・・」
どうすればいいの・・・?
その言葉が、胸の中でつぶやかれる。たった一人だけ、生き残った。
本来なら、一人の筈の犠牲が、二人に増えてしまった。それも、大切な友人を、二人。
その命令を下したのは自分であり、そして、それを止められなかったのは自分。
その、深い悔恨が、紫の心を支配し、その両目から涙を流す。
そのまま、茫然とその場に立ち尽くす紫。
そんな紫に、突如として、声が聞こえた。
『折神紫』
気付けば、タギツヒメの大樹のような体に、いくつもの眼が開かれていた。
『我は取引を提案する』
告げられる、言葉。その言葉に、もはや友を失った絶望に打ちひしがれて何かを問う気力もない紫は、ただ茫然と耳を傾けるだけだった。
『我という自我が目覚めたのは、暗く冷たい、貯蔵槽の中だった。最初にあったのは、喪失感だ。自らの一部を引き裂かれ、大切なものを奪われたという感覚・・・』
一人静かに語るタギツヒメ。それに、紫は黙って耳を傾け続けた。
『取り戻さねばという衝動、それは、飢えに似ていた』
一人静かに語るタギツヒメ。その声音は、次第に険しく、そして激しい感情を押し込めたような声へと変わっていく。
『やがて巨大な禍神となった。その時、我を突き動かしていたのは復讐心だ。災厄を振りまきながらも、我の知能は進化し続けた。やがて一つの結末を予見した・・・』
しかし、すぐさまそれは静かなものへと、何かを悟ったかのような声音へと変わる。
『禍神と化した我が、いずれは人の手により駆逐されるという事だ。我は生存の道を模索した。それを
その言葉に、ようやく紫は、事態の重大さに気付いた。
「そんな・・・じゃあ、江ノ島に封じ込めたのも、特務隊を送り込んだのも・・・」
『そうだ。折神紫、全てはお前を誘き出すための演出に過ぎない』
それを聞いて、紫は愕然とする。全ては、この大荒魂の―――禍神の手の上の事であり、自分は、その目標だったというのか。
それじゃあ、篝と美奈都を隠世に送ってしまった事も、特務隊の者たちが傷ついたのも、全て――――
「それじゃあ・・・篝は・・・美奈都は・・・」
『我と同化しろ』
タギツヒメの要求が下された。
『さすれば、藤原美奈都と柊篝の命は救われる』
美奈都と篝の命を救う代わりに、タギツヒメは紫と同化する。
それが、タギツヒメの要求だった。
『我はお前と同化し、隠世の浅瀬に潜み、傷を癒そう。今より十数年、お前は猶予を得る。それまでに我を滅ぼす事が出来れば、お前の勝ちだ』
「そんな馬鹿げだ提案を・・・」
『お前の結論はすでに出ている』
タギツヒメは断言した。
そして、その断言通り――――
紫は二人の生存を選んだ。
「――――それが、お前の苦しみ、そして、悲しみだ・・・」
カブトが、立ち上がる。
「何十年も受け継がれてきた折神家の務めを放棄してまで、お前は二人の生還を選んだ。そして、タギツヒメを受け入れた・・・!」
ふらつきながらも、カブトは、立ち上がって見せて、そして、折神紫を見た。
紫は、振り向いてカブトを見る。
「俺は、お前の二十年間の苦しみを見て、感じ続けてきた・・・!迫り来るタギツヒメの感情の奔流、それに支配されてしまうかもしれない恐怖、あの日の選択の後悔・・・そして、二人を死なせてしまった苦しみ、その全てを俺は見てきた・・・!!」
激流に苦しむ、彼女を見た。あの日の涙を、彼女は、流し続けたままだ。
それを拭うために、カブトは、天道司は、ここまでやってきた。
「おばあちゃんが言っていた。救いたいのなら救え、助けたいのなら助けろ。今こそ、お前を救ってやる・・・折神紫!」
そう叫ぶなり、カブトは走り出す。
「ほざけ」
異形の腕がカブトを襲う。計八本の刃がカブトを襲う。しかし―――当たらない。
迫り来る斬撃の嵐を、カブトは全て躱し、いなし、弾いていた。
「なぜだ・・・!?」
振り下ろされる刃を横に飛んで躱し、横からくる斬撃は前方の転がって躱し、正面からの刺突はクナイで弾き、どんどん距離を詰めていく。
速度が上がっていく。カブトの剣をふるう速さが、加速していく。
その動きは、まるで―――
「結芽ちゃん・・・?」
剣の振りは異形のそれを超え、破壊力はさらに増していく。
鋭く、そして自由。
いくらでも変化し、加速していく。
そんな、斬撃が迸っていく。
「ありえない・・・ありえない!」
異形の腕の速度も突然速くなる。
加速した斬撃はカブトの動きを封じ、そして確実に仕留めるかのように振るわれる。
その猛攻にカブトの足が止まり、やがて、クナイが弾かれる。
「あ!?」
「天道ォ!」
宙を舞うクナイ。だが、その間にもカブトは行動を起こしていた。
「借りるぞ」
なんと、近くに転がっていたエレンの御刀『越前泰嗣』を拾い上げ、それを両手で持つ。その構え方を見れば、その姿がますます結芽に似てくる。
「無駄だ!」
異形が迫る。
「遅い・・・!!」
だが次の瞬間、両手で振るわれた斬撃が、全ての異形の腕を斬り落とす。
そのままカブトは紫に迫り、その刃を振り下ろす。されど紫自身も最強の刀使と言われるだけの実力を秘めるものだ。
激しく剣と剣がぶつかり合う。
しかし、わずかにカブトの―――天道の剣が速い。
刀使とライダーの違い。
一つに、写シの有無。刀使は写シを張ることによってダメージを軽減できるのに対して、ライダーは身に纏う装甲によって攻撃を防ぐ。
その二に、刀使は様々な能力を扱うのに対して、ライダーは武器と己の体術のみでしか戦えない。
そしてその三、迅移。刀使は迅移による高速移動を可能とし、それを任意のタイミングで発動させ、小刻みに使用するのが可能なのに対して、ライダーはクロックアップという加速法で刀使を超える迅移を長時間扱える。
だが、刀使が連続して迅移を発動できるのに対して、ライダーはスイッチを一々使わなければ加速できないという違いがある。
圧倒的加速が長時間使えるライダーに対し、短い高速移動で翻弄する刀使。
そして、今、紫はまさしく迅移を併用してカブトを攻撃している。
そう、クロックアップを使っていない、ただ装甲を纏っただけの相手に対して、紫は―――一切の攻撃を当てられていない。逆に、押されている。
「馬鹿な・・・!?」
「ハアッ!」
カブトが横に薙いで、紫を弾き飛ばす。そして、刺突の構えをとって、大きく前に飛ぶ。
「ッ!」
それに、紫は御刀を構え、迎え撃とうとする。だが、突如としてその目は驚愕に見開かれる。
「・・・馬鹿な」
―――一歩目、音を超える。
その理由は、龍眼による未来視。
それによって可能性を模索し、そして対応する事の出来る能力。
その眼で、紫は見た。
―――二歩目、音は消える。
踏み込みによる加速。クロックアップも使わない、人間の領域で成しえる、最速の
―――三歩目、絶刀を生み出す。
それに、刺し貫かれる未来を―――
三段突きが紫の体に、三つの風穴が空く。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁああぁあぁああぁああ!!!』
絶叫が迸る。風穴が空いた紫の体は写シによってそのダメージを全て軽減させられる。
だが、その三連の刺突が、紫の中にいるタギツヒメに決定的なダメージを与えたらしく、紫の頭上にいた異形がその姿をすぼめる。
そして、その直後に、カブトは自身のベルトを外す。
「おぉぉああぁああ!!」
今度は、変身を解除した天道が絶叫。自身のカブトゼクターがセットされたままのベルトを紫の腰に巻き付け、そしてフルスロットルを押す。
『TWO THREE ONE』
『DISASSEMBLY』
ゼクターホーンを倒す。それと同時に、紫の体から泥のような黒い何かが溢れ出す。
「ぐあぁぁあぁぁああぁああああ!?」
「ぐお!?」
紫が絶叫し、まるで剥がれていくかのように泥が形を成して、紫から離れていく。
「あれは・・・まさか・・・・!」
その様子を見ていた姫和が、その正体に気付く。
あれこそが、二十年間紫を苦しめ続けた、タギツヒメ。
『おのれ・・・人間風情がぁ・・・!!』
憎しみの籠った声で、紫から剥がされていくタギツヒメ。紫の体から引きはがされないように必死に耐えているようだ。
「赤城ィ!!」
「おぉぉああぁああ!!」
だが、そこへガタックが飛び出し、肩に装着されていたガタックダブルカリバーを引き抜いてそれをカリバーフルカムによってジョイント、まるで巨大なハサミのような形状にし、それをタギツヒメと紫を繋いでいる場所で挟み込む。
「ライダーカッティングッ!!」
『RIDER CUTTING』
刃を迸るイオンエネルギーによってさらに増した切れ味により、紫とタギツヒメが繋がっている場所を悉く切断する。
『ぐぎゃぁぁぁあああぁぁあああ!?!?』
さらにタギツヒメが絶叫する。
それと同時に、まだ紫の体の中に残留していたノロが全て排出され、その直後に、紫の体が崩れ落ち、それを天道が支える。
『貴様らァ・・・』
「ッ!?やべぇ!」
切り離されたタギツヒメは、すぐさま異形の腕を生成し、その手に持たせた御刀で紫もろともガタックと天道を斬り裂こうとする。
だが、それは可奈美と姫和の二人によって防がれる。
「大丈夫か!?」
「ああ、どうにかな」
「司さんはご当主様を!」
「ああ」
ふと、姫和は肩越しに紫を見る。天道の腕の中で気絶している彼女の目からは、一滴の涙が流れている。
「・・・」
それを見て、姫和は何を思ったのか。すぐにタギツヒメの方を御刀を構える。
「今度こそ、貴様を討つ・・・タギツヒメ!」
今こそ、かつての母と同じ秘術を使うときだ。
タギツヒメが弱っている、今こそが好機なのだ。
「姫和ちゃ―――」
「姫和―――」
他の者たちの声を聞いて、決意が揺らぐ前に、姫和は加速する。
一段目、二段目、さらに、三段目を超えて四段目まで。
タギツヒメに到達するまで、一気に加速し、目の前の異形が動く前に、その刃を突き立てる。
その速度はまさしく、対物ライフルの弾丸が如く。視認不可能の神速剣。
己の使える全てを出し尽くして叩き込む渾身の
「―――これが、真の『一の太刀』だ!!」
刃を、突き立てた。このまま、隠世の彼方まで飛ぶ。たった一人で――――
だが―――
「な!?」
気付けば、可奈美が隣にいた。
「姫和ちゃんはあげられない。代わりに私の命、半分あげるよ」
「お前・・・」
もう止められない。このまま行けば、二人仲良く隠世へ飛んでいく事になる。
だが、もうそれを止めることはできない――――
「半分持つって、約束したでしょ?」
可奈美の、この笑顔を見てしまったら、その、覚悟を決めた顔を見てしまったら、もう、止められない。
二人は、そのまま、タギツヒメと共に、隠世に飛ぶ―――飛んでいく―――――
「ごめんね。良い雰囲気なところ悪いけど、帰ってもらうね」
「え?」
「は?」
突然、
『HYPER CLOCK OVER 』
そして気付けば、目の前には、一人の、純白のドレスを纏った少女がいた。
この、無限に引き延ばされた永遠の一瞬の中、自分たち以外にも人がいたというのか。
いや、それはどうでも良い。問題なのは、彼女の容姿だ。
「え・・ええぇええ!?」
「お、おま、え!?なんで!?なんでだ!?」
その顔を見て、二人は酷く混乱する。
「貴方がいなくなるとあの人が悲しむからね。あの人、結構寂しがり屋だから、こうしないといつまでもいじけちゃうんだ」
「ま、待って!あ、貴方は一体・・・!?」
「お前は一体誰なんだ!?」
少女は、現世に戻っていく二人に、微かに微笑んだ。
「―――私は、『未来』を変えるためにここにいる」
その言葉を最後に、少女はその手に中にある、カブトムシ型の機械のようなものを両手で握った。
『HYPER CLOCK UP』
そして、次の瞬間、少女は光と共に消えた―――――
空に、三つの光が飛んでいく。それらは別々の方向に飛んでいき、彼方へと消えていく。
「・・・ほう、三つに分かれたか」
その様子を、ビルの最上階の部屋にて、見ている者が一人。
「
「いかがなさいましょう」
その後ろにいる、一人の御刀を携えた少女が訪ねる。
「捜索隊を組織し、三つの光を追え。そして全て私の元に連れてくるのだ」
「仰せのままに」
少女は頭を下げ、部屋を出ていく。
「ああ、そうだ」
「なんでしょう?」
引き留めた男に、少女が振り返る。
「今回はライダーも動員しろ。敵にもライダーがいるからな」
「承知しました」
少女は、胸のバッジを光らせて、
「ゼクトに、栄光あれ」
そのバッジには、『ZECT』の文字が書かれていた。
月の光が照らす、空洞となった空間の中―――
二人の少女が、その手を握り合って、そこに寝ていた。
「・・・一応、どうにかなったのか・・・・?」
「みたいだな」
変身を解除して、壁にもたれかかって座り込む赤城の言葉に、天道は、紫を寝かせながらそう応じた。
「俺が見たときは、二人とも隠世に飛ぶんじゃないかって思ってひやひやしたが、戻ってきてくれてよかったぜ・・・・ほんと・・・・」
震える声で、赤城は、寝息を立てて、硬い地面の上で寝る二人の少女を見て、そう呟いた。
「・・・・そうだな」
それに、天道もうなずき、そこらに落ちていたカブトゼクターを拾い上げる。
その時―――
とある男の姿と共に、背筋がゾっとするかのような悪寒が迸った。
「ッ!?」
それに、天道は思わず硬直し、そして、ある事を呟いた。
「・・・スサノオ」
胎動編―――完
次回・波瀾編『Tの暗躍/襲撃者の正体』