どうやら俺は死んだらしい。
「佐藤カズマさん、死者の世界へようこそ。私は女神です。貴方は本日午後14時21分に亡くなられました。辛いでしょうが、貴方の人生は終わりました」
気付いたら事務室みたいな場所にいた。
女神を自称する女は椅子に丁寧に座っていて、俺はその前で閻魔に裁かれる罪人みたく立っていた。
普段なら女神なんて言葉、どれだけ証拠を積まれようが信じないだろうが今ばかりは違う。
何故かと言えばその女神はとても清楚な美少女だったし、背後には一筋の淡い光が差し込んでいて、銀に輝く長髪と相まって神聖だなぁ、とか思ったからだ。
「そうか……死んだのか、俺」
現実感に乏しいかと言えば、別にそうでもない。
死ぬ前の記憶があるからか寧ろ納得すらしていた。
その日は新作のギャルゲーを買いに、久しぶりに外出した日だった。
俺の地元はとても田舎で、家の周りには田んぼとか畑しかない。
遮蔽物なんて等間隔に並ぶ細長い電柱くらいしかなく、夏の暑い日差しに思わずやっぱ帰ってコーラ飲みながらネトゲやってた方が良かったな、とか考えながらも一意専心と新作ギャルゲのため過酷な旅をしていた。
脳脊髄液とか沸騰しながらぼーっと歩いていたら、前からスマホを弄りながら女子高生が歩いてきて。
その背後から、そこそこの速さで居眠り運転をするトラック!
じゃなくてトラクター!
俺は反射的に身を投げだして女子高生を田んぼに突き落とした。
ここが俺の人生で最大の見せ場だったと我ながら惚れ惚れしてしまう。
ともまあ。
かくして、俺は農家のトラクターに耕されて死んだのだ。
「……ええっと、一つ良いですか?」
「はい、なんでしょう?」
「俺が助けた女子高生はどうなりました……?」
大事なことだった。
命を投げうってまで突き飛ばしたのに、助からなかった───なんて悔しすぎる。
俺の言葉を聞いた瞬間、女神は辛口カレーと思って食べたら物凄い甘かったみたいな、それはもう非常に微妙そうな表情を浮かべた。
「だ、大丈夫ですよ。安心して下さい。軽傷はありましたが、元気に生きています」
「そうですか……良かった」
「カズマさんは自信を持って良いですよ!ええ!人を助けたいという気持ちは大事ですからね!」
「……ん?」
なんで、こんなに必死にフォローしてくるんだこの女神は。
端的に、怪しい。
とてもとても、怪しい。
「あの女神、もしかして嘘とか……付いてないですよね?」
「そ、そんな事ないですよ?女神ですから嘘なんて言いません」
「それ、俺の目を見て言えます?」
「……………………………………はい」
「その間がもう嘘吐いてる人間のそれですって」
俺の追求に、女神は項垂れた。
近所の子どもを論理的に言い負かすことで鍛えられたロジカルトーキング力、仕事が自宅警備だったから使い道なんてさしてないと思ってたけど意外にあるもんだな。死んでからってのが笑えないけど。
「……分かりました、しかし佐藤カズマさん。真実は時に残酷です。それを理解の上で、お聞きになりますか」
「………はい。聞きます」
凄い嫌な予感がする。でも、どうせこれが最後なんだから俺の行動による結果の真相くらい聞いてから天国でも地獄でも連れてってほしい。
「まず貴方はトラクターに引かれたと思っていますけど……トラクターには引かれていませんよ」
「……は?引かれて、ない?」
「はい。そのトラクター自体時速40kmほどしか出ませんし、何より細い道を走っていたので速さとしてはその半分くらいですね。なのでぶつかる直前すぐに止まりました」
止まった?
「ちょっと待ってくれ。じゃあ女子高生は?」
「……結論から言ってしまえば、貴方が何もしなくても引かれませんでしたね。寧ろ貴方が突き飛ばしたのが起因して軽傷を負った上に田んぼでグチャグチャに濡れた制服をクリーニングに出す羽目になりました」
じゃあ何だ?
俺はただ余計なことをした上で、死んだと?
「いや、そもそもなら俺はどうして死んだんだ?」
「ええっと…………ここからが言いづらいんですけど……、その時に引かれたと勘違いした貴方は精神的なショックで病院に運ばれました。ただの一時的な気絶ですので医者も空いてるベッドに貴方を寝かせて回復を待ったのですが、そこを看護婦が絶対に間違えちゃいけない危険な薬を勘違いして貴方に投薬して」
「うおわああああああああああ!聞きたくない聞きたくない!!俺がそんな情けない理由で死んだなんて聞きたくない!!」
「……だから濁そうとしたんですけど……」
俺は親に玩具を強請る小学生みたいにのたうち回る。
はあああああ。死にたい。今すぐ死にたい。あ、死んでるんだっけ俺。ははっ。
「……次に進めていいですか?」
「……どうぞ」
本気で哀れみながら女神は言った。
この女神、本当に女神みたいだ。
もし俺が女神でこんな死人が来たら絶対にあること無いこと織り交ぜて笑いながら煽り倒してストレス発散するだろう。いやまあ、そんなろくでなし女神はいないか。
「亡くなられた貴方には3つの選択肢があります。1つは天国に行くこと、1つは異世界に行ってもらうこと、もう1つは日本で赤ちゃんとして転生することです」
「天国?異世界?」
どうやら単純に輪廻転生するだけではないようだ。
今をときめく男子高校生として、選ぶなら断然異世界ファンタジーなのだが。
「天国では次の転生まで待つことになります。生活自体は……その……幸せですよ?死や時間の概念が無いので、普通に生きてるより不安は無いですし。ただ物も何も無くて、向こうに行ってしまうと欲も消えるので、やることと言えば世間話をずっと……みたいな過ごし方になると思いますけど」
「ある種地獄じゃねえか」
天国はまず没、……と。
日本に転生というのも正直肌に合わないだろう。何せ自慢じゃないがガッツリ引きこもってたし、そんな俺への世間の風は冷たいし。
「あの、じゃあ異世界っていうのはどんな感じになるんですか?」
「死亡当時の身体で異世界に降りていただくことになります。今の佐藤カズマさんの身体では少し不安ですので、その時に少し改造……じゃなくて恩恵を与えることになります」
「改造!?改造って言ったよな今!?」
もしかして俺、とんでもない死後の世界に来てしまったのかもしれない。
「い、いえ違いますよ!ただ死なないようにちょこっと身体の方を強化して、あと脳味噌にあちらの言語を焼き付けたり、あると便利な魔力の臓器をインストールしたりするだけですよ」
「ガッチガチに改造してるじゃねえか!?」
近所で妙に育成RPGゲームの強い子供より中身改造しちゃってるだろそれは!
UFOに攫われた人間だってそこまで全身弄くられねえよ!
と、言いたくなったがよくよく考えれば割と全部必要な能力な気がしなくもない。
女神たんマジ女神。
「あ、因みに異世界って俺何すれば良いんですか?魔王倒したり?」
「いえ、魔王なんて居ませんよ」
あれ。
王道ファンタジーの可能性が潰えたぞ。
俺は内心落胆していると女神は真面目な表情で口を開いた。
「実はですね、佐藤カズマさんに行ってもらう世界は天界でも最近観測された世界でして。その調査を頼みたいんです」
「調査……ですか」
「はい。難しいことは頼みませんよ?例えば成り立ちとか価値観とか、更に良ければ世界の中心にあるダンジョンについても調査をお願いしたいんですが……」
「ダンジョン……!」
来ちゃったか、
「そうなんです。どうやらその世界の中心にはあるダンジョンがあるそうでして、一番奥は未だ誰も解明できてないらしいんです。私の上司もそこに何かあるんじゃないかと勘繰っているんですよ」
「任せてくださいよ女神様!俺が世界だろうが王様だろうが、全部丸裸にしてやります!」
「あの、裸にするのは世界だけにしてくださいね?」
可愛らしく女神はめっ、と視線を冗談半分で強めた。
しかし関係ない。俺は俄然、燃えているのだ!
そう。
ファンタジーだ!
異世界だ!
ならもうS級冒険者だがなんだかになってハーレム作るしかないだろ!
「……分かりました。異世界に行く、という選択で良いですね?」
「はい!」
「じゃあそこの魔法陣に乗ってください」
いつの間にこんなものがあったんだろうか。
女神の言葉通り、複雑な記号が書かれた魔法陣に俺は足を乗せる。
「では、佐藤カズマさん。これから行く世界は今まで貴方の生きてきた世界とは大きく違うでしょう。多大な困難もあると思います。ですが前を向くことを忘れず、頑張ってください。幸運を」
言うと、微弱に灯っていた魔法陣の輝きが増した。
まるでテレビのチャンネルでも切り替えたように、目の前の景色は入れ替わった。
さて、この女神は誰でしょうね。
一応設定について。
・アクアについてはあらすじ通り今後出番があります。
・めぐみんとダクネスにも出番ありそうなので楽屋で待機してもらってます。
・オリキャラ複数出てきます。来ました。書いてたら自然と。
・ダンまち原作一年前スタートです、と言っても多分あまり絡まないかも。絡ませたいので今後頑張ります。