「お〜!ここが異世界!」
俺はガッツポーズをした。
俺が立っているのは大通りだ。それもかなり賑わっていることからそれなりに大きな街なのだろう。
そんなことよりも、道行く人の容姿。
猫耳犬耳狐耳ドワーフエルフ!
これぞ異世界って光景!
まさにファンタジー的多民族パラダイス!
この世界なら俺、バンバン働く!
じゃんじゃん社会貢献するよ!
「おい、道の真ん中で突っ立ってんじゃねえよ。邪魔だ」
「す、すいません……」
鎧兜を身に着けた無茶苦茶ガタイの良いおっさんに俺はすごすごと道端へと退散する。我ながら情けないと思ったがきっと気のせいだろう。
とにかく、異世界に来たならば最初は情報収集だ。
セオリー通りにやるなら、まずはギルドに所属してクエストを達成して今夜の宿代と飯代を稼ぐところからだ。
「あのー!ちょっとすいません、ギルドってどこにあります?」
「何だあんちゃん、この街に初めて来たのか?」
「うっす」
「ならあそこにでっかい塔が見えるだろ?あそこの下がそうだ。この大通りを道なりに行けば着くぜ」
「ありがとうございます!」
「ああ、頑張れよルーキー」
意を決して露天のおじさんに聞けば親切に教えてくれた。
良かった、この世界にもギルドはあるんだな。
見上げれば確かにデカイ塔がある。さながらバベルの塔みたいだ。もしあんなのが地球にあったらなら今頃世界遺産にでもなってることだろう。
異世界の上で息を吸っているという感動に耽りながら歩いていればそれっぽい建物はすぐに見えてきた。
しかし、看板の文字は読めない。
何かあの女神、言語を俺の脳に焼き付けるだの言ってなかったか?
……もしかして、会話だけで読み書きは除く、なんてオチなんじゃないだろうな?
石像になっていても仕方がないので中に入ってみると、市役所みたいに受付が何個もあってそれ毎に看板が。
……読めねえ。
やっぱり読み書きに関しては何の補助もないっぽいなこれ。まあ会話出来るだけ良しとしよう。
「あの、何か御用でしょうか?」
受付がみんな美人な為、引きこもりの性から中々声を掛けられず右往左往していると逆に声を掛けられてしまった。
「は、はい。冒険者になりに来たんですけど……俺田舎から来たので良く分からなくて」
「なるほど。もうファミリアには入ってますか?」
「ファミリア?」
「神が恩恵を与えた眷属で構成される組織のことです。冒険者になるにはファミリアに入る決まりでして……」
なるほど、分からん。
だけど恩恵が無くては冒険者になれないってのは理解できた。
どうやら早速異世界ライフ最初の一歩で躓いてしまったようだ。
「どうすればファミリアっていうのに入れるんですか?」
「眷属はどこのファミリアも大体常に募集してるので直接訪ねてみるのが良いかと。良ければ地図をお渡ししますが……」
「要ります!めっちゃ要ります!ありがとうございます!」
と、地図を名も知れぬ優しい受付嬢から受け取った俺は早速片っ端から突撃訪問するためにギルドを出た。
出来れば今夜の宿までに何とかしたいが、半分くらいは野宿を覚悟した方が良いかも知れない。
「ここ……だな」
取り敢えずギルドから一番近いファミリアに来てみた……が、木製の馬鹿大きい扉に思わず身が竦んでしまう。
この世界、意外に求職難易度が高いぞ……!
俺は、ゴクリッ、と唾を飲み込むと思い切りノックをした。
「スミマセーン!眷属になりに来ましたー!」
────────────────
10戦10敗。
俺がファミリアを訪ねて、入団を断られた戦績だった。
完全に駄目だった。
「見た目がヒョロそうとかさぁ、見かけで人を判断するなよな!」
偶然見つけた宿兼居酒屋で、安い酒片手に俺はどうしようもなく酔っていた。
でも言い訳をさせて欲しい。
もう辺りは暗くなって時間的にはゲームオーバーだし、でもあの女神様が懐に幾ばくかの金銭の入った財布を入れてくれたお陰で今晩は何とかここで凌げそうだし、それならパーッと人生初酒カマして嫌なこと全部忘れっかなあ!と開き直り大会を一人で始めたのだ。うん、俺に落ち度無し!
「そうよ!人を見た目で判断しちゃいけないわ!」
「だよなあ!人間大事なのは中身だよ中身!」
隣のカウンターに座っていた知らない美人の女性に同意されて、俺の心は活火山がボルケーノするみたいに盛り上がった。
異世界、最高すぎかよ!
ついでに酒の力も最高!
「こんなに純真無垢な心を持っているのになんで皆私に貢献しないのよ!オマケに頼りに行ったロキには働けとか言われて門前払いされるし……ううわぁ〜んっ!」
と思ってたら急に泣き始めた。
容姿は良いんだけど、情緒不安定だなこの女。
でもそんな彼女の容姿は改めて言うがかなり良かったし、希望を持って訪れた異世界生活初日から挫けた絶望感もあって俺はおかしかったのかもしれない。
酒に酔った俺は更に話しかけることにした。
「えと、俺はカズマって言うんだけど名前なんて言うんだ?」
「わたし?ヒック……私はアクア、女神よ!」
「……女神?」
「そう!このオラリオにいるどの神より優れた女神、それが私よ!」
池の栓でも抜いたかのように、急にアルコールがどこかへ吸い取られて思考がクリアになった。
え、なに。
女神?神じゃなくて、女神?
それって俺はこの世界に来る前に聞いたことあるような。
「なあ、もしかしてだけどアンタ死者の世界とかで仕事してたことあったり?」
「なぁに?まさかアンタも女神なの?」
「あのな。この顔が女神に見えるか?」
相当酔っているようだ。
見ればカウンターにある一升瓶は3本ほど空になって置かれている。察するにかなりのハイペースでグビグビ飲んだ挙げ句完全に出来上がってしまったらしい。
「それよりも聞いてよぉ!ヒック!私、ファミリア作ろうとしてるんだけど誰も入ってくれないの!なんでー!どうしてー!」
酒で顔を赤めながら、子供の駄々よりも幼い口調で愚痴る。
こんな奴が女神なら世も末だな。
いや、待て。
ファミリアを作ろうとしている?
「おいアクア、なら眷属とかも募集してるのか?」
「ええ勿論よ!どれ……眷属はいつでも大歓迎するわ!」
「なあ今奴隷って言いかけたよな?」
「違うわ。ドレッサーって言いたかったの」
「なんで衣服棚の話が出てくるんだ。奴隷って言いかけたよな?」
聞く相手を完全に間違ったかもしれない。
こんな酒乱女神のファミリアなんか入っても絶対に、ロクじゃないことに巻き込まれる。そんな予感が空になった一升瓶からヒシヒシと伝わってくる。
「もしかしてあんた、冒険者志望?ならウチのファミリアに入る?てか入って?ね、ね?いいでしょ?ちょっとだけでいいから。先っちょだけ、先っちょだけで構わないからさ」
「フッ」
「あー!鼻で笑われたー!私、芋臭いジャージ着て如何にも引きこもったままハタチ超えたのに童貞なクソニートみたいな見た目の奴に笑われたー!」
「ちょ、おま。どど、童貞ちゃうし!」
なんて事を言うんだこのクソ女神。
大声で言うもんだから酒場の視線が俺に集まってきたじゃないか。しかもどいつもこいつも、御愁傷様です、みたいな憐れむ視線……やかましいわ!
「はっ。そういうお前だって人のこと言えないだろ。クソビッチ」
クソビッチ呼ばわりされたアクアは俺のことを殴ってくるが無視して酒を煽る。
この果実酒、無茶苦茶飲みやすいな。癖になりそうだ。
「ねえー!お願いよ!今ッ生のお願い!冒険者になってウチの資金源になってよ!入ってよ私のファミリアに!」
「鬱陶しいぞ。冒険者志望なんてこのデカい街なら吐いて捨てるほどいるだろ、他当たれば?」
「私を捨てないで!あなたに尽くすから!何でもするから!」
「ん、今なんでも……って待てアクア。そんな鼻水垂らして潤んだ目で肩を掴むな」
「お"ね"がいぃぃぃ!私を捨てないでえええ!」
「頼むから止めてくれ!視線集まっちゃってるから!」
まるで、アイツあんな可愛い美少女を食い潰して捨てるとかクズじゃね?、みたいな数々の冷たい視線が突き刺さる。俺悪くないのに。
もう一度言っておこう。
俺は確実に酔っていたし、こんなクソみたいな供述を繰り返す駄女神にもまだ少しの期待を捨て切れなかった。
「許じで〜〜!!最近一人で家で寝るのが寂しいの!!あなたの童貞も卒業させてあげるか「分かったよ分かった!!それ以上言うな!!入ればいいんだろ入れば!!」
仮にもし、俺がこの時に戻れるならば。
何を言われようと俺はコイツを拒否して別のファミリアに所属していただろう。
筆者には珍しく平均3千文字で書いてきます。
これでテンポ良く投稿出来れば……いいなぁ……。