この世界に来てから、一晩が明けた。
「う〜ん。少しベッドが硬いのが難点だが、悪くない朝だな」
と俺は欠伸をしながら起き上がった。窓に映るエキゾチックな高い塔が否が応でも俺の冒険心を揺さぶってくる。
それにしても、まず第一に必要なのは服だな。
ジャージは便利だけど流石に洗濯せず年中使うのは衛生的に悪い。あと折角のファンタジーもこんな現代チックな機能服を着てたら台無しだし。
「まあ、多少は金あまってるしなぁ……買いに行くのもアリか」
一応、俺は数々のファミリアに断られる最中に軽くこの世界のことを歩いて調べてみた。
ここ、オラリオという街で使われる通貨はヴァリスというらしい。昨日酒場でそこそこ食ったら500ヴァリスだったのを鑑みて、100ヴァリスは大体200円以上の価値があると見て良い。財布の中には幸い2万ヴァリスほど残ってるから当分は金に困ることは無さそうだ。ホントありがとうございますエリス様。
俺は軽く身支度を整えると、早速宿を飛び出した。
運良く昨日ファミリアに入ることが出来たのだ!
ファミリア、というかあの女神に不安が無いかといえば否ではあるが、今はそんな事はどうでも良かった。
ここから、俺の輝かしい冒険者生活が始まる!
と意気揚々、勇往邁進した俺を邪魔したい神でもいるのか。
俺は呆然と立ち尽くしていた。
昨日、地図に「私のファミリアはここだから!明日来てね!」と追加注文した酒瓶片手にアクアが地図に魔法で書き込んだ場所には家やビルは無かった。
別に俺だって立派なものを期待してた訳じゃない。何せ団員ゼロの新興ファミリアだ。本拠地とはいえそこに使う金なんて大してないだろう。
───でも、馬小屋は無いと思うんだ。
よく畜産農家の納屋とかにあるような藁をベッド代わりにぼーっと座っていたアクアは呆気にとられて動けなくなってしまった俺に気付いた。
くすみのない明るい青い髪の枝毛を弄りながら昨日と同じようなヒラヒラとしたへんてこな服を着ている。
「あ!えっと……クソニート!良く来たわ!ここが私、アクア・ファミリアの拠点よ!」
ムッときたが話が進まなくなりそうなので堪える。
拠点、と言われてもだなぁ。
「俺は佐藤和真だ。んでアクア、ここ。どう見ても厩舎なんだが」
「そ、そんなことないわよ?ともかく入って入って」
手招きされた俺は仕方なく、
どうにも現役で使われているようで、他の部屋では普通に馬がムシャムシャと朝ご飯を食べていた。
「お前、ここに住んでんの?」
「違うわよ。ただ管理してるおじさんに格安で貸してもらってるだけよ」
「やっぱ住んでんじゃねえか」
しかもアパート扱いかこの女神。
激しい後悔に襲われつつも、一応聞いてみる。
「資産とかあるんだよな?家とか土地とか」
「え?無いけど?」
「さって、次のファミリアを探さないとなあ!」
今日もファミリア探し、頑張るぞ〜。
「ちょっと待って!ホント待って!今このファミリアにはあんたしかいないの!」
「え、ヤダよ。なんで厩舎で暮らさなきゃならないんだよ」
「うぐっ!で、でもあんたにもこのファミリアに入るメリットはあるわよ」
「私みたいな美少女と一緒にいられる、なんて脳に蛆の湧いたような回答は求めてないからな」
「も、もう一つあるわ!……ファミリアを立ち上げるということは、最初に眷属になった冒険者はどうなると思う?」
「は?そりゃ最古参になるだろ」
「ええ。つまり、あんたはこのファミリアの団長になれるのよ!」
団長、つまりリーダー。
なるほど。確かにアリかもしれない。
ファミリアが大きくなればなるほど権力は増すし、それに女の子とか入ってきたら……そういうことも期待できるかもしれない。
………………それに、他のファミリアに入れる気しないし。
「うわ、その顔気持ち悪っ」
「うるせえ。それより、良いぞ。このファミリアに入るよ俺」
「……ホント?後で
「重い重い」
メンヘラかよ。
俺、そんなのに乗っかられても潰れて中身出ちゃうから。
「じゃあ早速ファルナを刻むから上半身脱いでうつ伏せになって」
「ファルナ?つか服脱がなきゃならないのか?」
「仕方ないじゃない。背中に刻むんだからさ」
なるほど。
多分ファルナって言うのは神との契約的なものだろう。いよいよ俺も異世界って感じがしてきたな。
しかし服を脱ぐのは、少し、いや、かなり恥ずかしいが仕方がないか。
「ちょっとー。チャックをゆっくり開けてないでさっさと脱いでよ。誘惑してるみたいで気持ち悪いから」
コイツ、絶対いつかブン殴る。
「はい、じゃあそこにうつ伏せになる」
「うつ伏せって……この藁にか?」
「それ以外に何かある?」
アクアは馬鹿を見るような目で言った。
一応コイツの寝所のはずだから動物の糞尿まみれってことはないだろうけど、この厩舎の臭いも相まってあまり気分は良くない。というか悪い。それに藁が身体に引っ付いてチクチクしそうだし。
文句を言いたい気持ちはあったけど、だからといって他の場所を用意してくる可能性も皆無なので渋々俺は胸を藁に付ける。
「これでいいのか?」
「ばっちりよ。後はこのアクア様に任せなさい!」
「とても不安しかないが」
思わず溢れた俺の愚痴は意気揚々と鼻歌すら奏で始めるアクアには聞こえなかったみたいだ。
数分間、背中に虫が這いつくばるようなむず痒い感覚に覆われる。だが良くある異世界ファンタジーみたくキラキラと光ったりすることは無かった。
「……出来たわ。これであんたは私の眷属よ」
「その事実を言葉にされると凄い嫌だな」
特に痛みも無く儀式は終わったようだ。
変わったことと言えば先程より身体が軽く感じるのと、俺の率直な感想を聞いたアクアが俺の首を絞めてくることくらいだろうか。
無視して起き上がって、自分の身体を叩いて藁を落とす。
「意外と呆気なく終わるもんだな」
「当然よ、女神の恩恵よ?そこらの神と一緒にしないで欲しいわね」
まあ確かに厩舎で藁にまみれて寝泊まりしている神を他の神と一緒にしたら失礼だよな。
「本当ならこれ、私の血をあんたの背中に垂らさなきゃならないのよ?私は痛いのやだからやらないけど」
「なるほど。俺も出来ればない方が良いな。拭くもんも無いし」
「それよりあんたのステータス、羊皮紙に転記を終えたから───ってこれどういうことよ!?」
「は?」
いつの間にか取り出していた古っぽい紙を片手にアクアは大声を上げる。
ステータスなんてものがあるのか、マジで異世界じゃんここ。
「ぶべっ!?」
とか思う間もなく俺はアクアに羊皮紙を顔に押し付けられた。文字通り、力強く。
「何この数値!?しかもこの"女神エリスの加護"ってどういうことよカズマ!?」
いや知らねえよ。
痛みを訴える鼻頭を抑えつつ、俺はその紙を受け取った。
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サトウカズマ
Lv 1
力: H 143
耐久:G 245
器用:D 564
敏捷:F 376
魔力:C 621
幸運:A 861
《魔法》
【スティール】
・窃盗魔法
・幸運依存で特定の対象から一つ窃取
《スキル》
【女神エリスの加護】
・女神エリスからの加護
・恒常的に全てのステータスが向上
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「ふむ。まあまあ……か?」
上限が分からないけど大体こんなもんはSから順にA、B、C、D……と能力が降順になると相場が決まってる。
少なくともAやCがあるなら全体的に悪い数字じゃないのだろう。
「勝手に納得してるんじゃないわよ!何であんたのステータスゼロじゃないのよ!?」
「いけないのか?」
「基本はステータスは全部ゼロスタートなのよ!あんたのそれはチート!チーターよチーター!!」
はいはい分かった分かったから落ち着いて落ち着いて。
暴れるアクアの頭頂部を抑えながらもう一度ステータスの書かれた羊皮紙を見てみる。
多分、というか間違いなく。
アクアの言うことが本当なら、俺のステータスがこんなにも高いのは死後の世界で俺を転生させてくれた女神様のおかげだろう。
その証拠にスキル欄に女神エリスの加護と記されている。エリスというのかあの女神様。ここにいる駄女神とは雲仙の差だ。今日から毎日祈っても構わないレベル。魔法に関しても身に覚えがないけどこれもエリスのおかげだろう、でも何でよりによって窃盗魔法なんだ?
ともかく。エリスが改造とやらをしなかったら引きこもりだった俺は本当にその辺のチンピラ以下の雑草冒険者になってただろう。
「ありがとう神様エリス様……!」
「ちょっとカズマ!主神であるこの私を差し置いてエリスに祈るなんて許さないわ!あと何でエリスの加護なんか持ってるのか訳を話しなさい!」
俺はエリスに神聖な祈りを捧げていると、アクアは赤い物を目にした闘牛みたいに興奮した面持ちでまくし立ててきた。
「訳つってもなあ。ただ俺が死んだ後ここ来る前にエリスと会って色々話したからさ」
「はぁ!?あんた出身は?」
「関東」
「日本じゃない!?ってことは転生者……はぁん、なるほど。道理でオタクでロリコンニートな訳だわ」
「ロリコンじゃねえし!変な言いがかりはやめてもらおうかクソビッチ」
「言ったわね!一度ならず二度まで言ったわね!!上等よ、その勝負受けて立つわ!」
俺、やっぱ入るファミリア間違えた気がする。
今まで小説書いてきてステータス系を書いたの何気に初めてな気がする。